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無尽の鎖 第16話

無尽の鎖 第16話「6月の春雨 ―Spring Rain―」
作者:J・ラコタ

―2022年 6月末―
ヨーロッパの季節は今、春である。

―セルビア・モンテネグロのある町―
ここは、ラルドが封印されていた森のすぐ近くにある町。
・・・そう、カインとミラルの住んでいる町でもある。

この町には、実は、小さな宿があるのだ。

その小さな宿の一室を見てみると・・・。
なんと、ラザロとリリスがいた。
今、荷造りの準備をしているようだ。

ラザロ「これで、全部だな。」

スーツケースを詰めながら、ラザロは言った。

リリス「そうね。でも・・・、よくここまでこんなに・・・。」

リリスの目の前にはスーツケース1つある。
ラザロが荷詰めをしている大型のスーツケースの事だ。

リリス「でも、もう一泊するはずだったのに、何故・・・?」
ラザロ「・・・昨日の事が・・・。ちょっと・・・。/////」
リリス「/////」

お互いに赤面だ。
何があったのかは、あえて言わないことにしよう。

フランスからギリシャに渡るまで、3ヶ月以上も掛かるなんて、まさか、誰も予想はしていなかっただろう。
それは色々とトラブルがあったためだ。
出発してから3日後に、雷雨が原因でフランス方面の変電所に雷が落ち、変電所の装置の半分がショートや爆発を起こした。
それによって、交通機関が一切マヒしてしまったのだ。
修復に3週間掛かり、やっと直った。
と思ったら、翌日から3日続けて、またもや雷雨。
ギリシャに行こうにも、船は出せず、電車はストップ。飛行機も飛べない。

これは実はシルビィーの仕業だったが、誰もそれには気付かない。

というわけで、こんな鈍行状態が続いたのだ。
まぁ、2人は別に急ぐというわけでもないため、徒歩でギリシャに向かうことになった。

で、3ヶ月後の今に至る。

この町から、首都ベオグラードまでは100kmある。
しかも、ここからベオグラードまではバスが無い。
またまた徒歩というわけだ。
20年前ならともかく、今は治安が安定しているため、安心できる。

リリス「・・・首都まで随分歩くことになるわね。」
ラザロ「ここは平野だから、あんまり険しい道は無いさ。大丈夫だよ。」

でも、実はこの2人に気付いている人物がいた・・・。


ラルド「(・・・この感じはどこかで・・・。)」

密かに、ラルドも気付いていた。

カイン「ん?どうした、ラルド。」
ラルド「・・・なんでもない。」
ミラル「あら・・・、雨が降ってきたみたい。」
ウラン「大丈夫。洗濯物はまだ干してないもん。」

階段のきしむ音がする。
上からユリウスが降りてきた。

ユリウス「・・・あれ?ファラスは何処行った?」
カイン「あいつは確か、セラと一緒に森に出ていると思うけど。まぁ、雨も降ってきたから戻ってくると思う。」


おっと、実は、リリスたちの存在に気付いている人物がもう1人・・・。

ファラス「・・・。」
セラ「どうしたんですか?」
ファラス「・・・感じる。誰かが森に近づいてくる。」


実は、首都ベオグラードに行くには、道が2つあった。
1つは、森を避けて回り道するか。
もう1つは森を突っ切るか。
ラザロとリリスはどっちの道を行くかで迷っていた。
2人は傘を開いて、持っていた。

ラザロ「森を突っ切れば、近道になるし、雨宿りも出来そうだけど・・・。」
リリス「この森・・・、何だか気味が悪いわね。」
ラザロ「町の人の話だと、1年前からこの森に入った人は出てこられないらしい。」
リリス「・・・ねぇ、誰か出てくるわ。」

森の方向から人影が2つ見える。
出てきたのは・・・、

ラザロ&リリス「・・・誰?」

出てきたのは、ファラスとセラだった。
ファラスは近くにあった木の棒を長剣に変化させ、セラも背中に背負っていた剣を持ち出す。

リリス「ラザロ・・・。」
ラザロ「・・・く、」

ラザロはサブマシンガンを腰のソケットから取り出し、弾倉を銃に装填した。

ラザロ「リリス、離れていろ。」
リリス「ラザロ。でも・・・、」
ラザロ「大丈夫だ。下がっていてくれ。」
ファラス「・・・お前達。特殊な力を持つ子供のようだな。」
ラザロ「・・・あぁ。」
セラ「ファラス・・・。」
ファラス「・・・。」

2人は武器を下ろした。
続いて、ラザロもサブマシンガンを下ろす。

ファラス「どうやら、プラノズとは関係がなさそうだ。」
リリス「!?」
ラザロ「どうした?リリス。」
リリス「プラノズを、知っているん・・・ですか?」
ファラス「そうだ。だが、お前達はどうやら、旅の者だな。この森を通り抜けるのはやめておけ。」
セラ「・・・ファラス。今は雨が降っています。せめて、雨宿りをさせるのは?」
ファラス「・・・。」
リリス「・・・お願いします。」
ラザロ「リリス、どうするつもりだ?」
リリス「あの人たちは、プラノズを知っているわ。・・・詳しい話を聞いておきたいの。」
ラザロ「・・・分かったよ。」
ファラス「・・・ついて来い。」

ファラスとセラは、再び、森の中へ入って行く。
その後ろにラザロとリリスがつづく。


ユリウスは屋根の上で、大きな葉を傘代わりにして手に持ち、ファラスとセラの帰りを待っていた。

ユリウス「・・・遅いなぁ。」

屋根の上に、もう1人上がってきた。
・・・ライディスだ。

ライディス「兄さん。何しているの?」
ユリウス「ライディス・・・。・・・あの2人を待っているんだ。」
ライディス「・・・確かに遅いね。・・・ん?アレは・・・。」

ライディスは500mも離れた場所を見た。

ユリウス「あれはファラスたちだ。」

ユリウスも、ライディスが見ている500m先を見た。
実は、彼らは獣化している、していないに限らず、両目とも視力が3.0もあるのだ。

ユリウス「その後ろに誰かいる・・・。・・・!?」

ユリウスは屋根から、木の枝を伝い、地上に降りた。

ライディス「ま、待ってよ~!」

ライディスもユリウスの後に続く。


ユリウスが家の中に入ってきた。

ユリウス「ファラスたちが戻ってきたみたいだけど・・・、」
ミラル「・・・みたいだけど・・・。って、どうしたの?」

ライディスも家の中に入ってきた。

ライディス「リリスと誰かがその後ろにいたんだ。」
ウラン「リリスが!?」
ラルド「リリス・・・。どこかで聞いた名前だ・・・。」
カイン「知っているのか?」
ウラン「前にプラノズに集められた子供の1人だよ。」
ラルド「ということは、プラノズの・・・、」
ウラン「いいや。違うと思う。リリスはボクらが行動を起こす直前に逃げ出したんだ。」


ファラスたちが家に帰ってきた。

ファラス「今帰った。」
カイン「おかえり~。」
リリス「あ、こ、こんにちは・・・。」
ラザロ「雨が止むまでよろしく。」

ウランが家の奥から顔を出した。

ウラン「噂をすれば何とやら。だね。」
リリス「ウ、ウラン!?それにラルドにユリウス・・・、さらにライディスまで・・・。
何でこんなところに!?」
ウラン「・・・まぁ、話せば長い話なんだ。」

とりあえず、リリスたちは家に上がった。

カイン「なぁ、なぁ、ウラン。」
ウラン「何?」
カイン「ウラン。あのリリスって子。どういう子なんだ?」

カインはウランに聞いた。

ウラン「臆病で人見知りだったはず。」
カイン「・・・ところで、プラノズって誰なんだ?」
ウラン「!?・・・何で、そんなこと知っているのさ?」
カイン「この前、小耳に挟んだのさ。」

この前。というのは、当然、第6話の時の事だ。
あのラルドとウランの会話をコッソーリとカインは聞いていたのだ。

ウランはその後、リリスとラザロに、リリスが脱走した後の事を全て話した。
プラノズの事やドナウ川のダムを破壊したこと。
その時に、自分達が誰かに封印されて、この森の遺跡に1年も封じ込められたこと。
そして、封印を自分で解いて、ラルドと再会して、カインと出会ったことで、気持ちを変えた事も。

リリス「・・・そんなことがあったのね・・・。」
ラザロ「状況は、・・・なんか、俺達が思っていたよりも複雑みたいだなぁ・・・。」
ファラス「プラノズを倒すためには、俺たちのように、お前達のように特殊な力が無ければ倒すことは出来ない。」
ラルド「・・・お願いだ。力を貸して欲しい。」

ラルドがそう2人に言った。
ラルドが頼み事をするとは、この時、誰も予想などしていなかった。

ラザロ「・・・分かった。」
リリス「・・・えぇ。やるわ。」

ラザロとリリスは口々に言った。


それを見守る人物がいた。
ファラスたちの家から100m離れた木の上。
その木の枝に、金髪で、赤い鉢巻をつけた少年がいる。

金髪の少年「・・・。」

その少年は、ファラスたちの家の様子を見ていた。
ほとんど気配を感じない。

金髪の少年「・・・少しずつだが、希望が見えてきた。」

金髪の少年は空を見上げた。
気付けば、雨は降り止んでいた。

金髪の少年「(プラノズ・・・、お前の野望を達成などさせない。
歴史を繰り返すわけには行かない。だが、・・・俺は彼らの様子を見守る事しかできない。
彼らの手で未来を切り開く姿を、俺は見ていたい。未来は明るくなるかもしれない。
・・・時空断裂の壁。あれは、封印していた彼ら2人を外部からの接触を絶たせるための物だった。
彼らを正しい方向に導ける人物なら、影響も無く通り抜けられる。・・・そうしておいて、やはり正解だったようだ。
カイン・ジグナ、ミラル・ドレイン。そして、ファラス・ヘクタ。
俺の代わりに、彼らの成長を見守るとしたら、君ら3人しかいないだろう。俺は君らを見守っている。頼んだぞ・・・。)」

金髪の少年は、それを頭の中で言った。
そして、次の瞬間、「あっ、」と言う間に消えた。テレポートしたようだ。

当然、この少年の存在に、今気付いた者はいない。
この金髪の少年とラルドたちが出会うのは、これから先の話なのだ。

第17話へ続く。

※この話はフィクションです。実際の、国名、団体、都市などには関係ありません。



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