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2026.08.06
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カテゴリ: 発達障がい

『空気が読めなくても それでいい。 非定型発達のトリセツ』

著者:細川貂々・水島広子

出版社:創元社(2020年)

『空気が読めなくても それでいい。 非定型発達のトリセツ』は、『ツレがうつになりまして。』で知られる漫画家・細川貂々さんが、自身の「非定型発達」という特性を題材に描いたコミックエッセイです。監修・解説は精神科医で対人関係療法の第一人者である水島広子先生が担当しており、漫画による親しみやすさと専門的な解説が見事に融合した一冊となっています。発達障がいと診断されるほどではないものの、生きづらさを感じている「グレーゾーン」の人々にも焦点を当て、「普通」に合わせようと苦しむ人の心を優しく支える内容です。

本書の大きな特徴は、「空気が読めない」「人付き合いが苦手」といった特性を、欠点ではなく脳の特性として理解しようという姿勢です。社会では「空気を読むこと」が当たり前とされますが、誰もが同じように周囲の状況や他人の感情を読み取れるわけではありません。本書では、その違いを「定型」と「非定型」という考え方で説明し、能力の優劣ではなく認知の違いであることを繰り返し伝えています。

第1章では、「非定型発達とは何か」がわかりやすく紹介されます。細川さん自身が抱えてきた違和感や失敗談を交えながら、「なぜ自分だけができないのか」という疑問に水島先生が専門的な視点から答えていきます。専門用語を並べるのではなく、動物に例えたり、日常生活の具体例を使ったりするため、発達障がいについて詳しくない読者でも理解しやすい構成になっています。

続く第2章では、「非定型あるある」と題して、多くの当事者が経験する困りごとが数多く紹介されます。例えば、

マルチタスクが苦手

計画外の出来事に弱い

あいまいな指示が理解しづらい

人の言葉をそのまま受け取ってしまう

嘘や建前が苦手

ルールを厳密に守ろうとする

グループ行動が苦痛

女子同士の暗黙の人間関係が理解しづらい

「空気を読む」ことが難しい

など、多くの人が「自分にも当てはまる」と感じる場面が次々に登場します。特に興味深いのは、「悪気はまったくないのに誤解される」というエピソードです。本人は正直に話しているだけなのに、周囲からは冷たい、失礼、空気が読めないと思われてしまう。このようなすれ違いが、本人を深く傷つけ、自信を失わせる原因になることが丁寧に描かれています。

本書では、こうした特徴を単なる「困った性格」として終わらせません。なぜそのような行動になるのかを脳の特性から説明し、「努力不足ではない」というメッセージを繰り返し伝えています。そのため、当事者だけでなく、家族や教師、保育士、支援者が読むことで理解が深まる内容となっています。

また、「空気が読めない」という言葉についても、新しい視点が示されます。社会では「空気を読める人」が評価されがちですが、実際には空気を読み過ぎて疲弊する人も少なくありません。一方で、非定型発達の人は空気に左右されにくいため、物事を公平に判断できたり、不正を見逃さなかったり、ルールを忠実に守ったりする強みがあります。つまり、「空気が読めない」のではなく、「空気より事実を重視する」という認知スタイルなのです。

第3章では、「非定型発達のトリセツ」として、具体的な対処法が紹介されます。例えば、

自分の取扱説明書を作る

信頼できる「解説者」を見つける

一人の時間を意識的に確保する

安心できる環境で能力を発揮する

無理に定型の人になろうとしない

メンテナンスを習慣化する

など、実践しやすい工夫が数多く紹介されています。特に「解説者を作る」という考え方は印象的です。周囲の状況や相手の意図を補足してくれる理解者が一人いるだけで、生きづらさが大きく軽減されることが説明されています。

水島先生のコラムでは、「心の理論」「コミュニケーション」「二次障害」「家族との関係」などについて、精神医学の立場から補足されています。漫画だけでは伝えきれない専門的な内容を、一般の読者にも理解しやすい言葉で説明しているため、知識を深めたい人にも役立ちます。

さらに本書では、「仕事」についても触れられています。非定型発達の人は、臨機応変さを求められる職場では苦労しやすい一方で、ルールが明確で、一人で集中できる仕事では高い能力を発揮することがあります。「苦手を克服すること」よりも、「得意な環境を選ぶこと」が重要であるという考え方は、多くの読者に安心感を与えてくれるでしょう。

子育てについても重要なテーマです。非定型発達の親と定型発達の子ども、あるいはその逆の場合、親子だからこそ理解できないことがあります。本書では、「親だから理解できるはず」という思い込みを手放し、お互いの違いを尊重する姿勢が大切であると説いています。

本書の最大の魅力は、タイトルにもある「それでいい」というメッセージです。「空気が読めない自分はダメだ」「普通にならなければならない」と苦しんできた人に対し、「あなたは間違っているわけではない」と優しく語りかけます。だからといって努力を否定するのではなく、「自分の特性を知ったうえで、自分に合う方法を見つければいい」という現実的なアドバイスが示されています。

コミック形式のため非常に読みやすく、発達障がいの入門書としても優れています。当事者はもちろん、家族、教師、保育士、放課後等デイサービスや児童発達支援に携わる支援者にとっても、相手を理解するための視点が数多く得られるでしょう。

『空気が読めなくても それでいい。』は、「普通」という物差しに苦しむ人へ、「違いがあるからこそ社会は成り立っている」という温かいメッセージを届けてくれる一冊です。自分自身を責め続けてきた人が、自分を少しだけ受け入れられるようになる、そんな力を持ったコミックエッセイといえるでしょう。







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最終更新日  2026.08.06 07:47:12
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