あんのうんワールド

あんのうんワールド

小説



「ったく…何で俺がこんな目にあわなきゃいけないんだ!」
青髪の少年が息も凍るような寒さの洞窟で呟いた。霜柱が時折、凍り付いた地面に落ちて音を響かせていた。
「ん?前来た時はこんなの無かったよな…」
歩き慣れた滑る床を歩いて巨大な氷の前に立った。
「先が見えねーじゃん…」
階段の先は静かな闇に包まれていた。キラッ…
「!?今光ったよな!」
恐る恐る階段を下りていった。
「寒みー…」
洞窟の外は南国島なので着ている服は露出が多く軽い素材で出来ていたため、寒さが厳しいこの洞窟には向いていない。
凍り付いた暗黒の世界は少年の視界を完璧に遮った。しかし一定間隔で光る闇の先を目指し少年は先へ進んだ。

ピカッ…ピカッ…

「え?!……女?!しかも裸?!」
少年の目に映ったのは、輝く氷の中に浮かぶ少女だった。
凍り付いてるせいか、少女の肌は真っ白で金色のセミロングの髪は氷を透しても解る綺麗さだ。
ピカピカ光る原因は胸の間に付いている石だった。
「マジかよ…死んでる…よな…こんな寒い所に裸はね~…」
自分の言ったことを鼻で笑って少年はチラリと少女を見た。
「持って帰って埋めてやるか…」
ハァー…っと溜息をして少年は少女の入った氷を持ち上げた。
「軽っ!これ氷かよ…それに冷たくない?」
持ってきたバックに漫画でしか出来ないような無理矢理な入れ方をして氷をバックに入れた。
「よし!戻るか…」
その後、少年は洞窟の外で待つ友達に見捨てられ一人で洞窟から家に戻った…

「さて…どう解凍するか…」
少年は氷を軽く叩いた。
「っれにしても固いなー…」
トンカチで叩いたり、熱湯に入れても、傷一つ付かないし、少しも溶けていない。

「風呂で考えるか…」
少年は服を脱ぎ湯の中に入った。
「ふー…気持ち良ー!…ん?…なんじゃコリャ!」
右手の甲に変な痣が浮かび上がって居た。
「死ぬのか俺~!」
慌てて体を洗い、風呂を出た。
「母さーん!大変だよ!見てこれ!変な痣が!」
ドタドタと少年は母の元へ行った。
「ん?どこよ?何も無いじゃない。」
夕飯の仕度をしていた母は少年の手を見た。
「は?あるじゃん!この変な痣!」
「何言ってんの!そんな事より勉強しなさい!」
少年はとぼとぼと部屋に戻った。
「っだよ…こんなにくっきり見えてるのによ…お前も見えるだろ?」
氷の中に入って居る少女に手の甲を向けた。

キィイイイイーンン!
「な、何だ?」
氷は光りを放って消え始めた。
「私はリン…貴方の名前は?」
こうして少年はキリシスの呪いの輪に入っていった…

「お、俺はディル!」
やがて光りは消え、裸の少女が出て来た。
「私は…貴方の…物…」
リンは膝の力が抜けて倒れそうになった。
「おい!」
ディルはリンを支えた。
「わっ!あっごめん!」
軽く柔らかいリンの体を床に寝かせた。
「今服持ってくる!」
ディルは顔を真っ赤にして部屋を出た。そして妹の部屋から服を取って来た。
「ゴメン!目閉じてるから着替えて良いよ。少し小さいかもしれないけど…」
後ろを向いてディルは服をリンに差し出した。
「?これは…何?」
「え?服だよ!知らないの?」
「ふ…く…私はアークスクウェイド。ふくは無い。」
リンは澄んだ声で言った。
「アークスクウェイド?あっ!ま、先ずは服の着替えて方から…」
ディルは顔をそらしながらリンに服を着せた。小5の妹の服はリンのスタイルには少し小さいが一応着ることが出来た。
「これが…服?」
「そうだよ!あ、さっきの話しに戻るけど…アークスクウェイドって?」
ディルはベットに座って言った。
「はい。私の様に胸の間に鉱石の入った者の事をアークスクウェイドと言いす。」
リンは服を剥いで谷間の鉱石を見せた。
「わっ!解ったから人前で見せない!…で何でそのアークスクウェイドとか言うのがこの島に?」
目を腕で隠しながら言った。
「キリシスの輝石を奪い合う権利を与えるためです。」
「キリシス?」
「私達を産んだ石です。強力な魔力が詰まっていて、キリシスを手にしてから一週間後に自分のアークスクウェイドの発見した場所に持っていくと願いが一つ叶うんです。」
「なんか嘘クサイナ…魔力とかさ…」
「もう貴方にも魔力が使えます。右手の甲に私の紋章が浮かび上がって居るはずです。」
「あぁ…これか。で、どうやって魔法唱えるわけ?」
「魔法は全て、手の甲に向かって唱えます。最も初歩の魔法で[トリート]と言う回復呪文があります。対象は貴方のパートナーアークスクウェイド一体です。呪文は…です。」
「俺のパートナー?」
「今は私だけですが、他のキリシス権力者のアークスクウェイドを倒すとそのアークスクウェイドを自分の物にする事が出来ます。」
「ふーん…あ、疲れてそうだから練習がてらに回復させてみるか!」
ディルは甲に向かって呪文を唱えた。
「ちょっと待っ!」
[トリート]リンの下に水色の魔法陣が出て来て、光りが上がった。
「おぉ!スゲー!他の奴も教えてくれよ!…リン?!」
光りが消えると倒れて居るリンが居た。
「魔力が…無いのに使う…と、私の体が…もた…無い…の…」
「リン!」
「やす…ま…せて…」
青い瞳の光がスッと消えた。

「…っん…」
リンの目が少し開いた。
「お!リン、起きたか。これリンに服を買っておいたから来てみてよ。あと…昨日はゴメン!俺何も知らないで魔法使っちゃって…」
「ありがとうございます。…私は貴方の物。謝る必要はありません。」
「リン…アークスクウェイドって封印を解いた人の言いなりになるんだよな。」
「はい。私は貴方の言った事は必ずやります。」
「…そう言うの止めない?やっぱり皆自由が良いでしょ!だからさ、リンは俺の事さディル!って呼んでよ!あと敬語も止めよ!聞いててあんまり良い気分じゃな
いし!」
「ディル…これで…良い…の?」
「おう!じゃ、昨日の続き!俺が使う魔法はリンの体力が源なんだよな。」
「うん。だから使える量はそのアークスクウェイドの力に影響されま…されるの。」
「ふーん。でさ、キリシスって石取るのに何で魔法とか必要なの?」
「キリシスの取り合いをするから…私達アークスクウェイドを使って闘い、勝った方がアークスクウェイドを貰えるの。そうすれば人数が多い分、魔法が沢山使えるし、労働力も上がるでしょ?キリシスの取り合いの基本は他のアークスクウェイドを倒して強くなることなの。」
「じゃあ俺がリンを戦わせるって事?」
「うん。心配しないで。戦ってもディルは守から。」
「そんなんじゃ無い!俺はリンを戦わせたくない。」
「…でも。…!近くにアークスクウェイドが居ます!」
「え!近くに居るって敵も解るのか?」
「はい!ココに居たらディルの家族に被害がいっちゃいます!場所を変えましょう!あ…すいません敬語に慣れちゃって…」
「敬語で良いから!とにかく場所変えよう!」
窓を開けて屋根に出た。
ディルの部屋は2階でいつでも出れるように窓の外の屋根に靴を置いている。靴を履いてリンの手をとり、島の観光地であるビーチに走った。
「リン敵は付いて来てる?」
ディルはリンを抱えたまま走った。

「はい。あと…アークスクウェイドとの戦いは基本的にキリシス権利者は姿を見せません。陰で戦況を見て魔法を唱え、アークスクウェイドを援護します。」
「俺が戦うのじゃダメなのか?」
「人間の力ではアークスクウェイドには勝てません。」
「これでも俺は剣術習ってるから強いんだぜ!」
「!隠れて下さい!」
ビーチにはまだ距離があるがあまり人の居ない港に着いた。コンテナがいくつも置いてあり、見晴らしが良かった。
ディルは船で運んで来た物を収納する巨大倉庫に入った。薄暗く、大量の物が山積みにされていて、高さもあった。
「リン!気を付けろよ。ピンチになったら逃げろよ!」
「はい。」
リンが倉庫から出て、コンテナの多い港に出た。ディルは倉庫の上層に登り、窓から様子をみた。
「リン!!」
相手のアークスクウェイドと思われる人影がリンの腹に拳を喰らわせた。
「ぁぐっ!」
リンは吹き飛びコンテナに叩き付けられた。
「リン…久し振りだな…」
相手アークスクウェイドは言った。
「シン。貴方に早くに出会うとは思ってませんでした。兄さんの仇…討たせてもらいます!」
リンはシンと言うアークスクウェイドに突っ込んだ。
「ふん!相変わらずのスピードだ!」
シンは赤く長い髪に細いが筋肉質な体格だった。
「砕け散れ!ヤッハハハ!」
地面を素手で砕いた。
「っく…」
砕かれた岩はリンの奇襲を防ぎ、隙をつくった。
「甘い!甘いわ!ヤーッハハハ!」
拳がリンの顔を襲い、地面に叩き付けられた。衝撃で浮かび上がったリンの体をシンの膝が襲った。
「ぅぐぁぁ!」
地面に体を擦りながらリンは20メートル近く吹き飛ばされた。
「まだだ!ヤーッハハハ!」
ゆっくり立ち上がろうとするリンに向かって走り込んで来て、回転蹴りをした。素早くリンは蹴りを腕でを立てて防いだ。
「ぅうっ!」
リンの顔が歪んだ。
「フッハハハハ!それで良い!存分に俺を楽しませろ!」
防いだ腕でがギシギシして力が入らなくなった。
「たぁっ!」
リンはシンの顔を狙いハイキックをした。
「そういえばお前は格闘術に長けているんだったな!」
シンは片手でリンの足を止めた。
「まだ!」
体を回し、逆足でシンの顔を蹴った。
「痒いーな!もっと力入れろや!」
足を掴んでリンを宙釣りにした。
「ヤハーッハハハ!」
リンを何度も地面にたたき付けた。
「うぁ!…がぁっ!ぅうっ!ぁあっ!…やめ…やめて!…ぅあぁぁあ!」
全身の力が抜け、両手と掴まれてない片足が垂れた。
「柔らかい体だな!…ヤーッハハハ!良い事考えちゃったりして!」
シンはリンの片足も掴んだ。
「どこまで開くかな~!ハーッハハハ!」
「ぐぁあああああああ~!!!!!あぁっ!いやぁあああ!!!」
シンは両足を広げ思い切り引っ張った。股に裂ける痛みが走り、力の入らない両手で股を押さえた。
ディルに貰った服は裂け、白い肌がみえた。
「リィィィィィンンンン!!!」
ディルは叫んだ。倉庫の中からは音は届かなかった!
「何とかしないと!…そうか!」
ディルは倉庫から色々な物を探し出した。
「リン!準備が出来るまで耐えてくれ!」

「痛いか!痛いだろう!ハーッハハハ!そりゃそうだろ!次は何してやろうか…」
「ぅう…ぅぅっ…」
尻を上げた状態で倒れ、両腕を掴まれて、背中を踏まれて押さえられた。
「肩でも外しとくか!ヤーッハハハ!」
シンは掴んでいる両腕を引き、足でリンの背中を押した。
「ぁあああっ!っんぁあああ!」
澄んだ瞳から涙が零れた。
「お前のパートナーはどこだ?吐けよ!」
シンは肩の外れる寸前で止めた。痛みが邪魔をしてリンは口が開かなかった。
「答えろよ!じゃないと裸にして街中引きずり回すぞこらぁ!あ?」
リンを手放し、ぐったりとしているリンの髪を掴み持ち上げた。
「答えろ!じゃなきゃお前がいっちゃうぜ?ヤーッハハハ!…オイ!俺様のご主人様よ~!魔法の準備だ!トビッキリの電気喰らわせてやるよ!ヤハーッハハハ!」
シンはパートナーにそう言うと、髪からこめかみに持ち替えた。
「さぁ~!答えろ…1回!」
シンの体が光り、腕から電撃が伝わって来た。
「ぅぐぅああああああ!!!!!」
鋭い痛みと熱が全身に突き進み、服と体を焼いた。
リンは体を思い切り反らした。服は当然の事、精神も既に尽きようとしていた。
電気の魔法は身体的ダメージより精神に多く与えられる。
「ヤハーッハハハ!早く言わないと裸になっちまうぜ!ま、アークスクウェイドのお前には裸だろうが関係無いだろうがな!」
再びシンは指に力を込めた。
「ぅう…」
「こっちだよ!そこの赤毛!」
倉庫の闇の中からディルが叫んだ。
「だ…め…ディル…」
リンが離され、倒れ込んだ。
「ヤーッハハハ!馬鹿だな!お前のパートナーは!」
シンは倒れているリンを蹴り飛ばした。
「ふぅぐっ!」
リンはコンテナに減り込んだ。
「早く来いよ!バーカ!」
ディルは尻を叩いた。
「瞬殺してやるよ、ヤーッハハハ!」
地面を蹴り、シンが突っ込んで来た。
「お返しだ、バーカ!」
「!!鏡?!ぬわっ!!」
パリィィーン!鏡は砕け、シンの体を切った。
「この下等種族がぁ!馬鹿にしやがって!」
「どっちが馬鹿かもワカンネーのかよ!」
シンの目が光った。声で居場所を察知した。
「死ねぇー!」
腕を振りかぶり再び突っ込んだ。
「やっぱり馬鹿だね!」
足元のワイヤーにシンは躓いた。
「!!ぬわっ!!」
倒れ込むと、顔の前にナイフが立ててあり、シンは腕で何とか体を支えた。
「ってめ…」
「リンを傷つけた分、死んで償え!」
シンの上からコンテナが落とされた。
「な、何ィ~!」

ずどぉーん…

「痛ってー…こんな侮辱されたのは始めてだ!絶ってー殺す!」
頬からは大量の血を流し、目は赤く充血していた。
「っち!生きてたか~…まあ馬鹿にしては良くやったよ!」
「殺す…殺す…殺す…」
シンは立ち上がり声の元に突っ込んだ。

ズドォーガーン!

シンの鉄拳が辺りを砕いた。
「また罠だと?」
シンが砕いたのはスピーカーだった。
「これで最後だ…」
後ろから巨大釜が振り子の様に振り落とされた。
「グワァァァーー!!!」
シンの体を釜が貫いた。
叫び声が静まり、ディルは様子を見にシンの前に現れた。
「リンを傷つけた罰だ!…!!」
「道連れにしてやる!この雷の力で!」
ぱちっとシンの目が開いた。

チチチチチチチ…

ズジュバァアアアンンンン!!!!

「うわぁーーーー!!!!」
電気がディルの全身にビリビリ流れ体が痙攣し、鼻の奥で強い血の臭いを感じた。

痛みを過ぎたのか、体には温かさが感じられた。
「ディ…ル…大丈…夫…です…か?」
熱い液体がディルの顔に垂れた…
「リン!…おい!俺の心配より…」
ディルの瞳から自然に涙が零れた。
全身の服はやけ焦げ、白い肌は痣だらけで、綺麗な唇からは血が垂れていた。

ガラガラ…

「殺す…殺す…」
血まみれのシンの体が崩れた荷物の中から現れた。
「逃げるんだリン!お願いだから!」
体を起こし、リンの体を揺すった。
ボロボロのリンの体は力が入っていなかった。
「殺す!」
シンの攻撃準備が整った。
「死ねぇええ!!!」
拳を振り上げシンが走って来る。

「くっそぉおおおお!!!!」
全身に力が入ったが、ディルは動くことが出来なかった。

そして拳がディルを襲う…


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