天使のつばさ

天使のつばさ

千×リョ


























「・・・ヘラヘラしすぎ」



「幸せなんだからヘラヘラしたくもなるよ~」





少し前まではこんな幸せ三昧の日常じゃなかった。

けれどある日を境にして俺は毎日恒例のように青学に行っては愛しい越前くんに会いに行く。

最初はすごい邪魔そうに扱われて無視されたりしてたけど、ねばるのは得意だからね。

こういう冷たい子にはしつこく迫るのが一番だって分かってるから。

邪険に扱われつつも、最近じゃその成果も表れてきたみたいで。

なんたって今じゃ抱きしめさせてくれる。

アメリカからの帰国子女ってのは聞いてたけど、そういうスキンシップに慣れてるのかも。

それとも抵抗するのを諦めたのかな?

どっちにしろ、現に越前くんは今こうして静かに俺の腕の中にいるわけだし。

順調好調☆





こうして毎日毎日青学に行っているわけで、しかも決まって越前くんの部活の休み時間。

俺も山吹ではエースって呼ばれるほどで。

けど毎日当たり前のようにここに行く・・・つまり、部活をサボってるわけだけど。

さすがに全然出てないとレギュラーの座危ないかもなぁ・・・壇くんも入部したことだし。

そんなことを考えていれば、急に越前くんは思い立ったように口を開いた。





「アンタ部活は?」





・・・ぎく・・・





「・・・う、う~~ん・・・」



「なにその曖昧な返事」



「・・・えへ、サボっちゃってる♪」



「アンタ桃先輩に負けたの忘れてんの?」



「う゛・・・っ・・・忘れてないです・・・」



「じゃあなんで練習しないでこんなとこいんの。時間もったいないじゃん」



「だ、だって・・・!」



「だってなに」





こういう時間があるなら一球でも多く練習した方がいいってのは分かってる。

桃城くんに負けたのだって俺の練習不足もあるわけだし。

しかも俺は3年で今年が最後。

でも・・・





「・・・部活に出ちゃったら越前くんに会えなくなっちゃう!!」




テニスも好きだけど・・・今は君の方に夢中なんだ。

でも越前くんは・・・





「別に会わなくたって平気でしょ」





がくっ。





「全っ然平気じゃないよ!!越前くん欠乏症になっちゃう!!」





平気なもんか。

こうして毎日会ってるから越前くんの心が開きつつあるっていうのに。

俺が目を離した隙に他のやつらに取られてたまるか!

こんなに可愛くてキュートなんだからライバルだっているはずなんだ・・・

あの菊丸とかよく越前くんにひっついてるとこ見たことあるし。

そう俺が思ってるのとは逆に、越前くんは眉間にシワを寄せる、と思ったら次は溜め息をひとつ付いて。

ちょっと耳を疑うような言葉を聞いた。





「じゃあ俺が今度山吹行くよ」





・・・・・・なっ!!!





「そ、それはダメだよ!!!」



「なんで」





なんでって・・・あの山吹に越前くんが来るだって・・・?

そんな恐ろしすぎる・・・!!

南は別に問題ないと思うけど阿久津はいるし、伴爺だっているんだ!!

それに山吹って結構荒れてるし・・・

そんなとこに越前くんみたいな可愛い子がのこのこ来ちゃったら狼のエサにされちゃうのがオチだ!!

イヤ、気持ちはすっっっごい嬉しいんだけどね・・・

とりあえず何としてでも越前くんを山吹に来させないようにしなきゃ・・・!!





「越前くんには危険が多すぎるんだよ!!」



「なにその危険って・・・」



「と、とにかく来ちゃダメ!!」





そ、そりゃ越前くんが俺のため(かな?)に来てくれるのはすごい喜ばしい・・・

それに前の越前くんからは全然予想できなかったことなのは承知してるんだ。

けどそれよりも君の安全の方が大事なんだよ・・・!





「・・・とりあえず明日は部活出なよ」





そして、またしても予想していなかった言葉。

気のせいかいつもより声のトーンが低くて、越前くんの顔を見れば・・・

・・・・・・な、なんか怒ってる・・・?





「え・・・で、でも・・・」



「出なきゃもう会ってあげない」



「・・・・・・う゛っ!!!」





それはキツい・・・

越前くんに会うために部活をサボってるというのに・・・

その部活をサボってしまったら今度は越前くんに会えなくなってしまうなんて!

じっと見てくる越前くんに反論なんてできるはずもなく。

部活に出て越前くんに会えないのは不安でたまらないけど、山吹に来られるより断然マシなので。

俺はしぶしぶ越前くんの言うことを受け入れなければならなかった。





そして、次の日。

俺は言われた通り部活に出ることにした。

思ってたよりも腕は落ちてなかったし、調子も良くて。

伴爺にひたすら愚痴られるのを覚悟していたけど、運良く今日は来てないみたいでラッキー。

あとは部長の南だけだけど、当然免れる隙もあらず、部活後ひたすら怒られるハメになった。





「お前ずっと部活サボって何やってたんだよ!!」



「あは~・・・メンゴメンゴ」



「まさかまだ青学偵察に行ってんじゃないだろうな!?」





偵察・・・そういえば最初はそういう理由を付けて青学行ってたんだっけな。

いくら南といえども、越前くんに会いに行くため♪とかハート飛ばしながら言ったら

どんな仕打ちが待ってるか分かったもんじゃない。

これ以上ごたごたになって越前くんと会うの減らしたくないから、とりあえず話を合わせることにした。





「・・・う~~ん・・・そうだけど」



「偵察偵察って言ってるけど情報全然しいれてないだろ!!」



「し、仕入れてるよ!!」





なんて、ホントは仕入れてないけどね。





「とりあえずこれからも部活でろよ!!」



「・・・・・・はぁ~~~い」





・・・やっぱこれからも部活出なきゃいけないよな・・・

でもそうしたら越前くんに会えなくなってしまう。

ホントに越前くん欠乏症になりそうだ・・・トホホ。

いつの間にか南は部室に戻っていて、外にいるのは俺だけだった。

・・・

・・・・・・と思いたかった。





「なっ、越前くんなんでここに!!」





ふとテニスコートを出てすぐ側にあるベンチを見ればさきほどからずっと会いたかった越前くんの姿。

でも嬉しいっていう気持ちよりも青ざめる気持ちの方が大きくて。





「・・・部活早めに終わったから」



「来ちゃダメって言ったでしょ!?」



「どこに行こうが俺の勝手じゃん」



「そ、そんな・・・越前くん!」





前から越前くんが冷たいのは分かってたんだけど。

なんか今日はいつもに増して冷たく感じられる。

口にしてる言葉自体はいつもとさほど変わらないはず・・・



・・・目だ。



普段より数段冷たい目をしている。

一番初めに会った時、こんな感じだった。

まさか・・・さっき南と話してた会話聞かれてたりして・・・





「これからも部活出るんでしょ?よかったじゃんレギュラー外されなくて。じゃ、さよなら」



「え、越前くん・・・!」





越前くんはベンチから立ち上がって、俺に背を向けながら手を振った。

ヤバイ・・・明らかに不機嫌だ。

こんなに怒るなんて・・・やっぱさっきの会話聞かれたとしか考えられない。





「なに・・・?離してよ」



「越前くんもしかしてさっきの・・・聞いてた?」



「・・・・・・帰る」



「待って!!違うんだ!!」





やっぱり聞かれてたんだ・・・きっと誤解してる。

越前くんに会うフリしながら偵察のためだって思ってるんだろう・・・



ううん、越前くんなら絶対そう思ってる。



俺は腕を振り払おうとする越前くんの腕に力を込めて。

少し力を入れすぎたのだろうか。

ちょっと痛そうな顔をして大きな目で睨んできた。





「俺に関係ないじゃん」



「誤解だよ!!毎日青学行ってたのは偵察するためじゃないんだ!!

・・・俺は越前くんに会いたくて・・・!」



「嘘」



「嘘なんかじゃないよ!!」





嘘なもんか・・・

俺は一目会った時から君しか見えてなかったんだ。

その大きな瞳に俺を写してほしくて、毎日会いに行った。

毎日君に愛を伝えるために。



冗談っぽく聞こえたかもしれないけど、そうするしかなかったんだ。

真剣じみた風に言ったらどうだろう。

俺は越前くんの目を見れないと思う。

断られるのが恐くて、“嫌い”って言われるのが不安で。

そんな風にしか言えなかった。



けど・・・・・・本当に好きだから。

距離を縮めるにも縮められなかったんだ。

必死に離れようとする越前くんに俺は掴んでいた手を離し、できるだけ優しく、包みこんだ。





「ちょ・・・!なにすんの!!離してよ!」



「やだ、信じてくれるまで離さない」



「離して!!アンタなんか・・・!!」





・・・・・・・・・“嫌い”

真っ先にその言葉が浮かんできた。





聞きたくない・・・

そんな言葉望んでない・・・





「・・・・・・言わないで」



「・・・・・・」



「お願いだから・・・嫌いだなんて言わないでくれ・・・」



「・・・アンタなんか・・・」



「・・・・・・」





たった“好き”って2文字言うだけなのに声が震えてしまう。

情けないとは思うけど・・・それだけ恐い。





だから・・・

だから嫌いだなんて・・・!





「・・・・・・千石さんなんか全然好きじゃなかった」



「・・・・・・・・・え」



「バカ・・・最低・・・」



「・・・越前くん聞いて、違うんだよ!!」





偵察だなんて青学に行くための理由にしかすぎないって・・・

ホントに君に会いに行くためだって・・・





「・・・これ以上優しくしないで」





君を“好き”だって。





「・・・・・・越前くん!!!」





胸をぐっと押され、俺は腕を緩めてしまった。

腕の中のぬくもりは消えて、一気に寒く感じた。

体も、心も同時に。

そして気がつけば俺は越前くんの名前を呼んでいて、今にも目の前から消えちゃいそうだから。





「越前くん!!!」



「・・・っ!!ちょっ・・・痛っ、なにす・・・」





細い腕を掴んで、無理やりにでもこっちを向かせた。

全てをぶつけるように、何もかも打ち明けるように。

俺は、自分の唇を越前くんのに重ねた。

一瞬のことだったけど、すごく長く感じられて。





「・・・ホントはこんな風に無理やりは嫌だったんだけど・・・これでも信じてくれない・・・?」





無茶かもしれないけど、もう方法が浮かばない。





「・・・・・・信じらんない・・・何すんの!!」





一方的だって分かってる・・・けど





「君が好きなんだよ・・・ごめんね、あんな顔させるつもりなかったんだ」





南との会話を聞いた時の越前くんの顔。

初めて出会った時みたいに壁を作ってるような表情だったけど。



違った。



ごめんね、傷つけるつもりなんてこれっぽっちもなかったんだ。





「・・・冗談やめてよ」



「本気だよ」





今にも泣き出しそうな顔。

そんな顔させるつもりじゃなかったけど、そういう表情してくれるっていうことは・・・

やっぱり少し自惚れてもいいのかな。

でも、もう絶対そんな悲しい顔させないから。





「越前くんが・・・好きだよ」





だから目を閉じて。

もうひとつキスを落とすよ。

【コメント】
千×リョの組み合わせを書くのがとても大変でした。

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