日韓夫婦の心の旅もよう

日韓夫婦の心の旅もよう

趣味は自転車こぎ


 魅力的なコースが満載で、親切なことに、初、中、上級とレベルごとに紹介されています。
「いざとなったらおりて押せばいいじゃない、ワシはこのコースが行きたいんじゃ!」

 上級・奥多摩コースをひた走りました。
 やがてアスファルトの道も終わり、山の中の道なき道を担いで登りました。一枚の大きな岩盤は、担いで登れませんから自転車を分解して運び、
(やりゃーできるじゃん!)
 などと、ひとりほくそえんでおりました。

 なにせ超初心者ですから、本に記されている目安の時間をずいぶんオーバーしています。山道を下るころには、あたりは暗くなろうとしていました。
「やばい」
 日ごろの運動神経のなさを忘れ、山道を猛スピードで走りました。片側斜面ははっきりいってガケです。
 山道を4分の3ほど走ったところで、惜しくもタイムオーバー。ついにとっぷりと日が暮れ、まっくらになりました。
(山に泊まるか? ムリして山を歩き回るのは危ない)
(しかし明日は会社がある。明るくなってから脱出したのでは遅刻は必至。そんなことは許されない)
 元職場の会長は毎日職員の出勤状況を電話でチェックしています。


(ま た 会 議 で つ る し 上 げ か・・・)


 こちらの恐怖に軍配が上がりました。
「山を出よう!」 
「必ず戻ってくるからな」
 私は愛車に固い約束を交わしました。

 愛車から、ライトと方位磁石付のベルをはずし、地図を見ました。
(この方向が一番民家に近いだろう)とあたりをつけ、そろりそろりと山の斜面を降りていきました。
 しかし、人に踏まれるのはおそらく初めてであろう斜面はとても厳しく、穴といってもいいくぼみに何度も落ちて、転びました。
 斜面の勾配がとてもきついため、足の親指に全体重がかかり、痛くなってきました。
 やがて向こうに人家の光が見えてきました。一時間ほど歩いたでしょうか。ついに山の斜面を降り切ったのです。

 民家は私の背をはるかに越えた石垣の上にありました。石垣には草がボーボーです。
 もう私には登るという選択しか残されていません。
 今度はとにかくよじ登りました。
「すみませーん」
 声をかけてしばらくすると、同じ年ぐらいの夫婦が出てきました。

「水 を く だ さ い―――!!」

 このとき一番欲しかったのが水だったのです。水をいただいたあと簡単に事情を話し、奥多摩駅までの行き方をたずねました。
 この家の方はたいそう驚かれ、駅まで車で連れていってくれました。

 翌日、私は無事出勤し、後日、約束通り愛車を拾いました。
 足はあざだらけで青や紫のヒョウ柄となり、左足の親指の爪は出血のため真っ黒になっていました。
 ヒョウ柄足を披露したこともありますが、一部の人にちょろっとしゃべった遭難話はあっという間に広まってしまった次第です。

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