「ミナコの思考回廊」

「24時間の失恋」


「24時間の失恋」


今日は、月も星も見えない・・・。町は静まり返っていた。
時折すれ違う家からは人々の笑い声がして、彼女の姿に驚いた犬が吠えるが、それだけだ。

(夜はあまり好きではない。本当に自分1人きりの世界になってしまうから)

小さくため息をつきつつ、少し俯きがちに歩く。細いミュールから覗く、剥き出しの爪先がやけに白く見えた。

アパートの階段を上がる。



こんな夜は、足枷が酷く重く感じる。

空を飛ぶための翼は、もうなくしてしまった。

私はまた、独りになった。

期待されないのは悲しいね、見放されるのは寂しいね。

私はもう、必要としてはもらえないのかな。

理由がなくても、会いに来てはくれないのかな。

一緒にいて、くれないのかな。



上りきると少しほっとして、不安定な足元をそのままに、廊下を歩く。

廊下は真っ暗で、ぽつぽつと天井にある照明は端が黒く点滅していた。そこに羽虫が寄っているのが分かり、
ああもうそんな季節か、と改めて思う。
ゆらゆら歩くたび、体が闇に飲まれたり、薄暗い光の下に晒されたりする。

ぼんやりとそんな自分を見ていたので、気付くのが遅れた。上着から鍵を取り出して鍵穴に入れながら、ぎょっとする。

廊下の一番端、彼女の部屋のドアの横に、何かいる。それも、大きいものだ。
そこは吹き溜まりになっているらしく、風が吹いても吹かなくても、色んなものが集まった。

ゴミ、新聞紙、枯れ葉、虫、猫、そしてこれは初めてだったが―――人間。

暗がりで顔が見えない。薄暗い照明の光は、もうここまで届かない。


――――沈黙が降りる 「・・・どちら、様でしょうか・・・?」

――――沈黙が降りる 「・・・もう一度。僕と一緒に、いてもらえませんか・・・?」


本当はわかっていた。

顔が見えなくたって、私はもう彼の立ち姿だけで、そのシルエットだけで、かの人とわかってしまうんだから。

知らず私の足元は不安定さを失い、ピシリと美しいラインを取り戻していた。

彼の肩に顔を埋めてくぐもった声で言葉を紡ぐと、彼は喉を震わせて笑った。だから私も、くすくすと笑った。


夜がこんなにも明るい世界だったなんて、知らなかった。



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