電池が切れるまで

1話 「命」の詩…11歳の少女が遺した真実の物語

ジーンズに赤のダウンジャケットを着た川田さとりが、安曇野の道をマウンテンバイクで爽快に走ってくる。

 今日はこの春からの勤務地、信州こども病院・院内学級で始業式と入学式が行われる。
さとりは初めて訪れた信州こども病院で、案内板を見ながら教室へ向かった。
するとパジャマ姿にランドセルを背負った患児が走ってきて、勢いよく衝突!

 元気いっぱいの少年は院内学級新1年生の佐々木翼だ。
とっさに謝るさとりに、屁理屈を言う翼。そこへ赤いバンダナを頭に巻いた橘結花が現れ、翼を諭した。
そんな二人を微笑ましく見送り、ようやく院内学級に到着する。

 そこは教室とは名ばかりの狭い部屋で、黒板の代わりにホワイトボードを使っているような状況だったが、さとりは新しい職場をしっかりと見つめやり甲斐を感じた。
一方、すでに院内学級に務めていた同僚・間宮京太郎は、病気の子供たちとの接し方を事務的に伝えるだけだった。
そこへ日向昌子校長が入室してくる。
日向とさとりは、かつて先生と生徒の間柄。
実は彼女が、開校間もない院内学級のすばらしさを多くの人に伝えるため、明るく前向きなさとりを担当教師に推薦したのだった。
後にさとりは「勉強するより治療に専念したほうがいい」と、院内学級に反対する人物がいることを知る……。

 さて、いよいよ児童たちもにぎやかに集まってきた。
車椅子に乗った子、足に装具をつけた子もいる。
医師の末永誠一、さとりの教え子で看護士を務める水島若葉らも集まった。
あとは新入生の翼だけ……。
そのとき、さっきまであんなに元気だった翼が、教室の外の廊下をストレッチャーで運ばれていった!!

 一瞬、静寂と緊張に包まれる教室。
しかしすぐに間宮が促すようにして始業式が開始された。
戸惑うさとりも気を取り直し、元気なパフォーマンスで挨拶をする。
始業式を終えると、結花はさとりを病室へ案内した。
同室には唯一の中学生、森下薫もいたが、始業式も休んでケータイメール中……。
さとりが話しかけても反抗的な態度で立ち去ってしまった。

 薫と翼が欠席したまま授業が始まった。
院内学級では一人ひとりが別々の勉強をしているため、先生は大忙しだ。
しかも間宮はどこかでサボっている様子。
さとり一人がパニック状態に陥っていると、ボランティアの本条麻衣子が現れサポートしてくれた。
ほどなくして間宮が戻ると、子供たちの机は円形に並び変えられ、真ん中にさとりが入って授業はスムーズに進行中。
さてその授業では、道祖神のことが話題になった。
さとりは道祖神について「みんなが健康で、幸せに暮らせるように守ってくれる守り神」と解説。
「安曇野の道祖神を全部回ると願い事が叶うと言われている」と付け加える。
その言葉に、結花は真剣に耳を傾けるのだった。

 中庭では、薫がまたケータイメールをしている。
病院の外にいる友達にたわいもないメールを送り続けているが、返事は一通もない。
携帯電話使用禁止の入院生活が長いせいだろうか……。
いらだちを覚える薫。
そこへさとりが現れ、欠席している院内学級への登校を促していると、末永医師に見つかり二人とも怒鳴られてしまう。
薫は今ウイルスに感染しやすい状態で、中庭にいては危険なのだ。
さとりは子供たちの病状を記録している院内学級患児連絡帳の存在を見落としていた。
状況を知っていれば、すぐに病室に帰したはず。
「風邪ひとつが命取りになる。児童だの生徒だの言う前に患者なんだ」と末永に突き付けられ、落ち込むさとり。

 その傍らでは、結花が母親からの電話を受けていた。
妹が発熱し来られないという連絡に「大丈夫」と微笑むものの、ひと気のない場所で涙をこぼす結花。
そんな様子を心配したさとりが帰り際に病室に立ち寄ると、いつものように明るく、うさぎのオモチャで幼い朋子をあやしていた。
スイッチを入れると鼻を動かし、かわいらしく動くうさぎ。
しかし突然、その動きが止まってしまう。
結花は切れた電池を見つめるのだった。

 その夜、娘の世話を夫に任せた結花の母親が訪問してきて、1週間もの外泊許可が出たことを結花に伝える。
しかし、これは最後の外泊。
医師からそう宣告されていた母親は、給湯室で泣き崩れるのだった。

 ある日、さとりと間宮は翼の病室へ呼ばれた。
そこには医療機器につながれた翼が意識なく横になっている。
言葉を失うふたり。
両親はフォーマルスーツを着て、ビデオを回し始めた。
末永が両親からの依頼を受け、翼が楽しみにしていた入学式を行うというのだ。
日向が物言わぬ翼にお祝いの言葉を贈ると、さとりは耐えきれずにその場を飛び出してしまう。
その様子を見てしまった結花は、寝る前に何かを書き留めた……。

 翌朝、結花の姿が消えた!

 さとり、末永、間宮、若葉、麻衣子が、安曇野の街を懸命に捜索。
雪が降りしきる中、さとりの目に、神社で倒れている結花の姿が飛び込んできた!
「病気治るよね、あたしも、薫お姉ちゃんも、翼も、みんな、みんな治るよね。あたし、死にたくない。嫌だよ、先生」と途切れ途切れにささやく結花。
かけつけた末永が抱きかかえ、病院へかつぎこんだ。

 病室では薫が、さとりの持ち帰った結花のデジカメを見ている。
そこには道祖神と結花が何枚も写っていた。
そしてさとりは、結花の枕元から一枚のチラシを見つける。
裏には「命」の詩が……。

電池が切れるまで

さとりは結花が処置を受けているICUにかけより、ガラス越しに泣き叫ぶ。
「結花ちゃんの電池、まだ切れてないから!」


2話 さよなら結花ちゃん 最後の約束

「道祖神を全部回ると願い事が叶う」という、さとりの言葉を信じた結花は、無断で外出し危篤状態に!

 ICUに運び込まれ懸命な処置が行われていた。
その間、さとりと麻衣子は院内学級で「命」の詩を読み、詩の重さに打ちのめされてしまう。
しばらくすると「峠は越えた」との報告が!

 事件の発端が自分にあることを謝るさとりに対し、末永は「謝るのは簡単だ。
失敗したらまたやり直せばいい。
けどな、ここにはやり直しのきかない子供たちが大勢いるんだ」と厳しく忠告するのだった。
そんな末永が気に入らない間宮は、ドクターの責任だと詰め寄る。

 翌朝。院内学級の必要性に疑問を感じ始めたさとりは、気落ちしていた。
そこへ恩師である日向校長が現れ「クオリティ オブ ライフ」の心を説く。
「あなたを待っている子供が一人でもいる限り、行きなさい」と背中を押され、ようやくいつもの笑顔を取り戻した。
しかし今日のさとりは神経質だ。
子供が咳をするだけで過敏に反応し、かえってけむたがられてしまう。
間宮や麻衣子からも、心配しすぎと呆れられてしまった。

 病室では、薫が外泊の準備をしている。
せっかくの外泊だというのに、いつものように母親やさとりに対し反抗的な態度をとるばかり。
そんな彼女も結花の容体は気になるようで、ICUの中をじっと見守るのだった。
そして、結花にも外泊の許可がおりたのだが……。

 結花が外泊する日の朝。
さとりは、永遠に時を止めたいという思いで結花を強く抱きしめた。
そんなさとりの気持ちに気付かない結花は、いつものように明るく、さとりたち一人ひとりに手紙をわたす。
外泊から帰ってきた薫の枕元にも、結花からの手紙が。
「きっといつか、道祖神を全部回るから。みんな、元気になれるから」というメッセージに微笑む薫。
一方、佐々木翼には脳死の告知がされた。
まだ温かい我が子を触って「こんなに柔らかいんです!」と叫ぶ母親。
脳死であっても体は温かいため、親は死を受け入れることができない。
そんな気持ちをくみ取った末永は、翼親子が楽しみにしていた院内学級の授業を行うようさとりに頼む。
しかしさとりは「脳死の子供に授業なんて……向き合うことなんてできません!」と逃げてしまった。

 そこへ、容体が急変した結花が運び込まれてくる。
「…こ…わ…い…」とささやく結花の手をしっかりと握る両親だったが、次の瞬間、心停止を告げる音が鳴り響く。
末永たちは必死の処置を続けたが、両親から「楽にしてやってください」と言われ、その手を止めた。
さとりは半狂乱状態に。
しかし両親は「結花……よく頑張ったね……ありがとう……」、「……お父さんとお母さんの子に生まれてくれて……ありがとう」と、優しく結花に話しかけるのだった。
結花の目から一筋の涙がこぼれた。

 病室では患児たちが涙を必死でこらえていた。
大人たちは、それぞれに結花からの手紙を開き、最後までせいいっぱい生きようとした少女からの言葉に涙を流した。
「間宮先生へ。さとり先生と仲良くしてね。
それから、あんまり、煙草を吸いすぎないでね」
「麻衣ちゃんへ。今度、ケーキの作り方教えてほしいの」
「大好きなさとり先生へ。道祖神のことを話してくれたから、結花は、絶対、元気になれるって希望が出ました。ありがとう」
「末永先生へ。結花の病気、絶対に治してね」……。

 翌朝。沈んださとりが院内学級へ遅刻していくと、そこには、いつものように無邪気な笑顔でいっぱいの子供たちがいた。
戸惑いと同時に希望を感じたさとりは「命が疲れたと言うまでせいいっぱい生きなくちゃね、逃げちゃいけないよね」と自分に言い聞かせるのだった。
そして、幼なじみの耕太と一緒に900はあるといわれている道祖神めぐりへ繰り出す。

 ある日、さとりは翼の病室を訪れて授業を始めた。
「初めまして。今日から君の担任の先生になる川田さとりです。最初の授業は国語です。翼君に聞いてもらいたいステキな詩があります」。


3話 小児病棟の恋・・・・私生きる!

最近、院内学級の子供たちは些細なことでケンカをしたり、「こんなマズいの食えねーよ」と食事を残しては悪態をついたり。
どうもイライラが募っている様子。入院経験のある麻衣子は、そんな子供たちの気持ちを察していた。
一番いい季節なのに、子供たちは病院に閉じこめられた“カゴの鳥”。さらに結花の死も影響しているのではないかと……。
そんなふうに教室の雰囲気が乱れている時期に、新入生の沢渡真耶が入学してきた。しかし真耶はなじめず、半べそをかいて病室に帰ってしまう。

 さとりはそんな子供たちを元気づけようと遠足を計画。
相変わらず間宮には頭ごなしに不可能と決めつけられ馬鹿にされるも、一人ひとりの体調に合わせた遠足を模索し、医師、療法士、栄養士らと交渉を重ねていく。
この計画の進行ぐあいを若葉と話していると、会議室で窓の外を眺める薫がいた。
視線の先には、安曇野南中学の男子陸上部員がランニングをしている。
最近の薫はこの窓辺にいることが多い。どうやら窓越しの恋に落ちているようだ。

 そして翌日、なんと薫が密かに想いを寄せる男子生徒・小川治人が、ケガした友人に付き添って病院にやってきた!

 ロビーのソファーで絵本を読むふりをする薫に治人が気付き「よく見てんだろ、2階の窓から」と声をかけてくる。
同じ陸上部の薫は治人と会話を弾ませ、着メロの音楽を録音したMDを借りる約束までした。
さとりと若葉は、そんな二人の様子を微笑みながら見つめていた。

 窓越しの恋が急展開した薫に、新たな気持ちの変化が・・・・忘れがちだった薬をきちんと飲むようになったり、鏡に向かって髪の毛をといたり、真耶に付き添う形で院内学級に出席するようになったり。
そんな時、薫は末永から「再生不良性貧血」と、本当の病名を告知される。彼女が真剣に治療に臨むためには、病気の自覚が必要と判断されたためだ。
事前の臨床心理士の診断の結果、薫は心の中では末永を信頼していることがわかっていた。
しかしドナーが見つからなければ、退院はできないと知った薫は動揺。寝付けずに涙を流すのだった。
この告知を若葉はさとりにも知らせようとするが、末永は「必要ない」と切り捨てた。

 一方
さとりが悪戦苦労しながらプランをたてた遠足は、多くの人の協力を得ていよいよ出発進行!

 その遠足とは、病院内の施設を訪問するというものだ。
最初は興味なさそうにしていた子供たちだったが、初めて見る病院の舞台裏に目を丸くして大喜び。
まるで基地のような中央監視室、シーツを機械で次々洗う洗濯室、コンピュータで管理された薬局、大きな鍋で食事を作る調理室などをめぐり、大勢の人が自分たちを支えていることに気付く。
そして遠足も終盤にさしかかった頃、廊下には約束のMDを薫にもってきてくれた治人の姿があった。
しかし薫は受け取ろうとせず「帰って」と踵を返してしまう。

 調理室まで逃げてきた薫は「あんな元気で幸せそうなヤツ、ムカつくの! ドナーが見つからなかったら、私死ぬんだよ!」とさとりに食ってかかる。
そこで初めて、さとりは薫が本当の病名を告知されて悩んでいたことを知る。
興奮した薫はそばにあった包丁を手首に向けた!

 今の薫はかすり傷ひとつが命を奪う。「来ないで!」と叫ぶ薫に構わず近づいていくさとり。
「薫ちゃん、生きるのが怖い? 結花ちゃんは、死ぬのが怖いって言ってた。……もう嫌だよ……薫ちゃんまでいなくなるなんて……」と、さとりの心からの言葉を聞いた薫は、ようやく手から包丁を放した。

 その後さとりは、院内学級の生徒が告知を受けるときは知らせてほしい、子供たちの不安や戸惑いを共有したいと末永に頼んだが、「うぬぼれるな」と吐き捨てられてしまう。
悔しいが何も言えないさとり。しかし一方で薫は大きな壁を乗り越えていた。
ベッドアイソレーターに入る前に治人からのMDを受け取り、さとりには「私、生き続けたいから」と自分の決心を語るのだった。
そして他の子供たちの遠足効果は出てきたようで、食事も残さず食べるようになり、以前のような活気を取り戻してきた。
そして遠足を遠巻きに見ていた子供たちが「院内学級に入りたい」と、狭い教室にドッと押し寄せるのだった。

電池が切れるまで

電池が切れるまで
http://www.tv-asahi.co.jp/denchi/index_top.html




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