勝手に最遊記Ⅱ

勝手に最遊記Ⅱ

Pain―Past-7










着替えやタオル、その他の物を抱えながら夏花が急いで戻って来た。


玄関へ、手を掛けたところで

「・・・って、まさか!!」

悲鳴のような萄花の声。

思わず、足を止め、そっと中を伺う夏花。




「・・・その行商に行った村は・・・皆殺しだった・・。」

深く項垂れながら、

「その女性の引き渡しを拒んで・・・小さな子供もお年寄りも、殺されたんだ・・・百眼魔王の手下達に」
「百眼魔王・・」

萄花の顔が血の気を失う。









百眼魔王―――――――――――桃源郷広しと言えども、その悪名を知らぬ者など居ない。







妖怪と人間が共存するこの世界で、









               “我以外の存在など、快楽の道具にすぎぬ”








そう言って憚(はばか)らないばかりか強大な力を行使し、欲望の赴くまま行動する。

それは、他種族の人間ばかりか同じ種族の妖怪にまで被害が及ぶほどの、悪意と邪悪に満ちた存在――――







同じ妖怪にまで畏(おそ)れられ、忌み嫌われる・・・「百眼魔王が・・・私を?」





「・・・聞いたんだ・・・百眼魔王の手下どもが、この村に近付いて来てる。
向日葵の村に、評判の美しい女が居ると聞いて・・・」



小瑯は皆殺しにされた村の、虫の息だった男にその話を聞いたと言う。


「次は・・・向日葵の村だって・・・慌てて俺は奴らより先に戻ろうとして、崖から落ちてこんな怪我を・・・」



小瑯の顔が苦痛に歪む。



「こんな、こんな辺鄙(へんぴ)な村にまで、奴らの手が伸びるなんて・・!」

小瑯が萄花の両手を握りしめ、

「逃げよう、萄花!逃げて逃げて・・・アイツらの魔の手から、お前を守ってみせる!」
「そんな・・・だって小瑯、そんな体でどうやって・・・」

「こんな怪我、何ともない!きっと、明日にはもうっ、」
「小瑯っ!!」

ベットから体を起こそうとして、転がり落ちた小瑯。それを必死に萄花が支える。


「無理よ・・・無理よ、小瑯!そんな体で逃げ切れないわ。それに私が逃げたらこの村はどうなるの?
夏花は・・お父さんはどうなるの?家族だけじゃない、この村の人達みんな、殺されちゃうのよっ!?」
「・・・だけど、萄花!逃げなきゃ・・・百眼魔王の元に連れて行かれた女達の行く末は知ってるだろ?
汚されて・・・。・・・最後は喰われるんだ!地獄を見た上に殺されるんだぞ!?」

「・・・・・・小瑯、私・・・・」



小瑯を抱きしめたまま、震える萄花。

「私たち・・・どうしたら、」

どうしたら、約束されていたはずの幸せな生活が・・・守られるの?








「・・・っ、今の話、本当なの?小瑯・・・・」


恐々と夏花が扉を開いた。


「夏花・・・」


「お父さん達に相談してみよう?皆で考えれば、きっと良い考えが・・」

無理矢理笑った夏花の顔に、萄花もぎこちなく

「・・・そうね」

微笑んで見せた。

























―――――――――――――――――『・・・・これは・・・』





腹の底から猛烈に突き上げてくる嘔吐感に、八戒が胃を押さえた。




思いもしなかった名前。




『百眼魔王・・・まさか、こんな所でその名を聞くとは・・・』







最愛の姉を奪った百眼魔王―――――――――――一瞬だけ、頭の底から悪夢が甦る。




『・・桃花、どうして、』




自分の過去は話している。

一度ならずも、百眼魔王に関した事にも遭遇している・・・なのに、何故?


『何故、貴女は・・・僕らに、・・いえ、僕に一言も話をしてくれなかったんですか?』





胃を押さえた手が小刻みに震える。



「・・オイ。大丈夫かよ、八戒」
「大丈夫ですよ、悟浄。これは、過去ですから」



―――――――そう、過ぎ去ってしまったから“過去”




“言えなかった過去”“知られたくない過去”――――――その所為で、自分達から離れざるおえなかった桃花。




桃花がどんな“過去”に囚われているのか・・・・「きちんと見極めます」





「僕は桃花の“保護者”ですから」




足を這い上がってくるような悪寒に気取られぬように、八戒が笑みを浮かべた。













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