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「黎明の空へ」前編
ガンダムSEED DESTINYオリジナルストーリー
ムラサメ戦記 外伝「黎明の空へ」 前編
C.E70。マスドライバーを巡る地球連合軍の侵攻に際し、ウズミ・ナラ・アスハ等要人と共に消滅したオーブ連合首長国であったが、戦争終結後には驚異的な復興を果たし、C.E72現在においては、従来の姿を取り戻しつつあった。また、それに呼応し旺盛な意欲をもつ研究者らも続々と集まってきていた。
―――――これは、ショウ・マツカゼが隊を結成する前。まだ二尉と呼ばれていた頃の話である。
「こちらは、いつでもOKですよ。」
俺は努めてはつらつと応えた。
「今回は、機体の急激な上昇下降に対応する訓練です。」
ここ最近は、いつもこの調子だ。空中戦が主体の機体とはいえ、まず戦闘機を扱えるようにしろ、とは正直驚いた。少しはやる方の身にもなってもらいたい、とつくづく思うのだが、引き受けた手前、後には引けない。
「了解。お手柔らかにお願いします。」
俺は、この後訪れるGの恐怖に慄きながら、操縦桿を握り締めた。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
話は遡るが、2週間ほど前のことだ。
ちょうど、兵舎の自室に篭っていた時のことだった。
「早いものだな・・・・・・」
ふと、そんなことを考えてしまうことがある。最近は特に多い。
前の大戦から早半年余り。甚大な戦火をもたらした戦いも、今では歴史の1ページになりつつある。
だが、依然として緊張状態にあるのは確かだ。ユニウス条約が締結されたとはいえ、休戦状態であることに変わりはない。特に、ブルーコスモスの動向には注意が必要だ。やつらはどんな難癖をつけてコーディネーターを抹殺しようとするのか分かったものではない。
俺は、キーボード上でトントン、と敲いていた指を止め、椅子を引いて立ち上がった。ベッドとデスクのほかは、ほとんど飾り気のない部屋が自然と目に入る。そして視線を窓辺に移した。一望とまではいかないが、オーブの国土を目にすることが出来る。
新たな建築物が続々と建設される中、まだ瓦礫が撤去されていない場所や地面に大きな亀裂が走っている場所など前大戦を彷彿とさせる傷跡は幾つかある。
しかし、これはオーブが自ら選択した運命の証である。オーブ崩壊は、国家の独立性とは何かを世に示す重要な契機となったのだ。
(忘れてはいけない、俺たちが払った代償を。それが何ものにも変え難い人命であるということを・・・・・)
俺は何度か反芻した。軍人として、そしてオーブ国民として、忘れてはならない心構えであろう。
言うまでも無いが、今のオーブもその犠牲を礎として成り立っているのだから。
―――そんな時であった。
コンコン、と軽くドアをノックする音が聞こえてきた。
(ん、誰かな?)
俺は、妙と厚ぼったいスライド式の扉に目を向けた。
「はい、どうぞ。」
「お休みのところ失礼いたします。マツカゼ二尉、トダカ一佐がお呼びです。至急とのことです。」
(一佐直々とは、何だろうか?出撃要請なら個別に伝達が来るのもおかしい。)
「了解しました。ご苦労様です。ところで何の御用件ですか?」
俺は気になったので思い切って尋ねてみた。
「それが、機密に関わるとの仰せで・・・・」
俺は、「そうですか。」とだけ言葉を残し、部屋を後にした。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
俺は、“司令室”と掲げられた部屋の前に立った。オーブ軍は国防が最重要任務ということで、兵舎は作戦司令塔の比較的近くにある。
「マツカゼ二尉です。お呼びの件で参りました。」
「ああ来たか、入ってくれ。」
俺は、いつもと変わらない声色だったことに少し安堵した。
「失礼します。」
俺は、手短に挨拶すると本題を切り出した。
「で、火急のご用件とは?」
「それなんだが・・・ これから話すことは軍の機密に関わるのでな。口外しないと約束してもらえるか?」
一佐は、穏和な表情を少し強張らせた。
「はい。軍に入隊した時より軍機密の管理には注意しております。」
俺は、努めて真剣に応えた。
(ここまで念を押すのはどうしてだろうか?)
そんな俺の疑問を払拭するかのように、一佐はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「そうか、ならばいいだろう。一つお前に頼みがあってな。ある機体のテストパイロットをやってもらいたいんだが。」
「へ?」
思わず拍子抜けしてしまった。
「なんだ、その気のない返事は?」
一佐は、少し口を噤んだ。
「いえ、ものすごい重要機密かと思いましたので・・・。」
「くくっ、一体何だと思ったんだ。」
一佐は苦笑した。
(久しぶりに笑う姿を見たな・・・・)
「いや、お前の想像は知らんが、重要機密であることに変わりはないぞ。オーブ軍の次世代量産機の雛形となる機体のテストだからな。」
「となると、制式機になるか否かは私に関わると?」
正式採用が検討されているとなると責任も重大だ。
「その通りだ。付け加えておくが、その機体は可変機構を有するらしい。しかも空中戦主体だそうだ。」
一佐は淡々と付け加えた。
「なるほど、状況は大体掴めました。しかし、なぜ私をご指名されたのですか?」
俺は一番気にかかっていたことを尋ねてみた。
「お前なら、MSの操縦に長ける上に、口も堅い。また・・・・・こういう言い方がいいのかは分からんが、コーディネーターである方が咄嗟の判断に対処しやすいと思ってな・・・」
「モルゲンレーテ社から依頼が合ってから、俺もいろいろと思案したのだが、頼めるのはお前しかいないという結論に至った。」
流石に、そう真面目に褒められるとこちらも困ってしまう。
(そういうことか。まあ、一佐には世話になってることだしな。)
「そうおっしゃって頂いて光栄です。しかし・・・・」
容易なことではないが、一佐の期待を裏切るわけにはいかない。
「・・・・・了解しました。お受けいたします。」
俺は、暫し考えた後、歯切れよく応えたのだった。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
(なるほど・・・・他のヤツならすぐに根を上げるメニューだな・・・)
空中での機体の錐揉みから旋回、急落下など、よほどの戦闘機乗りでないとこなせないものばかりだ。
ちなみにこの機体は、F-25J“疾風”(ハヤテ)という。比較的小型だが、格闘戦にも強く小回りも利く。また、幹線道路を滑走路として利用できるほかに、艦載機としても重宝するのだ。
実は、新型に搭載される空対空ミサイルにも同様の名称が付されるそうだ。開発研究者に戦闘機好きでも居たのだろうか?
「くぅっ!」
俺は、一佐の期待に応えたい一心で何とかやっている状況だ。
しかし、少々後悔している自分もある。
今でこそ慣れてはきたものの、加速時のGに最初は吐き気を催すほどだった。
「くそっ!!」
内心、一般兵が本当にこんなのに乗って戦うのか?と疑問に思ってしまう。
(いや、違うな。ナチュラルでも対応できるよう設定する。そのためのテストだ。)
俺は、思い直すと操縦桿を握り直した。
そして、さらに速度を上げた機体は、雲ひとつ無い空に白い軌跡を残し、真っ直ぐに駆け抜けていった。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
訓練後、モルゲンレーテ社に戻るとオレンジ色のスタッフ専用パーカーを着た女性が出迎えてくれた。
「お疲れ様、マツカゼ二尉。今日のメニューは堪えたでしょう?」
この方はエリカ・シモンズ氏だ。
この若さでMS開発部門の最高責任者であるというから驚きだ。
「いえいえ、エリカさんこそ。ここ最近はご自宅にも戻られていないと聞いておりますが。」
本来なら肩書きを付けてお呼びするべきだが、彼女の意志もあり、俺はエリカさんと呼んでいる。
「ええ、そうね。でもOSの仕上がりが遅れている以上、泣き言も言ってられないけど。ただ、子どもに会えないのが少しさびしいかしらね。」
家庭を持ちながら軍関係の施設で働くというのは、俺にはとても慮(おもんぱか)ることができない。
「OSと聞いて思い出したのですが、M1アストレイ開発時には、ジャンク屋組合の確か・・・・えーと・・ そう!ロウ・ギュールという人物が協力してくれたそうですね。今回も、とはいかなのですか?」
俺は朧気な記憶を辿り、尋ねてみた。
「確かに。あなたの指摘どおり、彼にOS設計依頼を行った事は事実です。ただ、前回は機体各部の制御プログラムに関するものであったのに比べて、今回問題なのは、可変機構。つまり、変形時の反応速度や、オートメーション化の度合いなどの匙(さじ)加減が難しいというわけ。」
彼女は、少し悩んだ表情で眉根を寄せた。
「なるほど、確かに戦闘においても隙の無い変形ができるかは、機体の信頼性にも関わりますしね。」
研究者でない俺には詳しいことは分からないが、この点が重要であること位は理解できる。
「さて、お話はこれくらいにして、あなたも休んだ方がいいわ。」
次の瞬間には、いつもの穏和な表情に戻っていた。
「そうですね。まだ、報告書を作成しないといけませんし。」
俺は、軽く会釈し自室へと戻った。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
「ふう~、疲れたなあ」
俺は、自室に戻ると直ぐにベッドに身を投げ出した。
普段は、MSに乗ってもこれほどは疲れないのだが、戦闘機では訳が違う。こんな感覚を味わうのは、訓練生時代以来だろうか。
それにしても、MSと戦闘機の両者の特性を併せ持つムラサメは、相応のスペックを有する機体となりそうだ。
「ムラサメ・・・・・か。」
ムラサメの名は、南総里見八犬伝に登場する一犬士、犬塚信乃の持つ銘刀、村雨丸に由来する。確か、斬撃の度に雫が飛び散るとか。詳しい経緯は知らないが、つまりはオーブの懐刀といったところだろう。
(しかし、早く乗ってみたいものだな・・・・その機体に。)
俺のように兵器好きのMS乗りにとって、新型にいち早く乗れることはこの上ない喜びである。ただ、一抹の不安が有るのも事実である。テスト機故に、どんな不具合が生じるかは不明だ。
だが、それに対処することも俺の使命なのだ。いくら、構想が明確であれ、実用化に漕ぎ着けなければ絵空事となってしまう。
(まあ、なるようになるさ・・・・)
考えても仕方がない。俺は、さっさと今日の報告書を仕上げると眠りに落ちた。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
それからも、ダミー機との模擬戦や、静止目標の狙撃など着々と次のステップへと進んでいた。
そして迎えた、“ムラサメ”の初テスト。
機体自体は、昨日ドックで見せてもらったのだが、起動するのは今回が初めてとなる。
今までは、軍基地周辺での飛行訓練が主であったが、ムラサメはシークレット扱いである。公にお披露目するまでは、オーブ近海にある島に設けられたモルゲンレーテの研究施設で行うことと相成った。
この地は無人島を装っているが、滑走路を始め洞窟を利用した泊地など、隠れ家的要素も多分に秘めている。
そんな辺鄙な場所で、試験飛行は行われようとしていた。
懸念の的だったOSもほぼ仕上がり、1週間ほどで調整がつきそうである。
俺は青いパイロットスーツに身を包むと、ヘルメット片手に滑走路に向かって歩いていた。
俺は、なんとも言えない高揚感に溢れていた。この気持ちは、学生の修学旅行前夜の気分に似てなくも無い。
「お、いつでも飛び立てそうだな。」
逆光を遮るように額に手をやると、ランディングギアをしっかりと地面に設置した精悍なフォルムが浮かび上がった。白とグレーで塗装された試作機は、一見して戦闘機そのものだ。やや前方に突き出した主翼は、かなり大きく見えた。俺は、MS形態で現れるものとばかり思っていたため、少し驚いた。
「さて、いよいよね。」
そこには、既に待っていた人物がいた。
エリカさんだった。彼女は普段と変わらず落ち着いていた。
そして、何人かいたスタッフの中に1人の人物がいた。
彼は、他の研究員同様に白衣を着用していた。長めの裾が風に揺らいでいる。
「サワダ」と名乗ったその人物は、他のスタッフ同様に「良い結果を期待しています。」と述べ握手を求めてきた。
(ん?・・・・)
俺は、他の者には感じなかったある違和感を彼に対して持ったのだ。
(今はそれどころじゃないだろ、ショウ。)
気にはなったが、俺には優先させるべきことがある。俺は自分にそう言い聞かせた。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
俺は、スタッフから一通りの説明を受けた。今回は戦闘機形態のままで実験を行い、スラスター出力等は今回のテスト結果を踏まえて設定し直す、とのことだ。また、兵装は機関砲と対空ミサイルしか実装されていないそうだ。既に、ビームエネルギーリンクを搭載した機体開発に着手しているが間に合わず、今回は見送ったらしい。
コクピットはM1等、MSのモノと大差ないが、シート中央、ちょうど股の部分に操縦桿が備え付けてあった。
「なるほど、戦闘機の操縦に慣れろ、とはこういう意味だったか。」
俺は妙に納得してしまった。
俺は、OSを起動させ、各部のチェックに入った。
キャノピーを閉める直前、エリカさんが近づいてきた。
「くれぐれも無理はしないように。」
彼女の気持ちは容易に推察できた。新型のテストは、開発者にとっても緊張の一瞬であるのだ。
「了解しました。」
俺はそう述べ、軍式敬礼を行った。
コクピットを遮蔽すると、モニター一面に外界の景色が映し出された。
誘導員に導かれながら、航法灯をチカチカと点灯させ、ムラサメは滑走レーンに入った。
まず最初の難関だ。ムラサメは空母からの発進を予定されているため、滑走距離を含め、重要なポイントでもある。
「ショウ・マツカゼ、これより試験飛行を開始します。」
俺は、そう述べるとグリップを両手で握った。
ムラサメはゆっくり滑り出し、徐々にスピードが上がる。
「おっと!?」
機体が走り始めるのと時を同じくして、強かなGが打ち寄せてきた。
機体自体の浮力も影響しているだろうが、戦闘機形態では背部にスラスターが集中しているため、前方へ押し出されるかのような感覚を覚えた。
そして、浮かび上がった機体は空を切って疾駆した。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
全くの飛行日和であった。晴れ渡った空が眩しすぎるほどに。
だが、ムラサメはなかなかのジャジャ馬だった。以前乗っていた「疾風」など比ではない。反応速度はかなりのものだが、慣性に従い俺の体はシートに押さえつけられた。
「くっ!!」
コクピトットにかかるGは半端なモノではない。
(まあ、俺がコイツを試す意味で故意にやっている部分もあるが・・・・)
周りの景色は、風が吹き抜けるように素っ飛んでいった。
俺は、できるだけ遠くに視線を移し、機体を安定させる。
だが、問題は時間が解決してくれた。
以前の血の滲むような努力のおかげか、暫く経つと操縦加減を体が覚えてきたのだ。
(まあ、ゲームの要領と同じだな。)
ムラサメは、長距離の高速飛行にも耐えうる設計だということがよく理解できた。
ムラサメ(飛行形態)の形状は戦闘機のモノと似通っている。翼の機能も同じで、強い風を受けるほど揚力を生じる仕組みだ。主翼端は、空力上のトラクションを稼ぐ構造になっている。あまりに急激な動作で無ければ、それほどスラスターに頼る必要が無い。それゆえに、飛行に掛かる負荷も少なく、長距離飛行にも向くというわけである。
この後、指令どおりアクロバティックな飛行を行ったが、ムラサメは、極めて頼もしい反応を見せてくれた。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
陽もどっぷりと沈み、夜空には瞬く星が散りばめられていた。軽く閉じられたカーテンの狭間から夜の景色が覗く。近くで小波が押し寄せる音がした。そんな時間になっても、俺はまだ寝付けずにいた。
多少疲れてはいたが、ぐったり、というほどではなかった。今までの激しい訓練に慣れてしまったのだろう。
しかし、理由が他にあることは俺自身よく分かっていた。
今日出会った「サワダ」という男。
当たり障りの無い物腰と知性を感じさせる眼鏡が特徴であった。
(しかし、何かが気になるな・・・・・・)
無論、彼もモルゲンレーテのIDを有していた。風体からして研究員に違いはない。
だが、偽造という可能性もある。
それと――――――
握手を求められて感じた違和感が何か分かった。
彼の笑みだ。別段ぎこちないというわけではない。しかし、彼の目は笑ってはいなかった。
俺の空想の中で、彼の思惑が見え隠れする・・・・・・
(俺の杞憂に過ぎなければいいのだが・・・・・)
そんなことを考えていた時、不意にある言葉を思い出した。
「お前は、作戦前に緻密にシュミレーションする割には、実戦では感性に頼って戦うな。」
一佐の言葉である。
別に俺を非難しているのではない。戦場では、一瞬の判断ミスが命取りとなるのだ。動物的カンを働かせることも重要である、という意味だ。
(俺のカンは当たる・・・・・か。)
暫く考えては見たが、このままじっとしているのも耐えがたい。
(なら、行ってみるか!)
俺は決意した。どちらにしても今日は寝られそうに無いのだから。
俺は反動をつけて起き上がると、急いで部屋を出た。
× × × × × × × × × × × × × × × × × ×
―――――――To be continued.
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