勝手に最遊記

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Darling ―8―


パサッと無造作に置いたカードを見て、相手の男が俯いた。

賑やかな町で、助かった―――――悟浄は上機嫌で紫煙を吐き出した。

夕方の早いウチから賭場は開かれており、相手にも不自由しなかった。
見慣れない赤毛の男がバカ勝ちしていると聞いて、次から次へと相手が現れる。
ソレを片っ端からカモにして・・・いつの間にか人垣が自分の回りに出来ていた。

「スゴイじゃない、おにーさんっv」
「本当!・・・イイ男には勝利の女神が付いてるのねぇ。」
「・・勝利の女神はオネーサン達じゃないの?」
悟浄の軽口に、取り巻きの女達が嬌声を上げる。

自分に腕を絡め、強い香水を撒き散らしながら、しなだれかかる女達。
『ドコに行っても変わんねーよ。』自嘲的な笑みが浮かぶ。

こうやってカードに興じていれば、目敏い遊び慣れた女達がすぐに寄ってくる。
まるで電球に群がる虫のように。
肌を重ね、熱を分かち合っても―――――満たされるコトのない、虚空感が心にある。

「ねぇねぇ。ココのヒトじゃないでしょ?ドコに泊まってるの?」
「あ~・・連れが一緒だからな。・・オネーサンのトコになら、遊びに行けるけどぉ?」
悟浄がニヤリと笑えば、女が誘うように唇を薄く開いて笑う。

赤い、赤い、口紅―――――その赤さが毒々しくて・・目を逸らした。
俺自身の髪も眼も・・・こんな色に映っているんだろうか―――許されざる色だから。

「なに、他の男に色目使ってんだぁ?」柄の悪い・・無骨な男が、5人、店へ入って来た。
「ア・・アンタ。」悟浄の首に腕を絡ませていた女が、怯えたように後ずさる。

男がズカズカと女に近づき、グイッと乱暴に腕を掴んだ。
「痛い・・止めてよ、アンタ・・・。」女の顔が苦痛に歪む。
「・・離したらぁ?男の嫉妬なんて醜いだけだぜ?」ペッと煙草を吐き出して、悟浄が言った。

「なんだぁ、てめぇ?人の縄張り荒らしておいて、挙げ句に女まで寝取ろうって気なのかよ。ああ?」
凄む男に、ふ~っと軽く息を吐きつつ、
「別にぃ?須く女に優しい俺としては、目の前で乱暴される女を、見逃せないだけでサv」

悟浄の言葉に、店中の女達が拍手と嬌声を上げる。もはや、悟浄の独壇場である。

「てめっ・・言わせておけばぁっ!!」男が殴りかかってくる。
それをヒョイッと避けつつ、
「・・・文句があるヤツはかかってきなっ!!」挑発する悟浄。

―――――――――――――――――――――――――――店の中で、乱闘が始まった。


「・・ありがとう、アタシの為にっv」
「いや、別に。俺もストレス発散しただけだしぃ。」

普通の男達が悟浄に敵うはずもなく――――アッという間に5人をのした悟浄。
町でも札付きのワルだったらしく、皆にヤンヤヤンヤと喝采を浴びてしまった。

「んじゃ、俺はコレで・・・。」「待って!」踵を返した悟浄の腕を、女が掴む。
「ナニ?オネー・・「アンタに惚れたわっ!!」女が目をキラキラさせている。

「・・・・・・・・・・・・はぁ?」ポカンとする悟浄を尻目に、
「この町に残ればいいのよ!生活費はアタシも稼ぐし!でね、子供は何人がいいかしら?」
エスカレートする女の妄想に、悟浄が慌てて入った。

「悪いけどさ!俺、そんな気もないし、旅も止められないから。オーケー?」
悟浄がそう言った途端、女の顔色が変わる。
「・・もしかして・・アンタの連れの中に、大事な女がいるんじゃないの?」
「女?」
ああ・・いるなぁ、確かに“女”だけど・・そーゆー女じゃない。けど、このままじゃぁ・・。
諦めそうにない、女の顔にため息をもらしつつ、
「実はそうなんだ。悪いな、期待させちまって。」脳裏に桃花の恐ろしい顔が浮かぶ。

「・・・っ。バカぁ!アタシは諦めないわよっ!!」女が言い捨てて、走り去る。

悟浄は苦そうに煙草を銜えた。
「確かに、バカだよなぁ・・俺って。」    その呟きは、迫ってきた夕暮れに消えていった。

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