なぜ、ぼくたちは二足で歩くのだろう。手を大地から離し、直立したきっかけは何だったのか。二足歩行はヒトを定義する重要な要素だけれど、この根本的な問いに対して、いまだ定まった説明はない。
 大地溝ができて東側がサバンナになり、ヒトを森から切り離し直立させたというイーストサイド物語は、東側以外からの化石発見で揺らいでいる。草原に要因を求める説には、ほかに森の端から草原へ死肉をあさりに行くときに直立したとする説、遠くの敵を見つけるために視線を高くしたという説、立つことで熱い地表から大脳を離してクールダウンしたという説などがある。
 食行動に注目した説では、チンパンジーが木の実をとるときに立つように、初期のヒトも立って頭上の枝に手を伸ばしたとする説や、小さな木の実などの食料をえり分けるときに手が必要だったという説がある。日本の島泰三博士は、手と口が連合して進化してきたとして、初期のヒトは骨髄を食べており、骨を割る石を持ち運ぶために二足歩行したとする新説を唱えている。
 まったく違った視点としては、人類は一時水辺で進化し、子どもを抱えるなどして水中を歩くために直立したとするアクア説がある。このところ有力なのはオーウェン・ラブジョイ博士による繁殖戦略仮説だろうか。両手でたくさんの食料を持ち帰れるオスがいた夫婦の方が子孫を残すのに有利だった、だから二足歩行にむいた骨盤を持つ子孫が生き残ってきたという説。
 いま最古のヒトの足跡化石として知られるのは、約360万年前のアウストラロピテクスのもの。現代人を含むホモ属として最古といえば、イタリアで見つかった足跡が知られている。滑りやすい斜面についた3本の歩行跡。途中で急斜面を迂回したり、足を滑らせて手をついた跡もある。はじまりはともあれ、こうしてぼくたちは、ずっと迷ったりこけたりもしつつ、現代まで歩いてきたのだ。


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