勝手に最遊記

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Darling ―9―


汚い路地裏で倒れていた男達が、起き上がりながら毒づいた。

悟浄に叩きのめされ――――――店から担ぎ出された男達は、路地裏へと放置されたのである。

「あの赤毛の男、許さねぇ!」リーダー格の男が吐き捨てるように言ったものの、勝てる気がしない。
悟浄の強さはケタ外れだった・・・喧嘩慣れしている男は、すぐに実力の差を思い知った。
あの男は、少しも“ホンキ”を出していなかったのである。

『手加減されて、コテンパンに叩きのめされて・・明日からこの町で生きて行けねぇ。』
まともに働く事などせず、他人にタカって生きているような自分達は“ナメられたらお終い”なのだ。
他の仲間も暗い顔をしている――――『どうしたものか。』そう思っていると、


                  「イイ事、教えてあげよっかv」

・・・・・男達の耳に、わざとらしい軽口が聞こえた。


「・・なんだぁ、てめぇ?」リーダー格の男が眉をひそめる。
「ボク?・・そうだなぁ、救世主ってカンジ?君たちの。」クスクスと意味ありげに笑う。

              『胡散臭い』男が思うのも無理はない―――こんな町中で。
白衣を着て、ぬいぐるみを抱えた男なんて・・・・。

「ざけんなよっ!?何が救世主だっ!!」仲間の一人が掴みかかる。
「・・・離して欲しいんだけど?」白衣の男が言った途端・・「があぁっ!!」仲間が倒れた。

「なっ・・なにしやがった!?」他の男達が青ざめる。・・・なにかした気配は無かったのに。
掴みかかった男は、白目を剥いて、口から泡を吹き出している。

「まぁまぁ。死にやしないから。それよりボクの話を聞いた方が、お得だよ?
あの赤毛の男のヒミツv・・・知りたくない?」

「・・・秘密?」男達が、思わず腰を浮かせる。その姿に満足したように、
「そっ・・後、赤毛の男をやっつけたいんだよね?協力してあげるよっv」
――――――――――――――――――――――――――――卑しく口元を歪めた。

「・・悟浄、遅いよなぁ。」食後の杏仁豆腐をつつきながら、悟空が辺りを見回した。
「・・・だねぇ。バカ勝ちしてるか、負けてるかのドッチかだね。」桃花も杏仁豆腐を口へ運ぶ。

夕方近くにお茶をした為、遅めの夕食を屋外で取っていた。
宿の近くのこの店は、テラスのようになっており、涼しい風に吹かれながら美味しい食事が出来た。

もう既に夕食も終わり・・悟空と桃花はデザートを、八戒と三蔵はピッチャーで麦酒を飲んでいる。

「悟空はゆっくり食事が出来て、良かったんじゃありませんか?」ナミナミとジョッキに麦酒を注ぐ。
「ははっ!まぁなっ。デザートまでゆっくり食えるなんて、久々っ!」
「へ~?悟浄君が居なくて、淋しいんじゃないの~??」意地悪そうに、桃花が笑う。
「気色悪いこと、言うなよっ!居なくて清々してんだかんなっ!!」
「・・煩せぇ。黙って食え。」三蔵もグイッとジョッキを呷(あお)る。

皆が悟浄の話で盛り上がっていると――――白い腕が、テーブルのピッチャーを持ち上げて――

ザバアアァッッッ・・・・・桃花は頭から麦酒を浴びせかけられた。「・・・え。」

「「桃花っ!!」」悟空と八戒が腰を浮かす。

「誰だ、貴様。」―――――――――既に、三蔵が銃を突きつけている。

女が立っていた。派手な化粧で、安っぽいアクセサリーをこれでもかっ!というぐらい身に付け、
豊満な胸を強調する短いスリップドレスを身に纏い、桃花を睨み付けている。

「アンタが悟浄のオンナッ!?」甲高い、ヒステリックな声が店中に響き渡る。
「あ・・あたしが?」桃花は困惑したが・・・『はっはーん。』すぐにピンと来た。
「何言ってンだよ!桃花はなぁ~っ・・」説明しようとする悟空を手振りで制し、
「違うわ。あたしじゃないよ。でも、悟浄君の大切な人、知ってるよ?」そう言って、

「・・・・・・・・悟浄君は、この人のコト、愛してるの。」  と、八戒を指さした。

「ぼっ・・僕、ですか?」自らの顔を指さし、思わず口ごもる八戒。
「男じゃないっ!!」派手な女が激高する。
「・・気持ちは分かるけど・・男でなきゃダメッて言う人、居るでしょ?同棲もしてたのよ?」
ねっ?と、八戒に話を振る桃花。
「確かに・・・一緒に住んでいました。」『・・同居・・と言って欲しいんですが。』

「あ・・あの、悟浄が?」青ざめる女。そこへ、たたみかけるように
「訳あって、旅をしているんだけど・・女があたしだけだからカモフラージュに使われるのよね。」
フーッと桃花がため息を付いてみせる。

「そ・・そうなの。―――悪かったわね。麦酒かけちゃって。」
「いいの。気にしないでね?」桃花に見送られて女が立ち去ろうとしたが、
「・・そのお坊さんも?」振り返って聞いた。
「うん。みんな、そうなの。・・しかもロリコン。」桃花の言葉に、女が三蔵と悟空を見る。

「アンタも大変ね。それじゃ。」・・・・・・納得したような顔で、女が立ち去った。

「~っと、問題解決っv」桃花が女を見送って、振り返りざま・・スッパアァンッ!ハリセンが炸裂した。

「いっ・・痛いっ・・「このバカ女っ!!てめぇ、この俺を変態にするとはイイ度胸だっ!!」
修羅の如く表情で怒る三蔵に
「だっ・・て!あのヒトに“あたしは悟浄君の女じゃない”って説明したって、
納得なんかしないって!」桃花も応戦する。

桃花の顔を睨み付けていたが、
「―――チッ。さっさと風呂、入って来い。酒臭せぇ。」その言葉に、ちょっと驚いた様だったが、
「うんっ!それじゃーねー。」いそいそと宿へ向かった。

「・・・三蔵?」悟空がオズオズと三蔵の表情を伺う。てっきり、喧嘩になると思ったのだ。
「悟空、三蔵は判ってますから。」三蔵が無言なまま、マルボロを吸いだしたのを見て、苦笑しつつ
「・・・悪いのは、全て!  悟浄ですからv」   その言葉に応えるように

「よっ。ココで、晩飯か?俺は食ってきたんだけどさっ。」・・・呑気な声が、聞こえて来た。

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