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作者:J・ラコタ ―2022年 6月末― ヨーロッパの季節は今、春である。 ―セルビア・モンテネグロのある町― ここは、ラルドが封印されていた森のすぐ近くにある町。 ・・・そう、カインとミラルの住んでいる町でもある。 この町には、実は、小さな宿があるのだ。 その小さな宿の一室を見てみると・・・。 なんと、ラザロとリリスがいた。 今、荷造りの準備をしているようだ。 ラザロ「これで、全部だな。」 スーツケースを詰めながら、ラザロは言った。 リリス「そうね。でも・・・、よくここまでこんなに・・・。」 リリスの目の前にはスーツケース1つある。 ラザロが荷詰めをしている大型のスーツケースの事だ。 リリス「でも、もう一泊するはずだったのに、何故・・・?」 ラザロ「・・・昨日の事が・・・。ちょっと・・・。/////」 リリス「/////」 お互いに赤面だ。 何があったのかは、あえて言わないことにしよう。 フランスからギリシャに渡るまで、3ヶ月以上も掛かるなんて、まさか、誰も予想はしていなかっただろう。 それは色々とトラブルがあったためだ。 出発してから3日後に、雷雨が原因でフランス方面の変電所に雷が落ち、変電所の装置の半分がショートや爆発を起こした。 それによって、交通機関が一切マヒしてしまったのだ。 修復に3週間掛かり、やっと直った。 と思ったら、翌日から3日続けて、またもや雷雨。 ギリシャに行こうにも、船は出せず、電車はストップ。飛行機も飛べない。 これは実はシルビィーの仕業だったが、誰もそれには気付かない。 というわけで、こんな鈍行状態が続いたのだ。 まぁ、2人は別に急ぐというわけでもないため、徒歩でギリシャに向かうことになった。 で、3ヶ月後の今に至る。 この町から、首都ベオグラードまでは100kmある。 しかも、ここからベオグラードまではバスが無い。 またまた徒歩というわけだ。 20年前ならともかく、今は治安が安定しているため、安心できる。 リリス「・・・首都まで随分歩くことになるわね。」 ラザロ「ここは平野だから、あんまり険しい道は無いさ。大丈夫だよ。」 でも、実はこの2人に気付いている人物がいた・・・。 ラルド「(・・・この感じはどこかで・・・。)」 密かに、ラルドも気付いていた。 カイン「ん?どうした、ラルド。」 ラルド「・・・なんでもない。」 ミラル「あら・・・、雨が降ってきたみたい。」 ウラン「大丈夫。洗濯物はまだ干してないもん。」 階段のきしむ音がする。 上からユリウスが降りてきた。 ユリウス「・・・あれ?ファラスは何処行った?」 カイン「あいつは確か、セラと一緒に森に出ていると思うけど。まぁ、雨も降ってきたから戻ってくると思う。」 おっと、実は、リリスたちの存在に気付いている人物がもう1人・・・。 ファラス「・・・。」 セラ「どうしたんですか?」 ファラス「・・・感じる。誰かが森に近づいてくる。」 実は、首都ベオグラードに行くには、道が2つあった。 1つは、森を避けて回り道するか。 もう1つは森を突っ切るか。 ラザロとリリスはどっちの道を行くかで迷っていた。 2人は傘を開いて、持っていた。 ラザロ「森を突っ切れば、近道になるし、雨宿りも出来そうだけど・・・。」 リリス「この森・・・、何だか気味が悪いわね。」 ラザロ「町の人の話だと、1年前からこの森に入った人は出てこられないらしい。」 リリス「・・・ねぇ、誰か出てくるわ。」 森の方向から人影が2つ見える。 出てきたのは・・・、 ラザロ&リリス「・・・誰?」 出てきたのは、ファラスとセラだった。 ファラスは近くにあった木の棒を長剣に変化させ、セラも背中に背負っていた剣を持ち出す。 リリス「ラザロ・・・。」 ラザロ「・・・く、」 ラザロはサブマシンガンを腰のソケットから取り出し、弾倉を銃に装填した。 ラザロ「リリス、離れていろ。」 リリス「ラザロ。でも・・・、」 ラザロ「大丈夫だ。下がっていてくれ。」 ファラス「・・・お前達。特殊な力を持つ子供のようだな。」 ラザロ「・・・あぁ。」 セラ「ファラス・・・。」 ファラス「・・・。」 2人は武器を下ろした。 続いて、ラザロもサブマシンガンを下ろす。 ファラス「どうやら、プラノズとは関係がなさそうだ。」 リリス「!?」 ラザロ「どうした?リリス。」 リリス「プラノズを、知っているん・・・ですか?」 ファラス「そうだ。だが、お前達はどうやら、旅の者だな。この森を通り抜けるのはやめておけ。」 セラ「・・・ファラス。今は雨が降っています。せめて、雨宿りをさせるのは?」 ファラス「・・・。」 リリス「・・・お願いします。」 ラザロ「リリス、どうするつもりだ?」 リリス「あの人たちは、プラノズを知っているわ。・・・詳しい話を聞いておきたいの。」 ラザロ「・・・分かったよ。」 ファラス「・・・ついて来い。」 ファラスとセラは、再び、森の中へ入って行く。 その後ろにラザロとリリスがつづく。 ユリウスは屋根の上で、大きな葉を傘代わりにして手に持ち、ファラスとセラの帰りを待っていた。 ユリウス「・・・遅いなぁ。」 屋根の上に、もう1人上がってきた。 ・・・ライディスだ。 ライディス「兄さん。何しているの?」 ユリウス「ライディス・・・。・・・あの2人を待っているんだ。」 ライディス「・・・確かに遅いね。・・・ん?アレは・・・。」 ライディスは500mも離れた場所を見た。 ユリウス「あれはファラスたちだ。」 ユリウスも、ライディスが見ている500m先を見た。 実は、彼らは獣化している、していないに限らず、両目とも視力が3.0もあるのだ。 ユリウス「その後ろに誰かいる・・・。・・・!?」 ユリウスは屋根から、木の枝を伝い、地上に降りた。 ライディス「ま、待ってよ~!」 ライディスもユリウスの後に続く。 ユリウスが家の中に入ってきた。 ユリウス「ファラスたちが戻ってきたみたいだけど・・・、」 ミラル「・・・みたいだけど・・・。って、どうしたの?」 ライディスも家の中に入ってきた。 ライディス「リリスと誰かがその後ろにいたんだ。」 ウラン「リリスが!?」 ラルド「リリス・・・。どこかで聞いた名前だ・・・。」 カイン「知っているのか?」 ウラン「前にプラノズに集められた子供の1人だよ。」 ラルド「ということは、プラノズの・・・、」 ウラン「いいや。違うと思う。リリスはボクらが行動を起こす直前に逃げ出したんだ。」 ファラスたちが家に帰ってきた。 ファラス「今帰った。」 カイン「おかえり~。」 リリス「あ、こ、こんにちは・・・。」 ラザロ「雨が止むまでよろしく。」 ウランが家の奥から顔を出した。 ウラン「噂をすれば何とやら。だね。」 リリス「ウ、ウラン!?それにラルドにユリウス・・・、さらにライディスまで・・・。 何でこんなところに!?」 ウラン「・・・まぁ、話せば長い話なんだ。」 とりあえず、リリスたちは家に上がった。 カイン「なぁ、なぁ、ウラン。」 ウラン「何?」 カイン「ウラン。あのリリスって子。どういう子なんだ?」 カインはウランに聞いた。 ウラン「臆病で人見知りだったはず。」 カイン「・・・ところで、プラノズって誰なんだ?」 ウラン「!?・・・何で、そんなこと知っているのさ?」 カイン「この前、小耳に挟んだのさ。」 この前。というのは、当然、第6話の時の事だ。 あのラルドとウランの会話をコッソーリとカインは聞いていたのだ。 ウランはその後、リリスとラザロに、リリスが脱走した後の事を全て話した。 プラノズの事やドナウ川のダムを破壊したこと。 その時に、自分達が誰かに封印されて、この森の遺跡に1年も封じ込められたこと。 そして、封印を自分で解いて、ラルドと再会して、カインと出会ったことで、気持ちを変えた事も。 リリス「・・・そんなことがあったのね・・・。」 ラザロ「状況は、・・・なんか、俺達が思っていたよりも複雑みたいだなぁ・・・。」 ファラス「プラノズを倒すためには、俺たちのように、お前達のように特殊な力が無ければ倒すことは出来ない。」 ラルド「・・・お願いだ。力を貸して欲しい。」 ラルドがそう2人に言った。 ラルドが頼み事をするとは、この時、誰も予想などしていなかった。 ラザロ「・・・分かった。」 リリス「・・・えぇ。やるわ。」 ラザロとリリスは口々に言った。 それを見守る人物がいた。 ファラスたちの家から100m離れた木の上。 その木の枝に、金髪で、赤い鉢巻をつけた少年がいる。 金髪の少年「・・・。」 その少年は、ファラスたちの家の様子を見ていた。 ほとんど気配を感じない。 金髪の少年「・・・少しずつだが、希望が見えてきた。」 金髪の少年は空を見上げた。 気付けば、雨は降り止んでいた。 金髪の少年「(プラノズ・・・、お前の野望を達成などさせない。 歴史を繰り返すわけには行かない。だが、・・・俺は彼らの様子を見守る事しかできない。 彼らの手で未来を切り開く姿を、俺は見ていたい。未来は明るくなるかもしれない。 ・・・時空断裂の壁。あれは、封印していた彼ら2人を外部からの接触を絶たせるための物だった。 彼らを正しい方向に導ける人物なら、影響も無く通り抜けられる。・・・そうしておいて、やはり正解だったようだ。 カイン・ジグナ、ミラル・ドレイン。そして、ファラス・ヘクタ。 俺の代わりに、彼らの成長を見守るとしたら、君ら3人しかいないだろう。俺は君らを見守っている。頼んだぞ・・・。)」 金髪の少年は、それを頭の中で言った。 そして、次の瞬間、「あっ、」と言う間に消えた。テレポートしたようだ。 当然、この少年の存在に、今気付いた者はいない。 この金髪の少年とラルドたちが出会うのは、これから先の話なのだ。 第17話へ続く。 ※この話はフィクションです。実際の、国名、団体、都市などには関係ありません。 |