◆ウクライナ侵攻を契機に分断が加速した世界
ウクライナ侵攻は、先進国=グローバルノース(欧米プラス日本、韓国)と発展途上国=グローバルサウスの対立でもあると、先日上梓したばかりの新刊『ウクライナ侵攻と情報戦』に書いた。
そんな中、2022年7月6日、スリランカが破産を宣言した。このことは、懸念していたグローバルノースとグローバルサウスの対立が深刻さを増していることを意味している。
ワシントンポストの記事によると、スリランカの経済状態はもともと悪化しており、時間の問題だったが、ウクライナ侵攻によって崩壊が加速したという。
また、OXFAMのレポートでも、多数の国民が飢餓に苦しんでいるソマリア、エチオピア、ケニアなどでも、ウクライナ侵攻などの危機によって状況がさらに悪化しているという。
同記事ではグローバルノースはウクライナに肩入れする一方で、貧困国への支援を後退させており、それがさらに問題を深刻にしていると指摘している。我が国を見てもウクライナからの難民への対応はよいが、それ以外の国からの難民にはそこまでよい対応ではない。相手国への支援も同様だ。
◆グローバルノースが選んだ選択肢
ただ、助けようにも資源や資金には限りがある。無尽蔵に必要な国に与えることはできない。これは言わば、「ウクライナと発展途上国のどちらを助けるかというトロッコ問題」であり、先進国の国々=グローバルノースはウクライナを助けることをためらいもなく決めたように見える。
もちろん、本当はトロッコ問題ではない。どちらにも支援は可能なのだが、グローバルノースはグローバルサウスへの支援をこれまでも充分にはしてこなかった。ウクライナ侵攻でウクライナに対する手厚い対応と、それ以外の支援が必要な国にしてきたことの差が浮き彫りになった。ロシアや中国はこうした問題につけ込んで、さらに分断と対立を煽るように仕向ける。世界保健機関(WHO)の事務局長は2022年4月13日に、世界は黒人と白人の命に等しく注意を払っておらず、エチオピアやイエメンなどの人道危機にはウクライナに向けられる注意のほんの一部さえも向けられていないと発言した(参照:時事通信社)。これからますますグローバルノースとグローバルサウスの分断は広がってゆく危険がある。
◆日本人には見えない「世界」
忘れてはならないのは日本はグローバルノースであり、多くの情報はグローバルノース向けに作られていることだ。たとえば世界の多数がプーチンを非難し、ウクライナを応援していると思っているが、実際はそうではない。世界人口の多数はロシアの国連人権理事国資格停止で賛成票を投じた国には住んでいないし、対ロシア経済制裁に参加している国にも住んでいない。国の数でも、そこに住んでいる人の数でも多数派は、反プーチンでもウクライナ支持でもない。はっきりとプーチンを非難し、ウクライナを擁護しているのはグローバルノースの国々だけなのだ。グローバルノースの日本にいると、それが世界の多数派のように見えてしまう。
◆陰謀論や極右コミュニティに浸透するロシア擁護論
さらに、反プーチンの国、たとえばアメリカに住んでいる中にも親ロ派は存在する。QAnonのような陰謀論や白人至上主義、極右、反ワクチンなどの反主流派のグループの多くはプーチンを支持している。コロナ禍でロシアがせっせとワクチンにまつわる陰謀論を発信してきた成果だ。そのおかげでウクライナ侵攻と同時に、こうした反主流派のグループは一斉にロシア擁護、反ウクライナの情報を発信しはじめた。
そして、これらのグループは決して少数派ではない。2022年6月22日に公開されたマイクロソフト社のレポートによると、ロシアから発信される陰謀論などのメッセージは、大手メディアに匹敵する浸透力となっていたことがわかった。
アメリカ成人の26%はアメリカがウクライナにバイオラボを設置していたというロシアの陰謀論を信じていたという調査結果もある。
また、共和党の4人に1人がQAnon信者(25%)で、QAnon信者は共和党を肯定的にとらえる割合が高い。
◆加速する分断と先鋭化。そしてそれを煽るもの
世界の武装化と危険の状況をモニターしているArmed Conflict Location and Event Data Project( ACLED)は、2021年1月の暴動の可能性を事前に検知して警告を発していた。そして、2022年5月3日にアメリカ中間選挙に先立って、反主流派の武装化と暴力的イベントについて警告するレポートを公開した。2021年の議事堂襲撃の暴動でもわかるように、アメリカ国内は深刻な危機に直面している。
アメリカ以外の国々にもこうした反主流派のグループは広がりを見せており、日本も例外ではない。
ウクライナ侵攻は、世界にくすぶっていたグローバルノースとグローバルサウスの対立を際立たせた。そして、同時に、ロシアは反主流派のグループを支援し、ロシア擁護の論調を煽った。この実態と仕組みについては、前掲書で言及したのでここでは触れないが、それらは今後の世界に大きく影を落とすことになるだろう。
今後の世界の趨勢はいったいどうなっていくのだろうか。
<文/一田和樹>
【一田和樹】
小説家及びサイバーセキュリティの専門家、明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。I T 企業の経営を経て、2 0 1 1 年にカナダの永住権を取得。同時に小説家としてデビュー。サイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)、『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)、『フェイクニュース新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『新しい世界を生きるためのサイバー社会用語集』(原書房)など著作多数
外部リンク
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