sachipon40歳からはじめる子育てとその生活

sachipon40歳からはじめる子育てとその生活

麻酔無しという選択


この劣悪な現場で、よく妊娠したね。ということ
だった。
いやいや人間は生命の危機にさらされると、子孫を
のこさないといけないという本能が働くのだよ、と
説明したら、ちょっと納得された(ようだ)。

5ヶ月に入ったその日、お昼にお弁当のサンドイッチを
食べていた。家から持ってきたハードタイプのパンに
ポテトサラダを乗っけて食べていた。
「ぼきっ」にぶい音がした。
友達「ぼきって言った?」私「ぼきって言ったよね」
前から二番目の歯が、折れた。
それも根元の深いところで、だ。裏の奥で折れているのは
舌で触って確認できた。が、しかし前は歯茎の奥で折れて
いるので、見た目はわからない。現場の所長に断って
駅前の歯医者に午後から行ってみてもらったら、やっぱり
折れていて、取って治療しましょうと言うことだった。
妊婦なのだけど、もうそろそろ安定期だ。歯の麻酔くらいは
大丈夫と思うのだが、何せ高年齢初産婦。いろいろ考えて
しまう。なにかあって、このことが原因か?と思うくらい
ならば、いっそ痛みに耐えたほうが、体の傷は治るけど
心の傷は深いかもと、「麻酔無しでお願いします」と
言うしかなかった。

「我慢できなくなったら言ってくださいね」若いその歯科医は
とても親切だった。それだけが救いだった。
でも「どこまでが」我慢できない限界なのか、私にはわから
なかった。
最初に歯茎に半分くっついていた折れた歯を、取らねばならな
かった。気の毒そうな歯科医。めこっ。ペンチでひっぱる。
心のなかで「ロープロープロープ」と瀕死のプロレスラーの
ように叫ぶ。
奥がふかかったのだけど、ぎりぎり根っこが残って、クラウン
入れられることになった。出産したら、また考えるということで
今回は保険でしてもらうことになった。
治療は2ヶ月近くかかった。その現場はあと2ヶ月で終わりなので
それまでにということで、結構頻繁に通った。
一番痛かったのは、歯と歯茎の間に、歯茎を引き締める糸を
入れる治療だった。
「めりっめりっめりっ」折れた歯と歯茎の間に薬のついた糸を
めり込ませていく。
「ロープロープロープ」だれか白いタオルを投げてくれー。
麻酔より、痛さに耐えるほうが、胎教によくないかも?と
思ったりもした。
きっと、私の我慢できない程度の痛さは、気絶するくらいの
痛さだろう。親切な歯科医の丁寧な治療は、我慢できる
ぎりぎりの痛さで終わった。なんかこの先どんなことがあっても
痛さに耐えていけるかも、痛さを耐える練習までしてしまった
ようだった。
その後想像をぜっする痛さに遭遇するまで、あと4ヶ月。
歯医者の治療なんて、へのかっぱさ、と思える痛さ、
出産がまっていた。

© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: