涙ひとつぶ落ちる前に

涙ひとつぶ落ちる前に

ヴィンテージワインとイラク戦争




先日、「大切な日などに、、、」
というカテゴリーでやってきたワインを開けた。
確か97年のもので、飲む2時間前に抜栓しておくのがベスト、とあったので、
その様にして頂いた。
フランスの、ボディーはミディアム位じゃないのかな?
私は胃が強くないので、好みというよりは体の為にあまりフルボディーは選ばない。
濃いものは胃に堪えるからだ。それにあまり酸味の強いものも無理だ。
だから味の好み、というよりも胃の都合、と言った方がいいのかも知れない。
でも、食べるものもどちらかというと薄味で、消化が比較的いいもの、という感じ
にならざるをえないので、自然とワインも軽い目で若いものになりがちだ。
それで、たまに頒布会の様な企画ものに参加して、変わったものにチャレンジする
様にしているのだけど、その97年のものというのも、それでうちにやってきた訳。
97年ではそんなに古くはないけれども、私にしては「古い」部類に入り、しかも
あらかじめ抜栓しておく様なものはずっと敬遠していたので、内心不安に思いなが
らそーっと口をつけた。
「古い」というのではないけれど、「若い」というのとは決定的に違う。まろやか、
ではないけれど、柔らかい、というか、でも、いつもの「やさしい」ではない。
グラスを透かしてみると、やや澱んだような感じで、やはり簡単に表せば「古い」
のだろう。だけど、「古い」というには嵌りきれない部分が多すぎて、もう一杯。
「・・・・・」
なんと言ったら一番いいのだろうかと思いながら上を見、グラスを見、ラベルを見
たりする。
97年という事は、まあ7年位は瓶の中にあった事になる。紹介を見てみると、来
年あたりまでがMAXの様なので、大体これ位までは寝ている予定だった訳だ。
だから「古い」と一言にするのは失礼で、これがあるべき姿なのだ。

ワインの事はさわりだけ勉強した形になっているけれど、どうも、ワインの事を形容
する言葉の種類や並べ方が面映くって、つい、「旨い!」か「ぼちぼち」か「ちょっ
と体に合わない」の様な事に終始してしまうのでなんだが、よく、「シルクの様な」
なんて言うけれど、これはシルクではなくてベルベット、しかも新しいベルベットで
はなくって由緒ある家のクローゼットにありそうなベルベットみたいだ。丁寧に使わ
れてきた為に備わった「こなれた」やわらかさ、見た目に鮮やかなつやはないけれど
も、さわられてきて蓄積された重厚な妖艶さ、ふれてみたくなる気持ちにさせる、
「味わい」の様なものが備わっている感じ、、、。
旨い、とか不味いとかいう範囲を超越している飲み物だ。



考え考え呑んでいるのもあるが、酔い方も不思議な感じがする。
アルコールがあまりアタックして来ない。
例えば、古い(高い!)スコッチなどは、勿論単純に比べるものではないとは思うけ
れども、どんなに年月が経って美味しくなっていても「アルコールはアルコール」、
という印象が残るけれど、このワインはどれもが一体に溶け合っていて、知らないう
ちに深く酔わされている感じ。
なんだかまるでキャリア十分なママさんに捕まえられてしまったみたいだ、と、とろ
とろしながら考える。

97年から今まで、この瓶の中で寝ていたこのワインは、7回太陽を周った訳だ。お
よそ365回×7、日が昇ったり月が沈んだり、潮が満ちたり引いたりを経験している。
私たちも潮の満ち干で体に影響をうけるのだから、ワインだってじっと寝ていてもき
っと影響されるだろう。日にちが経つという事は、単に一枚暦がめくれるだけではな
くて、巨大な振動機器の上で24時間の反応を起こされる事なのではないか。



だからワインをこぼしたりしてはいけませんヨ。
どんなに正しい主張かどうか知らないけどキミ達、そう、この間のイラク開戦前のア
メリカの方々!
フランスが言う事をきかないからってね、丹精込めて作られたワインを下水に流すな
んてもってのほか!
ナンセンスですよ。

お返しに、という訳じゃないだろうけど、カンヌ映画祭では「華氏911」がパルム
ドール。
ハイセンスですなぁ。
暴れるアメリカを止めるにはこんな方法しかないのかも知れないとは思うけど、これ
ではプロパガンダになってしまわないかしら。
こうでもしないと上映出来ないからっていうのは「賞」の意味合いを変えるものじゃ
ない?
暴力の応酬になるよりはずっといいとは思うけど、映画がプロパガンダに使われる時
はこれまで、いつも「悪い世の中」へのプロローグだった。
杞憂であったらいいけれど。



気がついたらすっかり酔わされていた。
瓶は空になっていて、ロココ調のシャンデリアをバックに、素敵なベルベットをまとった
ヴェテランのママさんが、
「飲みすぎは体に毒よ。」
とウィンクする夢を見た。
結局自分の事ばかり喋ってしまい、ママさんの事は何も分からなかった。
ベルベットのママさんはあまりに深く複雑に折り畳まれていて、私ごときが簡単には
近寄れなかったという事みたい。
もう二度と逢えないだろうに惜しい事をした。
でも忘れられない一夜になったのだけは確かだった。


芍薬
だばだ~だばだ~、あ~~~(とかなんとか言っておかないとちょっと間がもたないんデス)
薔薇か何かがいいんだけども、手持ちがこれしか。
和風美人ですが。

© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: