勝手に最遊記

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Boys Meets Girl ―10―



「大桷はまだ・・15歳だった・・とっても、優しい・・・。」
堪えきれずに涙が落ちてくるのを、必死に飲み込んだ。

「・・・小舟は数キロも行かないうちに沈んで・・。
濁流に呑み込まれたあたしは、運良く河下の町に流れ着いたの。」

話し終えた桃花は、その場の雰囲気が暗くなっていることに気付いた。
悟空が珍しく神妙な顔付きをしている。

「・・・だからね、あたしは決めたの!」一際、大きい声を出す。
「あたしは・・妖怪達をおかしくさせた“声”の正体を突き止めてやるって。」

「バカかお前・・。普通の人間に、しかも女に何が出来るって言うんだ?
ワザワザ殺して下さい、って言ってるようなモンだろ。」三蔵が呆れた口調で言った。
「だから何?何もしないでイイの?」桃花が三蔵を睨み付ける。

「あたしは“誰か”が“何とか”してくれるのを待っている気はない!例え、死んだとしても、
自分が行動しなきゃ、意味無いよ。・・・生きている“意味”が無いって・・。」

そう言い切った桃花の目に、強い意志が宿っているのを見た三蔵は、皮肉を言うのを止めた。

「・・俺、すっげーお前、気に入った!!」悟空が桃花に飛びつく。

「一緒に行こうぜ!西に!!俺達、妖怪を狂わせた奴らをやっつけに行くんだ!」
「悟空!!」何でもかんでも簡単に喋るんじゃない、と三蔵が渋い顔をする。

「それもいいね~。」悟浄が桃花の肩を寄せる。「もー、野郎ばっかで飽き飽きしてたんだ。」

「ええっ?・・でも、あたし普通の人間だし、みんなみたいに強くないし・・。」

「足手まといはご免だっ。大体、普通の人間が俺らの旅につ付いて来られる訳ねぇだろ!?」
「ムカッ・・・悪かったわね!?どーせあたしは・・」またもや睨み合う二人の間に、
「まーまー三蔵、良いじゃないですか。」八戒が割って入る。
「なんで八戒(おまえ)まで・・。」睨みを効かす三蔵に、
「だって、僕らはその“普通の人間”の機転でピンチから脱出できたんですね?」ニコニコと言う八戒。

「お前・・・ホント、いい性格だな・・・。」ため息をつきながら三蔵が桃花の方を見ると、
悟空と悟浄が三蔵のことをそっちのけで桃花に喋りかけていた。

「それに・・。」八戒が囁く。
「彼女を後部座席(うしろ)に乗せれば静かになるかも知れませんよ?・・多分、ですけど。」
「・・・勝手にしろっ。」

「みなさーん!三蔵の許可が下りましたよー♪」

ワァッと盛り上がる一同に指を指して、
「いいか!?俺は知らんからな!助けないし、守らないからな!!」と、凄んだのだが、
陽気に「ハーイッ!」と、悟空・悟浄・八戒が手を挙げてニコニコしているのを見て、三蔵が撃沈した。

「・・・さっさと行くぞ!」三蔵が歩き始めた。

「何か・・スミマセン。あたしのせいで・・。」桃花が困った表情(かお)をする。

「ああ、いいんですよ。旅は道連れ世は情けって言うじゃないですか。迷惑でしたか?」
八戒が心配そうに聞く。
「・・ううん!嬉しいよ、とっても。でも迷惑かけそうで・・。」

「気にしないで下さい。旅の途中でも、辛ければリタイアしてもらったっていいし・・。
そういえば、桃花さんを襲った性質(たち)の悪い妖怪とは何ですか?名前は知っていますか?」

「・・・知らない。   忘れてしまいました。」

笑って桃花は答えたが・・・八戒にはそうは見えなかった。

―――――――――辛い過去がまだあるのかも知れない・・・。無邪気な瞳の奥に
深淵な陰が、一瞬だけ映った気がした・・。


―――――――――――ジープの中はいつも以上に大騒ぎだった。

「悟浄、てめぇ!何で桃花が一番左端なんだよっ!?」
「るせー猿!俺が真ん中じゃダメなのかよ!?」
「桃花に何するか分かんないだろ!?オレが真ん中に座るっ!」
「猿の面しか見られないなんて、冗談じゃねぇぞ!!」
「わぁー!二人とも止めてよー!!」

「・・・八戒。後部座席(うしろ)が静かになるって言わなかったか?」三蔵がピクピクしている。

「ハハ・・多分って言ったじゃないですか。」流石の八戒も青くなっていた。

「るせーんだよ!お前らっ!!」三蔵が銃を取り出す。「「「きゃあーっ!!」」」

結局、三蔵も一緒になって騒いでいるのを眺め、

「・・・ま、コレもまたよし・・。」八戒が苦笑した。

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