桜工房(だったところ)

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#8


#8 アフロの挑戦状


 ため息をつきながら教室へと引き返すダイス。
 と――、

 モサッ!

 と突如、何やらやわらかいものに、ダイスはその顔を突っ込んだ。

「!?」
 慌ててその物体から顔を離し、後ずさるダイス。
 彼が顔を突っ込んだものは、黒い綿菓子のようにもこもことした球体だった。
「――ん?」
 振り返るその物体の下には、顔があった。
 黒いサングラスを掛けていて、あごには焼き海苔のようなヒゲがついている。
 そんな顔が見えて、ようやく黒いもこもこの球体がアフロであることが判った。

「あ、あなたは――?」
 アフロヘアの男の言いようのない威圧感に、ダイスは息を呑む。
「君は確か――、Gクラスの生徒だったな?」
「は、はい? あなたは確か隣り――Hクラスの・・・」
「うむ、オレの名前はソージン。Hクラスのクラスリーダーをしているものだ。まぁ、気軽に『アフロン』と呼んでくれたまえ!」
 そう大きな声で言う、ソージン。

 ダイスは、まじまじと彼の顔を眺め――本当に自分と同い年なのか、と心の中で首をかしげた。
(見た目、随分とおっさ・・・いや、精悍な感じがするが・・・) 

「えと。あ、はい。で、そのアフロンさんがうちのクラスに何か?」恐る恐る尋ねるダイス。
「君のクラスのスポーツ祭典実行委員に用があったのだが・・・」
「え? あぁ、ミオさんのことかな?」
「そう・・・。確か、そんな名前だったな――」とソージンは、サングラスを駆けた目で廊下の窓の方を見る。サングラスで見えないが、遠くを見つめるというような様子だった。
「??」つられてダイスもそちらの方を見た。

 窓の向こうに見えるものは、青い空と、町並みだけ。
 特に面白いものはなかった。

「――どこにいる?」おもむろにソージンは言った。
「へ? あ、ミオさんですか?」
「そうだ」ソージンはダイスを見て、大きく頷く。
「彼女は孤児院に住んでいるから、来るのは遅いよ・・・?」
「では、クラスリーダーはどこだ?」
「シオンさん? 多分、部活の朝錬だと思うけど・・・。彼女は、合気道部と薙刀部、それと馬術部にも入っていたかな? だから今日はどこにいるかは、ちょっとわかりませんね」
「ふぅむ。やむを得ないな・・・」
「は、はぁ・・・?」
「では、君が今回はGの代表者ということでよろしいかな?」
「え? あぁ、伝言かなにかを受けるということですか?」
「そんなところだ」ソージンは頷く。
「わかりました。どうぞ」
「うむ、しばし待て・・・」とソージンは突如、ズボッと自分のアフロに手を突っ込む。

「!?」唖然とした顔をするダイス。

「おぉ、これだ・・・」ズボッとアフロから取り出した彼の手には、一通の書状が握られていた。
 書状には「挑戦状」と墨を使った達筆で書かれていた。
「ちょ、挑戦状――!?」ダイスは突きつけられた書状に目を丸くする。

「そうだ! 聞けば昨年、我がHクラスは、惜しくもGクラスやEクラスに敗れた聞く。今年はオレが転入してきたことで、Hの士気も充分に高まっており。『打倒、GクラスとEクラス!』をスローガンに大々的に掲げたいと思うのだが・・・。
 そんな我々の志を是非とも、Gの代表者に伝えておきたいと思って、今日参上した。出来ればGクラスのエースと聞く、パワフルガールか。あるいはクラスリーダーに直接手渡ししたかったのだが。不在とあれば仕方ない。代わりに君に受け取ってもらおう!
 さぁ、受け取りたまえ!」

 突きつけられた挑戦状を、ダイスは反射的に受け取ってしまった。
「えぅ? は、はい・・・。確かに受け取りました」
「うむ。受け取ったな?」
「え?」ダイスは何やら嫌な予感がした。「えぇと、これをミオさんに渡せば良いんですね?」
「何を言っているんだ? オレの心をこめた挑戦状を手にしたのは君だろう?」ソージンはムッとした顔をする。
「はい? えーと、まぁそうですけど??」
「では、何も問題はない。今、この瞬間からオレと君は、スポーツ祭典で競い合うライバルだ!」
「えぇー!? ちょ、ちょっと待ってください!!」
「そうだ! 我がライバルよ! 名前を教えてもらえるかね?」
「えと、ダイス・・・」素直に答えてからダイスは激しく後悔した。「あ、いや、そうじゃなくって!」
「ダイスか――良い名前だ。では、我がライバル、ダイスよ! お互いに良い勝負をしよう!」
「ちょっと人の話を~~!」

 と、慌てて声をかけるダイスだが。
 ソージンには聞こえていない様子で、無理やりそのごつい手でダイスの手を握って握手をした。

「では、さらばだ! 我がライバルよ! ワッハッハッ!」
 アフロヘアを翻すようにして、ソージンは自分のクラスの方へと引き返していった。

 一人、廊下に取り残されたダイスは、ガックリとその場に座り込む・・・。

「はぁ・・・。なんで、こう面倒なことが次から次へと・・・」

 落ち込む元気もすっかりなくなってしまうダイスだった・・・。



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