勝手に最遊記

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SURPRISE―5


乳白色の温泉の湯あたりは柔らかく、体に染み渡るように緊張を解いていく。
取りあえず体だけ洗い、髪をまとめて湯に浸かったのだ。『・・あの紅羽って子・・どうするのかな・・。』

桃花から見ても、かなりの美人だ。尚かつ、戦闘力が有れば、自分より役にも立つだろう。
『嫌いなタイプじゃないのよね・・。』クスッと笑みが零れた。

真っ正直・・と言うか、直線的と言うか・・・回りくどい、嫌味を言うような女の子じゃない。ズケズケと言う物言いは、好感が持てる。
『仲良くしてくれたら・・・。』一緒に旅が出来るかもしれない。悟浄の胸ポケットにでも入っててもらえば良いのだし。

『結構、楽しいかもねー♪』お気楽な思考で背を伸ばした。


―――――――――・・・『何、笑ってんのかしら・・・。』その様子を、紅羽が影から見ていた。

『悟浄達を殺す・・・なんて勿体なくって出来ないしぃv』正直、自分の事がバレ無ければ旅に同行していただろう。
閣下を裏切れるほど―――――――三蔵一行は魅力的だ。『でも、バレちゃったしぃ。』しょうがない。逃げるしか手が無かった。

『・・・でも、手ぶらでは帰れないのよね。』桃花を、生きたまま拉致できれば。金・1000万は手に入る。

そうっと神経を集中させて――――――――「んっ?」頭の羽が、ピクリと反応した。『・・妖気?』
自分以外の妖気。さほど強くはないが、数多く感じる・・・『10?20ってトコ?近い。・・近いわ・・。』紅羽が体に緊張を漲らせた、瞬間―――――


「きゃああぁっ!!」桃花の悲鳴が、露天風呂に響き渡った。「人間か・・・茹でられて食べ頃だな!!」
岩で囲まれた露天風呂を取り囲むように―――――妖怪の一団が現れた。 自我を無くし、欲望のまま生きているような妖怪達だ。

「・・・っ・・・!」裸にタオルを巻き付け、湯の中を後退する桃花。『どうしよ・・バングルは脱衣所だし・・。』
服を脱ぐ時に置いてきてしまった。しかも露天風呂には自分しか居ない。助けを呼ぼうにも部屋は遠すぎる。

「クックックッ・・・お前を喰ったら、宿の奴らも・・この村の連中も、全て喰い尽くしてやるっ!」
妖怪の一人が、桃花に向かってダイブした・・・―――――『・・殺られるもんかっ・・!』グッと身構えた桃花の前に。

【ザシュウッ――――――鮮血が、飛び散った。 「く・・紅羽ちゃんっ・・?」藍色の髪を靡かせて、紅羽が湯の上に立っている。

「温泉を汚しちゃ、ダーメよんv」ポイッと、もぎ取った生首を他の妖怪に投げつけた。
「なっ・・なんだ、貴様っ!」「同じ妖怪のクセに、人間を庇うのか!?」どよめき、ざわつく妖怪達。
「はぁ?この紅羽がアンタ達と同類ってコト?バカ言わないでよ。誇り高き闇鴉一族よ!低級な妖怪とはラベルが違うのよ!」
「・・紅羽ちゃ~ん・・レベルだよ、レベル~。」背後から、こっそり桃花が注意した。「そっそんなコトはどうでもイイけど!」赤面した紅羽。

「この女を殺されたら困るのよ。悪いけど他を当たってv」ニッコリと。天使のような笑顔で威嚇する紅羽。
雑魚妖怪が何匹がかかって来ようが関係ない。妖力の高さも、戦闘力の高さも、自分が格上なのだから。

「くっ、くそっ!」妖怪達も気をされて、後ずさる。「ま、相手になってあげてもいーけど?・・千山鳳!」シュオッと具現化された武器。
「・・・・フォーク?」桃花の間抜けな発言に、「こんな大きなフォークがあるワケ無いでしょっ!!」思わずツッコミを入れた。

紅羽は155センチ程度の身長だが、“千山鳳”は180センチ程もある。それを器用にクルクルと回しながら、
「さーて。串刺しになりたいのはダーレ?」キッと身構え――――「っ・・マズイっ・・!」ピクンッと体を震わせた。


【ボワアンッ・・・・紅羽の体が、15センチのミニサイズへと変化した。「きゃうっ!」ボチャンッと湯の中へと落下した。
「くっ、紅羽ちゃんっ!!」慌てて桃花が拾い上げた。「どっどうしたのっ!?」
ビショビショになった紅羽は、半泣きで「・・エネルギー切れなの・・・。」小さく呟いた。

紅羽の変貌ぶりに、妖怪達も驚きを隠せない。ざわざわと様子を伺っている。その中の一人が、
「聞いたことあるぜ・・闇鴉一族ってのは、闇の力を多大に受けてるって話だ。
そのお陰で、深夜に活動する場合は無敵の強さを誇るらしいが・・。」
「その分、真っ昼間にゃ力を出せないってコトか?ああ?」ニヤリと・・・妖怪達が嗤った。

「・・今の話、ホント?」紅羽を抱えたまま、ジリジリと後退する桃花。
「ホントよ。あーあ。さっき悟浄から吸い取ったのにぃ。」昼間活動する為には、定期的にエネルギーを補充しなければならない。

「この姿だと、自力で空を飛ぶコトぐらいしか出来ないの。妖気も全然・・。」それで三蔵達が気付かなかったのかと、合点した。
「じゃあーさ・・・逃げるが勝ちってコト・・・?」「言わずもがな、ってカンジ。」が、それも敵わない状況だ。

「安心しな・・・パクッと一口で喰ってやるからよぉっ!!」一斉に――――妖怪達が、温泉へと雪崩れ込んで来た。

「逃げてっ・・・!」紅羽を思いっ切り、放り投げた桃花。「・・・きゃっ・・!!」
ポーンッと投げ出された紅羽が、露天風呂脇の草むらへと突っ込んだ。「桃花っ・・!?」

起き上がった紅羽の目に、妖怪の一撃を喰らって倒れる桃花の姿が―――――「っっっ・・ダメェっ!!」
紅羽が、力の限り飛び立つ・・・・桃花の元へと。そして、自分にも妖怪の牙が迫った―――『死んじゃうっ・・!?』

【バリィンッ―――・・・音を立てて、紅羽の付けていた黒勾玉が割れた・・・「・・・えっ・・!?」
黒い闇が辺りを包む――――――「・・・・吾輩の部下に手を出すとは・・・・。」低い、声が響く。

「かっ・・閣下・・?」信じられない。妖怪の一人が言ったように、闇鴉一族は“闇の力”を多大に受けている。
特に“閣下”の様に直系で、しかも一族の長であるが故に、陽の元での活動は死に値する。(丑三つ時は無敵。)
閣下が紅羽に三蔵一行の抹殺を命じたのも、それが理由だ。


「死、あるのみ。」

――――――ザアァオオオオンッ・・・・・・・・・闇が、全てを喰らい尽くしていく。


妖怪達は悲鳴一つ、上げることも叶わず。   闇へと深く、呑み込まれて消えていった・・・・。

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