思い出し書き



思い出し書き・1

 大好きな本があった。
 今では発禁(?)の「完全自殺マニュアル」。
 高校入りたての頃。バイト始めて少ない稼ぎの中からどうしても欲しくて書店にまで注文して買った本。
 その頃からもう既に、普通に店頭には並んでなくて、製造元に在庫確かめて、残ってれば販売。そんな具合に結構レアな本だった。
 別にレアだから欲しいとか、そんなんじゃなくて。
 純粋に、どうすれば人間が死ぬのか。どうすれば自分を殺すことが出来るのか。
 それが知りたくて買った本。

 買った当日に物凄い勢いで貪り読んだ。
 医薬品の成分がどうのとかこの成分をこれだけ体内に入れればどうとか、難しい事はまだ理解できなかった。
 ただ解ったのは、本当に人間が簡単に死ぬ「イキモノ」だってこと。

 もうこの頃は自分もリストカットを始めていて、毎晩の様に風呂場で手首に剃刀当てて洗面器の水を真っ赤に染めて笑い泣きしてた。
 手首を切って死ぬには、今切ってるよりもっともっと深く切って、神経も腱も一緒くたに、いっそ手首を切り落とす勢いで切り付けないと確実に死ねないと解った。

 ……もっと思い切った切り方をしないと人間は死なないんだと解った。
 物凄く正論な分、安心したけどがっかりした。
 きっと自分はリストカットで自殺は出来ない。

 この頃につけてたオフラインの日記にはその日に切った傷の数が毎日毎日書いてあった。血文字もあった。
 本気で死のうなんて本当に考えてない、ただのあーぱーの日記だった。
 途中で途切れて三ヶ月坊主位でその日記は終わっていた。この頃から一つの事続けて行くの苦手つーか出来なかったんだなとか。

 Coccoの歌を朝から晩までBGMにしていた記憶。
 気付くと「白い狂気」を口ずさんでいる自分。
 本当は、ずっと裸足だったつもりでいて、実際は底の厚いブーツで何を踏んだか知らない内に沢山のもの踏みつけにして、だから沢山転んでいたんだと思う。
 踏み荒らした薊野は、振り返ってももう見えない。


 ところで、この本を読みたいと云って来た当時のバイト仲間Sに貸したところ、そいつはその直後店を辞め、連絡が取れなくなってしまった。
 …… 返せ。
 今はまたネットのフリマで買えたから手元にある。
 でも、あれは私が初めて自分の意志で欲しいと思って買って読んで大切にして来た、私のバイブルだったんだ。

 もしこのページを見ていたら、一言でも連絡が欲しい。
 返せないなら、せめて一言謝って欲しい。
 黙って時間の流れに任せて、忘れさせようなんて卑怯な事はしないでくれ。


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