勝手に最遊記

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Family ―9―


結局、お粥は宿の女の子に頼んでいたのだ。様子だけでも確認しておきたかった。

八戒がそっとドアを開けると、桃花は起き上がっていた。

「桃花?大丈夫なんですか?」
「うん・・。なんか熱下がってきたみたいだよ?楽になった・・。」

八戒が桃花の額に手を当て「そうですね。大分良くはなったみたいですが・・。」

「無理しちゃいけません。僕らはちょっと出掛けますけど、
夕食を食べて、薬を飲んでおくんですよ?」大まじめな顔で言った。

「はーい。・・・って、どこに出掛けるの?」
八戒は顔色も変えず、
「悟空が迷子になったみたいで、探しに行くんですよ。」
「三蔵も?」
「ええ・・。」
『怪しい・・只の迷子に三蔵まで行くなんて?只の迷子に、
三蔵が悟空ちゃんを探しに行く訳ないじゃん。』

「八戒ちゃん。」
「はい?」
「なんか隠してるんでしょう?」桃花が額に当てられていた手をグッと引く。

「あははは・・。そんな訳ないでしょう?悟空が三仏神のカードも
持って行ってるんで・・三蔵自ら探しに行くんですよ。
でないと一生分の食料を買って来そうですからね。」

八戒は桃花に引っ張られている手をゆっくりと離し、
「病人は、病気を治すことだけ考えましょうね?」と、桃花の頭を撫でた。

コンコンとノックの音がして、宿の女の子がお粥を持ってきた。
八戒と桃花の姿を見て、
「お粥をお持ちしましたよ。いいですねぇ、優しいお兄さまで・・。」

笑顔を崩さない八戒とは対照的に、桃花は思いっきり八戒を睨んでいた。


「すみません、お待たせしました。」
八戒が三蔵達と合流した。

「桃花は起きてたのか?」三蔵が不愛想に聞いた。

「ええ。大分良くはなってきたみたいですが・・。まだ熱もあるようですし、無理はさせられませんね。
どこに行くのかと怪しんでましたけど。」八戒が苦笑する。

「熱か・・。そういえばアイツ、様子が変でさー。」

歩きながら悟浄が昼間、桃花が熱に浮かされ暴れたことを話した。

「・・・殺してやる、ですか。」八戒が顔を曇らせる。

「あの女がか?」三蔵は蚊が近寄る度に、ゴメンね、ゴメンねと言いながら
叩いていた桃花を思い出した。
いちいち謝りながら蚊を叩くんじゃねぇ、とバカにしていたのだが・・。

「俺もホント、ビックリしたぜ・・。あんな桃花を見るなんてよ。」
桃花の姿を思い出したのか、悟浄が苦い顔をする。

「心の奥に封印していた過去が、熱のせいで思いだしちまったのかもな・・。」

「三蔵?」八戒が驚く。

「お前も薄々気付いてたんだろ?俺達には言えない過去が有るって事を。」

「・・はい。恐らく、桃花を殺しかけた妖怪に絡んでいると思うのですが・・。」

「エッ!何、ソレ?」悟浄が目を剥く。

「気付いてなかったのは、お前とバカ猿ぐらいだ。・・にしても
バカ猿を見つけないと・・。もうすぐか?」

「この先の森の奥だそうです。」

町外れから少し歩いたところで、森が現れた。
じめじめと湿った土と、鬱蒼とした木々・・しかも霧が出ていて見えにくい。

「嫌だよな~こんな雰囲気。いかにも出ますってカンジで。」
ウンザリした声を悟浄が出す。
「ねぇねぇ三蔵サマ!幽霊がホントに出たら、何とかしてくれるんだよな?」

「・・・知らんな。」あっさりと三蔵が言い放つ。

「な・・お前、坊主だろ!?幽霊のつき合い方ぐらい、分かってんだろ?」

「管轄外だ。」またもやあっさりと三蔵が言う。
「妖怪ならともかく・・。人間の霊魂ってのは難しいんだよ。
納得しねーと成仏なんざしねぇし。・・・面倒くせぇ。」

「おまっ、それでも最高僧の三蔵法師かよ!?」
「煩い、死ね。」
「・・・悟浄、三蔵。・・・冗談を言っている場合では無くなりましたよ。」

三蔵・悟浄・八戒の目の前に沼地が見えてきた。


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