October 30, 2009
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カテゴリ: 買い物


ビートルズの13の全アルバム作品とシングル・カットされた曲を収めた2枚組の「PAST MASTERS」、そしてミニドキュメンタリーを集めたDVDがセットになっている。HMVのマルチバイで21000円ほどだった。

CDとライナーノートは紙製の、LPと同じオリジナル・デザインジャケットに収められている。紙製なので、取り扱いには気をつかう。強迫神経症患者のように、まず手を洗い、指紋がつかないようにする。それでもついてしまう指紋をとるために、キョンセームを購入した。

CDやLPはジャケットとも一体となった「作品」である、というかあるべきである、ということを示したのはビートルズだった。だから、取り扱いに注意を要するとはいえ、まるでLPをミニチュア化したかのようなこうした「復刻」は大歓迎。CDの印刷面には懐かしいアップルなどのロゴが印刷されていて芸が細かい、というか徹底している。

よくわからないが、音質は改善していると思う。ベースライン、ギターをはじめとするアコースティック楽器が明瞭にきこえる。30~40年前の録音とは思えないほど鮮度も上がったと思う。

ビートルズの音楽はますます若返り、日々新しくなっているような気がする。古典をそういうものと定義するなら、ビートルズは古典であり、「サージェント・ペッパー・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」などは発表された当時からすでにそういうものとして認識されていたと思う。

1960年代は多くの人にとってラジオが唯一の音楽媒体だったが、ビートルズやローリング・ストーンズの新曲が次々と発表されていたあの時代は何という音楽の黄金時代だったことか。平原某やサラ・ブライトマンの品のないクラシックカバーが売れる現在の音楽界は午前2時の墓場のように薄気味悪く近寄る気にならない。

ビートルズとの出会いは10歳のころ、ソニーの小さなラジオから流れる「愛こそはすべて」だった。歌っているのがジョン・レノンだとは知らなかったが、高貴ささえ感じさせる微妙なビブラートをきかせたその歌い方に魅了されただけはない。フランス国歌のパロディで始まり、奇妙な変拍子(7拍子)の独創的なメロディを持つその曲は、他の単純な「ヒット曲」とあまりに異質だった。バッハのトランペット音型、ブラスやサキソフォーンや弦楽合奏が要所に現れる贅沢なアレンジは斬新かつ革命的であると同時に折衷主義のあいまいさや中途半端さはなく、すべて音楽的必然から生まれたものという気がした。

最初に買ったEPはローリング・ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」とビートルズの「オブラディ・オブラダ」だった。そのころは制服を着て紳士然と品のいい曲をやるビートルズより、荒々しく「これがロックだ」と言わんばかりの反体制的なイメージがあったストーンズに憧れていた。



こうして、音楽で大事なのは飽きないことであるという真理をビートルズは教えてくれた。クラシックや現代音楽を「わからない」と言って敬遠する人は多いが愚かなことだ。わからないのはいいことなのだ。決して飽きないのだから、わからない音楽ほどすばらしいものはない。無人島に持っていくたった一枚のCDは、シェーンベルクの「モーゼとアロン」に決まっている。

わたしはビートルズで音楽の勉強をした。ペニーレインでトランペットやチューブラー・ベル、「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」でチェロやコントラバスやシタール、「サージェントペッパー」でホルン、「フール・オン・ザ・ヒル」でフルート、「イエスタディ」で弦楽四重奏、といった具合に、いろいろな楽器の音色やその楽器の最も効果的な使い方をビートルズでおぼえた。

「ノルウェーの森」の不思議なメロディを研究して、それが「旋法」というもので作られているのを知った。あれは、たしかエオリア旋法だったと思う。

自分でもビートルズを演奏したいと思ってベースギターを手に入れたことがある。しかし、単純に見えるラインは実に演奏が難しく、すぐに放棄した。実際、こうしたことを通してわかるのは、ビートルズはアイドルなどではなく、「4人の音楽家のコラボレーション」だということである。作曲もリードボーカルも分散しているし、楽器だって固定していない。最高度のマルチ音楽家の結集体なのだ。

しかしその4人のマルチ音楽家のうち、バス運転手の息子ジョージ・ハリスンを除く3人は手のつけられない不良だった。音楽の神が彼らを選ばなかったら、少なくともハリスン以外の3人はジャンキーにでもなっていただろう。

レノンとマッカートニーには共通点がある。つまり、10代で母親を失っている。リンゴも母子家庭の出身であり、ハリスンも含めて、あの時代のイギリス地方都市の典型的な労働者階級の出身といえる。4人の価値観がかなり重なっていたこと、特にレノンとマッカートニーの境遇が似ていたことが、8年以上もビートルズが続いた大きな要因だったと思うが、思春期に母親を亡くしたこと、関係への飢餓感が彼らにとって音楽を必然的なものにした、とは言えないだろうか。

きょうはつらい一日だった、あとは犬のように眠るだけと歌う「A Hard Day's Night」は史上最高の「プロレタリア労働歌」だ。セブンスコードの独創的な開始、金属打楽器の明るい陽気なリズムが響くこの曲は、流行作詞家と作曲家が作り出す商業音楽のジャンルからは絶対に生まれない。

発売日に売り切れた「モノボックス」が重版されたようなので、アマゾンアメリカに注文した。一週間ほどで発送したという連絡が来たので年内には届く。送料込で245ドル、23000円弱。

いつか必ずビートルズを体系的に聴きたいと思っていたが、出会いから42年、もうすぐそれがかなう。





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最終更新日  October 30, 2009 02:33:26 PM コメント(1) | コメントを書く


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