Ｌｅｔ’ｓ　ｓｈａｋｅ　ｈａｎｄｓ！

中学１年

もう、見守ることしかできなかった。
入学して、間もなく、体操服が無くなった。「お母さん、いくら探しても体操服がない」と息子は言う。「まだ、一回か二回しか使ってないじゃない。どこかへ置き忘れたのか、とにかく探してよ」と息子に言ったものの、体育の授業で困るのは我が息子…。出てくるまでの間でも体操服なしではかわいそうと思い、すぐスポーツ店へ注文しに走った。とりあえずしのぐ。
知り合いの保護者の方から、クラスで息子がいじめられているという連絡あり。クラスの子にちょっかいを出されたり、残飯を背中に入れられたりと…。悲しかった。悔しかった。すぐ、学校へ行き担任先生に話しを聞きに行った。
担任の先生は、息子のまわりでいじめが行われていることをすんなり認めた。嘘であってほしかった。どうして…と言う気持ちで一杯であった。
１学期も終わりの頃、体操服が見つかった。息子は「お母さん、出てきたよ」としか言わなかったけれど“もしかして、隠された？”と疑った。
２学期が始まって９月、体育のハチマキが無くなった。また隠されたのだろうかという思いの中、息子に言った。「百円だってお父さんとお母さんが一生懸命働いて貰ってくるお金なの。２、３百円のハチマキ、何本でも買ってあげられるよ。だけど、安いからといって大切にしないのはダメよ。」と言ってとりあえずまたスポーツ店に買いに言った。息子がどこかへ放っておいたとしても、人に隠されたとしても、息子の忘れ物になってしまうことに違いはなかったから…。
２学期のある参観日、他の保護者の方から「○○君の体操服、変なところから出てきたらしいね。娘が、○○君が行ったこともない場所から出てきたと言っていたよ」と言われ「やはり、隠されたのか」とショックだった。息子は何も言わないけれど辛かっただろうなと思った。しかし、担任の先生は、隠した生徒が誰だかわからないと言う。どうしてやることも出来ない。
小学校の時、仲良くしていた友達が、いじめで不登校になったという噂が流れてきた。いじめた方側の生徒と保護者を呼んでいじめられた生徒と保護者に謝罪したというものであった。噂が出た時は、とりあえず解決後で不登校になった生徒は復帰できていた。その時、始めて息子が母親にＳＯＳを出してきた。「お母さん、いろんなお母さん達から、僕のこと聞いているんでしょ。お母さんも△△君のお母さんみたいに学校へ行ったら？」助けてやりたかった。いいチャンスだった。「いろいろ聞いているよ。でも相手のあることなのよ。噂話だけで学校へ怒鳴り込んでいけるわけないじゃない。○○君が話してくれたら、お母さん、今からでも学校へ行くよ」と、息子が口を開いてくれることを期待して言った。しかし、息子は無言で自分の部屋へ入っていった。息子にしてみれば、それだけでも精一杯のＳＯＳだったのだろう。すぐ、中学校へ電話し、担任の先生に息子の言った事を話し「先生、完全なＳＯＳなんですよ」と訴えた。担任の先生は、息子を心配してくれてはいるものの、姿無きいじめっ子をどうすることも出来ず、困っていた。
文化祭を前にして、息子が無くしたハチマキを持って帰った。雑巾のように黒くなり、どこか狭いところに押し込まれていたかのだろう、扇子のようになり、ビリビリに破れ、緑色の付着物…。担任の先生に、見せに行った。「先生、このハチマキふつうじゃないでしょう？漂白しても、白くもならない。普通に放置されていたんじゃないことはわかるでしょ」と訴えた。先生は現物を見て納得はしてくれたものの、誰がしたのか分からないと困ってしまう。
３学期、息子が暗くなっていく。イライラしている。「お母さん」「お母さん」と私を呼ぶ回数が増えてくる。情緒不安定。小さな弟達が騒ぐと怒鳴る、コタツをひっくり返しこわしてしまう、サイドボードのガラスを割るとピリピリしている。弟達はそんな兄に怯え、気を使い「お母さん、お兄ちゃんが悪いんじゃないよ。僕達が騒いでいたから悪かったんだ」と泣いていた。何とかしてやりたい、しなくてはと思うものの、学校の中が見えてこない。担任の先生も、いじめがあることは認めてくれるものの、何が起こっているのか、誰が何をしているのか見えてこないと言うばかりで、何も解決しない。どうすればいいのかわからなくなってしまう。
ただ、息子を信じるしかなかった。乗り越えてくれると信じるしかなかった。
春休み、息子のイライラ、ピリピリがおさまることもなく、『ダメ』と言う言葉に反応を示し出す。「お母さん、駅まで車で連れて行って…」「帰ってくる時間にお母さんはまだ仕事だからいないよ。車より自転車の方がいいよ」息子がキレた。車で連れて行かないということだけで、「だったらいい。講習会行かない」と部屋へ閉じこもる。「お母さん買って欲しいＣＤがあるんだけど…」「自分で参加するって決めた講習会へは行かないし、夜も寝てくれない。ちゃんとした生活をしているんだったらいいけれど、今の状態で買ってはないでしょう。ちゃんとできてから…」また息子がキレた。自分の思うようにならなければ、不機嫌になって部屋へ閉じこもりはじめた。

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