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勝手に最遊記
星に願いを
まだ夜の闇は降りない。
8月に入った気候は暑く、夕方の時刻とは言え、冬とは比べようもなく明るい。
「・・・にしても、賑やかじゃねぇ?」辺りを見回す悟浄。
さんざん、呑んで喰って(暴れて殴られて)食後のお茶を啜りながら――――周囲を見回した。
「ですねぇ。大人ならともかく、小さい子供達まで・・・。」八戒も頷く。浴衣姿の女の子や、甚平を着た子供達。
皆、賑やかに笑いながら表通りを闊歩している。
「お祭りでもあるのかな?」桃花が小首を傾げた。季節的には、夏祭りがあっても可笑しくないだろう。
ただ、祭りが催される気配はない。露店も出てはいないし、花火が上がる様子もない。
「おや、あんたら旅の人かい?珍しい。」お茶のお代わりを、と。テーブルを回っていた店のオバちゃんが話を聞きつけて、
「この町じゃあ、今日が七夕だよ。町の中央に竹を飾ってるから、願い事をしに行くのさ。」
「七夕?」悟空がほけっとした顔で、「七夕って言ったら、7月7日だろ?」至極当然のように言うと、
「モノを知らない猿だな・・・。旧暦で言ってんだよ。」辛辣な、三蔵のツッコミが入った。
「ホラホラ!コレを持って行きな!」ニコニコ笑いながら、「折角の七夕なんだ。此処に来たのも何かの縁!願い事をしておいでっ。」
善意そのもののオバちゃんの笑顔に――――――――取り敢えず、全員が受け取ったのであった。
「・・・なぁ。どーするよ、コレ。」ピラピラと。手の中にある短冊を、悟浄が振って見せた。
“願掛け”“七夕”・・・そんな殊勝な心は持ち合わせていない、三蔵一行である。
「ご好意ですし・・・。ああ、見えてきましたよ。」町の中央―――――広場になっていて、町の住民らが集まっていた。
「うっわ!スゴイ・・・・!!」感嘆の声を桃花が上げた。
中央には竹が集められていた―――――何十本も。それらが金や銀の紙で飾り付けられ、色とりどりの短冊が風に揺れている。
周囲にはライトアップのためか、提灯が飾られ・・・・幻想的。かつ、優雅に青竹を照らしていた。
「さ、どうぞ。」浴衣を着た、綺麗な少女が筆ペンを渡してくれた。「願い事を書いて下さいねv」
見れば浴衣に【ミス・七夕】と銘打ってあった。
『・・・何だかなぁ。』微妙な笑顔で少女に礼を述べ、「じゃ、ま。願い事して行こうよ。折角だし。」
カキカキカキカキカキカキカキ・・・・
全員が書き始めた。
「よーっしゃあ!出来たああっ!!」(無駄に)気合いを込め、悟空が完成の雄叫びを上げた。
「ナニ、書いたんだよ?どーせ“腹一杯、肉まんが喰いたい”とかってんだろ?」悟浄が短冊を取り上げようとした。
「違げーよっ!!んなコト書くかよっ!!」慌てて悟空が短冊を遠ざけたのだが、「・・“空から肉まんが降って来ますように”・・・?」
背後から、八戒に読まれてしまった。
「このアホ猿!!」
スッパーンッ
三蔵のハリセンと、「ぎゃははははっ!!」悟浄のバカ笑いに凹む(哀れ)悟空。
「あはは。しょうがないですねぇ、悟空は。」穏やかに微笑む八戒に、「んじゃ、八戒はナニ書いたワケ?」悟浄が覗くと・・・
“世界平和”
・・・・・・・の、文字が。
「お前さ。相変わらず・・・・。」悟浄がガックリと項垂れた。流れ星に“家内安全・無病息災”を願う八戒である。
短冊に“世界平和”を書いたところで、驚きには値しないのだ・・・った。
「悟浄君は、どーせオンナ絡みでしょ?」チロン、と。横目で桃花が眺めれば、「どーせは無いんじゃねぇ?」不服そうに唇を尖らせた。
そんな悟浄の隙を付き、「えいっ!!」短冊を奪い取った悟空が、「ええっと?“キレーなオネーサンが降って来ますように”・・・?」
「・・・てめーら、同じじゃねーかああっ!!」
スパパパパーンッ
・・・三蔵のWハリセン(しかも往復)が飛んだ。
シュウシュウと。頭から煙を上げる悟空・悟浄を眺めつつ、「さ、飾ってしまいましょうか。桃花は書きました?」
「う・・ん。あたしはアッチに飾ろうかなぁ。」何気に離れようとする桃花の手を掴み、
「桃花ちゃーん?ナニをお願いするのかなぁ??」「俺らのだけってズリーよな!桃花の願い事は何だよ?」
二人に詰め寄られ、「ええっ?・・も、別に何でもイイでしょ?」短冊を後ろ手に隠し、ジリジリと後退する。
頑なな桃花の姿に、「判った!“フェロモンむんむんになりますよーにっ!”ってだろっ?」
「いや、俺は“ケツが小さくなりますように”ってコトだと思う!」
色気が足りないから、座席が狭いから、等々。好き勝手に騒ぎ始めた悟空と悟浄に、
「違いますよ。“手先が器用になりたい”ですよねぇ?桃花。」「・・・“バカが治りますように”・・だ。」八戒と三蔵までもが参加する。
「あっ・・・アンタ達ねぇえええっ!!」ぷるぷる震えている桃花に、構うコトも無く、
「やっぱ色気が・・」「足が細くなりたいんじゃ・・」「女らしく・・」「・・常識が欲し・・」口々に、己の希望を言いだした面々。
「もおおおっ!!勝手に願ってろっ!!!」うわーんっと駆け出した桃花。
その背中を見送って、「ありゃりゃ。ちょっとイジメ過ぎたってか。」バツの悪い顔を悟浄がする。
「桃花をからかうのって面白いんだもんなぁ。・・・後が怖いけど。」背筋に冷たいモノを感じた悟空。
「ホント、怖いですから・・・・アレ?」足下に、桃花の持っていた短冊を発見した。
拾い上げた八戒が、「・・・本当に、後が怖いかも知れませんねぇ・・・。」微苦笑を浮かべた。
「なになに!?なんて書いてあるんだ?」嬉々として覗き込んだ悟空と悟浄の眼に、
“みんなと 一緒に居られますように”
桃花らしい、大きな(へたくそな)字で、書かれていた。
「あっちゃー・・・ますます恐ぇえよ・・・。」そう言いながらも、悟浄の顔は笑顔で。
「何も、願わなくってもサ・・・。」やや不満げに。でも、嬉しそうな悟空。
「さてと。一人にしておいたら何かと面倒ですから。ねぇ?三蔵。」策士らしい言い方で。でも、眼は穏やかで。
「・・・・・・チッ。」溜め息を付きながら、それでも桃花の後を辿る、三蔵の足取りは速くて。
そんな四人の後ろ姿を
さわさわと
青竹が見下ろしていた。
「っっの、・・・どちくしょおおおおっ!!」
大声を出し、
「ふんっ!!」
鼻から会心の鼻息を出した桃花。
「・・・・あーっ・・・サイアク・・・・。」町外れの丘。 既に夜の闇が町を覆っている。
目の前には美しい星空が光り、コレで彼氏でもいれば最高の七夕の夜・・・・「っつか、関係ないけどさぁ。」一人ゴチながら、
「大体、あの態度は何?色気がない??無くて結構、コケコッコーよっ!色気なんか合ったら、セクハラばっかりじゃない?
ケツが大きい?いいじゃん、どっしりしてて!ジープのシートって薄いんだモン!ケツが小さかったら、皮がめくれるっつーのっ!!
手・・・手先が不器用・・・ってのは認めるけど・・・認めるけど!!もっ、しょうがないジャン!
生まれつきだモン!ああ、そうさ!生まれつきさ!バカっ、てーのも生まれつきよ!死ななきゃ治んないわよ!!」
・・・はぁはぁと。肩で息を付きながら・・・・・「お前らだってー!似たようなモンじゃねーかああっ!!」再度、腹に息を吸い込み、
「エロエロ河童ーっ!モテ無いのを人の所為にすんじゃねー!!あたしは邪魔なんかしてないぞおおっ!!
大食い猿ーっ!!足も太くて悪かったわねー!キミの胃袋に入った喰いモンが、ドコに行くのかソッチの方が不思議さーっ!!
過保護な保護者めー!あたしは不器用だけど表裏は無いぞーっ!笑顔で威嚇するんじゃねーっ!!
鬼畜坊主めええっ!!ヒトのバカを治す前に、自分の性格の悪さを治しやがれええっ!!」
どさり、と。 座り込んだ桃花。・・・・・・クスクスと笑いが込み上げる。
『・・・・何だかんだ言っても・・・・好き、なんだケド・・。』 無茶苦茶なヤツらと旅をしているのは、自覚している。
自分が足手まといって言うのも・・・判ってる。 それでも、なお。 “一緒に居たい” そう願う自分。
『コッチもタフでなきゃ、ねぇ・・・。』はーっと息を付いたその時、
【ガサリ】
背後の草むらから、人の気配がした。
「まっ・・・まぁまぁ、皆さん・・・お揃いで・・・・。」引き吊った、桃花の笑顔。
背後から、三蔵・悟空・悟浄・八戒が・・・・・(黒い)笑顔を浮かべていた。
「いっ、いつからソコで?」まるで商人のように、揉み手に愛想笑いを浮かべる桃花。
「・・・・・エロエロ河童・・・・から、かな。」心なしか。悟浄の口元がイヤに吊り上がっている。
「そ・・それって・・。」サアアアーっと。青ざめていく桃花へ、「全然、気にしてませんよ?例え、僕が
裏表のある人間
でも。」
ポンッと。肩に置かれた八戒の手が、重い。
「俺のコト・・・・大食い何とかって言ってたっけ?」「う、あ。悟空・・ちゃん・・。」
悟空にまで詰め寄られ、進退窮まった桃花に(トドメを刺すように)三蔵が、
「・・・そう言や、てめぇ・・・明日、誕生日だったな。・・安心しろ。
キッチリ
祝ってやるからよ。去年と・・・同様にな。」
クックックッ・・・と。性質(たち)の悪い、笑顔を浮かべた三蔵。桃花の脳裏には、去年の恐ろしい花火の思い出が
(死ぬ間際の)走馬燈のように甦ってきた・・・・・『あっ、アレを今年もっ・・!?』
「どうせ俺は、性格が悪いらしいからな・・・。」むんずと手首を掴まれた、桃花の逃げる道は・・・無い。
そこはかとなく、潤んだ(涙が出た)目で、夜空を見上げた桃花。
『・・・・・神さま、仏さま、お星さまっ・・・・!お願いです!!明日は雨を降らせて下さい!!!』
でないと・・・・死ぬかも知れない・・・・・。マジで、自らの命を危惧する桃花。
明日は、(無情にも)晴天を約束するような星空で・・・・・手首を拘束されたまま、宿へと戻る、桃花の足取りは重い。
「そう言えば・・・三蔵の、願い事は?」「・・・・・・今は、叶わん。」
その言葉に。 『やっぱ、桃源郷を平和にするってコトなのかしらん?』流石、三蔵法師!と。桃花は感心するのだが。
“静かな 余生が送れるように”
・・・・・・・・・・・やっぱり、ジジむさい 三蔵であった。
星に願いを 完
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