桜工房(だったところ)

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#14


#14 トレーニング第三日目

 キラキラと輝く水面――そこは聖エルダー学園の屋外プールである。

 先日のディルスのゴムボール・トレーニングの受けが悪かったらしく、この日のトレーニングに参加したGクラスの生徒は、少し女子が少なめ・・・。
 一方で、思春期だからだろうか。何か淡い期待を胸に抱いているようなGクラス男子たちは、ほぼ全員参加であった。

「ほな、はじめるで~」
 ぴちっとボディラインをかたどるような学園指定のワンピース水着を着たモエが、メガホンを片手に号令をかける。
「スポーツいうたら、持久力。スタミナや。体の負担を少なく、持久力をつけるには水泳が一番。というわけでやな~みんなには今日、ひたすらここで泳いでもらう。ええな~?」

 クラスメートの声があちこちで起こる。

「むふふ・・・。眼福、眼福」鼻の下を伸ばしたような顔をしながらオペルは呟く。
「顔がいやらしいぞ、オペル・・・」ダイスは額を抱える。
「何を言うか! レベルの高いGクラスの女の子たちの水着姿を見て、お前はなんとも思わないのか!?」
「シー、シー! 声がでかい!」
 ダイスは慌ててオペルの口をふさいだ。

「なお、泳ぐのが苦手だという人は遠慮なく、うちにいってや? 今日はみっちり教えてあげます。あ、あと・・・。ミュウちゃんとミオちゃんには、ライフセイバーやってもらうんで、よろしゅうな~?」
「みゅ? えと、わかりましたぁ!」と張り切った様子を見せるミュウ。
「OK!」ミオは親指を立てた手をモエに向けた。
「ほな、泳ぎに自信ある人から。プールの中へ――」
「ダ、ダメだよ! まずは準備体操をしなきゃ!」ミュウが慌てて指摘する。
「おお~、せやせや。失礼しました。ほな、準備体操はじめ~! まずは脚の筋肉をよく伸ばす体操からいくで~。イチ、ニィ、サン、シ・・・!」

「ゴ、ロク、シチ、ハチ・・・!」
 モエの指示に従って体操をするシオン・・・。
「あら~~? シオンさん~~?」
 やはり他の人よりも数テンポ遅れながら体操を続けるミキは、シオンを見て首をかしげた。
「なにかしら?」
「う~~? シオンさんて~~、泳げました~~?」
「・・・泳げません! 泳げなくて悪かったですわね!」
「あ、う~~。そ~~ではなくて~~。私も、泳げないので、一緒に頑張りましょ~~といいたかったんですよ~~」
「あら、それはごめんなさい・・・。私もね。本当は泳ぎたいんですの。今日は良い機会だと思って参加したんですよ・・・」
「そうでしたか~~。私は、どうしたことか浮くのは得意なんですけど~~。なかなか前に進めないんですよね~~」
「はぁ、そうなのですか・・・」
 とシオンは、体が動くたびに大きく揺れるミキの大きな胸と、自分の決して小さいくはない自分の胸を何度も比較した。

「ニィ、ニィ、サン、シ・・・。ゴー、ロク、シチ、ハチ・・・」
 いつものポニーテイルを解いて、長い髪を残らず突っ込んだ水泳帽が今にも破裂しそうなカナエ。その隣りにはほとんど同じような姿をしたハルカと、どうしたことかエレンの姿もあった。
「エレンさんが、こういうのに出てくるの珍しいねぇ」
 とカナエがいうと、エレンは無表情のまま答える。
「ちょっと・・・涼みにね」
「あぃ、一緒に頑張ろ~? エレンさん!」ハルカは満面の笑みを作って言った。
「・・・何を聞いているのハルカ、私は涼みに・・・」
「まぁまぁ、いいからいいから」とカナエは悪戯っぽい笑みを浮かべながら言う。
「あなたたち、人の話は聞いていてもらいたいわね・・・」エレンは眉間にしわを寄せる。

「ちぇ~。昨日のトレーニングの受けが悪かったとわなぁ・・・」
 体操をしながら、ディルスは不満そうに言った。
「誰彼、構わず、お前本気で投げていただろう・・・だからだ」
「え・・・?」
 と、ディルスが声の方を向くと、そこにいたのは制服姿のシューだった。
「あれれ? 何であんたがここにいるんだ?」
 ディルスは珍しいものを見たという顔をした――実際、かなり珍しいのだが。
「・・・ちょっと通りかかったんだ」シューは真顔で答える。
「嘘付け」ディルスは即座に言った。
「・・・」
「無視するな!」
 だが、ディルスの声を無視してシューはプールから立ち去った。
「・・・変な奴だな」
 ディルスは何となく面白くなさそうな顔をしながら、シューを見送った。

 準備体操が終わり、Gクラスで泳ぎが得意なものから一斉に泳ぎ始める。

 バシャバシャバシャ・・・!

 と、水しぶきがそこらじゅうで舞い上がり。笑い声も起こる。
 みんな季節の早い水遊びをみんなで楽しんでいるようだった。

 その一方で、1コースではモエ・コーチによる水泳教室が行われていた。

「ほな、まずはうちの泳ぎを見てもおうかな。がむしゃらに手足を動かしても、なかなか思うようにはならんものや。しっかりうちの泳ぎを見て覚えてや~」
「わかりました・・・」と多少緊張した顔をしたシオンが頷く。

 プールに入るモエ・・・。
「ほな、いくで~」
 片手を挙げて、モエはプールのコーナーを蹴った。

 ザババババババババババァ・・・!!

「あら~~?」
「ちょ・・・!」

 見事なまでの泳ぎで、他のコースの前の方を泳いでいた人間をあっという間に追い抜いて、対岸のコーナーに辿り着いてしまったモエ。

『早すぎる~~~!』
 水泳教室参加の生徒および、プールサイドのあちこちからモエの泳ぎに対するツッコミが巻き起こる。

 スパン!

 たまたま対岸のコーナーのところに立っていたディルスが、いつものようにハリセンでモエの頭を叩いた。
「お手本になってない!」
「あらま。ほんまやね~。あはは、つい泳ぐのに夢中になってしまったわ」モエは頭をかいた。「ほな、次はゆっくり泳ぐで・・・」
 とモエは、再びコーナーを蹴った。

 スーイ・・・スーイ・・・スーイ・・・

 今度は水中の中を、ゆっくりゆっくりと平泳ぎで進むモエ・・・。

「・・・って、今度は無呼吸かよ!」
 ディルスはハリセンを振り回しながら叫んだ。

「あー本当だ・・・。やっぱりすごいな、モエちゃんは・・・」オペルは感心したように言った。
「なぁなぁ」とダイスは、オペルをつついた。
「うん?」
「・・・とまったぞ。モエさん」
「は?」
 ダイスが指差す方向を見るオペル。

 確かに、コースの真ん中を過ぎたあたりでモエは水中で静止した状態になっていた。

「げ、まさか・・・」
「ミオさん! お願い!」
 ダイスはモエの方を指差したまま叫んだ。

「え? あ、あぁ、OK!」
 と、ダイスの声に反応して。ミオはすぐさまプールの中に飛び込んだ。

 モエほどではないが、力強い泳ぎを見せるミオは、直ぐにモエのところに到達する。
 そしてミオは、モエの体を抱え水面へと持ち上げた。

「ミオちゃん! これに捕まって!」
 と声を上げて、ミュウがムチの先端をミオのほうへと飛ばした。

 シュルル・・・、パシィ・・・!

「サンキュ、ミュウちゃん!」
 ミュウのムチを掴んだミオは、そのままモエと一緒にプールサイドへと引っ張ってもらった。

「どうした、どうした?」とモエが上がったプールサイドにGクラスの面々が集まった。

「うう~ん・・・、むにゃむにゃ・・・」
 モエは、静かに寝息を立てていた。

「・・・眠ってる」と肩を落とすミオ。
「信じられない、泳ぎながら・・・?」ミュウも呆れた顔をする。

 他のみんなも口々に同じようなことを言っては、ため息をついた。

「うーん、これもなんか失敗っぽいな・・・」
「だな」
 遠巻きに見ていたオペルとダイスはお互いにうなずきあった。



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