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レッドズノート
第5話 苦しみ
その後、3人を埋葬した2人はキャンプに戻っていた。
「ルーナ…」
「なんですか?」
あれからずっとうつむいたままのルーナに声を掛けた。
「…その…ゴメンな、せっかく来たのにこんな事になって…」
「クロウさんのせいじゃないですよ」
うつむいていたルーナが顔を上げて返事をした。その顔がいつもより心なしか青白い様に思えた。
「ルーナ…大丈夫か?」
クロウは下を向いているルーナの顔に自分の右手を当てる。
そして心配そうな表情をしながら、顔をルーナの前へと近づけていく。
どうしてかは解らないが、クロウは無意識にルーナの身体に触れていた。
「ぁ、あの…クロウさん……」
ルーナの頬が、急速に赤くなっていくのが解る。
白い肌のせいもあってか、まるで血のように赤く見えた。
「あっ! わっ、わりー…」
そんなルーナの表情を目の当たりにしてクロウはとっさに我に返りルーナの顔に触れていた手を離す。
「ぁ…い、いえ…私…大丈夫ですから…」
ルーナは顔を横に向けながら、恥ずかしそうに言う。
「そっ、そっか…なら、良いんだ」
クロウもまたルーナと同じように顔を赤らめながら言う。
「……」
「……」
その後暫くは2人とも顔を合わせることが出来ず、口を開くことも出来なかった。
「えっと…その…」
「……」
クロウが何かを話そうと口を開くが、話題は何一つ出てこない。
意味のない、似たような言葉ばかりしか、頭には思い浮かんでこなかった。
「お、俺、夕飯に何か採って来るよ」
ようやくそれだけ言うとあたふたと逃げるように森へと走り出した。
「俺、なにしてんだよ…」
十分ほど辺りを物色して、食べられるキノコや、狩ったベアーの肉を手にクロウはキャンプに戻った。
「時間かかっちゃったな…」
しかしその言葉に返事は戻ってこなかった。
「…っぁ…っ…」
代わりに聞こえてきたのはとても低くて苦しそうなルーナのうめき声。
「…ルーナ?」
その声を聞くと、異常なまでに胸の鼓動が高鳴っていく。
先ほどルーナと一緒にいた時に感じた喜びを感じるような胸の高鳴りとは違い、とても不快な高鳴りだった。
燃えている火の側に目を凝らす、するとそこには、自分の胸を両手で必死に押さえ込みながら、
全身を丸まらせているルーナがいた。手に持っていた物を放り出し、クロウはルーナに駆け寄った。
「クロウさん? う゛っぁ…はあっ…はぁっ」
「ルーナ!大丈夫か!」
クロウはルーナに近づき、丸まっているルーナの背中に手を触れる。
全身は小刻みに震えていて、少し触れるだけでもそれが解る。
顔色は真っ青で、信じられないほど大量の汗を流していた。
「ルーナ!しっかりしろって!」
慌てて自分の服の袖でルーナの額に流れる汗を拭き取る。
しかし流れ出る汗は止まることなく、いくら拭いても意味がなかった。
「バック…に…薬が…はぁっ…青い蓋の…うぁっ」
「しっかりしろって! ちょっと待ってろ、今持ってくるからな」
ルーナのバックを開けると中に幾つかの瓶があった。
その中からルーナの言った青い蓋の瓶を取り出した。
「ルーナ!これか!」
「はっ…っ…っ…ぁ…」
ルーナは苦しみながら微かに頷いた。
クロウは急いで蓋を開けルーナに飲ませた。
「…んく……はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
暫くすると薬の効果なのか、ルーナの息遣いがさっきよりも楽になっていくような感じがした。
「ルーナ……」
クロウは落ち着いてきたルーナを横たえ、毛布を掛けてやった。
そしてルーナの方に顔を向けると、さっきまでの息苦しさを感じさせるような素振りはもう無かった。
(良かった…良かった…)
クロウの心の中は、そのことだけしか考えられなかった。
苦しむルーナが、助かって良かった…
涙が出そうになってくるが、クロウは必死にそれを押さえていた。
暫くしてルーナの息遣いは完全に落ち着きを取り戻し、寝顔も安らいでいるようだった。
そして身体の方に目を向けると、左手だけが毛布から出ている。
中に入れようとルーナの左手に手をかけると、ルーナはクロウの手を強く握り返してきた。
「ルーナ?」
クロウは、ルーナが目を覚ましたのかと思い、ルーナの顔に目を向けるが、
そこには先程と同じように、小さな寝息を立てて眠るルーナがいた。
クロウは小さく笑顔を見せ、自分の手を握ってくるルーナの手を力強く握り返してやる。
「んっ…クロウ…さん…」
するとルーナの小さな寝言が聞こえてくる。
「…ルーナ…ここにいるから、安心しろよな…」
クロウはそう小さく言うと、再びルーナの手を強く握ってやる。
その夜はルーナの握る自分の手を離すことなく、クロウはずっと握ってやっていた。
そしてその夜、クロウは、
自分がルーナを愛しているとはっきり気が付いた。
ルーナが苦しんでる時に、何も出来ないのは凄く辛かった…
けれど…自分に出来ることならば、何でもしてやりたいと思った。
自分に守れるのならば、必ず守りたいと思った。
…大好きで、大切な人だと思ったから…
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