勝手に最遊記

勝手に最遊記

HAPPY BIRTHDAY!―6



「悟空、眠いんなら寝室に行け。」金蝉に言われても、「・・・ん。」生返事だけで、そのままソファに横になってしまった。
「チッ。歯も磨かねぇで・・。」「しょうがないですねぇ。後でベッドに運びましょう。」

起こすのは無理だと、金蝉達が諦めた時、「・・悟空ちゃん。」桃花が悟空の肩をそっと揺さぶった。

「桃花?悟空のヤツ、起きねーって・・。」話しかける捲廉を気にせず、「悟空ちゃん、悟空ちゃん。」繰り返し揺さぶった。

「・・ぅ・・もも・・姉ちゃん・・。」僅かに眼の開いた悟空。まだ夢の世界にいるらしい。
「あのね、悟空ちゃん。聞いて欲しいの。」悟空の耳元に唇を近付け、



                          「あたし、帰るから。」

――――『えっ!?』


驚いた顔の金蝉達に構わず、

「・・・またね、悟空ちゃん。」軽く頬にキスを落とす。「・・・ぅ、ん。」夢見心地の中で、頷いた悟空は・・また、眠ってしまった。


「桃花、どう言うことです?」「おまっ・・帰るって、どーやって帰んだよ?」詰め寄って来た、天蓬と捲廉に
「・・こーいう事、なんだよねぇ。」苦笑しながら、 両手を出して見せた。

「・・・・・マジ?」捲簾も、天蓬も、金蝉も・・・―――――――凝視した。「透けてる・・。」


桃花の右手が、透けているのだ。「ほら、足も。」ハッと捲簾らが桃花の足を見れば、ブーツの先から透けて、消えている。

「・・・透けて、消えていってるんですね・・。」指先は、もう見えない。左手も同じく。
「・・だから、グラス・・割っちまったのか。」難しい顔の捲廉に、頷いて見せた。

――――――スウッ・・・桃花の体全体が、色褪せていく・・・「時間切れ、みたいだね。」

―――――天界に、存在してはならない“存在”―――――菩薩の意図がどうであれ、悟空の誕生日を祝えて良かった。
『それだけで、十分だよ。』・・例え、覚えていなくても。

「・・・桃花。お元気で。」天蓬がそっと手を出して・・「握手、は、無理ですねぇ。」苦笑しながら、桃花の頭を撫でた。
「天ちゃんもねっ。お別れは・・言わないよ?」・・・また、逢えるような気がするから。“天蓬”でなくても。

「桃花あっ!!」ガバアッと捲簾が抱きしめた。「わっ・・捲ちゃんっ!」わたわたと焦る桃花に、
「今度来たら、俺の部下になれっ!お前ならその辺の軍神よりっ!よっぽど強えぇ!!」「・・褒め言葉かいっ!!」
ガアンッと鉄拳を振るおうとするが・・・・スカッ。 既に、腕全体が透けている。

「・・・・・・淋しいぜ?」「ふふん。言ってろv」消えていく桃花に、為す術もない。その不甲斐なさを押し殺して、笑い合う。
『淋しいのは、あたしも一緒。』――――やっぱり“悪友”だ・・・。そして・・「・・・おいっ。」

不機嫌極まりない顔で・・・桃花から目を逸らしながら、「・・・お前が天界(ここ)に居たきゃ、桃を手に入れてやる。」
「桃?」唐突な金蝉の言葉に、呆気に取られる桃花。

「金蝉・・・西王母の桃、ですか?」天蓬が眉を寄せながら、「・・しかし、手に入れるにしても時間が・・。」
――――下界の人間が西王母の桃を食すると、仙人になると云われている。

「だからっ・・今すぐに・・「ゴメン、金蝉。」金蝉の眼が、桃花の視線と絡み合う。

「あたしさ、帰らなきゃダメなの。」悟空と 八戒と 悟浄と 三蔵の元へ・・・・

「やり遂げないと死ねないって言うコト、有るし。・・・仲間が、待ってるし。」
「別に、てめぇに居て欲しい訳じゃ無ぇ。・・後で悟空が暴れると困るからだ。」ムスっとした金蝉に、捲簾達が必死に笑いを噛み殺す。『素直じゃないねぇ・・。』

「・・・さっさと帰れ。」クルリと踵を返した金蝉の背中に―――ふわっ・・暖かい体温を感じた。


「・・じゃあ、ね。金蝉・・・・。」 金蝉が振り返った時には 既に、桃花の姿が消えていた。

―シン・・・静寂が部屋を包む。 悟空の寝息だけが、幸せそうに聞こえてくる。


「・・・平和そうな寝顔しちゃって。」捲簾がぷにっと悟空の頬を押す。
「起こさないで下さいよ?・・悟空にとって、最高の誕生日パーティになったんじゃないですか?」
「・・・明日の朝も、そんな風に言えればの話・・だがな。」幾ら桃花に別れを告げられたとは言え・・
――――悟空がソレを覚えている確率は―――――果てしなく、低い。

「大丈~夫だって!俺がキチッとフォローしてやっからよ!」捲簾が金蝉の背中をバシバシ叩きながら、
「“金蝉が桃花に泣いて縋った”って言えば、悟空も納得するってよ!!」ギャハハッと笑う捲廉に、
「死ねっ!貴様!!死にやがれっ!!」オードブルの入っていた皿を、捲簾めがけて投げつける。

「うわっ!シャレになんねー・・やめっ・・「煩せぇっ!このっ・・!!」部屋の中で命がけの(?)攻防を繰り広げている捲廉と金蝉。
その最中でも、幸せそうな寝顔のまま眠っている悟空を見つめ、

「本当に今日は・・・・楽しかったですねぇ。」 天蓬が穏やかに微笑んだ。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: