勝手に最遊記

勝手に最遊記

HAPPY BIRTHDAY!―完―



悟浄は桃花を連れて、賭場へと行っていたのだ。もちろん、色っぽい洋服に着替えさせて。

「なんでっ・・こんな洋服着なきゃいけないのよ~っ!?」
悟浄に連れて行かれたブティックで、喚き散らした桃花。・・・それも当然で。

胸元が大きく開いたワンピースは、谷間までクッキリと人の目に晒されて。
艶やかなベルベットの生地が、女性らしさを表現している。唯一の救いは、ウエストから下が
フレアーになっていて下半身の太さを隠している・・・と言う事だろうか。

「いーじゃんいーじゃんv似合ってんぜ、な?」「似合ってね~っ!!」ますます喚く桃花。
そんな桃花を宥めながら、
「俺の誕生日祝いにサ、賭場につき合ってくれって。あーんな男の姿じゃ格好付かないだろ?
勝利の女神になって欲しいンだわ、俺。」
「女神って・・・。」「テーブルにさ、胸乗っけてv相手の目を、眩まして欲し・・「アホかいっ!!」
桃花の鉄拳が炸裂したものの。結局、最後は頷いた桃花。『しょーがない。悟浄君の誕生日だし。』

そして、賭場へと繰り出した。

悟浄の思惑が当たったのか・・見事、勝ち続ける悟浄。
悟浄の隣に座っていた桃花も、場に慣れて来た。

「ね。喉、乾いたからカウンターに行ってもイイ?」「ん、構わねーぜ。」勝負に夢中な悟浄を置いて、
一人、カウンター席に座る桃花。

暫くして――――――・・・一段落付いた悟浄は、桃花の姿が無いことに気が付いた。
「・・・やべぇ。」ガタンッと席を立ち、店を飛び出す。とっくに夜の闇に包まれた町は、
派手な女や荒くれ者達でごった返している。

「・・・桃花・・・桃花・・・。」全神経を集中して気を探る。元より、人間の桃花の気など
取るに足らないほど小さなモノだ。しかも人が多い。この中でたった一人の気を見付けることは
至難の業・・・と言って過言でもない。『クソ坊主がいりゃーな・・。』弱気な考えが心に浮かぶ。

「っつーか・・・トラブルメーカー何だからよ。騒ぎを起こせっての・・。」悟浄が呟いた時、
「ケンカだ!ケンカっ!!」ウワアッと人の波が流れて行く。「・・・やっぱり、な。」

その方向に探し人の気を見付け、人波をかき分けて行く悟浄。その目に飛び込んだ風景は、
3人の男に囲まれながら、メリケンサックをはめて立っている桃花の姿。一人倒れている所を見ると、
既に殴り倒したのだろう。

『相手が悪いってーの。』自分達と一緒に旅をしている所為か、桃花の腕はメキメキと上達している。
普通の男相手でタイマン勝負なら、滅多に負ける事もないだろう。『ますます嫁にいけねーけど・・。』

しかし、桃花の様子が可笑しい。
頬が・・と言うより顔が真っ赤で、フラフラと体全体が揺れている。今にも倒れ込みそうだ。

『酒、呑まされたな。』極端に酒に弱い桃花。外でアルコールを呑む事など有り得ない。
恐らく・・・賭場で自分の知らないウチに、ムリヤリ酒を呑まされたのだろう。

ガクンッと膝をつく桃花。周りの男共が一斉に襲いかかろうとした時――――悟浄が飛び出した。

そして―――――今に至るのだ。

「マジ、やべぇ。もうすぐ12時ジャンよ・・。」午前様になるのがコレほど恐かった事はない。
酔っ払った上に、色っぽい格好の桃花。・・・・過保護な親友の(恐い)笑顔が目に浮かぶ。
『しかも発砲癖のある鬼畜坊主に、食欲魔人の暴れ猿も・・。俺、明日の朝日を拝めるんだろーか・・。』

悟浄が真剣に、自らの生命の危惧を始めた時・・・「ごじょ~くん・・・。」背中から間延びした声。
「お?なーにヨ、桃花チャン?」背中でモゾモゾと動き出した桃花を背負い直しながら、
「気持ち悪いか?降りて吐くか?」気遣う悟浄。「ん~・・にゃ。だいじょーぶ・・。」クスクス笑いながら
「ごじょーくん、ホント・・ありがと・・ね。」「は?何?お礼?」怪訝な様子の悟浄に、


「ホント・・・ココに居てくれて、ありがと・・・。生まれてきてくれて・・さ。」

――――――思わず、固まった。   「・・・桃花?」

悟浄が問い直した時には、既に寝息が聞こえて来て。

「・・・重いっつーの。」そう、文句を言いながら・・・・顔に浮かぶのは笑みで。


           “アンタなんか 産まれて来なきゃ良かった”

罵られる事しか無かった子供時代。当然、自分の誕生日のお祝い――――――何て言うのも無く。

「俺の産みの母親ってのも・・・喜んだ・・かもな。」禁忌の子でも。禁忌でも、産みたかった子だから。

「デキの悪い、子供扱いでも・・いっか。」見たことのない産みの母親と、
桃花がダブると言えば・・・怒るかも知れないが。


今日は良い誕生日だったと―――――桃花を背負う悟浄は、幸せそうな笑みを零す。


宿では・・・冷酷な微笑みを浮かべた腹黒い親友と、発砲癖のある鬼畜坊主と、食欲魔人の暴れ猿が
今か今かと待ち構えて居るのも知らない・・・・悟浄の足取りは軽い。


そして次の日の朝には、“スマキ”にされて、部屋の窓から吊り下げられている悟浄を見ることに
なると言うのを・・・桃花は(まだ)知らない。




                         完

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: