FUTURE (仮)

FUTURE (仮)

送りつけ小説(長編)


MOON DREAM様に送りつけた小説です。(実ははじめて送った作品)
一番誤字があるであろう。(直せよ)それから、キャラが違う。うん。苦情が来そうだ。

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   浅茅生の 小野の篠原 忍ぶれど 余りてなどか 人の恋しき   
                ~参議 等~         

    吾が袖は 潮干に見えぬ 沖石の 人こそ知らぬ かわく間もなし   

                ~二条院 讃岐~ 


『 約束 ~in the distance~』


   互いに強く想いを寄せ始めてい
   いや、すでに淡い恋心なら抱いていた

   ただそれが一方では何の気持ちかよくわからなくて戸惑っていて
   それが恋と気づいた時、想いを伝えるべきなのか・・・と考えていた
   たとえ想いが届かなくても

    もう一方では立場上、想いを伝えていいものであろうかと悩む
   もしそれで今の関係が壊れてしまったら・・・
   それならとその想いを心の奥底へと隠し続けていた
   けれど、もう隠していてもどうしようもない
   苦しさが増すばかりだと   逃げていても仕方ないと   
   自分の気持ちに向き合うべきだと   
   だから決意した   想いを伝える事を

     しかしその矢先二人の運命が大きく変わってしまうことが起こる

    はぁ、はぁ、はぁ・・・

   走りつづけてかれこれ3時間以上。殆ど休まず青年は走り続ける。
   足が棒になるというのはこういうときに使うのだろうか?
    何度も足がもつれそうになる。 地を蹴って走っている感覚もなくなってきている。

    息が上がり、呼吸を肩でする。
    季節柄、鼻の頭もキーンと痛む。  吐く息が白い
    喉にも痛みが走り、普段鍛えているものの、脇腹が痛みだす。

    青年は走り続ける。 探す事をやめない。
    大切な少女を見つけるまでやめてはいけない。
    彼女を見つけ、想いを伝えるまで


    時を遡る事、5時間位前の事だった。

  京極を倒し、平和が訪れた。
 まだ、戦いの傷跡は残るが、人々の弛まぬ努力で着実に復興している。
 人々の協調する力は時として驚異的な功績を残す。
 そう、花組たちが合わせた力がいい例である。

 そんな中、少しでも多くの人々の為にと、春公演が行われた。
 大盛況のうちに公演は終えた。しかし、米田の発案で、帝劇に来られなかった人
達の為に、いくつかの会場で特別公演を行う事になった。勿論、反対は無い。 た
だ、レビュウだと舞台装置等色々と大変なので、大道具や照明おあまり使わなくて良い劇をする事になり、新しく練習に入ることになった。

 今回の台本は「伊豆の踊り子」という最近発表された小説を戯曲化したもの。 
主役に桐島カンナ、ヒロインの薫役にレ二・ミルヒシュトラーセが抜擢された。

 この劇は薫役の踊りが見せ所の一つであるが、流石にバレエの天才と言われるだ
けあって、レニは素晴らしい舞を見せてくれた。
薫の清純さを、華麗でありながら無垢さを醸し出し、見る者の心を奪う。
その美しさに花組などの乙女達はうっとりとし、感嘆の溜息を漏らし、美を日頃追求する薔薇組も必死になって魅入ってる。菊之丞に関しては、レニに踊りを教えてもらおうと密かに決意する。 
 何処からか湧き出て来る加山も見惚れ、米田も満足げに笑っている。
 雑用に上手く区切り、舞台の様子を見にきた大神に至ってはそんな次元ではな
い。完璧に虜だ。先程までの疲れは吹っ飛び、心が癒されていく。
 大神の脳裏に、聖母決定前夜、見せてくれた月の下での舞が鮮明に思い出された。

 こういう時、役者の誰かがあまりにも見事なものを見せると、他の役者に相当プ
レッシャーがかかったりすることも珍しくは無いのだが、皆、特にもう一人の主役のカンナはレニに負けないように頑張り、彼女も素晴らしい演技を見せる。そしてそれを見た花組は、拍車がかかり上手い具合に稽古、裏方作業共に進めてゆく。 台本読み、素読み、立ち稽古・・・全て滞りなく進み、短期間で通しに入れた。

 しかし、この頃からレニの様子が急ににおかしくなったのだ。

 美しい舞には精彩さが失われている。
そればかりか台詞を飛ばしたり、立ち位置が他の役者と被ったりぶつかってしまう。
 その度にカットし、同じところからスタートする。 すると、更にミスが多くなり、動きに鈍りも目立つようになる。
 舞台の事だけではなかった。
 いつも楽しそうに聞くアイリスの話も上の空で、適当に頷いている。中庭でフントの世話を姿も全く見られない。
 食事の量も少ない。その所為か、顔色も優れていないようだ。
たとえ平和であっても鍛錬を欠かしていないのだが、その姿も見られず、部屋に篭りがちになっていた。  

 極めつけはさくらの、“夜中に悲痛な叫び声が聞こえる”という証言。
 いくら隣室とはいえ、帝劇の壁は通常の壁よりは防音性に優れている。それでも叫び声ははっきりと聞こえらしい。その度にさくらはレ二の部屋の前で呼びかけるが、反応は全くないらしい。ドアには鍵がかかっており、入って様子を見る事は不可能であった。 最早、ただ事ではない。

「レニの奴、一体何があったんだ?おめぇ、知らねぇか?」
 カンナが身近にいたすみれに訊ねた。 
「私が聞きたいくらいですわ」
「どぉしちゃったのかなぁ、レニ・・・」 
 アイリスはぎゅっとジャンポールを抱きしめる。目には涙が溜まって、今にも溢れそうだ。
「他の皆は心当たりないかしら?」
「ん~、あたしの情報力でも・・・」
「私も心当たりありません」
「全然ナッシングで~す」
織姫がお手上げで~すといわんばかりのポ~ズをとった。 他のメンバーも同じよ
うだ。
「あたし、叫び声以外に、屋根裏部屋ですすり泣きしているレニを見かけました。
でも、何にも出来なくて・・・。兎に角声かけようと思って側に寄ったら、何でもないって言って・・・。御免なさい。あたし・・・」
「さくらさん、自分をそんなに責めないで下さい」
 パニックに陥って、自己嫌悪に涙を流すさくらに椿がハンカチを差し出す。
 さくらだけではない。ここにいるメンバーは皆、自己嫌悪に陥っていた。

 サロンに花組メンバー、三人娘、つぼみ、フント、そして大神が集まっている。仲間の異変が一同心配であった。しかし、それよりもあんなになるまで苦しんでいるのに、それまで全く気付いてやれなかった。
 前にもレニが悩んでいた時には大神やアイリスの力が解決の鍵となった。だが今回は全員かわされてしまう。大神も何時ものように部屋を訪ねるがまともに取り合ってもらえない。それどころか隊長には会いたくないと強く断られ、門前払いとなってしまう。大切な仲間が苦しんでいる、その辛そうな雰囲気は前回のものとは比にならないほどだ。
 気付いてからも何もしてやれない、力になれない自分が 悔しくて、歯痒くて。
 フントもレ二の異変に気付いてるのか、それとも周りの空気の所為なのか、元気なく「クゥ~ン」と鳴いた。

「うちも、昨日の夜テラスでレニはんの姿見たんやけど、うつろな目ぇしとった
で。輝きが無いっちゅうか、死んでいるっちゅうか・・・。どうしたんって聞いたんやけどな、なんでもないゆうて部屋に帰ってしもうた」
「あたしも朝、会いました。何時もの通りスマイルスマイルで挨拶したんですけ
ど、レニさん寂しげな目をしてましたその目を見た瞬間、暫く動けなくなってしまいました」
「あれは、何か悩んでいる、とかそぉゆう目やな」
 つぼみは紅蘭の意見に頷いた。 
「レニ・・・」
 場に、更に重苦しい空気が流れる。

「あら、みんなお揃いでどうしたの?」
「かえでさん・・・」
 そんな中、仕事で花やしきに赴いていたかえでが帰ってきた。場の雰囲気が尋常でない事に気付き、輪の中へと進んで入っていった。
「最近レニの様子が変なんです」 
「ですから、皆さんとお話していたのですが・・・」
「ねぇ、かえでお姉ちゃん、レニ、どぉしちゃったのか知らない?」
 かえでは椅子に腰掛け、一同を見渡してから口を開いた。
「レニのことなら勿論気付いているわ。理由も恐らくは・・・。ただ・・・」
 この先のことは話していいものなのかと躊躇う。
 大神は口篭もるかえでの肩をガシっと掴んだ。かえではその行為にぽか~んとした。
 そして思わず笑みをこぼしそうになるのを堪える。大神の瞳は他のメンバーとは違う色をし、迫力も違っていた。
「かえでさん、どんな些細な事でも何でもいいんです。レニのことなら何でも!!
情けないですが、何度思考巡らせてもわからなくて。力になりたいんです、教えてください、お願いします」
 律儀にも頭を下げ頼み込む。そんな必死な大神にかえでは、そのうちに皆に話さなくてはいけないことと思い、話すことにした。
「・・・そうね・・・」
 かえでのこの一言で「、一同に緊張が走り、固唾を飲む。
「実はね、彼女の・・・レニの苦しんでいるのは大神くんが原因なの」


 ・・・・・

『えっ?!』
 一瞬の沈黙の後、予想外のかえでの一言に全員が驚いた。張本人の大神はショッ
クで頭の中が真っ白になった。

 どういうことだ、と皆が大神に詰め寄りより一足先に、
「少尉さ~ん!アナタ、レニに何したですか~?レニを悲しませるような事して気
付かなかったですか~?最っ低で~す!!」
 場合によっては許さないと付け加え、織姫が物凄い剣幕で大神の胸座を掴み、
キッと睨みつていける。あまりにも突然の修羅場に皆、ついて行けないでいた。
「ちょ・・・織姫ぐん・・・苦じ・・・い・・・」
 本来なら、大神は織姫ぐらいの乙女の力程度なら振りほどけられるのだが、信じ
られないほどの力を出され、体が痺れ始め思うように体が動かず、もがくことに精一杯な状態であった。 大神の声でいち早く我に返ったマリアが織姫を止めに入る。
「織姫、やめなさい!!落ち着いて」
「落ち着いてま~す!レニを泣されて落ち着いてられるわけないでしょ~」
 興奮している為か、矛盾している事を言いつつ、その手を離そうとしない。マリ
アは織姫の迫力に負け、少々たじろいた。
「さあ、レニに何しやがったか吐きやがれでーす!」
「お、織姫!大神くんは・・・」
 やっと我に返ったかえでが説明しようと割り込むが、問答無用で~すと全く聞く
耳持たずだ。織姫は大神の体を揺さぶる。彼女の細い肢体の一体どこからからそんなパワーが出るのだろうか?
「お・・・俺は・・・な、何も、心当たり・・・なんて・・・」
 織姫の力が更にこもる。
「ぐっ・・・」
「この期に及んで、まだシラ切る気ですかー?」
「・・・・・・」
 大神に心当たりは本当になかった。
 しかし、否定は出来い。自分でも気付かないうちにレニを傷付けたという事は有
り得なくはない。だから、言い返せなくなってしまった。
 「違うのよ、織姫!わたしの言い方が悪かったのよ」
 かえでが必死に呼びかけ、何とか無理矢理大神から織姫を引き剥がす。大神はゲ
ホッと数回咳き込み、荒れる呼吸を必死に整える。 さくらが大神の背中をさする。
「どーゆー事ですか~?」
「わたしの説明不足よ。御免なさい。 大神くん。大丈夫?」
「ええ・・・俺は、大丈夫、です。気にしないで・・・ください」
 台詞を途切れ途切れに言ってるのに気にせずにはいられないのだが、続きを促さ
れ、もう一度かえでが口を開く。
「御免なさい、皆。言い改めるわね。大神くんが原因であることには変わりはない
のだけれど、大神くんの所為ではないわ」 
「それってどーゆうイミ?」
「実はね、この前、大神くんレニが大事な話が2つほどあるからと支配人に呼び出
されたの。丁度その頃からね。レニの様子が変になったのは」
 かえでの言葉を聞いて大神はハッとする。 胸が締め付けらける思いをした。
「その内容というのはね、大神くんの海軍中尉昇進、そしてもう一つは軍の方から
の命で大神くんは・・・」

   ビービービー

 丁度、肝心なところを言おうとした刹那、警報がけたたましく響く。京極を倒し
たばかりだというのに新たな敵が出現したと言うのか。一抹の不安を抱えながら一同は兎に角作戦司令室へと向かう。 途中でかえでは大神の表情の変化に気付いた。
「大神くん、レニのこと頼んだわよ」
 ポンっと軽く肩を叩き、激励する。 大神は返事として頷いた。
 指令室にはレニもちゃんと来ていた。蒸気演算機で調べた結果、どうやら降魔が
現れたのが今回の出動原因らしいのだが・・・。
「どういうこと?降魔は先の戦いでわたしたちが・・・」
 しかし黒之巣会で倒した思ったのが、京極によって復活した。だから今回も何者
かが復活させた線も考えられる。同時に大神の脳裏に京極が死ぬ間際に彼の意志を継ぐ者が現れるだろうと言っていた事を思い出す。 ただの杞憂に過ぎればいいが・・・。

 (でも、もし新たな敵が現れたのなら、俺はずっとレニと・・・)
 途中まで考えたが、その思考をすぐに断ち切る。そんな不謹慎な事を考えてはい
けない。 自分に叱咤し、キッと表情を変え、帝國華撃団花組隊長のそれへと変え
る。
「解からないわ。今も調査中よ。ただ、とてつもなく邪悪な気を感じるわ」
「アイリスもわかるよ。武蔵の中みたいに気持ち悪いもん」
 アイリスだけでなく、比較的霊力の低い大神にもそれは感じられた。
 降魔の数は20体程。そのうち一体が凄まじく異様な邪気を放っている、今のと
ころ判っているのはそれだけ。不明な点はあるが、これ以上被害を増大してはいけない。やっと復興してきたばかりなのだ。


   ダッダッダダダンッ
「帝國華撃団参上!!」
 色とりどりの煙幕と共に光武・改が現れる。 降魔は花組を新しい標的にし、彼
等を目掛けて突進してくる。大神はすかさず指示を出す。命令を受け乙女達は戦う。
 紅蘭が欠かさず毎日手入れをしていたお陰で動きはしなやかだ。
 まずすみれの必殺技で降魔のある力を出来るだけ減らす。そのあとさくら、カン
ナと共に前線に出し、織姫、紅蘭、マリアを前線のメンバーとコンビを組ませ、それぞれ援護に出す。 アイリスはすぐに隊員を回復出来る様に中央に配置。そして、
「レニは俺と一緒に左後方を片付けるぞ!」
「了解」
 レニは返事をしてくれたものの大神は不安であった。勿論、レニを信頼していな
いわけではない。先程のかえでの話から察せられるに、レニ神不安定の理由が、望んだものでは決してないが、自分にあるのだ。その原因である自分と共に行動を取らせて大丈夫なのだろうか?けれど、彼女が不安定ならば自分の力で彼女のサポートをしたかった。 隊長としての大神一郎ではなく、「一人の男・大神一郎」として。
 レニはいつもより僅かに動きに鈍りがあるものの、次々と降魔を倒してゆく。 大神もすぐに彼女を守れるように必死に戦う。積み重ねた数々の戦闘で培われた驚くべき力を如何なく発揮した。その動きは疾風の如し。 
 左後方には8体の降魔という数多く相手にしなくてはならない。大神はレニのフォローを入れる為、いつもより動き回り疲労が早々と表れる。それでもあっという間に残り2体となる。大神が7体目を倒し、レニが最後の降魔にとどめを刺そうとしたその時、

  ズザザザッ
  先程倒した筈の降魔が不気味な声を出す。蒸気を出しながら立ち上がり、レニに牙を向ける。 例の降魔だ。
「レニ、危ない!!」
「え?」
 大神が叫ぶがレニは動けないでいた。 もう駄目だ、レニがそう思った時、目の
前に降魔の鋭い爪が迫っていた。

  ・・・・・・・・

 数秒・・・しかしレニにはとても長く感じた。痛みが全くない。恐る恐る目を開
ける。するとそこには見事に自分の機体と降魔の間に白い光武がいた。 間一髪のところで庇う事は出来たが、二本の刀を盾にする事も出来ず、しかも背中で攻撃をもろに喰らってしまう。大神機の甲冑に大きな傷がつき、そして大神自身も・・・・・・
「ぐあああっっ!!」
 負傷した大神の叫び声が響く。
「た・・・隊長!!」
 もう一度、降魔が二人に攻撃を仕掛ける。しかし、レニは身体の震えが止まら
ず、大神も動けない状態だ。絶体絶命の危機。
「レニ、逃げるんだ!早く!!」
「・・・あっ・・・あ・・・」

 レニは今度こそ駄目かと諦めた。大神も最早ここまでと思ったがなんとも運がい
い事に、自分達の任務を終わらせてたカンナが降魔の背後に間合いを詰め、渾身の一撃・三十六掌を入れ、続いてマリアがシェルクーンチクを放つ。頼もしい仲間の出現により、危機を脱した。念のため降魔にとどめを刺すべく、大神は力を振り絞って気を練り込み、天狼転化で真っ二つに降魔を切り裂く。 ブシュウと煙を出し、耳を劈くような断末魔をあげ、降魔は爆発した。 あとでわかる話だが、この降魔は霊力をかなり込めた攻撃でなくては倒せない相手だったのだ。
「隊長、レニ!無事か?」 
「ああ、ありがとう。カンナ、マリア」
「ふふ、礼には及びませんよ」
「お兄ちゃ~ん、レニィ~!今回復させてあげるからね」
 アイリスもすぐに駆けつけ、二人を回復させる。みるみるうちに傷口が塞がる。
 しかし、実は大神の傷はかなり酷く、いつもと同じ様なパワーだけでは完全には塞がらなかった。酷い痛みがあるが、大神は皆を心配かけまいと平静を装う。
「ありがとう、アイリス」
「えっへへ~、どぉいたしまして」
 大神は刀を鞘に収め、一息つくとレニ元へ行くため光武から降りた。
「レニ、怪我は・・・」
「大神さ~ん!」
 声をかけようとするが、降魔を片付け終えた他の隊員たちに囲まれて行く手を阻
まれてしまう。
「あ・・・・・・」
 レニは胸に変な痛みを覚えながらその様子を少し遠くから見つめる。
「少尉、無事ですの?」
「あ・・・ああ、何とかね」
 レニの側に行きたいが不可能になってしまい、困惑する。その心情は誰一人とし
て気付いていない。
「まあ、少尉さんがくたばってるトコなんて想像できませんけど~」
「あはっ、そうやな」
 いつもなら大神が何かしら答えるが、彼の頭の中は如何にしてレニの側に行ける
か、と言う事しか頭になく、乙女達の会話を全く聞いていなかった。 彼女の事が心配でたまらない。今なら、少しは会話できるかもしれない。そう思っていた。
「アッハハハハ。伊達にいつも身体鍛えてねぇ、てことだな」
 カンナは大神の背中をバシィッと強く叩く。 大神に強い衝撃が走る。痛みを通
り越し、背中が熱く感じた。
「ねぇねぇ、いつものヤツやろーよ!」
「そうね」
 アイリスに促され、皆が集まり始めた。
「あら、カンナさん。手に血がついてますわよ?」
「あり?ホントだ。でも、あたいどこか怪我したっけなぁ?どこも痛くねぇぞ」
 確かにすみれの指摘通り、カンナの手にはベットリと血がついていた。その量か
らして、怪我をしているのならば自分で気付かない訳がない。
 証拠として、カンナの体には傷付いた様子はない。不思議に思っているとマリアが何かに気付き、声をワナワナと震わせる。
「ち、違うわ、カンナ。あなたの血ではないわ。それは隊長の・・・」
「えっ?なんだって!!」
 まさかと思い、一斉に大神の方に視線を向ける。その中でもレニは大怪我をして
いる大神の姿を見て、一際表情が青ざめていった。手を口元に持ってゆき、漏れる言
葉を抑えている。
体がカクカクと震えている。あまりにも酷い姿を間の前にし
て、今すぐここから立ち去りたい気持ちに駆られた。
  大神の背中から血が流れているらしく、白い戦闘服が朱に染まっている。 息を
無理に整え、平静を保とうとしているその姿が何とも痛々しい。  
どうやらカンナが先程背中を叩いた時に、完全に塞がれていなかった傷口がパッカリ
と開いてしまったらしい。とめどなく血は滴り落ち、量は半端なものではない上、一
向に止まる気配はない。 至急治療を受けるように指示が出され、翔鯨丸に運びこも
うとカンナが大神を担ぎ上げる。皆、続いて乗り込むが、アイリスの一言で足を止め
る。
 「あれぇ?レニがいないよ~。レニー、どこぉ?」
  不安そうに辺りをあちこち見回す。どこにもレニの姿、影、気配すらない。その
事に一番驚いた大神はカンナの隙をみて彼女から逃れ、深い傷を負っているその身体
で、レニを探そうと試みる。よろめきながら歩いているところを当然の如く、止めら
れる。
 「た、隊長?!!」
 「ダメです、大神さん!レニの事ならあたし達に任せて、早く治療を受けて下さ
い」
  さくらが慌てて大神の腕を掴む。しかし、その手を振り払い、前へ前へと進む。
他の隊員達も翔鯨丸から降りて駆けつける。
 「・・・いや、俺も・・・探す。レニは・・・お・・・れの、大・・・事・・・な
・・・」
  途切れ途切れに、酷く小さなその声はいつもの逞しい大神のものとは思えぬほど
聞き取れなかった。段々彼の視界はぼやけていく。
 「・・・から、俺・・・レニ・・・を探・・・」
  言い終えた途端、大神の霞んでいた目前は一気に真っ暗になった。
 漆黒の闇の中、大神はただ歩いていた。 すると、闇の中なのに、前方に人影が見
えた。
 不思議な感覚で近くに歩み寄ると、人影の正体は愛らしい笑みを浮かべたレニであ
ることが判った。
「レニ!」
 大神が手を伸ばすと目の前にいたレニがスウッと消える。
 驚いて辺りを見回すと、後方に走り去ってゆくレニを見つける。このままだと何だ
かレニと二度と会えなくなる気がして、慌てて彼女を追かけて細い腕を掴む。 レニ
は振り向き、大神を見つめる。 その瞬間、大神は吸い込まれるような感覚がしたと
共に微動だに出来なくなってしまった。
 レニの頬に一筋の雫が伝っていた。レニは躊躇いがちに、何か伝えようと僅かに唇
を動かした。 愁いを帯びた表情(かお)が大神の心を鷲掴みにする。
 大神は目の前の少女を抱きしめたくなり、再度手を伸ばした時、目の前が一気に明
るくなった。

「・・・ここは・・・?」
 大神は夢と現の区別がつかず、変な気分だった。 頭の中をを整理する。 冷やや
かな部屋に真っ白い天井。硬めのベッドに横たわっている。鼻につく薬品の匂い。己
の身体には包帯が巻かれていて。今自分が置かれている状況を知るのに時間はかから
なかった。   
「あら、気が付いた?」
 肩までのさらっとした茶髪から甘い香りをふわっと漂わせ、顔立ちの整った美しい
女性が顔を覗かせる。・・・かえでだ。
椅子がベッドの横にあることから看病していた事がわかる。 かえではタオルを軽く
濡らし、大神の額の汗を拭った。ほんのりと冷たい感触が気持ちが良い。 
「すみません、かえでさん。迷惑かけてしまって」
「私は構わないわ。ただ、皆心配しているから・・・」
かえでの言葉を遮り、大神は訪ねる。
「みんなは?」
「レニを探しているわ。まだ見つからないのよ。そろそろ暗くなるし、心配だわ。精
神的にも不安定な状態だから、念のため加山くんと数人の月組にも捜査してもらって
いるから、大丈夫だとは思うけれど・・・」
 ここまで言っておいてかえではハッとした。そして、今、言ってしまった事を後悔
した。
「・・・まだ、見つかっていないんですね?」
 がばっと上半身を起こし、ベッドから降りようとした。
「何をしているの、大神くんっ?!駄目よ、まだ寝て安静にしていなきゃ・・・」
 大神の肩を支え、これ以上の行動を止めるのを試みる。
「いえ、行かせて下さい。俺の所為でレニは・・・」
「だからって、その傷で探すって言うの?その身体では無茶よ!それに大神くんの所
為なんかじゃ・・・」 
 大神の顔を覗きながら説得するしかし、彼の目を見たかえではそれ以上何も言えな
くなってしまった。暫しの沈黙。
「・・・わかったわ、仕方ないわね。でも限界と思う前に必ず戻ってくるのよ。無茶
だけはしないでね」
 今の彼を止めるのは何人たりとも無理であろう、そう判断した。たとえカンナの拳
が鳩尾に入ったとしても、紅蘭の爆発で気絶しようとも、恐らく無意識なまま彼はレ
ニを探すに違いない。
「大丈夫ですよ。気をつけます」
 そう言って大神は真っ直ぐかえでを見つめて一礼してから部屋を出た。そのドアを
彼が去った後も暫くかえでは見つめていた。

「少尉さん・・・」
 帝劇を出て少ししたところで大神は織姫と遭遇した。
「寝ていなくて大丈夫なんですか~?」
「ああ。何とかね。それに、レニがいないって思うといても立ってもいられなくて
さ。・・・・・その様子だとまだ・・・」
 織姫はコクンと頷く。 大神はそうか、と言い織姫が来た方向を歩き始めた。
「あの、少尉さん、ちょっち待ってくださ~い。わたし、あなたに言わなきゃいけな
いことがありま~す」
 急いで大神を止める。そして織姫の表情から真面目な話ということがひしひしと伝
わってくる。
「少尉さ~ん。・・・いえ、もう中尉さんと呼ぶべきですね。中尉さん、ゴメンナサ
イ。
さっき、かえでさんに聞きました。何も知らなかったとはいえ、いきなり乱暴な事を
してしまって・・・」
「ああ、その事ならいいよ。気にしないてないから。俺も先延ばしにせずちゃんと皆
に伝えておくべきだったんだ」
 それにあんなに怒るっということは、それだけ織姫がレニを大切に思っている証拠
として出た行動であるわけだから、驚く事があっても、大神が怒る訳も責める理由も
ない。
「・・・中尉さんは、行ってしまうんですね・・・巴里に」
「ああ・・・」
「やっぱりそうですか・・・」
 織姫は淋しげな表情をし、それを見た大神もまた、黙りこくってしまい沈黙が降り
る。が、すぐに織姫がいたずらっぽく笑ってそれを破る。
「中尉さん、つかぬ事を聞きますけど~、中尉さんはレニのこと好きなんでしょ~
?」
「いいっ?!織姫くんな、なな何を突然!・・・そ、それにどうして、そのことを
知って・・・」
 突拍子もないことを発言され、大神は狼狽える。
「ふっふ~ん、わたしを見くびらないでくださ~い。そのくらいわかりま~す。少な
くても感の鋭いマリアさんも気付いてると思いますよ~」
「そ・・・そうか・・・」
 大神の顔がみるみるうちに真っ赤に染まる。耳まで真っ赤になっているものだから
織姫は笑った。
 恐らく、織姫やマリアだけではない。大神の事をいつも見ている彼女達の事だ。他
の乙女達も気づいているであろう。
「・・・で、どうなんですかー?真相は」
「ああ、そうだよ。俺はレニが好きだ」
 さっきの照れたのとは違い、真っ直ぐ織姫を見てはっきりと断言した。嘘偽りのな
い答え。大神の目を見て織姫はにっこりと笑う。
「やっぱりそーですか~。じゃ、レニは中尉さんに任せま~す。そのかわり、レニを
泣かせたらこのわたしが直々に天誅下しますからね~」
「勿論そんなことしないさ。それに織姫くんを怒らせたら怖いって身をもって体験し
たばかりだし」
「もう!そのことは忘れてくださ~い。全くこれだからニッポンのオトコはデリカ
シーないで~す!」
 織姫が真っ赤になって怒るので今度は大神が笑った。
「ははは、ごめん。・・・じゃ、俺あっち探してくるから」
「中尉さん、怪我しているんですから無理はしないでくださ~い。永遠の別れなんて
ゴメンですからね~」
「ああ、分かてるよ。ちゃんと気をつけるさ」
「レニのことお願いしま~す。中尉さんだからレニを譲ったで~す。他の男に取られ
ないよう、ちゃんと守って・・・」
 大神は微笑んで頷いたため、織姫は最後までは言えなくなってしまった。織姫の胸
の鼓動が高まり、それと共に何か鈍い痛みも走る。
「・・・そして、わたしは・・・レニだからこそ中尉さんを・・・」
 小さい声で呟く。無意識のうちに声になったしまったらしく、慌てて口を塞ぐ。
「え?何かいったかい、織姫くん」
「な、何でもありませ~ん。さ、早くレニを探しに行きましょ。わたしはあっち探す
でーす」
 幸か不幸かどうやら大神には聞こえなかったらしい。

     ・・・そして、わたしは・・・二人の幸せを願いたい・・・

 雑踏で掻き消された言葉の続きを遠のいてゆく背中を見つめながら心の中で繰り返
した。
(・・・何をいってるんでしょうね~。わたしらしくもありませ~ん)
 織姫の胸に切ない痛みが走り、瞳からは雫が伝った。   



(あの夢を見た所為だろうか。何だか胸騒ぎがする)
 大神は流石に疲れが出てきて歩き始めていたが、またすぐに走り出した。ゆっくり
てなんてしていられない。あの夢が何か意味あるものなのかまったく関係ないかもし
れないが妙につっかかり、一刻も早くレニを見つけないという気持ちが彼を焦らせ
る。日も落ち始めている。

 浅草など皆で行った場所へは一通り行ってみたが、擦れ違いも有り得るのだがレニ
の姿はなかった。
二人で行った明冶神宮にも足を運んだがそこにもいなかった。このまま帝都中を捜さ
なくてはいけないのだろうか?しかし、レニのためならそれぐらい何でもないと無謀
な事さえ考えてしまう。
 よくこういう時思い出の場所にいるというのは本や劇の見すぎなのだろうか。
    ・・・思い出の場所・・・
 大神はふと、ある場所が脳裏に浮かんだ。
(もしかしたらあそこにいるかもしれない)
 ただ、そこは他の場所よりあまりにも思い出が少ない。二人で浴衣着て祭りに行っ
た帰りがてらに寄っただけの場所。だからレニにとってはそんなに思い出があるわけ
ではないかもしれない。しかし、大神は妙に気になり出した。
 僅かな賭け。
 あの場所に咲く梅の花を見せたくて何気なくレニを連れてきた。美しく流れる川、
羽ばたくユリカモメ。ちょっとした自然の恵みに心が癒される思いをしたのをよく覚
えている。美しい自然の産物に レニは思った通り興味を示してくれ、その風景を見
せた事を喜んでくれた。もう少ししたら桜の花も見事に咲き乱れるから、もう一度二
人でここに来ようと約束をした。
 だから、自意識過剰とも思えるが仄かな可能性を期待した。

 既に日は落ち、星が瞬き始めた頃、大神は例の場所に辿り着いていた。 月が照っ
てくれているお陰で然程暗くはない。

 この場所の周辺を殆ど探してみるがレニの姿はない。やはりここにもいないと諦
め、残った川の方へ向かった。もしここにいなかったら何処を探せばいいのか全く見
当がつかない。それでも彼の性格からして夜通しレニを見つけるまで帝劇には帰らな
いだろう。
 しかし、天は大神に味方した。

 川の方へ歩き出す。その方向約150M程先に銀色のものが木陰で動くのが見え
た。
薄暗くてわかり難いが、それが銀色の髪だとすぐにわかった。 見間違える筈などな
い。紛れもなくレニ本人だ。
「レニ!!」
 大神は無我夢中でその名を呼び走る。大怪我をして、あれだけ走り回ったとは思え
ないほどの気力が残っていた。
 一方レニは名を呼ばれてビクッと肩を竦ませて奥の方へと逃げてしまった。
    バシャッ
 レニは川の中へ足を踏み入れた。そしてどんどん深い所へと歩みを進める。
「レニ!!」
 大神も服を着たまま川の中へ入って行く。
 この季節の水温の冷たさと服が水を吸って思うように前に進めない。だが、それは
レニにも言えることで、海軍で服を着たままの演習を何度もしきた大神の方が一枚上
手であった。レニの肩位の水深のところで追い着く。そして彼女の折れそうな細い手
首を掴み、浅い方へと誘う。
「レニ、帝劇へ帰ろう。こんなところにいたら風邪を引いてしまうよ」
 大神は優しく声をかける。しかし、レニは
「放して!!」
と、強く反抗した。首を振って嫌がる。大神は驚きつつも訊ねた。
「どうしてだい?帝劇に帰りたくないのかい?」
 レニは黙って静かに首を横に振る。
「それとも皆や・・・いや、俺の事が嫌い?・・・迷惑かい?」
「そんな事はない!」
 大きな声で否定した。またも強い口調に大神は驚く。いつも冷静なレニからは考え
られないほど感情が昂ぶっているようだ。
「迷惑だって思っているのは隊長の方なんじゃないの?構わないでよ!」
 大神はレニの手首を自分の方へ引き寄せ抱きしめた。
「なんでそう思うの?俺はレニのこと一度も迷惑だなんて思ったことなんてないよ。
・・・そんな事考えるなんて絶対にない」
 突然抱かれてレニは思わず大神の胸から逃げた。
「だってボクの所為で隊長はしなくてもいい怪我を負ったじゃないか。忠告を聞かず
にミスしたボクをかばって・・・。そんな役立たずに何で構うの?
こんな奴に構っていたら隊長はいくつ命あっても・・・」
「そんなこと言わないでくれ!」
 大神は強い口調で制した。明らかに怒りが混じっている。
「なんていうことを言うんだレニ・・・。頼むからそんな悲しい事を言わないでくれ
・・・。君はもう使い捨ての駒じゃないんだから。
あの時に出会ってからはレニは俺の大事な仲間なんだ」
「けど、その所為で隊長は!!・・・人がよすぎる・・・。傷だってまだ痛むでしょ
? ボクをそこまでして探すイミなんてあるの?連れ戻す意味なんてあるの?なんで
構うの?・・・わからない、わからなくなった」
 レニの瞳からポロポロと涙が零れる。混乱して上手く言葉に出せないが大神に問
う。大神はそんなレニを優しく見つめ、指で涙を拭う。
「忘れたのかい?俺はレニが無事なら怪我なんて何でもないって前に言った事・・
・。理由なんてない。あるとすれば君の笑顔が見たいから。ただ君を守りたいから、
だから守るんだ。それだけだ」
「・・・・・」
「答えになっていないかな。でも、レニ。俺が大切なモノを守りたいと言う気持ちは
君にも解かっているはずだろ?それと同じさ」
 大神はレニの頭を髪を掻きあげるように優しく撫でた。
「・・・うん。でも、やっぱりごめんなさい・・・ボクは・・・隊長のいない帝劇に
なんて居たくない・・・」
「・・・え?」
「・・・行かないで、隊長・・・」
 小さい声で聞き取りにくいが、大神の耳にははっきりと聞こえた。レニは確かにそ
う言った。それが今のレニの本音。 
 大神の方こそたった一人で全く知らない異国の地へ赴くのだから心細いのは自分だ
けではない、いや、最も心細いのは大神なのかもしれないということはわかってい
る。 反対に、レニの側には花組が、仲間がいるのだが。 
「ボクには・・・隊長がいない日常なんて考えられないよ・・・っ」
 レニの瞳から新たな涙が溢れてきた。彼女にとって大神一郎という存在はいつの間
にか大きくなっていた。
 失われていた、或いは心の奥に閉ざされていた。その壁であった蝋を溶かし、自分
に色々なことを、人の心の温かさを教えてくれた人。
 そんな大切な人がいつ会えるかわからないところへ行ってしまう。不安がるのも無
理もない。 小さな身体は震え、声もかすれている。
「・・・・・」
 大神は胸がえぐられるような衝動に駆られた。
「・・っれに、それに・・・怖いんだ」
 しゃくりあげて上手く喋られない。それでもそのお陰と言うべきか、普段はこんな
にも自分の事を話さない彼女にとっては一度話したら自分の気持ちを言わずにはいら
れなくなってしまう切っ掛けとなってくれた。 大神の巴里行きが決まってからの自
分の気持ちを素直にぶつける。離れる事の悲しさ、淋しさ、辛さ、全てを。
「隊長が・・・どこか遠くに行ったまま、もう二度とボク達の所に戻ってこないん
じゃないかって・・・」
 レニは尚も続けた。 大神は黙ってレニの気が済むまで気持ちを受け止める。

 この数日間、感情が抑えられなくなって、今まで忘れていた知らない不安なものが
彼女を支配して、何かをする気力は全く起きなくて。
 以来、巴里で降魔のような敵が暴れだして先程のように誰かを庇った大神が死んで
いくという悪夢を見るようになってしまったという。そのシーンを最後にしていつも
必ず目が覚めて全く寝付けなくなり、どんどん衰弱して・・・。
 恐らくさくらの聞いた叫び声、というのは目を覚ました時に発せられているのだろ
う。
「最初はただの夢だって、考えないようにしていた。でも巴里に行く日が迫ってくる
につれて混乱して・・・」
 まるで小さな子供のように泣きじゃくるレニを見ていると、大神は切なさでいっぱ
いになった。
「レニ・・・っ」
 大神はレニの身体を強引に抱き寄せる。
 今度は自分の腕から逃げられないように強く温かく包み込んだ。
「ごめん。俺は君にそんな辛い思いをさせていたんだね。それにここまで思い詰めて
いたなんて気付かなくて・・・」
「そんな!隊長の所為じゃ・・・。隊長が、悪い訳じゃない」
 わかってはいる、大神にはこれから先、何が必要となるのか。
「・・・行って欲しくないし、ずっと側にいてボクに色々な事を教えて欲しい・・・
でも、これはボクのわがままなんだ」
 何より、大神の無事が心配で・・・。
 大神にしても、離れたくない気持ちは一緒だ。けれど、決して口には出さないだけ
で。
「俺は、もっと強くなってレニをちゃんと守れるようになりたい。だから、もう一度
君の元へ帰ってくるまで・・・いや、君を置いて、死んだりなんかしない」
 レニの背中に回っている片方の手を上に持ってゆき、そっと包み込んだ。水の冷た
さに冷え切って、うっすら青白くなっていた頬が大きな手の温もりに段々と色付き始
めた。
「だから、二つ、レニと約束したい。また会えることを信じていてほしい」
「・・・うん。わかった」
 彼の体温に安心しきったのか、レニの目からはいつの間にか涙が止まっていた。 
 大神は「絶対、レニと皆のところへ戻ってくるから」と付け足した。
「レニが・・・好き・・・だ。愛してるよ。・・・今度日本に戻って来たら、二度と
一人にさせない。絶対に君の側から離れないから・・・」
 今まで募らせていた想いを伝える。実際に口にすると声にならなくて、頭に血が上
り、胸の奥が熱くなって思うように言葉が出てこない。それだけある純粋な想い。
「だから・・・レニさえ良ければ、その・・・俺の事を待っていてくれないか?」
「うん・・・。待ってるから。ボクはずっと隊長の帰りを待っているから。ずっと、
ずっと・・・」
 月明かりの下、二つの影が一つになる。

 数日後、伊豆の踊り子の公演が始まった。レニはあの時見せたスランプは嘘のよう
な演技を披露した。ここにはいない遠くにいる彼に届くように想いを込めて踊った。
恋に焦がれるその純粋な少女の舞に人々は感動し、盛大な拍手のもとで幕を閉じた。
 薫は互いに淡い恋心を抱いた相手と別れる事になる。 しかし、観客達に共通した
感想は、「別れの悲しさがあるのに、何故かこれで終わった恋のようには感じられな
い」とのことだった。

 あの日、船を見つめていたレニの瞳はとても真っ直ぐ未来を見据えているようだっ
た。
 この日、彼女の顔はとても柔らかい笑顔で輝いていた。 




     終わってしまった恋がある 
      でも これから始まる愛がある
      別れは決して終わりではない
新たな始まり
  少女は信じて待ちつづける
何にも代えようがない、大切なあの人と再会できる日を・・・
今度戻ってきたらずっとあなたの時間を過ごそう



「やっぱり、レニは笑顔がいっちばんだよ☆ねえ、お兄ちゃん」
「それでこそレニで~す」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【後書き】
 長文を読んでくださった方、お疲れ様でした。これでも短くしたんですけどね。結構無駄な文が多い? そもそも何でこの話にすッ転んだんでしょう?自分で考えたのに、謎は深まるばかりです。 
 突込みどころ満載ですね。かえでさん、抜けてるし〈核爆〉それに川なんぞ入ったら風邪引きどころじゃないですね。隊長、水中に入ったら傷悪化するよ。
 読み返すとこの隊長純情だ・・・。いや、別に大神の旦那がけがれているって意味じゃないです。 


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