桜工房(だったところ)

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#17


#17 トレーニング・メニュー

 ミオは悩んでいた。
 いつもの軽い調子で、コーチ役を安請け合いをしてしまったが・・・。

 ――実際、トレーニングなんて何をすれば良いんだろう?

 Gクラスで誰もが認める怪力と抜群の運動センスの持ち主であるミオだが。
 実は彼女のその能力は、特別なトレーニングなどによって得られたものではない――少なくとも、そう本人は認識している。
 いわば持って生まれたいわば、天賦の才であり。
 教えるといっても、何を教えれば良いのか――前の三人のコーチたちのような具体案が、ミオには特に思いつかなかった。

 普通に筋力トレーニングで、腕立て伏せや、腹筋なんかをやるべきか。
 あるいは、鉄アレイやバーベルなんかを使って、ウェイトリフティング何かをしてみるか。
 いずれにしても、マヒロの体操のような華やかさがなく。
 ディルスのような派手さもない。
 元々、モエのような専門的な知識や技術が、ミオには皆無だった。

 ――うーん。これは困ったぞ・・・。

 その日の昼休みになって、ミオはとりあえず大図書館へ向かうことにした。

「あれ? ミオさん! 珍しいねぇ!」
 とミオが着いて早々、声を掛けて来たのはカナエだった。
「珍しいって・・・。ボクだってたまには大図書館に来るよ」ミオは苦笑した。
「えぇ? そうだったっけ?」カナエは驚いた顔をした。
「うん。ボク、推理小説は好きだから」
 と、ミオは彼女を知るものなら思わず「え?」という顔をしそうな意外な趣味があることを告げた。
「あー。そういえば、貸し出しカードで名前を見たかも」とカナエは思い出した。「たまーにだけど」
「うん、たまーにしか借りないからね」ミオはにこにこ笑う。
「それで、今日も推理小説借りに来たの?」
「ううん。今日はさ。ほら、放課後のトレーニングの件でね。何か参考になるものはないかと思ってね・・・」
「あー。そういえば、今日はミオさんがコーチをする日だったね。体操、ボールを避けるトレーニング、水泳と来て。今日はどんなことをするのかなぁ?」
「いやぁ、それがさっぱり」ミオは肩をすくめる。 
「さっぱり? って何も考えてないの?」カナエは目を丸くした。
「うん」ミオは申し訳なさそうな顔をした。
「ど、どうするの!?」
「だから、トレーニングのアイディアを得ようとここに来たの。ねね、カナエちゃん。何か良い本はないかな?」
「何かないかといわれてもなぁ。でもま、このままじゃミオさん以外にもみんなも困るから。私も一肌脱ぐよぉ」
「わぁ、ありがとね。カナエちゃん」

 それから二人は、大図書館内のスポーツ関連の本ばかりが納められているコーナーで使えそうな本を探し始めた。
 探すのはカナエの担当で、ミオはカナエが選んだ本を持ち運ぶ役を引き受けた。
「あ、これはどうかな~?」
「何て本?」
「『一日一力アップ講座』だって、えーと・・・。『一日で筋力を1ランクアップするためのトレーニング方法を判りやすい挿絵付きで紹介――』」
「んじゃ、それも積んで~」
「はいはい・・・」
 カナエはミオのほうを振り向き、唖然とした。
 約三十冊の本を横に積み上げたものを、ミオは左手で一つで涼しい顔をしながら軽々と持っていたのだ。

「ミオさん、すっご~い・・・。惚れ惚れしちゃうような怪力~」カナエは感心したように言った。
「え? そんな・・・」
「前々から、気になっていたんだけど。ミオさんって特別なことを何もしてないのに、なんでそんなに力持ちなのぉ?」
「さぁ・・・? どうしてだろうねぇ?」ミオは首をかしげた。
「生まれつき、力持ちだったの?」
「うーん。そう思うんだけど・・・」
「いやぁ、私はそれだけじゃないような気がするなぁ。何か、ミオさん自身も気づかないような秘密があったりしてぇ・・・」
「秘密って・・・。うーん、本当に何もしてないような気がするんだけどなぁ・・・」
「本当にぃ?」
 カナエは疑わしい目でミオを見た。

「例えばねぇ・・・」カナエはメガネに指を当ててクイッと上げる。「ミオさんって、一日をどんな風に過ごしているのかなぁ?」
「ボク? そうだなぁ、朝起きたら教会と孤児院の掃除をして・・・。それから牛乳配達のアルバイトをして・・・。遅刻ギリギリに全力疾走で登校して・・・」ミオは指を折りながら一日の行動を思い出す。「学校が終わったら、放課後たまに部活の助っ人頼まれたら手伝いに行って。何もなかったら大急ぎで孤児院に帰って。子供たちの面倒を見ることになるねぇ。食事を作るために芋の皮を20kgほど剥いたり――」
 カナエは、ミオの一日のハードスケジュールを聞いて目を丸くした。
「そ、それ。毎日やってるの?」
「うん」ミオはあっけらかんとした顔で頷いた。「え? 何かおかしい?」
「い、いや・・・。大変そうだなぁ、と思って・・・」
「あー。昔はねぇ。でも、続けるうちに最近は慣れちゃったよ」

「うん・・・。それだ!」カナエは確信に満ちた口調で言った。
「へ、何が?」
「トレーニングのメニューを思いついたよぉ!」
「へぇ。そうなの? どんなの?」
「あのねぇ・・・」
 と、カナエはそっとミオに自分の考えたプランを耳打ちした。

 何もそこまで秘密にするほどのことではないのに、ミオは少し可笑しかったが。
 カナエが真剣に話をするので、笑うのは何とか我慢した。

 だが、カナエ考案のトレーニング・メニューは、なかなか魅力的なものだとミオは思った。



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