Trachelectomy

Trachelectomy

出産例など


福地剛さん 子宮頸がんは、ごく早期のものであれば、円錐切除術によって妊娠・出産は可能だが、1a1期よりも進行した場合、子宮を摘出せざるを得ず、妊娠・出産をあきらめなければならない。

しかし、今回紹介する「広汎性子宮頸部摘出術」では、1a2期から1b1期の患者であれば、子宮を温存し妊娠・出産が可能となる。

標準的な切除より切除範囲が狭いためだが、一番懸念される再発率は、海外の報告では標準的切除のものと変わらないという。

この治療について、日本で最も症例数の多い、慶應義塾大学病院婦人科の例をレポートする。

ここ数10年、子宮頸がんの患者数はほぼ一定数を推移しているが、30歳代までの若い患者が増加傾向にある。現在、子宮頸がんでは早期の1期(がんが子宮頸部に限局し、ほかに広がっていない状態)の場合、5年生存率は83~95パーセントで治療成績はかなり高い。しかし、1期の多くの場合では子宮摘出が治療として選択され、妊娠・出産はあきらめなければならなかった。一方、女性の社会進出などによる晩婚傾向や出産年齢の高齢化に伴って、妊娠・出産を希望する若い子宮頸がん患者が増加しつつある。

そこで、慶應義塾大学病院婦人科助手の福地剛さんらは、30歳代までの妊娠・出産を希望する子宮頸がん患者に対応できる治療法を模索した。その結果、海外では10年以上前から「広汎性子宮頸部摘出術」と呼ばれる手術を300例以上実施し、子宮全摘出術とほぼ同等の再発率(約4パーセント)に抑えながら、すでに90人ほどの出産の実績を持つことがわかった。また、この手術を日本国内で導入した病院の取り組みなども参考にしながら、福地さんらは、海外方式に多少の変更を加えた「広汎性子宮頸部摘出術」に取り組み始めた。

同大婦人科では02年9月からスタートして、これまでに既婚、未婚を問わず妊娠・出産を望む20歳代から30歳代の24人に実施した。このうちの1人が妊娠して、昨年秋には国内初の出産が実現した。

子宮頸部を摘出し、子宮体部と腟を縫合する
子宮頸がんは、子宮の入口付近、腟に近い部分にできるがんだ。がんの進行度で0期(上皮内がん=がんが子宮頸部の上皮内のみに認められる)から4期(がんが小骨盤腔を越えて広がるか、膀胱・直腸の粘膜にも広がっているもの)までに分かれる。また、子宮頸がんの場合には、診断技術の向上などで、異形成と呼ばれるがんになる前の段階(前がん病変)で発見されることも多い。

通常、がんになる前の異形成や0期の場合には円錐切除術という外科手術が行われる。これは、電気メスやレーザーメスなどを用いて、子宮の入口を円錐形に切り取る手術だ。子宮を残すことができるため、手術後でも妊娠・出産が可能である。この円錐切除術は、ここ4~5年の間に、異形成や0期だけでなく、1a1期(がんが子宮頸部に限局して、ほかに広がっていない状態で、肉眼的に病巣は明らかでないが、病理組織学的な検査でがんの浸潤が認められて、その深さが3ミリ以内で、縦方向の広がりが7ミリを越えないもの)にも行われるようになってきた。子宮頸がんの1a1期までなら、手術後でも妊娠・出産が可能な円錐切除術が受けられるわけだ。

しかし、子宮頸がんが1a1期よりも進行した場合、つまり1a2期(浸潤の深さが3~5ミリ以内で、縦方向の広がりが7ミリを越えないもの)以上の場合には円錐切除術は適応とはならず、広汎子宮全摘術またはそれに準じた手術が標準的な治療として行われている。この広汎子宮全摘術は、がんの見つかった子宮頸部、子宮、腟の一部を含めて、骨盤壁の近くまでの広い範囲を切除する。また、子宮頸がんに関連するリンパ節も取り除かれる。この手術では、子宮がすべて切除されるため、妊娠・出産はできなくなる。妊娠・出産を希望してもあきらめるしかなかった。

[広汎性子宮頸部摘出術]
子宮頸部、腟の一部、周囲のリンパ節、基靭帯を切除する。その後、残した子宮体部を腟と縫合する
[手術によって摘出された検体]
病期1b1期患者の摘出検体。子宮頸部と腟の一部、両側に基靭帯がみえる そこで、妊娠・出産の可能性を残した子宮頸がんの治療法として新しく登場したのが「広汎性子宮頸部摘出術」である。

「子宮頸がんは、一般的に子宮体部に広がる可能性は少なく、側方あるいは下部の腟側に広がることが多いという特徴があります。そこで、がんが広がる確率の少ない子宮体部を残して、そのほかは広汎子宮全摘術と同等の摘出を行うというわけです。つまり、この広汎性子宮頸部摘出術は、子宮体部を残す以外には広汎子宮全摘術と手術内容はほぼ同じです」と福地さん。

ただし、この広汎性子宮頸部摘出術の切除範囲は、海外と慶應大の方法とでは多少異なる。海外で行われている方法の切除範囲は日本での準広汎子宮全摘術にあたるもので、広汎手術に比べ小さな切除となっている。しかし、症例によっては準広汎手術では不十分となる懸念があり、日本においては子宮頸がんに対する治療は広汎子宮全摘術が標準である。この点を考慮し、慶應大グループでは標準治療の切除にあわせた広汎性子宮頸部摘出術としたため、海外よりも切除範囲が少し広いという。

また、広汎子宮頸部摘出術では、残した子宮体部と腟の一部をつなぎ直す再建術を行う。この再建術は、特別な手術手技が求められる。

「通常の広汎子宮全摘術では子宮を含めて切り取りさえすれば、手術は終わりです。しかし、広汎性子宮頸部摘出術では、子宮体部と腟の一部の両方の組織を生かしたままの状態に維持しながら、つなぎ合わせて再建します。そのため、子宮に栄養を送る子宮動脈のうちで重要な分枝は残して、子宮体部への血流を維持しながら手術を行います。切る血管と残す血管をえり分けるのが技術的に難しいのです」(福地さん)

もう1つ、広汎性子宮頸部摘出術では、赤ちゃんが宿る子袋(子宮)のふたに相当する場所(子宮頸部)を切除するため、術後は、胎児が外に出やすく、早産になりやすいというデメリットがある。そこで、子宮体部と腟の一部をつなぎ合わせる再建術の前に、特殊な糸を用いて子宮体部の下部を縛って、早産予防処置を行う。

標準的な広汎子宮全摘出術の手術時間は4~5時間ほどだが、広汎性子宮頸部切除術は6~10時間、平均8時間ほどかかる。
ところで、この広汎性子宮頸部摘出術の治療対象は、かなり限られる。子宮頸がん患者が希望すれば誰でもが簡単に受けられるわけではない。同大婦人科では、次の7つの条件をクリアした場合にだけ、この手術を行っている。

(1) リスクを理解したうえで、広汎性子宮頸部摘出術の希望が明確である。

(2) 不妊症でない。

(3) 子宮頸がんの進行度が1a2期から1b1期。

(4) 腫瘍の直径が2センチを越えない。

(5) 組織型が扁平上皮がん(または初期の腺がん)である。

(6) 画像検査などで転移の疑いがない。

(7) 手術中の「術中迅速病理診断」で、リンパ節、切除断端(切除した組織の断面)にがんが無いこと。

同大婦人科では(3)から(6)までの条件をチェックするため、手術前にCT、MRIなどの画像診断装置、病理組織検査などで、がんの広がり、深さ、転移の有無、組織型などをきちんと調べる。「ただし、現状では手術前の画像検査によるリンパ節転移の検出率は必ずしも満足できるものではありません。そのため、再発リスクを抑えるために、術中迅速病理診断を行います」と福地さん。

広汎性子宮頸部摘出術ではお腹を開けて、最初に骨盤リンパ節を取り除く。切除した50個ほどの骨盤リンパ節の中で、執刀医が「あやしい」と思ったリンパ節を病理検査に回す。そのリンパ節を病理専門医が顕微鏡検査でチェックして、執刀医に報告する。病理検査の結果は30分から1時間ほどでわかり、もし、リンパ節転移があった場合には標準的な外科手術(広汎子宮全摘術)に切り替える。さらに、手術中に切除した組織も病理検査に回して、断端の顕微鏡検査を行い、その病理検査で陽性と診断された場合も標準的な外科手術に切り替える。

「広汎性子宮頸部摘出術はあくまで子宮頸がんの治療です。命を犠牲にして出産するために行う治療ではありません。2重、3重のチェックをしながら慎重に取り組んでいます」(福地さん)

手術を受けた患者が妊娠・出産。第2、第3の例にも期待
冒頭で述べたように、昨秋、広汎性子宮頸部摘出術を受けた30歳代のAさんが、国内で初めて出産に成功した。その治療経過は以下のようである。

03年、Aさんは都内のある病院の紹介で慶應義塾大学病院婦人科を訪れた。画像検査や病理検査などの結果、子宮頸がん1b1期と診断された。通常ならば、標準的治療の広汎子宮全摘術を受けなければならず、妊娠・出産はあきらめるしかない。しかし、Aさんは子宮の温存を強く希望した。診断検査の結果、広汎性子宮頸部摘出術が可能だとわかった。

同大婦人科スタッフから十分な説明を受けて、同意書にサイン、03年春、手術を受けた。手術中、リンパ節転移検査と切除断端検査を受けたが「問題なし」と診断されて、無事に手術を終えた。手術時間は約8時間。入院期間は約1カ月間だった。退院後の半年間は、月1回ペースで経過観察を続け、体力が回復してから妊娠・出産に向けて動き出した。そして、04年秋、妊娠24週目に帝王切開で男児を出産した。現在、Aさん、男児ともに元気な日々を送っているという。

同大婦人科ではこれまでにAさんを含む24人の子宮頸がん患者に広汎性子宮頸部摘出術を行っている(02年9月~05年3月)。

「24人のうち2人は手術中にリンパ節転移がわかり、標準的な治療に変更しました。22人に広汎性子宮頸部摘出術を行いましたが、そのうち3人は、病理組織検査の結果、追加治療が必要と判断して、放射線照射を追加しています。

また、1人(腺がん)は再発して、追加手術を受けましたが元気です。結局、Aさんを含む18人が妊娠・出産の可能性を持ち続けています。Aさんに続いて、第2、第3の出産を期待しています」(福地さん)

厚生労働省は、今年度(05年4月から06年3月末)から20歳以上を対象にした子宮頸がん検診を始めた。従来、30歳以上が対象だったが、20歳代の子宮頸がんの増加に対応して始めた。加入中の健康保険組合などから「検診のお知らせ」が届いたら、積極的に受診してほしい。子宮頸がんは検診で発見されやすく、検診の有効性も明らかにされている。万一、子宮頸がんと診断されても早期であれば術後の妊娠・出産は可能なのだ。

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