勝手に最遊記

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Comouflage ―8―



10畳ほどの和室。床の間には雲水が掛けられ、高価そうな花器に花が生けてある。
漆喰の壁・・黒檀の座卓が置かれていて、一眺めしただけでも先程の部屋とは雲底の差があると判る。

言っては何だが、金剛寺はボロ寺・・。広間や廊下なども、お世辞にも綺麗とは言い難い。
先程、みんなで居た部屋も、まぁマシという感じだったのだが・・。
・・いや、個室が立派と言うよりも、別棟にあたるこの屋敷自体が、立派なのだ。


「この別棟だけ、どうして立派なんだ?」桃花が彗に問いかける。

俯いて、答えようとはしない彗。

「・・・言えないことなのか?」更に問いかける。

彗が思い切ったように顔を上げた。

「・・・三蔵様っ・・。お助け下さいっ!!」彗が土下座した。

「・・あぁ?」
座椅子に座り、マルボロを吸っていた三蔵が顔を向けた。

「・・・この金剛寺は、昔から近隣の村や町を守るために、活動しておりました。それ故、法力を磨き、鍛錬によって体を鍛えてきたのです。
人々を守るため、無償で働く事が、仏の道に近づく事と信じて・・。」

「・・・。」三蔵は紫煙をくゆらしている。

「ところが、前僧正が亡くなり、今の僧正になった途端、暴走している妖怪共を蹴散らすには金を出せと言い始め・・。
今では、裕福な町や個人の家にしか、行かなくなってしまったのでございます。」

「それで僧正の寝所のある別棟だけ、金を掛けてるって訳だ。」
『やっぱ魚の腐ってる目つきな奴だけあるなっ。』桃花は妙なトコで合点した。

「此度、三蔵様がお立ち寄りになられたのも、前僧正のお引き合わせに違いありません。
どうか、三蔵様から僧正に態度を改めるように・・「――却下。」

三蔵がきっぱりと言い放った。

「さっ三蔵様っ!?」彗が慌てて顔を上げる。

「てめぇの寺の問題だ。俺には関係ねぇ。」彗を、冷たい目で射抜くように見る三蔵。

「で、ですがっ私の言う事なぞ、誰も耳を貸す訳がありません!・・最高僧の三蔵様の言う事ならば、僧正や他の僧達も・・「じゃあ何か?」

三蔵はマルボロを押し潰した。
「俺が死ねっつったら死ぬのか?」

「っ・・そ・・それはっ・・。」彗が言い淀む。

「――――フンッ。都合のイイ事、言ってンじゃねぇよ。てめぇの寺なら、てめぇで何とかしろ。」

「・・・!申し訳ございませんでしたっ・・!」彗が逃げるように部屋から飛び出した。

「彗っ・・待てよっ!」桃花が追いかけようとしたが、
「つまんねぇ事に首突っ込むんじゃねぇ。」三蔵に制止された。

「・・・判ってるよ。にしても三蔵・・・。」「あぁ?」
フーッと大きく息を付き、「三蔵は、言葉が足りなさすぎ何だよ。」そう言って、桃花が出て行った。

桃花の足音が遠ざかるのを確認して、
「・・・てめぇは判ってんじゃねぇか。」懐から新しいマルボロを取り出した。



『結局・・彗、見つからなかったな・・。』

桃花は自分達が泊まる部屋・・八戒達との相部屋に戻ってきた。三蔵に止められてはいたが、気になったので屋敷の中を探したのだ。
しかし、見付ける事が出来なかった。

『何とかしてやりたいけど・・。』せめて三蔵の言わんとする事だけでも、伝えてやりたかった。


「も~もかちゃあ~んっ♪」悟浄がイキナリ顔を覗き込んだ。

「はっ・・ビックリした・・何?悟浄君。」思わず椅子からずり落ちそうになる。

「真剣な顔しちゃって。俺ら風呂行くけど、どうする??」
パアッと桃花の顔が輝く。
「お風呂っ?行く行く行く~っ!もーっ入りたかったんだってば~!!」桃花の喜びようを見て、悟浄がニヤニヤ笑う。

「・・桃花・・すみませんけど・・。」八戒が言いにくそうに、「ココ、大浴場が一つきりなんです。」と、言った。

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