ハジマリノ歌 29話「戦争と平和の狭間」


「ちょっとー、もう十分以上遅刻してるのよ!早くーっ!」
家の外から大声で叫ぶ女の声が聞こえる。
「ちょ、待てって!ネクタイが締めれないんだよ。喪服なんて着た事ねぇし」
呼ばれていた男が言い訳がましくそう言った。
そこに一人の喪服姿の男が部屋の中に入ってきた。
「レオン、お前ネクタイも締めれないのか・・・?」
「アロウ・・・。いや、恥ずかしい」
「騒がしいと思ったらマリアが叫んでるし、話を聞いたらお前がまた遅刻って」
部屋に入ってきたのはアロウ・ワークだった。
彼はあの後軍の抜け、一般人となっていた。
外で叫んでいたのはマリア・ロザリオ。
そして、ネクタイ一本も締めれないだらしのない男とは、レオン・クラインの事だった。
「いっその事、一緒に住め、お前ら」
「冗談はよしとけよ。まだ早いって」
アロウにネクタイを締めてもらい、やっとレオンも外に出れる格好になった。
「もうっ!絶対みんな待ってるよ」
「悪い悪い。急ごうぜ」
「場所を間違えるなよ?角のカフェだぞ」
「それくらい判ってるよ・・・」
レオンはアロウから目を逸らして言った。
「(絶対嘘だ)」「(絶対嘘ね)」
アロウとマリアは呆れ返った。

集合場所のカフェには、すでに集まるメンバーが集合していた。
「なぁにやってたんだよ、遅ぇって」
そう言ったのはレイジだった。
「悪ぃ悪ぃ。ネクタイ締めるのに手間取って」
「しっかりしてよねー」
マリ=ド=メディシスが続いて言った。
「まったく、呆れるな。あれから三ヶ月が経ったのと、白龍隊長が亡くなって一ヶ月が経つからって集まったのに」
アロウがため息をついて言った。
白龍はあの後一命を取り留めた。
しかし今から一ヶ月前、体内に閉じ込めている白龍の封印が解けそうになった。
そしてそれを止めるため、彼は自ら命を絶った。
レオンたちは、何故自分たちに相談してくれなかったのか、と悲しみに暮れていた。
「まぁまぁ、一応集まれたわけだし。先にトール王子に会いに行くんでしょ?あっ、もう王様か」
トールはその後バレンシア王国と同盟を結び、それを成功させた功績と王家の名の下に国王に任命されていた。
「おう。多分旧王宮跡で作業指揮してると思う。そこに行こう」
レオンたち一行は旧王宮跡地に向かった。

トール・ロンドは王宮の解体作業を見届けていた。
「名残惜しいか。そりゃお前が育った場所だもんな」
彼に話しかけてきた男がいた。
「リカードか。まぁな。だがここには戦争で散っていった人たちの為の慰霊碑と墓地が建てられる。それでいい」
トールに話しかけたのはリカード・マルサスだった。
彼は一度国に戻り、勝手に他国の戦争に介入した事を謝罪し、軍を解雇された。
そして行き場をなくしたリカードを、トールが誘ってくれたのだ。
ちなみに、バルドル・ヘルモードとパレ=ロワイヤルはリカードの工作によって、戦争に介入した事自体が表に出なかった。
「おーい、トール!」
そこにレオンの声が聞こえてきた。
「レオン」
あれから互いに忙しく、殆ど会っていなかった。
「久しぶりだな。今から白龍隊長とノヴァの墓参りに行くんだが・・・、無理そうだな」
「あぁ、すまんな。この後も仕事が残っているんだ」
「リカードは?」
「俺はトールの側近だからな。傍を離れるわけにはいかない」
「そうか。じゃあお前らの分も済ませてきてやるよ」
「あぁ、頼んだぞ」
レオンとトールは笑顔をかわし、別れた。
「もう三ヶ月が経ったのか」
「まだ三ヶ月しか経ってないんだよ」
トールとリカードはその場を後にした。

街の郊外にある墓地にレオンたち一行は到着した。
本名の判らないまま死んだ白龍と、ノヴァ・ワグナーの墓標の前に全員が立った。
といっても、ノヴァの死は曖昧なモノだった。
それどころか、あの王宮で戦い、敗れ散った人物全員の死がはっきりとしていない。
カディス軍元総帥であり、反逆者であったミハルド・オドアケル、その側近だったクロ・トロンベ。
そしてノヴァ・ワグナーの死体、もしくはその一部がひとつたりとも見つかっていなかった。
しかし、あの状況で生きていることはまずない。
最初はレオンも墓を建てたのは反対した。
が、最終的には彼の死を受け入れ、墓を建てた。
「今は平和です。隊長やノヴァが守った世界は守られています」
レオンが墓前報告をした。
「そしてこれからも俺たちが守り続けます。絶対に」
他の面々も頷いた。
「忘れませんから、みんな」
そう言って、それぞれの墓標の前に写真を置いた。
それは生前の白龍も車椅子姿で写っているものだった。
これを撮ったのは、戦いが終わって数日経った頃だった。
一同は黙祷した。
そして、一番最初に目を開いたレオンは、頭上に広がる青空を見上げた。
「またな、ノヴァ」
レオンはポツリと独り言を言った。

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