ランスの日記

ランスの日記


次の朝・・・。
身支度を整えた僕たちは、そっと家々の間を抜けて静まりかえった村を後にした。
すこし行ったところで、一人の男が反対方向からこちらに向かって歩いてくる。
顔はよく見えないが、20代後半のがっちりした体つきのだった。
その顔がうっすらと見え始めた時、急にレイナが歩みを止めた。
しっかりと手を握りしめ、小刻みにふるえている。ぎらぎらと燃えるような、憎しみの色を瞳に宿して。
このようなレイナを見るのは初めてで、理由を聞こうとした時・・・
「まさか・・・。レイナか。こんなところで会えるとは思っても居なかった。ずっと探していたんだぞ。いい女になったなぁ。さ、あのときのように俺についてこい。」
どうやら、レイナのことを知っているようだった。でも、あのとき・・・?
それに、このレイナの怒りよう、憎しみ方・・・。何か、ある。
そう直感した瞬間「あぁぁぁぁぁぁ・・・。」心の叫びとも思えるすさまじい声を発し、レイナが突然男に斬りかかった。
きーん
静かな森に、小気味よく響く金属音。
男は完璧に受け止め、はじき返す。
いつの間にか手にすこし大きめの剣を握っている。
「歓迎の挨拶の割には、すこし荒っぽいんじゃねえか?クク・・・。」
ひるむどころか、余裕すら見せながら言い放ち、笑みを浮かべた。
「うるさい!何が歓迎だ!」
火に油を注いだとはこのことを言うのだろう。
男は、予想通りの反応だったのか、笑い出した。
レイナはさらに怒り斬りかかるが、巧みに受け流す。
上方からの斜め斬りを避け、続けざまで横に薙ぐ攻撃を紙一重かつ、最小の動きでかわし、その勢いを載せた回し蹴りを右腕で受け止めた。
それを足がかりにして後方に一回転し、間合いをあけるレイナ。
油断無く構えを取り直す。
「クク・・・。一体何を怒って居るんだ?俺には見当も付かないんだけどな。」
男は笑みを崩すことなく、レイナに訪ねる。
しかしレイナはただ黙って男をにらみつけていた。
「俺を愛してくれるんじゃ無かったのか?一生守ってくれってお願いしてきただろう?それとも、あれを思い出しちまったか?」
レイナの過去に関わることのようだ。しかし、いい過去では無いだろう・・・。
この男をレイナが愛していた・・・。一体どういうことなのだろうか。
「そう。確かに私は、お前を愛そうとした。でも・・・。」
それは僕にとって衝撃的な物だった。でも、続きがあるようだ。
「あのとき私は、お前を信じて、一生守ってくれると思った。だから、愛そうと、愛せると思った。でもふとしたきっかけで思い出してしまった・・・。あの日の出来事を・・・。私のお父さんや、村を襲ったお前のことを・・・。いつ殺されるか、そんな毎日の恐怖に耐えることが出来なくて、私は逃げた。逃げて逃げて、生き延びた。そして、力を手に入れた。努力して。仇を取るために・・・。」
そう言い終わると、男に向かっていった。
「お前だけは許さない。グレース。」
そう強く言い放ちながら・・・。
「ほう・・・。俺を倒す力ね・・・。」
グレースは笑みを崩すことなく、レイナに対峙した。
グレースの強さは、圧倒的な物だった・・・。
レイナの渾身の一撃を受け止めると、気合いとともに剣をはじき飛ばした。
そして、レイナの胸元に剣先を突きつける。
「俺を殺すなら、もっと努力すべきだな。それとな、確かに俺はお前の村を襲いはしたが、全滅はしてねえぜ。やったのはお前だぜ。レイナ。」
レイナは驚きに満ちた表情で、グレースを見た。
「嘘じゃねえ。金品や食料を奪った後、俺は村を後にしたが、突然村で大きな爆発が起こった。驚いた俺は村に戻ってみたが、そこら辺が焼け野原で、村は全滅。しかし、そこに10歳ぐらいの少女が居た。村1つ吹っ飛ばした爆発の中心地に居たんだぜ。それがお前だ、レイナ。」
驚きと恐怖に満ちた顔で「嘘よ・・・。」と、小さくつぶやいた。
「どっかで気づいてたんじゃねえのか?あれだけの才能があれば魔法を使うだろ。でもお前は使ってこなかった。これは魔法を使えないんじゃなくて、使わないんだ。違うか?自分の力に恐れてよ。どこかで拒否してたんだ。」
男は、笑みが崩れるどころか、邪悪さをましたように思えた。
「そ・・んな・・・。あ・・・。あたしじゃ・・・。あたしじゃない・・・。あたしじゃ・・・。いや・・・。いや・・・。入ってこないで・・・。こんな、こんな・・・。いやぁぁぁぁぁ・・・・・・・。」
その場にレイナの叫びが響いた。
もう、僕自身が信じられなくて、壊れそうだった。
僕は全然気づかな
       気づいてたんだろ?
どこか聞き覚えのある声が、僕の思考を遮った。
       お前はどうしてあそこまで強さに執着していたか気づいてたんだろ?
そうだ・・・。僕は気づいていた・・・。
       ただ認めたくなかったんだろ?
だから聞くこともなく目を背けてたんだ
大好きなレイナの、深い闇を見たくなかった・・・。知りたくなかった・・・。
       でも、知った
そう・・・。知ってしまった・・・。
もう目を背けることは・・・。出来ない・・・。
「ずっと、気づいてたんだ・・・。」
僕はレイナに語りかけるように言った。
「ずっと、気づいてた。レイナはきっと、何かに対して深い恨みを持っているって・・・。時折見せる表情が物語ってた・・・。でも、レイナの深い闇を知りたくなかった。目を背けてたんだ・・・。でも、知ってしまった。だからもう目を背けるのはやめようと思う。レイナがやったことは、無意識だったとしても、許される物ではない。でも、引き金を引いたのはグレースだ。レイナは何も悪くない。生まれながらに持った力に振り回されてるだけ。制御出来ない力なんてたくさんあるよ。僕にも・・・。だって、僕もレイナも、限界まで鍛えてなかった。鍛えようとしていなかった。どこかセーブしてるって・・・。だから、これからすこしづつ力を解放してみて、制御の仕方を知ろうよ。過去の過ちを起こさないために。これから起こるかもしれない最悪に備えて。一緒に行こう、レイナ。レイナの過去の過ちは、僕があいつを、グレースを倒して、一緒に背負う・・・。一緒に戦おう。だから、壊れないで。絶対に壊れないで。」
        よく言ったな
それでこそ俺だ
        しばらく変われ
        力の制御の仕方は今は俺の方が知っているからな
レイナは僕を見て、微笑み、安堵の表情を浮かべる。瞳から、光る物を流しながら。
どうやら壊れるようなことはもう無いようだ。
「感動してるとこ悪いんだけどよ。お前らに俺が殺せるのか?クク・・・。」
深い深い闇を思わせる笑み。
「レイナ。お前は俺の物だ。一生守ってやるよ。クク・・・。ってことで、お前は殺させて貰うよ。そっちの女。俺について来るなら生かしてやるがどうする?」
「私はレノを信じる。だからあんたにはつかない。」
クイは力強くそう言った。しかし足はふるえているようだ。
(クイ。ありがとう。)
グレースは鋭い眼光と殺気を僕に向けて発した。まずは僕を狙うようだ。
その時、僕の中で何かが動き出した。これが何を意味するのか・・・。
        さ、もう時間だ
「レイナやクイを守るためなら仕方ないか。レイナ、ちょっと僕とはお別れだよ。」
レイナは意味が理解出来ずに、不安げな顔を浮かべる。
「ちょっとじゃねえよ。永遠の別れだ。」
何かの動きが活発になる。
「こい。僕はすこし眠るよ。でも間違っても、レイナに手を出すなよ。」
        わかってるよ いくぜ
最後にレイナに微笑んだ後、僕の意識はここでとぎれた。

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