☆*猫松屋☆本店*☆  

◎:中 コーヒーメイカー




コーヒーメイカー



 対面式のシステムキッチンに立って、テーブルについているお前にコーヒーカップを渡した。
新しいコーヒーメイカーのおかげで部屋のいたるところがコーヒーのいい香り。
 煎れたてのコーヒーが入ったカップを、俺が去年やった赤水晶のブレスが見えるように、
わざと左手で持って口に運ぶお前。
むちゃくちゃ俺のこと意識してるだろ。
 まったく気障なことするようになった…
 出会った頃より随分いい男になったよな… なんてボケッと思って自分の分もコーヒーをそそいだ。
 コーヒーを口に運ぶお前。ふと手元に目を落とすと、しっかり用意したミルクと砂糖が残っている。
「お前、コーヒー、ブラックだっけ?」
ってきいたら
「あなたが煎れてくれた美味しいコーヒーの味を汚したくないじゃない。」
だとよ。
 そんなこと言ってるわりには、
俺がお土産に持ってきたブルーベリーの入ったマフィンにたっぷりハチミツかけてるじゃねぇか。
(そのハチミツも俺が買ってきたヒマワリのハチミツだけど…)

『本当は苦いの我慢してるんだろ、それ中にジャムがたっぷり入ってるんだぞ。ハチミツかけたら甘ったるくてしょうがないだろ?』
とはお前の名誉にかかわるから言わないでおいてやるな。まぁちょっと嬉しいけどな…
「これうまいよね。この前、持ってきてくれたオレンジピールが入ったスコーンもおいしかったし♪」
 ガブッと齧ったマフィンで口をいっぱいにしながらお前は言う。もうちょっとゆっくり食えよ… いい歳して… 
それに3年くらい前だぞ、スコーンは… よく覚えてんな…
「今日はコーヒーだからな。スコーンじゃあわないだろ。」
なんて照れ隠しに言ってる俺も俺か…


 今年、お前が誕生日プレゼントに欲しがったのはコーヒーメイカー。
 俺と同じ海外のナントカっていうメーカーの、けっこういい値段だったんだぞ!
 久しぶりに遊びにきたとき煎れてやったコーヒーがえらく気に入ったらしいお前は、今年は何が欲しい?
ってきいたら、迷わず「あなたと同じコーヒーメイカー!」って答えた。
 しかも設置したいのは隠れ家にしているマンション。
「贅沢だよな。隠れ家持ってる奴なんて普通いないぜ。」
ってちょっと嫌味っぽく言ってみたら
「ず~と嫁さんと一緒にいたら疲れるじゃない、お互いに。」
だとよ。ま~ったく憎らしいもんだよなぁ。
俺なんか嫁にそんなこと言ったらぶっ飛ばされるぞ…


 それで今日はお前の誕生日、今朝、電話で
『飲み会まで時間があるから、プレゼント持って来るついでに設置してコーヒー煎れてよ。
それにコーヒーメイカー、会場で渡されたら持って帰るの大変だしね~♪』
の一言で飲み会に出かける前にこいつの隠れ家にきてコーヒー煎れてやってるわけ…
 まぁ、あんな事、言われた時は流石に俺も驚いたね。
つい
『お前… 嫁とすごさなくていいのかよ…』
(そんなこと訊いておきながら、しっかりいいコーヒー豆とお菓子用意してる俺も俺だけどな…)
って訊いたら
『いいよ別に。 四六時中一緒にいるんだし。お祝いくらい何時でもできるでしょ。
それにあなたと話したいしね。いつも忙しくて休みが重なるのなんて滅多にないじゃない。』
とな…
そりゃあ、お前とはなかなか会って呑んだり、食事したりできないけどさぁ… というか会いたくないというか…
別に恋人どうしってわけじゃないんだから… それにメールよくしてるだろ?
 俺の考えとしては、やっぱり記念日は愛する人と!!
っていうのが相場だと思うんだけどなぁ。
だから誘っても無理かなぁと思ったら、お前、二つ返事で「いいよ。」って言いやがった。
「お前なぁ… いいのか本当に嫁ほっといて。しかも誕生日に男とだぞ? 飲み会だって野郎しかこねぇし…」
 おい! なんだよ!! その豪快な溜め息は!!
「あなたね… 今日は俺にとってはすっごく美味しい日なの! だってあなたが奢ってくれるっていうし。
やっぱり人に奢ってもらう酒って美味いよね~♪」
 う…… そりゃあ今日はお前の分は全部俺が払うことになってるけどな…
「それとこれとは…」
「話が違う? 同じことでしょ?」
 ちっくしょ… 話さえぎりやがったな…
「何が同じなんだよ?」
「いつも一緒にいる嫁さんといるより、めったに会えないあなたとコーヒーの見ながらおしゃべりできるし。
野郎ばっかりでもあなたが奢ってくれるなら、嫁となんかすごしてらんないでしょ?」
 って疑問を投げかけるなよ…
「それにさ… ここのところあなた、変に気をつかって遊んでくれないし…」
 イジイジって音が聞こえそうなくらい、シュガーポットの角砂糖をスプーンで突いているお前に心底呆れたよ、俺は…
「お前は幾つだ? 今年で何歳になる? ああ?」
 お前のほっぺたをむぎゅーっとつねってやる。
「イデイデデ… 痛いってば!」
 大袈裟に痛がってるけど、本当はそうでもないだろ!! このやろ!! 顔がニヤニヤしてるぞ!!
「ぼく~、幾つかなぁ?かまってもらえなくて寂しいって歳じゃないよねぇ~?」
「……34です…」
 お、ちょっとムッとしたな。そんなに怒るなよぉ。 ソファの方に移動していじけてやがる。
「別にいいですよ… もういいです… どうせ俺なんか…」
 なにブツブツ言ってるんだよ。ほんっとこういうところ昔からかわんねぇな。
「いじけるなよぉ~」
 むくれているお前の隣に座って、ガシガシ頭を撫でてやる。
二人してゲラゲラ笑い転げて、その後は近況も含めて他愛無いおしゃべり。
 なんだかあの頃に戻ったみたいだな。
 お前は出会った頃は情けない奴だった。
なんでも一から教えてやらないといけなくて、俺、かな~り苦労したんだからな!

 でも楽しかった…
 忙しくて、お前っていう荷物抱えて、大変だったけど…
 その頃からかわらずお前、俺についてくるよな。

 独立しても…

 本当は気がついてるからな…
 俺をここに呼んだ理由。

 お前は隠してるつもりでも…

 俺はお前にとって特別か?
 訊いてみたいけどまた今度な。
 まぁ大体、答えはわかってるけど…

 それにしても…

 こんなやりかた…

 相変わらず不器用だな…

 お前……


「もうこんな時間だな。」
 時計を見るともうそろそろ出ないと飲み会に間に合わない時間になっていた。
「あ、ホント? 時間経つの早いなぁ…」
「もう出るぞ。呑むからなぁ、車じゃいけないだろ?」
 俺だってもうちょっと話ししてたいけどなぁ。
せっかくあいつ等も来てくれるわけだし、それに主賓が遅刻なんて盛り上がらないだろ?
 ってもう外出てやがる!!
 しょうがね~なぁ…
「あつ…」
 外に出るともう9月も終るっていうのに、暑かった。
「さぁ~はりきって呑むぞ~~!! やっぱ奢り最高~~♪♪」
 妙にはしゃいだお前の声がエレベーターホールから聞こえる。もうあんなとこまで行ってるよ…
「おい! 鍵!!」
 全然聴こえてねぇみてぇだな… 鼻歌聞こえるし、まったく…
 なんで合鍵なんて持ってんだ俺… はぁ~~~…
 エレベーターホールに向かうと、その気配に気がついたのか、お前がクルッと向きをかえて俺を見た。なんだよ…
 お前は
「またコーヒー煎れにきてよね。あなた、オススメのコーヒー豆持って、ここにね♪」
ってニコっと笑った。
「………暇があったらな…」
 何照れてんだよ! 俺は!!
「はやく乗って!」
 あ? エレベーターにか…
 暑い暑い!
 こんなに暑いのは残暑のせいだ!! 絶対照れてるとかじゃ…ないからな!!!
「くくっ」
「おい!! なに笑ってんだよ!!! 奢ってやんね~ぞ!!!!」
 ガツンっと一発、頭に鉄拳をお見舞いしてやった! 別に照れ隠しじゃね~からな!!
「いてぇ~~~」
「俺をからかうなんて100年はえ~んだよ!」
 頭を擦ってるお前を残して先行ってやる!
「あ~まってよ。」
 必死になって追いかけてくるお前…
 30過ぎた男が二人してこうやってるのは、端から見たら変なんだろうな…

 でも…
 どんな時でもそうやって追ってこいよ…

 一度、俺を追う事を辞めたお前。
 目を逸らしてもお前の前には俺しかいなかっただろ?

 でも勘違いするなよ。
 お前のゴールは俺に追いつく事じゃない。
 俺を追い越すことだ…
 俺を追い越したお前が手を差し伸べるまで…


 俺は絶対手は抜かないからな!!


「さぁ~呑むぞ~~~~!!」
 残暑残る街へ俺は後ろを向かないで歩く。
 お前は必死になって追いかけてくる。
 今日はお前の誕生日。

 それと…
 お前が密かに俺に宣戦布告した記念日…

 お前が俺の背中に投げかけた
『もう逃げないから…』

 その言葉…
 絶対忘れるなよ…







 ☆あとがき☆

  もう長編諦めて、こっちを無理やり強制お題文章にします。
  残暑と記念日で…
  あはははは…
  なんつー話だよ…
  現実じゃ絶対ありえない!!
  俺を追って来い!!
  みたいな話が書きたいな~と思って毎度のことながら玉砕ですな…
  いちを長編文章に出てくる高校生、尾張と水上さんのその後みたいな感じで…
  文章自体ほとんど読まれてないからなぁ… たぶんわかんないだろうね(^^;
  まぁ、時間があって暇でしょうがない方は探してみてやってください(;へ;







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