システムエンジニアの晴耕雨読

システムエンジニアの晴耕雨読

2017.03.25
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弘文堂

2012年刊


 海外在留邦人数・・平成27年(2015年)10月1日現在の131万人。

 日本人の1%が海外で暮らしています。

 この数は、日本の小さな県に匹敵する規模になる。

 外国の大都市には、日本人向けの医療機関はあるものの、それは身体面に対してものであり、

 メンタル面に対しては、医療過疎地域といえます。





 「いつもの生活からの変化」を、英国の学者、Munford DBは、「カルチュラル・ディスタンス」と表現した。

 「カルチュラル・ディスタンス」とは、情動的な反応を引き起こしうる自国文化との隔たりを意味する。

 この隔たりとは、気候、服装、言語、教育、食物、宗教、物質的満足度、余暇の楽しみ、家族関係、

 婚姻形態などにおいて顕著に認められる。

 「カルチュラル・ディスタンス」が大きい場合、短期旅行者にとっては、自文化との違いを楽しむことができる。

 しかし、長期生活者となると、より多くの苦悩感が伴いやすくなる。 



○在外生活でのセリフケア

 在外勤務におけるセルフケアの基本は、以下の8点である。

1.赴任前の現地情報収集と周到な準備

 期待と現実とのギャップは適応阻害因子の一つである。

 赴任前に生活情報と勤務情報を把握する作業を怠ってはいけない。




 赴任当初の新鮮な驚きや感激は徐々に薄れていき、さまざまな不平不満を向ける対象を探し、

 やがて異文化を受け入れて落ち着くというものである。

 批判期に自分を客観視できると、受容期を早く迎えることができる。


3.ストレス要因を整理

 在外生活には目に見えるものも見えないものも含めて多様なストレス要因がある。



 労働環境は大きく左右されるため、在外勤務を一般化することには慎重でなければならない。

 これらを上手に整理することで解決策がみえてくる。

 とくに駐在員の場合、赴任地の生活全般にわたるストレス要因と、職場内部のストレス要因を

 混同しないことが整理のコツである。


4.生真面目、几帳面、頑張り屋は要注意

 大きな心的負荷がかかるとポキッと折れる傾向が高いタイプなので、焦り、自責感が募ってきたら

 一息入れることだ。

 仕事を一人で抱え込むと組織全体にも迷惑をかかることになる。

 よくいわれるホウレンソウ(報告・連絡・相談)の原則に立ち返ることも大事である。


5.心身のストレス反応への気づきと対処

 自分のストレス反応に気づくという感性は、家族や同僚のストレス反応への気づきにもつながり、

 適切な対処を可能にする。

 早期発見、早期対応は心身の医療に共通する原則である。


6.適度な距離感をもった人間関係

 狭い邦人社会においては愛憎が倍増するという社会病理を知り、あらかじめ調整できる気遣いが

 お互いにあれば、無用の対人葛藤やハラスメントを防ぐことができよう。


7.現地および日本に支援者をもつこと

 孤独対策はきわめて重要である。

 われわれの複数の調査からも、精神健康にとって支援者の存在が大切であることが示されている。


8.文化的感受性をもち、なおかつ文化的差異を超越できること

 カルチャー・フリーの立場である。

 異なる文化の特性への理解力と感性をつねに高める姿勢をもち続け、その上で

 カルチュラル・ディスタンスを客観的に受け入れることは、自らのストレス反応の気づきを

 高めてセルフケア能力を向上させることにも通じる。




○こころのヴァイタルサイン

 身体面について、医師が健康の目安とするのは、

 体温・脈拍・血圧であり、これらをヴァイタルサインと呼ぶ。

 どれか一つが異常であっても、健康の維持に支障をきたす重要な身体兆候である。

 これに対して、こころのヴァイタルサインとは何だろうか。

 それは診察室で挨拶代わりに使われる、

 「ぐっすり眠れますか」「おいしく食べられますか」の2つの問いかけである。

 この問いに加えて、

1.愛する対象があるか

 対象は、老若男女、イヌ、ネコ、トカゲでも、映画でもスポーツでも

 公序良俗をクリアするなら何だってよい。自分が夢中になれる対象があるかどうかが

 大切である。

 精神不調になると趣味を楽しむ余裕がなくなる。


2.自分の居場所があるか

 そこにいて心地よい場所があるかどうかである。

 しかし、居場所感とは物理的な環境のみを指すのではない。

 孤立した生活環境にあっても、こころの中に支えてくれる人の言葉や揺るがぬ信条があればよい。


3.今の自分に満足しているか

 こころの健康度を測るあたって感度、信頼性ともに高い簡単なキーワードは満足度である。

 英語でいう「well-being」が最も近い概念である。

 「健康で幸福で繁栄している状態」のこと。


4.仕事と私生活とのバランスはよいか

 ワークライフバランスのことであるが、

 駐在員の生活とは赴任先での生活そのものが仕事であることもある。

 問題なのは、「望まない」長時間労働である。

 創造的な仕事には強い動機づけと裁量権が求められるが、それに費やす時間だけをみると

 著しい長時間労働と判定されてしまう。

 それでも、健「幸」な人生を送る先達は多い。 





 中国の場合・・

 北京:
 1.VISTAクリニック(維世達診所)

 2.北京大学第六医院

 3.北京天衛診所(通称:龍頭クリニック)

 4.北京インターナショナルSOSクリニック

 上海:

 ・上海復旦大学

 ・上海衛生中心



<目次>
第1章 海外生活とこころの危機
第2章 事例と見立て・対応
第3章 各都市の取り組み
      米国・ニューヨーク      森真佐子・バーンズ静子
      米国・ワシントンDC     重村淳
      米国・サンフランシスコ   伊藤圭子・本間玲子
      カナダ・バンクーバー    野田文隆
      タイ・バンコク         井村倫子
      シンガポール         鈴木満・小川原純子・山中浩嗣
      インドネシア・ジャカルタ  久津沢りか
      スリランカ・コロンボ     嶋﨑惠子
      中国・北京          勝田吉彰
      フィリピン・マニラ       宮本悦子
      フランス・パリ         太田博昭
      英国・ロンドン        鈴木満
      スウェーデン・ストックホルム 渡辺雅,愛子・ルンデクイスト
      西アフリカ・セネガル    田中和宏
      北アフリカ・アルジェリア  吉田常孝
      東アフリカ・エチオピア   吉川潔
第4章 在外生活でのセルフケア
第5章 適応の向こう側





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最終更新日  2017.03.25 22:01:23 コメントを書く


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