桜工房(だったところ)

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#23



 人気のない大図書館の地下書庫の三階――。

 人気がないのは、もちろん時間的な理由もあったが。
 もともとこの地下書庫…それも三階にまで降りてくる者は、ほとんど居ないのである。
 理由は単純、誰も来たがらないのだ。
 まず地下三階までは、降りるのに三十分は掛かる長ーい階段を降りなければならず。
 そうして辿り着いた先は、運動場ほどの広さのある夜よりも深い闇に包まれた空間である。
 そんな中に整然と、高さが数メートルの本棚がずらり並べられているのだが。
 案内表示がなければ、確実に迷う人間が出てくるだろう。

 地下書庫三階――またの名は「地下迷宮」。

「どう? 目的のものは見つかったかしら?」
 薙刀を肩に立て掛けるようにして持っていたシオンは、手に持ったオイルランプを掲げながら、上に向かって声を掛けた。
「まだだよぉー」
 シオンが照らし出した梯子の脚の一つの上で声がして、別のランプの明かりが、首振る仕草を真似るようにゆらゆらと揺れた。
 その隣のもう一方の梯子の上の明かりも、同じように横に揺れる。

「確かに案内表示のお陰で、目的の本があるという棚は直ぐに見つかったけど…。この収められている本の数は、異常ね…」なぞのシスターこと、マヒロはうんざりしたようにつぶやく。
「私もそう思うよぉ」
 隣で一緒に本を探している相方の声がする。
「そもそも私は、古の文字なんて読めないのよ。一体、どうやって探せばいいのやら…」
「大全ってくらいだから、かなり厚い本だと思うけど…。とりあえず厚い本が見つかったら。私に見せてください。なぞのシスターさん」
「え、えぇ…」
 マヒロは勢いであったとはいえ、奇妙な名前を名乗った自分を呪った。
「あ、これはどうかな…?」
 マヒロはそれまで見たものの中で、一番分厚い本を手にとった。
「どれどれぇ…、こっちにランプに表紙を照らし出して見せて?」
「どうぞ」マヒロはいわれた通りにした。
「うーん、残念でしたぁ。それは違うものだよぉ。『子供にも使える魔法の呪文事典~挿絵つき』
だって」
「はぁ? なんじゃそりゃ…」思わず本音が口から飛び出た。「…あ、いや、何ですか。その奇妙なタイトルは?」
「タイトルの通り、子供でも呪文を魔法が使える呪文がびっしりのっている事典だよ」

 二人の話を聞いていたシオンは再び声を張り上げた。
「ねぇ、その事典落としてもらえない?」
「え?」マヒロは少し意外そうな声を上げた。
「退屈なのよ。字は読めなくても、挿絵が付いた作品なら楽しめそうだわ。だからそのまま下へ落としてちょうだい」

 マヒロは、シオンに聞こえないように小さなため息を吐いてから言われたとおりに、事典を下に落とした。

 ばさばさ……。

 シオンは落ちてきた事典を余裕で片手でキャッチした。
 そして、早速ぱらぱらと中を見始めた。

 案の定、事典の内容は挿絵しか分からなかった。それでもなかなか見ごたえがあり、シオンにとってはいい時間つぶしが出来た。

 シオンが一通り挿絵を見終えたころ、それと同時に上の方で叫び声が聞こえた。
「あったぁー! あったよぉ、『異界大全』!」
「ほっ…。なんとかここまで来た甲斐があったわ…」マヒロは安堵の息を漏らした。

「でかしたわ! さぁ、それを持って合流するわよ!」シオンは上に向かって叫ぶ。
「はーい」
「やれやれね…」
 上の二人がゆっくり梯子を降りる度、ぎっぎっと梯子がきしむ音がする。

 しかし、その喜びもつかの間だった。

 背後から忍び寄る殺気を感じとったシオンは、ゆっくりと振り返り。
 薙刀を片手で構える…。

 やがて闇の中から、シオンのランプの明かりに照らされて、人影が現れた――。


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