あんのうんワールド

あんのうんワールド

小説




ニャー!ニャー!

「アイルー!?」
自分の体を乗せる荷台をアイルーが押していた。白い毛並みが特徴の猫に似たモンスター。
石を先に縛り付けた木の棒を持っている。
敵と認識した者には攻撃してくるが、敵意が無ければ人間の手伝いもしてくれる。
「わぁ~!かわいー!」
ニャー!ニャー!凄いスピードで坂を下りた。
「これなら早く着くぞ!」
「だね!被害が少ないうちに対処しなきゃね!」
姫はギュッとチャクラムの柄を握った。

「きゃー!」
「ママー!」
2メートル近くある巨大昆虫3体が子供を抱いた女性を取り囲んでいた。
「た、助けてー!」

ブーン…

「…風の声!」

シュン!

チャクラムが半円を描き巨大昆虫の羽を切り落とした。
「大丈夫ですか?!」
姫が返ってくるチャクラムを取り女性に駆け寄った。
「落ち着いてください!もう大丈夫ですから!」
女性は始めて見るモンスターに心が乱れていた。
姫は女性の背中を撫でた。
「わぁー!」
「!!」
道路を挟んで少年がブルファンゴに追われている。
「間に合って!…風の声!」
中指と人差し指に挟んだチャクラムを勢い良く飛ばした。

ザシュッ!

「うわぁっ!」
少年はブルファンゴの強力な角に突き抜かれた。
腹部に穴が開いて、そこから大量の血が流れた。
「キミ?!」
姫は駆け寄った。
「大丈夫?!早く手当しなきゃ…」
姫は辺りを見回した。

ズドォッ!

「!!…きゃああっ!!」
背中のクックの鱗で作った防具にブルファンゴの角が刺さった。
「…っつぅ!」
体には到達しなかったが鋭い痛みが背中を貫いた。
「えぇい!!」
体を反らし、チャクラムをブルファンゴに向かって飛ばした。
風を切って姫の飛ばしたチャクラムがブルファンゴを切り裂いた。
姫は背中に痛みを感じながらもゆっくり立ち上がった。
「キミ…大丈夫?」
「寒い…寒い…」
「寒い?…今は夏よ?」
「お姉ちゃん…後!」
潤んだ少年の瞳に大きな黄色い影が映った。
「!?」

ガブゥウ!

「あぐぅう~!!」
首筋に鋭い牙が突き刺さった。
全身を電気が突き抜けたような痛みが走って姫は体を勢い良く反らした。
「あ…あぅ…ぁぐぅ…」
息が出来なくなり、体の力が抜けていった。
「この!」
通りかかった青年が首を噛んでいるモンスターを突き飛ばした。
「ぅう…」
姫はぐったり地面に倒れビクビクと体が痙攣した。
「姫?!大丈夫?」
倒れた姫を青年がゆっくり起こした。
「荒雄…くん…」
「無理して喋らないで。…この前の借り、アイツに返さなきゃな!」
荒雄は姫を寝かせて立ち上がった。
吹き飛ばしたモンスターは既に立ち上がっている。
「ドスゲネポス…さすがに一人じゃキツイかな…」
背中の大剣、バスターブレイドに手を掛けて荒雄が言った。
「俺も借りがあるんだよね!うん。」
今河が片手剣、ハンターナイフ改を腰から取り出し前に出た。
「それじゃ行くか!」
「おう!」
ドスゲネポスが向きを荒雄に向けた。
「今ちゃん!」
荒雄が大剣を斜めに起てて今河に指示した。
「オッケー!」
今河はドスゲネポスの裏に回った。

ガキィーン!

「くっ!」
ドスゲネポスの跳び蹴りが大剣に直撃し、振動で押された。
「たぁああ!」
今河のハンターナイフ改がドスゲネポスに降り懸かった。

ダァン!

「切れ味が足りない!?」
弾かれた勢いで今河は退けた。
「私に任せて!…風の爪」
風が今河の片手剣を包んだ。

シュンシュンシュン…

刃を取り巻く風は力強く吹いた。
「これは?!」
「危ない!」
荒雄が叫んだ。ドスゲネポスは大きな口を広げ今河に襲い掛かった。
「わっ!」
盾を前に出し、迫り来る牙を防いだ。
「こんのぉ!」
風を取り巻く片手剣はドスゲネポスに襲い掛かった。

ズシャ!ブッシャ!ズブシャ!

首、体、足、と剣を振る度にドスゲネポスから血が噴き出した。
「この片手剣、軽い!」
「スゲェーじゃん!」
荒雄が今河に駆け寄った。
「まだよ!」
姫も2人に近づいた。

グゥググググ…

ドスゲネポスは牙を剥き出した。
「タフだね。うん…」
「倒せるのかよ…」
「私達なら勝てる!…いえ、絶対勝たなきゃ!これ以上の犠牲は出させない!」
姫はギュッとピンク色の唇を噛んだ。

グガァア!

ドスゲネポスが飛び掛かって来た。
3人とも前転して攻撃を回避した。
「俺が行く!」
今河が片手剣を振った。
「たぁ!やぁ!とぉ!オォリャー!」
三連斬りにラスト、回転斬りでドスゲネポスの体を裂き、吹き飛ばした。
ドスゲネポスは道路に吹き飛ばされ、倒れた。
「うぉおお!!」
走り込んできた荒雄が大剣を振り下ろした。

ビュオ…ズドォーン!!

地面が砕け、刃がコンクリートに刺さった。
「っち!逃がした。」
咄嗟に後ろに跳ねたドスゲネポスが股を大きく開いて大勢を下げ、口を広げた。
「いっけぇー!!」
踊るように姫はチャクラムを飛ばした。

ギャアァァァ!!

ドスゲネポスは地面を蹴って荒雄に突っ込んだ。

ッスパーン!!

ドスゲネポスの顔の鱗がチャクラムに切り落とされた。
「こんっのヤロ!!」
勢いの弱まったドスゲネポスの横顔に左に引いた大剣を思い切り横に振った。

ズッバァーン!!

ドスゲネポスの首が一刀両断され、空に舞い上がった。
倒れたドスゲネポスの体から血が脈に合わせて吹き出した。
「勝った…俺達!勝てた!」
荒雄が大剣を握る力を込めた。
「荒ちゃん…ちょっと…」
今河が荒雄の体を叩いた。そして目で合図した。

「…ごめんなさい!私が…私が力不足だったから…!」
ぐったりと倒れる少年の横で涙を流して言った。



その頃・・・
陽は街でランポスに襲われる老人を助けていた。

「ジーちゃん!」
重い大剣がランポスの体を叩き切った。
重い防具を身につけた陽がモンスターと老人の間へ飛び込んだ。
やられた仲間をドスランポスが目で追う。
再びドスランポスは陽の方を向き、鋭い牙を剥いた。
「っち!慣れネーな…」
震える体に力を入れ、陽は大剣を背中に担いだ。
体勢を下げたドスランポスは陽に飛び掛かった。
「はっ!」
前転で回避した。
勢いで背中のアギトを横に振り払う。

ブォン!…ザシュ!!

ドスランポスの鱗にアギトに付く牙の刃が刺さり、エグった。
ドスランポスは血を噴き出し、ビルの壁にたたき付けられた。
「こんのっ!!」
大剣を引いて、倒れるドスランポスへ向かって走った。
そして一気に振り下ろした。返り血が陽の防具を汚した。
「うっし…姫は大丈夫かな…」

ズドォーン!

隕石の様な赤い塊が空から降って来た。
「な、何だ?!」
塊は足や羽、尻尾に頭はわかるものの不規則に並んだ体のパーツは明らかに失敗だと解った。

ヒュゴー…ヒュゴー…

頭かと思われる場所からは乱れた呼吸の音が聞こえた。
「り、お…レウス…だよな…」
ドシドシと暴れる塊は体の所々から火が漏れ出ていた。

フゴォー!!

塊はドタドタ走り込んで来た。
「なっ?!」
巨大な塊は形は悪いものの、リオレウスと同じサイズ。
陽は大剣を斜めに起てた。
「ぐぁあっ!」
陽は大剣ごと吹き飛ばされた。
ゴロゴロと転がり、ガードレールに叩き付けられた。

ゴゴゴ…

「くそっ…強えっ!」
大剣を杖に起き上がり、再び迫り来る塊を避けた。

ゴーヒュー…

「気持ち悪いな!」
陽は大剣を担いで走った。
塊から強い火が漏れる。

ドォーン!…バァアンン!!

「くっ!」
高熱の火の弾は大剣を焼き、陽の体を吹き飛ばした。

ドドド…

「このヤロ!!」
塊の体当たりを避け、大剣を振り払った。

ガァンン!!

「なっ?!」
骨の刃はいびつなリオレウスの鱗に弾き返され、傷一つ付くことはなかった。

ブォン!

「やべっ!!」
弾かれた反動で陽は動けない。
そこへ赤い尻尾が降り懸かる。
「ぐがぁあっ!!」

ドゴォーン…

コンクリートの塀にたたき付けられ陽は崩れ落ちた。
鉄鉱石で作られた鎧は硬い尻尾に砕かれ、体に激痛が走った。

ブォオー!!

{またブレス!?}
陽は回避しようと試みたが、肋骨が幾つか折れているのか、体に力が入らなかった。

ダァンッ!!

一直線に飛び出した火炎の弾は床のコンクリートをも焼いた。

ジュッバァーン!!

爆発は陽を飲み込み、周りのコンクリートは蒸気を上げていた。
「俺に黙って死ぬのは許さねーよ、陽!」
熱が引き、鉄の鎧を身につけ立ち塞がる康二の姿があった。
「康二…どうして…」
声が掠れる。痛みの為か、死が直前に来た為か…
「武蔵ってゆー変な奴に呼ばれてな。ま、今は休んどけ!コイツは俺が狩る!!」
ハイメタシリーズの防具を身につけ、両腕に大きなシールドと長いランスを持ちリオレウスにその長いナイトランスを向けた。

ヒューヒュー…

ドタドタとリオレウスが走り込んで来た。踏み込んだ足はコンクリートを砕き、溢れる炎は体の節々から出ていた。
「康二!それは防げな…」
言葉は遅かった。リオレウスは康二に襲い掛かった。

ガキィイン!!

鉄が弾けた。
「へ!ぬりーな…っりゃ!!」
シールドは巨大なリオレウスの体を受け止め、弾き返した。
そしてナイトランスを突き出し、鱗を貫いた。

ギグホォー!!!

リオレウスは奇妙な咆哮を上げた。
「キモいんだよ!!」
康二は長いランスをしっかり握り、走り出した。

ズッババババッ!!

リオレウスの巨大な体はランスに刺さり、血吹雪を吹いていた。
「ぅおおおおお!!!」
康二は腰を下げ一気に駆け出す。
リオレウスは突き刺さったままコンクリートに叩き付けられた。
崩れ落ちたコンクリートはいびつなリオレウスの体を埋め、リオレウスは息を止めた。
「つ…強っ!」
陽は息を飲んだ。
いくら失敗作とは言え、あのリオレウスを倒してしまった。
「当たり前だろ~!神だから!!」
康二はそう言って陽に手を伸ばした。


その後、全員は山頂に戻り、武蔵の元へ来た。
「ギリギリやでっ!このサイズやと飛竜が出てこれるサイズや!」

次の瞬間、現実世界に悲劇が訪れた…

ズジャヤヤーンン!!!

黒い穴から巨大な角が突き出て来た。
直径5メートル程の穴は一気に広がっていった。
「な、何だよ?!」
陽が大剣を構える。
続いて姫、康二、荒雄、今河も武器を構えた。
巨大な角はどんどん穴を広げている。
そして恐ろしく大きい顔が現れた…

ラオシャンロン―――それは竜を超え龍とされ、老山龍と呼ばれる程でその巨大な体は通る道を全て消し去ると言われている。
全員に襲い掛かるプレッシャーは思わずこの場から逃げ出したくなった。
ギロッと視線が姫を捉らえた。
「ぁっ…」
姫が声にならない悲鳴をあげる。
「ヤバイで!せめてこの穴から戻さなあかん!!」
武蔵が叫んだ。
「やってやろーじゃんっ!!このデカ物を潰す!!」
康二が走って巨大な頭にランスを伸ばした。
「俺もだっ!!いくぞ!!」
陽は大剣を振り上げ一気に振り落とした。
「私もっ!!」
胸元に手を当て、風を集めた。
「荒雄はん!今河はん!アンタ等は仲間集めを!!」
「わかった!!」
二人は声を合わせ走り出した。
「ぅおおおっ!!」
鋭いランスが、勢い良く振り下ろされた大剣の刃が、そして風を纏ったチャクラムが…

ガキィイン!!
ラオシャンロンの厚く硬い鱗で覆われた顔に傷一つつける事が出来なかった。
「そんな…」
「嘘だろ…」
「攻撃が…効いてないの?!」
3人は弾かれた勢いで後ろに退け反った。
「切れ味が足りないんだ…」
空から黒い影が落ちて来て、ラオシャンロンの頭に落ちた。

グッサッ!!

鋭いの剣は見事にラオシャンロンの脳天に突き刺さった。
「海斗?!」
少し長めに伸びた黒髪が揺れ、鱗から剣が抜かれた。
「勢いだけではコイツの鱗は傷つかない!見切るんだ…僅かに鱗の薄い所を!」
「偉そうに!!力で捩伏せる!!」
康二が走り出した。
「馬鹿が…返り討ちに合うぞ。」
そしてランスがラオシャンロンを突いた。

ガキィイン!!

「またかっ―――ぐぁあっ!!」
巨大なラオシャンロンの頭が力強く振られた。
康二は勢いよく吹き飛び血を吐いた。
「康二君!!」
姫が康二の元へ走った。ハイメタの防具が砕かれている。
「なんて力だ…」
陽が唖然として口を開いた。
「ヤバイで!これ以上広がれば時空が暴走してしまうで!!」
「待って!今―――風の刃!!」

キュゥウィイイン!!!

風が陽と海斗の武器に纏った。
「今っ!!」
姫が叫んだ。2人は一気に攻め込んだ。

シュンッ!

{速いっ!?}
軽く地面を蹴るだけで勢い良く進む。
大剣も軽く感じた。
海斗も驚きつつ片手剣は流れるように鱗を切り裂いた。
「はぁあああっ!!」
ラオシャンロンの正面から一気に走り出した。
地面を蹴ると風が体を押してくれる。

{今だ!瑠璃の戦士よ!!}

アギトが瑠璃色に輝いた。
振り下ろした瑠璃の刃はラオシャンロンの額を大きく切り裂いた。

グオオオオォォォォンンンン!!!

ラオシャンロンはそのまま引っ込み、陽は黒い穴に飲み込まれた。
「陽っ!」
姫が穴に手を伸ばすと何かに引っ張られ康二、海斗と姫も穴に飲み込まれた…


小説置き場 へ戻る
第8章を続けて読む

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: