勝手に最遊記

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HAPPY BIRTHDAY!―3


「金蝉!確か菩薩は崑崙山に住む、西王母の所に行っているのでは・・?」天蓬の問いかけにハッと立ち止まった。

「西王母って?」聞き慣れない神様の名前だと、桃花は首を傾げた。
「仙女ですよ。三千と六百の樹を植えている、巨大な桃園を管理している方です。
西王母自ら育てる桃は、天帝さえ滅多に味わうことが出来ない程の至高の味と、効き目を持っているのですよ。」
スラスラと教科書のような天蓬の説明を聞きながら

「西王母と菩薩って仲が良いのか?」「・・・西王母は、軍には無関係だからな。割に気が合うらしい。」
腕組みをして、苦虫を噛み潰したような顔をしている金蝉。
「崑崙山に行っているのなら・・・誰が?」あの菩薩が、桃花をこの世界に呼んでおいて顔を出さないのはオカシイ。

かといって、菩薩以外の天界人が絡んでいるとは考えられない。捲簾の言葉通り、五百年先の未来から人間を呼び寄せるなど、
巨大な“神力”を持つ者でなければ出来ないのだ。

ポンッと天蓬が手を打った。「判りました!500年先の菩薩ですよ!桃花の事を知っていて、天界に送り込んだのは。」
「・・・五百年先の菩薩?」眉を顰めた捲簾・金蝉に、「ええ。菩薩は桃花の事を知りません。でも、五百年先の菩薩は知っている・・。」

「で?五百年前の自分が居ない時を見計らって、桃花を此処に寄越したのか?」「はい。ご自分の性格は良く、ご存じでしょうから。」

・・・確かに。あの菩薩の性格を考えれば、喜んで引っかき回しに来るだろう。

「でもよ。なーんで桃花を寄越したワケ?」三人で桃花の顔を見つめる。「いや、あたしにフラれても・・。」そう苦笑して、「ぁあ゛っ!!?」
顎が外れんばかりに大口を開けて、固まった。

「てっ、天ちゃん天ちゃんっ!!あたし、いつ帰れるのかなっ!?」天蓬の胸ぐらを掴み、激しく揺さぶった。
「そっそうですね・・いつ、とは判りません。五百年先の菩薩に聞かないと・・・。」

―――――――ガックリと。膝を付いて項垂れた桃花。

「・・・・間に合わないかもぉ。」

「桃花?何に間に合わないんですか?」「うん・・誕生日パー・・・ぁ。」
ウッカリ、悟空の事を言ってしまいそうになって口を閉ざした。

悟空が。五百年先の未来に存在していると言う事は―――――――悟空本人にも、金蝉達にも云えない事。


「ぇえっと、友達の誕生日で・・・って、今日、ココは何月何日?」「下界の暦で言うと・・4月8日ですね。」
―――――・・・ナヌ?4月8日?・・・って。

「って、悟空ちゃんの誕生日じゃんっ!!?」思わず大声を出した桃花。マサカ、過去の悟空が居るこの“時”が、誕生日とは・・。

「誕生日?そーいや、天帝の誕生日の宴が催されるって聞いたっけな。」「ちゃんと出席して下さいよ、捲簾大将?」
イヤそうな顔の捲廉に、さりげなく釘を差す天蓬。

「その天帝とかって、どうでもイイの!悟空ちゃんの誕生日パーティやろっ!?」
・・・どうでもイイ。どうでも良いのか?アレでも“神様”と呼ばれる天界人の頂点に君臨する人物なのだが。
桃花の発言に何気に汗を掻く、金蝉達。

「・・たっだいま~・・・ナタク、やっぱ帰って来てなかった・・・。」ションボリした顔の悟空が扉を開けた。
「悟空ちゃん!悟空ちゃんの誕生日パーティやろっ!?」唐突に桃花に言われて、「へっ?何?誕生日・・パーテーって?」
キョトン、とした悟空に、「生まれた日をお祝いする、と言う風習があるんですよ。」天蓬が説明した。

「・・・俺・・俺の?」花果山で生まれて・・・・父も、母もなく。生まれた日を“お祝い”してくれる人など居なかった。

「おい。勝手に決めんじゃねぇよ。」一体、何を言い出すのかと。眉間に皺が刻まれた。
「まぁまぁ。大げさな事は出来ませんが・・・。厨房を借り切って、ご馳走を作るって事ぐらいは出来ますよ?」
『厨房を借り切る・・・ってのは、大げさな事じゃねーのかよ?』捲簾が心の中でツッコミを入れた。

「ご馳走っ!?」キラキラと目を輝かせる悟空に、「うんっ!大きなケーキも作ろうねっ!」グッと拳を突き出して、
「天ちゃんっ!料理の指示は頼んだよ?」クルッと天蓬に笑顔で振り返ったが・・「料理って・・僕が?」

惚けた顔の天蓬に、「・・だって天ちゃんって・・料理上手じゃ・・・。」思わず固まった桃花。

「おいおい桃花。天蓬が、片づけも出来ねーの知ってるだろ?戦の戦術ならともかく。誰が料理なんか出来るって?」
「・・・お前が料理するんだろう?一応、女なんだから。」捲廉と金蝉の言葉に。ますます石化する桃花。

『・・・しまった・・・八戒ちゃんにソックリだからって・・・中身は別人だった・・。』

――――――料理が出来ない訳では無い。(むしろ裁縫より得意だ)とは言え、ケーキと言う物になると話は別だ。
何しろ、『作ったコト、無い・・・。』経験値・0の桃花。

しかし、自分の洋服の裾を握り締めて、“食べてみたい食べてみたい”と目で訴える悟空の顔が・・・。


「よっ・・よーしっ!まずは本探しから・・・!!」


あの “人類未到の地” と噂される天蓬の部屋から、ケーキのレシピ本を探す。



・・・・それだけで。 目の前が暗くなった、金蝉と捲廉であった。 

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