ハジマリノ歌2 Story1「悪のない世界」


世界は手と手を取り合い平和への道を歩み、戦争のない世界を築いてきていた。
カディス・バレンシア間の友好関係を発端に、世界的に互いを認め合う世間になっている。
世界の先導者となったカディスであるが、一つ大きな問題を抱えていた。
『ボルドー独立王国』。
ボルドーは大戦後新たな指導者の下、閉鎖的な国になった。
外からの介入を許さず、自らの信念を突き通す。
依然ボルドーは多くの戦力、兵力を保有している。
その国家思想を生み出したのは、紛れもなく前大戦だった。
世界的戦犯者として後世に名が轟いている『ミハルド・オドアケル』の共犯者で、ボルドー国軍総帥であった『ソフィア・セロ』の影響だった。
敵国のトップである人間の精通した人間が、危うく国を滅ぼすきっかけになりかけたのだ。
他が信用できなくなるといっても無理はない気がする。
それを考慮して、他国はボルドーに鎖国的国政をやめるよう無理強いを出来ないでいた。
しかし今日、その状況を変えるきっかけとなりうる事が行われようとしていた。

ボルドー独立王国・南門前、二人の人物を乗せた車が停車した。
それに乗っていたのはカディス王国国王『トール・ロンド』と側近兼護衛の『リカード・マルサス』だった。
今日、ボルドーの最高権力者である人物と国交問題の会談を開く為にやって来たのだ。
門兵が確認を取り、車を門の中へ招き入れる。
そして、街の一番奥にある城の前で停車した。
トールはリカードにドアを開けてもらい、それから車から降りた。
彼の到着を待っていたボルドー兵に迎えられ、城の中に入った。
「俺の話、受け入れてもらえるだろうか・・・」
「大丈夫です。我々は我々の思いをボルドー側に伝えるだけです」
弱気のトールをリカードが励ました。
そうしていると、今日の会談相手のいる会議室の前に着いた。
ボルドー兵がノックをすると、中から声が聴こえた。
兵が扉を開ける。
「ロンド国王が到着なさいました」
そしてその兵士がトールとリカードに部屋の中に入るよう手で扉を押さえて中に迎え入れた。
部屋の中には若い男が一人いた。
二十代半ば、もしくは後半ほどに見える。
肩くらいまで伸びている茶色の髪の毛で、ボルドー政府の制服を着ている。
「よく来てくれました、ロンド国王。お久しぶりです」
「お久しぶりです、ハーネス議長司令。貴国との国交回復の為の世界の代表として今日は来たんです。労は惜しみません」
『ミリアルド・ハーネス』
大戦後ボルドーを治めた張本人であり、今回の会談で要となる人物だ。
彼は政治家であり、元軍人という事もあり軍のトップの人間でもある。
「そうですね。まぁお掛けになって下さい」
ミリアルドに言われ、トールは見た目から高級感を感じさせるソファーに座った。
リカードはその斜め後ろに立っている。
「用件は、と訊くのもおかしな事ですが。どうぞ、お話下さい」
トールはそう言われ話し始めた。
「もう三回目ですし、同じ事を言うようになりますが、まず第一に他国との国交を再開していただきたい」
ミリアルドは黙って聞いている。
「大戦中に起こった事象に対しての対応という意味は解っています。ですが、それでは周辺国との関係も―」
「そうですね。二回目の会合から我々も幾度と会議を開きまして。そこで、すぐにとはいかなくとも前向きに検討しようという結論に達しました」
それを聞いてトールの表情が変わった。
「本当ですか!」
「えぇ、本当です。カディス王国の国王殿から直々に説得されているのもありますし、我々もこのままではいけないと思ったのです」
ミリアルドがそう言った。
トールは思わず立ち上がった。
「ありがとうございます!出来る限りの支援はさせてもらうつもりです。共に頑張っていきましょう」
「お礼を言うのはこちらです。ありがとうございました」
そして二人が握手を交わそうとした時、会議室にあった電話が鳴り響いた。
部屋の中にいた全員の視線がそちらに向けられる。
とその時、外で銃声が聞こえてきた。
一発ではない、何発もロケット花火が破裂するように。
ただならぬ空気が周囲に流れる。
差し出した手を一度引き、「すみません」と言ってミリアルドが電話に出た。
「どうした、何事だ」
『た、大変です!!軍内部より多勢の反乱者が!!う、うわああぁぁあぁぁ!!―――』
電話の相手の叫び声を最後に電話が切れた。
「反乱だと・・・?」
「ハーネス議長司令・・・、これは・・・」
トールがミリアルドに何かを訊こうとした時、リカードが口を開いた。
「この会合を狙っての事か。それとも何か別に・・・」
「とにかく、あなたがたの避難が優先です。おい!ロンド国王をシェルターへ!!」
ミリアルドが兵士に命令した。
トールとリカードは兵士に連れられて部屋を出て行った。
「チッ、反乱とは小癪なマネをしてくれる。いいか!一人残らず殺せ!俺に楯突いて生きられると思うなよ」
ミリアルドが全兵に聴こえるよう、城全体に放送で呼びかけた。
そこに一人の男が部屋に入ってきた。
「ミリアルド、お前も早く避難しろ。俺が援護してやる」
「フレイか。すまんな」
その男の名は『フレイ・クヴァシル』、ボルドー国軍大佐だ。
ミリアルドとは古くからの仲である。
「もうすぐそこまで迫ってきている。急ぐぞ」
フレイに連れられ、彼も部屋を出て行った。

シェルターを目指し、トールたちは走っていた。
その時、通路の横から反乱者と思われる人物が飛び出してきた。
「反逆者め!」
トールたちを先導していた兵士がそう叫び、銃を抜こうとした。
しかしその前に、逆に撃たれて殺された。
「なっ・・・」
「チッ、こいつ・・・」
リカードがトールの前に出る。
だが、反逆者は彼らに向けて攻撃を仕掛けてこなかった。
それどころか、その人物はこう言ってきた。
「ご無事ですか、ロンド国王!」
トールとリカードは驚いた。
ボルドー内部で反乱を起こした者が、トールの安否を気遣ってきた。
「は・・・?」
「どういう事だ。お前たちは一体―」
次の瞬間、銃声が鳴り響きその反乱者が二人の前に倒れた。
「それはこちらが訊きたいことですな、ロンド国王」
そこに現れたのはミリアルドとフレイだった。
「さっき出くわした反逆者が叫んでいました。カディスの為にボルドーは滅びねばならぬと。ロンド王が全てだと」
その言葉にさらに驚かされた。
「そんな、馬鹿な・・・」
トールはただ絶句した。
「これがカディスのやり方ですか」
「違うっ!」
トールは強く否定した、がすでにそれは聞き届かなかった。
「ソフィア・セロの時と同じではないですか!またカディスに!!」
ミリアルドも銃を抜いた。
「まずい!」
リカードがトールを連れ、走り出した。
「お、おい!逃げてどうする!俺たちは何も―」
「あのまま突っ立てたって、あれに撃たれて殺されるだけだ!!」
リカードがそう言った。
すると、後ろから銃声が聞こえ始めた。
「逃がすな!あの二人を捕まえろ!!殺しても構わん!!」
その叫び声がトールの耳にも聞こえ、もう何がなんだか判らなくなっていた。
「どうして、こんな・・・」
走っている二人の前に、数人の反乱者が現れた。
リカードはそれを見てさらに加速した。
「お、おい!」
「大丈夫だ。あれはさっきも撃ってこなかった」
彼の予想通り彼らは二人に向けて銃を撃ってこなかった。
「だが、そんなことをしたら余計」
「生きてここを出ることが優先だ!背に腹は変えられない」
確かに、彼らに妨害してもらう他、先に進むことは出来なかった。
それも功を奏してミリアルドたちの追跡から逃れることが出来た。
ミリアルドとフレイは撃ってくる連中を一人残らず撃ち殺した。
「逃げられたか」
「まぁいい。これは国際問題だ。我々は武力を持って攻撃をされた、カディスによって」
「・・・」
「奴らは撃ってきた。これは急迫不正じゃないか」
フレイは唖然とする。
「確かにそうだが・・・。だが―」
「世界の目が気になるか?ならばこの光景を見せ付けてやればいい。世界に、カディスの脅威と卑劣さを」
ミリアルドは相当怒りながら軍事基地へと向かって行った。

司令の突然の登場に、兵士たちは驚いていた。
「いいか、我々もこれで一矢報いねばならん。全世界に本国の状況を映像化して流せ!そして中継基地各所に通達!いつでも出撃できるよう戦闘配備を怠るなとな!!」
司令室から声が聴こえてくるのに気付き、フレイも部屋の中に入ってきた。
兵士たちは「大佐まで!?」といった風な表情をしている。
「ミリアルド!戦争は悪だ。最後にはツケが回ってくるぞ!」
するとミリアルドはフレイの方を向いて言った。
「もうこの世界に悪はない。己が信じ、正しいと思ったことは正義となる。聖戦だよ、これは」
ミリアルドは本気だった。
「さぁ、お前も部下の元へ戻れ。クヴァシル隊は本国基地の最終防衛網に配置してやる」
フレイはもう言われるがままに動くしかなかった。
友といえ、上司と部下。
こういう時の指示は絶対だった。

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