日進月歩

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普通の裂け目・11


…消えない


「うちらもう、親友って言うか恋人じゃんね?!」
「だよね、やーん!」

―いつも表に出るのは“親友”の桧埜。
“憎悪”している桧埜は、心の奥でそっとほくそえんでいる。

―何を言ってるの?
  親友?
  冗談はやめて。

―裏切り者が…
  どの面下げてそんな事いえるの?


どちらも本当の桧埜で
どちらも嘘の桧埜。

桧埜の中には2人の自分が居る。

1人は詩夷を愛しみ
大切に大切に思う“親友”。

1人は詩夷を憎み
馬鹿にしている“憎悪”


何度となく桧埜はどちらかを消そうとした。
消えるのはどちらでも良かった。
どっちも本当でどっちも嘘だから。
どちらかが嘘として消えてくれれば
もう片方が本当になる。

どっちも演じなくて良い。


でも
消えなかった。


そんな心中ぐちゃぐちゃの日々を
ただ2人それぞれを演じながら過ごしていた。


そんなある日の事。
キッカケは突然にやってきた。


「ただいまー。
 次サボるからw」

ギィと重そうなドアを開けて詩夷が部屋へと入ってきた。
読みかけの小説から顔を上げ
「お帰り、お疲れさん。」
と桧埜は微笑む。

2学期ははもうすぐ終わりを迎えようとしていた。
少し前から詩夷は、「ありえない」と称していた教室へと
足繁く通っていた。
毎時間ではないにしろ、冬の厳しさが増すのと比例するように
その回数は増していった。

このクズの溜まり場から。
天秤の上の数字で出来た教室へ。


それがどれだけきつい事か桧埜は知っていた。
それでも、悲しまずにはいられない。

それがどれだけいい事か桧埜は知っていた。
それでも、苛立たずにはいられない。


―私を置いて行くんだね。

桧埜は教室に向かう詩夷の背中を見詰めながら
そっと呟いた。


自分も教室に行こうかと思ったこともあった。
でもそれを、自分が止める。

―今更?

そう、今更…
今更教室に行ったって、居場所は無い。
詩夷とは違う。

そうやって、結局自分に自分で言訳して
詩夷を悪者にした。

―裏切り者。


そんな時、“憎悪”の自分が成長するのが良く分かった。
このまま行けば、確実に“憎悪”が勝つ。
本当になる。

でも、結局勝負はつかなかった。
どちらが嘘になることも、本当になることも無かった。

愕然とした。
やっと気付いた。

―ドチラモ消エル事ハ無イ。

―ドチラモ“本当”ダカラ。


親友である桧埜も
憎悪している桧埜も
どっちも本当。

嘘は無い。
だって、感情がどうあるにせよそれは、桧埜の感情だ。
大好きでも大嫌いでも。
それは桧埜なのだ。
他の誰でもない、柊 桧埜、なのだ。

いいじゃないか、と思った。
詩夷を、大好きな桧埜と大嫌いな桧埜が居ても。
“親友”は大好きだけでやっていけるモノではない。

希結の時もそうだった。
何故だか希結のことが嫌いで仕方なかった時期もあった。
今でも、少しだけ嫌だなと思うところもある。
だけど、結局好きだと思う。

そのままでいいか、と思った。
“親友”と“憎悪”が同居する
へんてこりんなままの桧埜で、詩夷に接しよう。

結局前に出るのは“親友”の桧埜であるかもしれないけど
そのうち話そうと決めた。

―貴方の事大嫌いな私も居るよ。


詩夷がどう思うかは知らない。
だって、桧埜は詩夷ではないから。
詩夷の感情は分からないから。

でも、どう思われてもいい。
本音を言えたことを、きっと誇りに持てると思うから。

本音を言える人を持てた事を、きっと誇りに思えるから。


<Production by世古月 柚>

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