でもいだトマトを袖口で拭いてかぶりつく。太陽の光を含んで、ほんのり甘い。量販店で買うと野菜にすぎないけれど、ここでは果物のよう。このトマト、日本へは観賞植物として入ってきたのが最初で、北欧や米国でも食用は敬遠されてきた。毒があるとされていたからで、安全性が信じられるようになったのは、1820年の出来事がきっかけという。アメリカ独立戦争の退役軍人ロバート・ジョンソン大佐が、ニュージャージー州セイレムの裁判所前でひとかごのトマトを食べた。気分が悪くなることもなく、高血圧や癌になることもなかったという言い伝え。
 裁判所とトマトといえば、野菜か果物かで訴えられたことも有名。1883年米国、野菜になると税金が高くなることを嫌った輸入業者が、最高裁で争ったのだ。結論は、野菜。野菜畑で作られるし、デザートにもならないというのが理由だった。
 現在の日本でも、トマトは野菜扱い。農林水産省では、多年生で木になるものを果物、毎年育てて草の葉や実などを食べるものを野菜としている。この定義では、メロンやイチゴ、スイカなども野菜に含まれる。これらは卸市場や店頭では果物扱いだから、生産的視点からは野菜、消費の視点では果物に分類されるというわけだ。
 野菜という言葉は、本来は名前の通り野生のものを指した。畑などで作る園菜と区別されていたのだ。江戸時代半ばから、現在の意味での野菜として使われるようになり、野生のものは山菜など別の名称で呼ばれるようになった。
 呼び名は、視点や時代に応じて変わる。トマトといえば、1994年に世界ではじめて売り出された遺伝子組み換え作物がトマトだった。テクノロジーが物自体を大きく変えてしまう現在、ぼくたちは呼称ではなく、その物自体とよりまっすぐ向きあうことが必要だろう。そんなことを思い、緑のつるにぶら下がる赤い実をまたひとつ、手のひらにした

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