「源義経黄金伝説」 飛鳥京香・山田企画事務所           (山田企画事務所)

義経黄金伝説■第16 回


作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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第3章 西行の思い出  一一三八年(長暦2年)から
■■3一一六〇年(永暦元年)京都六波羅平清盛屋敷。
承前
平清盛はゼニの大将だった。
平家の経済基盤のひとつは日宋貿易である。奥州の金
を輸出し、宋の銭を輸入した。
宋の銭の流入は日本の新しい経済基盤をつくろうとしていた。むろん、ここに
は平泉第の吉次がからんでいるのはいうまでもない。無論、西行もまた。

新しい経済機構が発達しょうとしていいる。新しい職業もまた始まろうとして
いる。日本の社会が揺れ動いているのだ。


■■4一一七五年(安元元年) 京都・鞍馬。

この時から、十五年後。永暦元年(一一六〇)
  今年57歳になった法師が、山道を登っている。 京都・鞍馬山・僧正ヶ
谷。木の根が血管のように山肌に現れている。
 激しく武者修行をする牛若の前に、法師が一人現れていた。かぶりもので牛
若には顔が見えない。
「牛若殿、元気であらせられるか」
「はっ、あなた様は」

「名乗るほどの者ではない。いずれ私の正体わかりもうそう。いわば、牛若殿
の未来にかけておるものだ。いかがかな、牛若殿、武術の方は上達いたしました
か」その問に不審な顔で牛若は答えた。
「はっ、鬼一法眼様の指導よろしきを得て、ますます励んでおります」
「そうよのう、ここ鞍馬山の坂道で鍛えられれば、体力もつきもうそう。が、
牛若殿、くれぐれも自重されよ。牛若殿の身は、御身一人だけのものではないの
じゃ。お気をつけられよ」

 そう言い残し、法師は去って行った。練習に励む牛若の前に、牛若の師匠、
鬼一法眼が現れる。京都、いや日本で有名な幻術師である。
「お師匠、見たこともない法師が、私を激励されましたが…」不思議そうな表
情で述べた。 鬼一はかすかにほほ笑んで
「ふふう、牛若、あちこちにお前の守護神がおるようじゃのう」
「あの方は、私の守護神ですか」
「どうやら、そのようだのう」
 牛若、首をひねる。その姿を見て、鬼一法眼は笑っていた。

毎日、牛若は京都までかけ降りては、自分の武術を試し、鞍馬にかけ戻っている。
「牛若殿、またそのような乱暴狼藉を働かれて…」非難するような様子で、そ
の若い僧は言う。
 その源空という名の僧は、京都王朝の大学・学術都市である比叡山の僧坊に属
しているのだが、ある時牛若と出会い、友達となったのだった。ゆっくりとお互
いの身の上を話し合った。
 源空は、じっとりと顔が濡れるほどに、牛若の身の上を案じてくれた。
「何と、お可哀想な身の上をなのだ…」
 その若者らしい激情に、牛若もまた自身の身の上話に、ほほに涙をぬらすのだ。
「牛若殿、仏に身を任せるのじゃ。そうすれば、おのが身、仏によって救われ
るであろう」いつも出会うたびに、言うのだった。が、牛若は仏を信じぬ。

 牛若は自分の体は、戦の化身だと信じている。なぜならば、父は源氏の氏長者
だったのだ。武者中の武者の血が流れているのだ。それがこのような京都の辺境
に置かれようとも、いつかはこの世に出たい。源氏の若武者として、名を馳せた
い。そういう願いが、牛若の心を一杯にしている。
そうするべきだという自身が、みづからの中から沸き起こるのだ。
 若い血は、あの急勾配の鞍馬山を、毎日行き来することによってにじり立
ち、若い体は強力な膂力を手に入れつつあった。そして、その若い力を、この無
慈悲なる、牛若自身の力を理解しない世の中へ出て試したいと、希っていた。
これは、世に対する復讐なのか

 源空は、やさしくにこやかな表情でゆっくりと分かりやすく牛若に語る。
「およしなされ、牛若殿。、、、おのが身は、、、平相国平の清盛殿から助けら
れた命でございますぞ。、、、そのようなお考え、恐ろしいことは、お止めなさ
れ」 と非難し止めるのであった。
なぜに源空は、ワタシの心がわかるのか、、
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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