勝手に最遊記

勝手に最遊記

Position ―4―



足も届かない深い水深が、恐怖を誘う。

泳げない訳ではない。(上手くもないが)・・・しかし。たっぷりと水分を吸った洋服がまとわりつく。

おまけに、ほぼ全速力で走って来たため体力もおぼつかない。

藻掻いても藻掻いても・・・・岸までなかなか近づけない・・・『ココで、溺れ死んだりして・・。』
全身が倦怠感で一杯になる――――――
「キューーッ!!」ハッと目を上げると、頭の上をジープが旋回している・・・追って来たんだ。ココまで。

「ジッ・・・プ・・。」口を開けると、途端に水が入ってくる。・・ジープ・・ゴメン・・ね。
みんなに・・ゴメンって・・伝えといて・・・意識を手放そうとした時、

「・・・桃花っ!」グイッと力強い腕が、桃花の体を抱え上げた―――――・・・「紅、君・・?」

目の前に、紅孩児が居た。  抱え上げられた場所は飛竜の上で。

「えっ・・と・・・?」困惑する桃花をよそに、「話は後だ。とにかく・・このままでは風邪を引く。」
確かに。季節は夏も終わりで残暑が厳しいが、雨に濡れ・・湖に飛び込んだのだ。

カチカチと歯の根が合わない程、冷え切った桃花の体を抱え「俺の別荘に行く。・・お前も来い。」
紅孩児の呼びかけに答えるように、ジープが紅孩児の肩に止まる。

「・・・行くぞ。」     雨の中、湖の上から大きな飛竜が飛び立った。



―――――――降りしきる雨の中、三蔵は適当な木の下で雨宿りをしていた。


八戒の挑発めいた皮肉も、憤った悟浄の非難も、悟空の・・・「―――チッ。」懐からマルボロを取り出す。

三蔵にしてみれば、悟空が一番厄介だった。

反抗しない代わりに、黙りこくって座っている。その全身が、言葉より雄弁に訴えかけていた。

苛立ちが募る―――――――・・・・どうしろって言うんだ・・・・。

“守りきれない”  その事実を見せつけられた。   


あの時   あの瞬間    桃花が、刺客の前に躍り出た時――――――フラッシュバックしたのだ。

            『お師匠様・・・。』自分を庇って死んだ、光明三蔵の姿が。

        癒えない傷  

                 癒せない  癒したくない 傷 

六道(りくどう)――――・・・朱泱に襲われた時と同じ。無意識に庇ったのは桃花じゃない。


マルボロに火を付けようとするが、湿っている所為か火が付かない。
カチッカチンッ・・・何度もジッポを弄り、投げ捨てた。「・・・・・。」無言で腕を組み、紫暗を閉じる。

上半身は黒いアンダーだけ。 冷たい雨が染み込み、夜気が体温を奪っていくのを感じる。

「・・バカ女・・・。」吐き捨てるように呟く。

アイツが他人のために、自らの危険を省みない女であることは・・・最初から判っていた。
初めて出逢った時も、晴掩の村で悟空達が監禁された時も、女の幽霊に悟空が取り込まれた時も
・・・いつもいつもいつも。 胸クソが悪くなるくらい、お人好しでお節介な女。


ピシャッ・・・冷たい滴が瞼に落ちる。 紫暗を開けると、暗い闇しか見えない山の中。

バカは風邪引かないって言うがな・・・フッと苦笑を漏らす。

しょっちゅう風邪を引きやがる。少し冷え込んだ朝など、必ず鼻を啜っている。
同室になる事の多い悟空によれば、腹を出して寝ているらしい・・色気もクソもあったもんじゃねぇ。

この暗い山の中、何処に居るんだ。 雨が激しく降り続くこの闇の中。

神経を集中させて妖気を探る―――――大丈夫だ。悪質な妖気は感じられない。少なくとも近くには。

そこまで考えて・・・「馬鹿は・・・俺か。」今度は自嘲の笑みが、三蔵の口に浮かんだ。

桃花が狙われている事には変わりは無い。 例え、三蔵達と別れたにせよ・・危険が去る訳では無い。

結局―――――― 突き放したものの。心に入り込んでしまった存在を、消すことは難しい。


「・・・・・・・・・ダセぇ・・・」 小さく呟く。 側に居ない分だけ、性質(たち)が悪い。


三蔵が雨空を見上げる―――――――――――――「・・・桃花。」 珍しく、名前を呼んだ。

その呟きは、激しくなる一方の雨の中で・・・・闇へと消えていった。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: