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イスティスの隠れ家
蒼き石の物語 -アウグスタ前編-
『蒼き石の物語』-アウグスタ前編-
蒼き石の物語 1『序章』
破壊はどこにでもあるものだ・・・
この世界ではそれは日常。どこでも目に入る。
だが・・・・
それはわかっちゃいるけど、正直この燃え盛る家を目にすると気がめいる・・・
フランテル大陸の極東地方。
農業と交易が発展した文化の中心地。
ここに「RED STONE(レッドストーン)」に関する伝説が生まれたのは500年くらい前だ。
空から落ちてきたという伝説の赤い石、
実際にその石に触れたものは無きに等しい…。
不老不死と莫大なる富を生み出すといわれるこの石を
求めて、何人もの冒険者が生きる意味の全てを失った…。
そして、あたし、ことイスティス=カイサーはこの世界では異邦人だ。それは後々語るとしよう。
青い首飾りを弾き、アリアン産の煙草をくゆらせながら、あたしは目の前にいる生物たちを見やる。
レッドストーンが空から飛来し、その頃から魔物は活発な行動をしているらしい。
大都市に近いブンド川でも時折凶悪な化け物たちが現れるようになった。
そして、その化け物たちは人を襲う・・・意味もなく、殺す。
私の後ろには人だったモノたちと、怯えている小さな女の子がいる。そして・・・
「・・・・」
無言の人型の化け物たち。ただし、遠目にはともかく、近くで見たらただの悪趣味な泥人形だ。それが10かそこらいる。
どうやら、それがこの燃えている家を襲った犯人のようだ。
少女を生かしているのは、その少女自身がが罠だったのかもしれない。
悲劇が人を呼ぶことを知っているのかもしれないな、こいつらは。
だが・・・
「ああ・・・貴様ら」
あたしは一声、人型の化け物たちに語りかける。
「分かっていると思うが・・・貴様らは今から潰す」
悲劇を目の前で見せ付けられて恐怖を覚えるほどあたしは人間できちゃいない。
「とりあえず襲い掛かった奴は潰す」
正直、怒り心頭を通り越している。とっくに。
「鳴くなよ?」
すでに半分まで無くなった煙草を携帯灰皿を取り出してすり潰す。
その動作ひとつにも思いっきり隙を挙げたにも関わらず、化け物たちは襲ってこない。
あたしを計りかねているのか・・・それとも・・・
「鳴いても許さん」
ゆっくりと、背負っていた槍を取り出し、構える。
「鳴く暇もないけどね?」
一閃。躊躇なく、迷いなく、足を踏み出す。
走る。
「去ね」
そして戦いは始まった。
ここは神聖都市アウグスタ。
あたしはここで普段、傭兵と酒場のアルバイトを兼業して生計を成り立たせている。
近郊に広大な農園地帯を有する、宗教色の色濃い都市で、目立った狩場からも離れているため、あまり人気がなく、南西のブリッジヘッドへと人が流入しているが、そんなとこでも大都市に数えられるだけあって人は多い。
古都やアリアンに比べても、見劣りしないのは教会などがあらゆるところで乱立してしまっているせいだろう。
そのせいか、この街では信仰に疎い傭兵はあまり寄り付かない。
「それに、なんだかんだで馬鹿も少ないしね・・・」
傭兵なんてやってると、古都あたりじゃすぐに因縁つけられたりしてめんどくさいんだよなぁ・・・
そんなことをベンチに座って考えていると、眠くなってくる。
そういやまだ昼か・・・
ギルドに依頼されてブンド川にいったはいいが、そこにあったのは悲劇だった。
とりあえずその悲劇の元凶は全部叩き潰してきたが、結局生存者は依頼者の娘である少女が一人。
依頼不成立でもらえたのはスズメも鳴けないほどの小銭のみ。
「まぁ、いいんだけどさ・・・」
一人だけだったとはいえ、依頼者の娘を一人でも助けられたのはよかった。
そんな満足感はあったがお腹はグーグー鳴っている。正直眠くなっているのはここ数日何も食べていないせいだろう。つまり寝たらやばい。
「ヴァー・・・何かいいことないかなぁ~」
と、愚痴っても仕方ない。
そういえば今日は酒場のアルバイトだ。店長を適当に黙らせて(主に打撃で)何か食い物を漁るかな・・・
などと、不謹慎なことを考えていたときだ。
「そこの青い貴女・・・」
うっわ不審者だとりあえずめんどくさいので槍の柄で思いっきり殴りつけてみんとす。
「えい」
有無も言わさず地面と対面した男を改めて見る。
貴族風の恰幅のいい男だ。ってか青い貴女って・・・そりゃあたし全身青い防具つけてるけどさ。
面倒なことになりそうなのでさっさと酒場に向かうことにしようか・・・
「うう・・・」
おお。復活はえー
殴られた頭を押さえつつ、貴族(男)は立ち上がる。
「な、何を・・・」
「黙れ不審者。いきなり青い貴女言われたら誰でもまず殴るでしょーが」
「り、理不尽だ」
いや、ごもっとも。でも悪いのはあなたです。
「で、何の用よ? 変態行為したいなら古都でも行ってこい」
「・・・依頼を・・・したいのだが・・・」
「はい。お客様何でしょうか? あらあら全身汚れていらっしゃいますわね? とりあえず知り合いの店が近いのでそこにいきませんか?」
にっこりと170度ほど態度を変更して貴族(男)に微笑むあたし。
「え・・・」
とまどったな馬鹿め。こうなりゃあたしのペースだ。
「さっ、さっ。行きましょう逝きましょう」
「字がちが・・・」
「あん?」
「何でもありません・・・・」
そして男の悲劇は今から始まるのだった・・・・あたしはとっくに始まってたわけだけど・・・
蒼き石の物語 2『依頼』
ざわめく喧騒は酒場にはよくあう。
そしてそれ以上にここは情報が行きかう場所でもある。
傭兵が少ないここアウグスタでもそれは大して変わらない。
「へぇ・・・・で、その盗賊団だか暴徒だかをどうにかして欲しい、と?」
「その通りです」
これで何杯目になるか分からない酒瓶を転がしながら、あたしは目の前の貴族(男)を見る。
「今、我が主の領地では大変な問題になっています。それをどうにかしてほしい」
貴族(男)の話を要約するとこうだ。
彼の主である、上流貴族の領地では農耕が非常に盛んで、ちょうど今の時期が刈り入れの時期とのこと。で、まぁお約束ではあるがそんな豊かな土地が性質の悪い連中に狙われないはずがない。それは領主も理解していて、傭兵を雇い上げ、作物輸送の護衛をさせていたらしいのだが・・・そこで事が起こったわけだ。
「よりにもよってその傭兵たちが盗賊の一味だった・・・と」
グビグビとエールを飲み干しあたしは次のエールを注文する。
店長はジトーっとこっちを見ていたが、いつものことだ。気にしたって仕方ない。
「はい。ただし、その首領格の男だけは生かして捕獲してほしいのです」
「・・・・・」
怪しい・・・・カマかけるか。
「それで? なんでそれをギルドではなくあたし個人なんかに依頼するわけ?」
普通こういった大人数を相手にした掃討系の依頼は個人ではなく公社経由でギルドに依頼されるはずだ。
個人で相手に出来る人数なんて、たかが知れている。
魔物以上に倒すのが厄介なのは、悪魔と人間なのだ。
そういった厄介な状況で依頼されるのは個人ではなく、傭兵たちが集まってできた集団「ギルド」だ。
「今回の件は、少々込み入った事情があります」
「へぇ・・・なに?」
「それは・・・」
言いよどむ貴族(男)
「ならこの依頼はなしだね」
そういってあたしは席を立つ。
「・・・・・・」
さて、どうでる?
「分かりました」
「はい、OK。教えて」
そう言ってあたしは顔見知りのウェイターから2杯のエールを受け取り貴族(男)の前に置く。
「実は・・・・」
もう一度要約してみると、どうやらその傭兵たちの首領というのが問題らしい。
詳しい事情は知らないが、領主がそいつをどうしても捕まえたいらしく、ぶっちゃけ他の傭兵はいつでも殲滅できるし、今のところはどうでもいいらしい。
「・・・・悪いけどそれ、シーフのお仕事じゃない?」
隠密行動は苦手ではないけど、それでもこういう探索系の仕事は本職が適任だと思う。
ましてや、なんであたしを選んだのか・・・その基準が分からない。
「貴女の噂は私たちの領地まで届いているためです」
「はん! そりゃろくでもない噂でしょーね」
エールを干しながら、ちょっと威圧してみる。
「ええ、そうですね」
とか余裕っぽく見えるけど、あたしにはその額の汗がよく見えてるぞ?
ついでに敵意も一緒にプレゼント。
「・・・・と、とにかく! この依頼を受けてもらいたいのですが!」
それに気付いたかは知らないけれど、貴族(男)は素早く話しをまとめに入る。
「報酬は?」
その反応ひとつがあたしを楽しませるが、いい加減めんどくさくなってきたので話を進めてあげよう。
「成功報酬として500万。前金で100万お出ししましょう」
そりゃ破格だ。
「ふむ・・・・」
内心では受けてもいい依頼だと思う。実質相手は傭兵"団”ではなく傭兵一人。
行き着くまでは大変だけど、それさえクリアすればなんとかなるとは思う。
あとは・・・
「情報は?」
「出来うる限りこちらから提供しましょう」
「拠点は?」
「こちらで手配させてもらいましょう」
「公社や、あたしが所属しているギルドに連絡は?」
「しないでいただきたい。これは内密に、かつ迅速に処理をしていただきたい」
「あたし一人なのよね?」
「ええ」
ふむ・・・予想通り。では、最後。
「経費」
「報酬の前金に含まれて・・・」
はい、殺意をトッピング。
「!!・・・いえ、別途出しましょう」
あたしに断る理由はなかった。
蒼き石の物語 3『真名の探索者』
金に泣く者は、時にチャンスが到来したとき貪欲になるものだと思う。
それはある意味飢えであり、本能とも言う。
「・・・100万G・・・消える・・・やめて・・・やめて・・・・」
と、いうようにきっと犠牲者が消えることはないだろう・・・
(あたしが消えないから)
などと、酒臭い貴族(男)の悲しいうわ言をゴミ捨て場から聞きながら、あたしはぶらぶらと朝日がまぶしい大通りを歩いて行く。
今日もアウグスタは快晴だ。こんな日はゆっくりと昼寝でもするのが一番なのだが・・
「お仕事は早く済ませましょう~」
とりあえず、酔っ払い状態ではあるが意識はハッキリしているので仕事をすべく、あたしは所属しているギルドに向う。
ギルドに顔出す理由は・・・あとで分るか。
石造りの家ばかりが立ち並ぶアウグスタでは珍しく。あたしの所属しているギルドのある建物は木で作られた木造建築の3階建てだ。
普段別の場所で部屋を借りて生活しているあたしだが、仕事の関係上ここにはよく出入りする。
個人でなんとかなる依頼などは基本ここで受ける決まりだ。
『まぁ、今回みたいなイレギュラーもあるっちゃあるんだけど・・・』
と、入口まで来たあたしは扉に手をかけ、開く。
と、おや目の前に矢・・・矢ぁ!?
「うわぁぁあぁ!!!!!」
すごい勢いであたしに向かってくる矢をブリッチの要領で・・・避ける!!
ごつーん・・・
反り返りすぎて地面に後頭部をいー感じの音が響き、目の前まっくらになる。
「・・・うう・・・」
うめき声をあげながら、あたしは目を開けると、そこはベットの上だった。
うっすらとカーテンから日が差している・・・っていうことはまだ昼か。
っていうか、なんか鎧が脱がされてるのはいいけど・・・鎧下までなくて下着姿ですよ?
「・・・・・っつ!!??」
首飾り・・・首飾りは・・・!?
と、冷たい感触が首元にある。
一安心・・・これなくなったらやばいからなぁ・・・
で、だ。
「むー・・・」
はて・・・そういやあたしなんでここにいたっけか・・・?
と、その部屋のドアから気配。
ガチャ、とドアの開く音と共に、一人の女が入ってきた。
「おや、起きたかバカ」
「あー・・・モアレちん? ってことはここ、ギルドの中か」
顔見知りの顔が出てきてよかった。もしこれでむさい男でも出てきたら喜劇が勃発だ。
男の死亡決定だったな。
「あたしなんでここに・・・?」
「ん~あ~・・・・あれね」
ねむたげな目をした女神官はとてとてと腰につけたトゲトゲ鈍器をゆらゆら揺らしながら近づいてくる。
「ちぇるさんが応援してるなんかのチームが大惨敗したらしくてさ。珍しく朝まで酒飲んで暴走して最後に矢を飛ばしまくってね」
うっわぁ。ギルドマスターエキサイトしてたんだなぁ・・・
「必死にふもふ姉が抑えてたんだけど、一本イスんとこにいっちゃったわけだ」
「・・・すげーとばっちりだわ・・・・」
「まだいいんじゃね? ヒラリンとかはーさんのファミリアが全身穴だらけでさ。さっき教会の医療専門神官に引き渡してきたよ」
・・・哀れだな・・・
「普通暴れるのってイスさんだから、ちょっと対応遅くなっちゃった♪」
「いやいやいやいやいや。そこ♪つけるとこじゃない」
などと馬鹿話してると、そこに布でくるまれた長物(?)を持ったシーフの女性が一人すごい勢いで飛び込んできた。
「おーい。生きてるー?」
「残念ながら生きてるようだ」
「残念だねー」
・・・あたしなんかこの二人に恨み買ってたっけ?
「カイエちん、どうしたの?」
「ああ、そうだそうだ。忘れてた。これ、前頼まれてハノブの鍛冶屋に出してたやつねー」
彼女が布を解いて取り出したのは一本のヴージュだ。
「あ、出来たんだ?」
「うん。さっき鍛冶屋のお使いの人が来ておいてったよ」
さっきまで使っていたクレイブはどうやら別の部屋においてあるらしい。
ヴージュを受け取りつつベットから身を起こす。女ばっかだから下着でも別に気にしない。
軽く片手でぶんぶん振りまわしてみると、以前よりもいい音が鳴っている気がする。
ふむ・・・
「うん。いい仕事だ」
石突きで地面を軽く叩いて確認終了。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
なんだその目は・・・・?
変なものを見る目つきで見てくる二人に話しかけてみる。
「相変わらず馬鹿力だなぁ・・・あと、んなもんこんなとこで振り回すな馬鹿」
「イスさん。私それ、かなり苦労して持ってきたんだけど・・・すごい力だね・・・」
褒めてないな。こいつらは・・・・
ちょっと溜息を吐いて、ふと思いついた。
「カイエちん。この槍の修理代金は?」
「ああ、これのこと? 一緒に渡してくれ、って。お使いの人が」
手渡された手紙らしきものにざっと目を通したあと・・・・
あたしは爆発した。
蒼き石の物語 4『借金』
請求書の中身はこうだ・・・
拝啓
一雨ごとに真夏の近づきを感じ始めてきましたが、貴女様は「きっと」変わりなく
お過ごしのことと存じます。
さて、今回手紙と共にお送りしました商品の修理代金500万Gを、別紙請求書
のとおり請求いたします。
つきましては、ハノブ銀行宛の別紙までに代金をお支払いくださいますよう
お願い申し上げます。
まずは、取り急ぎお願いまで。
敬具
「ってなんじゃこりゃああ!!!!!!」
とりあえずその手紙をグシャグシャにしてみるが、冷静な部分で現実を見ている自分が悲しい。
しかし、500万G・・・やべぇ・・・銀行の残高なんて全くございませんよ?
うう・・・これってやばくないか?
今回の依頼。絶対成功させないと・・・いや、したとしてもあたし干上がった状態は変わらないし・・・ううう・・・・
「イスさんイスさん。何書いてたの?」
カイエちんがそんなことを言ってくるけど・・・こんなの言えるわけがない・・・
「あは、はははは。いや、何もないよ? うん。なーんもない」
「ふ~ん」
そこまでで興味を失ってくれたようだ。モアレちんは多分分かってるんだろうけど。このギルドに入る前からの付き合いだし。
「ああ、そういえばさ」
モアレちんがこちらに話してくる。
「何?」
「さっきちぇるさんが呼んでたよ」
「ああ、分かったよ」
あたしはふと思う。
「服、ちょうだい」
顔に服がぶつけられる。
ここは執務室。といっても、ギルドマスターであるちぇるしーさんがやり手なのかどうか分からないけれど書類関係は全くといって・・・いや、多少はあるみたいだね。
さて、なぜかそのちぇるさんの手に分厚い書類がある。
で、話を聞いていくと・・・
「ってことでさ、イス、いきなりだけど、さっさと冒険者資格とってよ」
って本当いきなりだなおい。
「いやぁ・・・めんどくさいしさ、いいじゃない。ちぇるまま♪」
「そーは言ってもねぇ・・・これ。公社からの要請なんだよね」
公社・・・こと丸久オン公社・・・冒険者という資格を傭兵たちに渡し、昨今問題になっている傭兵たちの悪行を抑制し、また一般の人たちとの橋渡しをしている大会社。
ギルドに依頼が来る場合は、大抵がこの公社絡みの依頼だ。でも数百もあるギルドに仕事がくるっていうのは・・・あまりいい事ではないんじゃないかな?
その依頼の大半が魔物・化け物の被害に関してだからだ。
と、まぁそれはおいといて~
「別にあたしだってあんまり気にしないんだけど・・・これが原因で仕事が減っちゃうかもしれないからねぇ・・・」
「ぐぅ・・・・」
それを言われちゃうと弱い・・・だけどなぁ・・・
「とりあえずさ。特に出生とかそんなのあたしらには関係ないし。二つ名はただだし、戴けばそれだけギルドに来る仕事が増えるかもしれないじゃない」
二つ名。それは公社からある種証明されるもうひとつの名前。
その人の特性や性格に関した物が二つ名に冠せられる。
それはある意味信頼を得ることにもつながり、有名な二つ名を持つ人が所属しているギルドは、それだけ信頼され一般や民間の企業から依頼がきやすい。
でも、とある事情であたしはその資格をとることから逃げている。
「ん~・・・今回も悪いけど、キャンセルってことにしてくれないかな?」
こういうとき、大抵こういえばちぇるままは許してくれるのだが・・・
「今回は無理」
「え~」
むぅぅぅ・・・・おかしいなぁ・・・こういうこと気にする人じゃないんだけど・・・
と、そこでドアの前に気配が・・・
ガチャ、と言う音が響く。
「きたぞ」
副マスターのmyth、ことまいちー。クルネスには似合わないクール系の人・・・だけど、、よくあたしに突っ込まれていろいろ遊べる人だ。
あと、時折見せる茶目っ気がかなり笑えたり・・・と、それはまぁおいておいて・・・
「こんにちは」
と、という声と共にロングコートの男が入ってくる。
って・・・うわぁ・・・そのロングコートってまさか・・・
「『真名の探索者』ヘディンと言います。今回公社から依頼されイスティスさんの二つ名を探しにきました」
にっこりと笑う年齢不詳のその笑顔が怖いよ・・・
で、だ。
「よりにもよって・・・真名かよ・・・」
冒険者は本来その名の通り、冒険を行い、その結果得た儲けで日々の生活を成り立たせるもの。現在は公社や一般から依頼された事をこなし、報酬にすることが主流となっているが。
真名の探索者。それは二つ名を戴くさい、その名を決定する「名の探索者」という職業冒険者では判別不可能と判断された者たちを調べる者。
精神的、また実力とよく分からない方法でその者の真の名を暴き、冠せる者。
だけど確か真名の探索者って、10人もいないエリート集団だったんじゃ・・・・・?
「ということで、さすがのあたしもその人にはな~んも言えないわけ♪」
ああ、そっか。そういや「真名の探索者」は国にも認められていて結構な権力もってたっけか・・・
「・・・・・やべぇ・・・」
「なにがやばいのでしょうか?」
あーもううっさいなぁ・・・この人・・・
「ということで、申し訳ありませんがしばらくご一緒させていただきます」
と、ヘディンさんは頭を下げたところで・・・
「ねぇ、ちぇるまま」
「ん?」
すっとあたしは立ち上がる。
「ちょっとマラソンしてくるわ」
「あいよ」
さすが分かってるぅ♪
出だしは踏み込み。そして体を前へ。
って、おや。なんか体が軽い・・・
視線を移すとまいちーが片目つぶって無唱詠唱魔術のヘイスト。うん、いい仕事。
あたしはダッシュでちぇるままの机の横を走り抜ける。
狙うは・・・窓!!!
パリーンといい音立てて窓はあっさり・・・壊れない!? 窓空けたのか!!??
って、そうすることを見抜かれてたわけか・・・さすがちぇるままとまいちーだ。
このまま脱出かぁ・・・槍おいてきちゃったけど、鎧をつけててよかった・・・
身軽に地面に着地・・・あ、いて。いててて。うう・・・変に窓が割れると思い身構えていたせいで足挫いたか?
まぁ、とりあえずヘイストかかってるし、すぐには追ってはこれないっしょ。
と、ギルドの入り口の前にわんこ・・・って違う。これまた副マスターのふも姉。
「はい♪ いってらっしゃいだワン♪」
この人の口調いっつもこうだよなぁ。
狼人の女性であるふも姉が何か・・・って形からしてあたしのヴージュか、を投げる。って早いってマジで。
「はい♪」というお気軽口調と一緒にでとんでもないスピードであたしの槍を投げつけてくる時点で底が知れない人だよな。
「いってきまーす」
それを受け取りつつ、そしてあたしはダッシュだ。足挫いて痛てーけど、まぁなんとかなるっしょ。
「ヴァー・・・モアレちんにビカブールまで送ってもらおうと思ったけど・・・これじゃ無理か」
しゃあない。これもなんとかしよう。
ああ、でも今日は朝から本当、いい天気だ。
空を仰ぎ、軽くため息と共にあたしは風と一緒に走る。
蒼き石の物語 5『紅い神官』
とりあえず現状を整理しようと思う。
あたしは公園でへたばって飢えをしのいでいるところを鴨(貴族)が葱(依頼)しよって現れたのをいいことに酒場で夜どおしで呑み騒いでゴミ捨て場に残りカス(無一文貴族)を捨てた。
で、モアレちんに古都まで送ってもらおうと、ギルドに行ったはいいがちぇるままの暴走で気絶。寝てない事もあって昼まで倒れていた。
起きたら以前頼んでいた槍の修理が終わっていて、その請求書を見て吹き飛んで、ちぇるままに呼ばれて執務室に行ったら『真名の探索者』がいて、それを撒くためまいちー特性ヘイスト付きで窓からジャンプ。
で、足挫いたけどふもふ姉のおかげで完全フル装備でアウグスタの街を疾走していたら・・・・
「また貴様か『名無し』ぃぃ!!!」
「あーうぜ」
アウグスタの治安を守っている「らしい」修道戦士たちに囲まれてしまったと・・・
まぁ、あたしが音速超過一歩手前の速度で爆走してたら、その際生じた風圧で教会のステンドグラスがパリーン逝っちゃってたのが原因なわけだけど。
謝りにきたらこれですか?
よく見たらこいつら、以前悪人面だとか言って一般人を教会へ連れて行こうとしてた連中じゃない。
むかついて殴ってたらいつの間にか全員伸びてたんだよね。
「またあんた達? ってか、何よその『名無し』、って」
そういうと修道戦士達(全員男)がニヤニヤと笑い出した。
「お前の調べはとっくについているんだ『名無し』。冒険者資格と同義である二つ名を持ってない女」
ああ、そういわれりゃ確かに「二つ名」も「名前」ではあるわけか。
「で、それが何?」
「冒険者資格もないやつがこの神聖なる都市を歩くな!! 見ているだけで不愉快だ」
「そうだそうだ」、とはやし立てる男たち。
どうでもいいがあんたら殴り倒した後、それ見てた人たちにあたし、拍手喝采をもらったのだけど?
どうやらこいつらは以前から色々因縁つけてこの街で暴れてきていたらしい。
それでも神聖なる都市の守護者かよ・・・と、ため息を吐く。
今回はあたしに非があるが、それでもさすがにこいつらに黙って連れていかれたんじゃ洒落にならない事になりそうだ。
「叩けばいくらでも埃が出てきそうだしな・・・とり押さえろ!!」
周りを取り囲んでいた男達が、一斉に腰に差した剣を抜く。
確かにその通りだ。
あたしはヴージュを包んだ厚い布を外さずに、ゆっくりと、軽やかに回す。
あたしは、少なくともあんたらの数倍は悪いこともひどいこともしてきているだろう。
その動作の何かに気付いたのか、修道戦士達はその包囲網をゆっくりと狭めてきた。
だが・・・
「うざい」
そういってこいつらみたいな善人面に捕まるほど、あたしは善人でも悔い改める人間でもない。
「・・・マルチ・・・プル・・・」
必殺の一撃を放とうとしたその時だ。
「待ってー!! 待ってくださーい!!」
ふわふわとして、間延びした女性の声が聞こえる。
この声って・・・
殺気立っていたあたしの神経は、一瞬で冷静になる。
修道戦士たちの間を縫って現れたのは・・・
「なんだシスター・・・私たちの邪魔をするな!!」
うっわ馬鹿だこいつ。よく見てみろ。この人はシスターなんかじゃなく・・・
「な・・・わ、わたくしは神官です!! しーんーかーん!!」
「はぁ?」
そう、その胸にある聖印は、普通なら見間違えるわけもない、神官の印。
聖アウグスタ教会公認神官の証だ。
確かに、身長はそこまで高くなく、ふとすれば深窓の淑女に見えそうな雰囲気を持つ大人しそうなただの女性ではあるが・・・
こいつらがアルバイトだったら、この人はその上司・・・3つは上の位階。高位神官にいる人なのだ。
「その聖印・・・!!」
やっと気付いたか馬鹿め。
「はいはい。おいたはこの位にしましょうね? でないと、修道騎士の皆さんに『修道戦士が集団で女性に暴行していた』、って言っちゃいますよ?」
修道戦士の上司にあたる修道騎士は、言わば彼女の同僚、もしくは部下といったところだろう。
「し、しかし!! この女は教会の窓を割ったのですよ!?」
「普通に考えて、そのくらいのことで殿方が大勢でか弱い女性一人を囲むなんて、もってのほかだと思いますわ」
「・・・っく・・・」
正論だ。か弱い、っていうところがまたいいブローになったのだろう。
不良戦士共は、さも仕方ない、と言った感じで剣を収めていく。
「・・・覚えてろ・・・」
小さい。本当に小さい声でやつらは撤退していく。
・・・なんか哀れだ・・・
「ふぅ・・・・大変でしたね? イスティス様?」
「ああ、ありがとう。カム姉」
そう、この女神官はあたしの知り合いであり、何度か一緒に依頼や冒険をした・・・なんと冒険者でもある。名前はカムロ。職業は高位神官。
「全く・・・なんか最近特に絡まれてる気がするよ」
「クスクス・・・それだけ魅力あるインパクトの持ち主なのですわ」
前々から思っていたが、この人にかかったら、あたしなんて本当、ただのガキなんだろうな・・・
「それに・・・」
「ん?」
「あと少し遅かったら、あの方たちが刻まれてしまっていましたし♪」
うぐ・・・ばれてたか・・・
確かに、今あたしが使おうとした技は、槍を旋回させ大勢を一度に斬り倒す奥義。マルチプルツイスター。
布に包まれていたとはいえ、この特注のヴージュに横殴りにされれば、どんな立派な体格の持ち主でも吹き飛ぶだろう。
我ながら切れていたんだなぁ・・・と、ちょっと怖くなる。
「それに、その足でそんなことをすれば・・・ただでは済みませんわ」
「あーそっか・・・足、挫いてたんだよな・・・あたし」
移動系の奥義であるマルチプルツイスターなんて使ったら、足なんて軽く砕けていたことだろう。怖い怖い。
と、カム姉はあたしの足にいつの間にか持っていた棍棒(確かブランブルサップっていうめちゃ高い棍棒だっけか・・)をあたしの足にくっつけ・・・
「神よ・・・癒しを」
『ヒール』
初級の回復術だ。だが・・・
「・・・おー・・・」
痛みが一瞬で無くなる。初級の回復術とはいえ、カム姉ほど高位の神官になれば、その威力はすさまじい。
「ありがとう。カム姉」
「はい。お役に立てて、光栄ですわ♪」
あたしは痛みのなくなった足で軽くジャンプして調子を見る。ほんと、すごいわね・・・
「まじで助かった。絡まれてよかったなぁ・・・」
「あらあら」
よし、これならすぐにでもアウグスタから出れる。正直どうしようかと考えていたのだけど。
「んじゃ、あたしはこれで。ごめんね。今日はお茶をいただけないんだわ」
両手を合わせて軽くウィンクをする。これだけでいつもカム姉は許してくれる。
「お待ちくださいな」
って、あれ? どうしたんだろう?
「窓」
と、カム姉の視線の先にはステンドグラスが割れた教会が・・・って、あれ、ここって・・・
「えっと・・・まさか・・・」
「壊れちゃいました」
ダラダラダラと、すげー冷や汗が背を伝う・・・
「あ、あの・・・・」
「半分に割れちゃいましたの」
あ、こらこら、泣かないで泣かないで!!ってうわー!!!ここカム姉の教会じゃん!!!
「ご、ごめ・・・!!」
「行きましょう?」
にっこりと・・・それはもう、この上ない笑顔で・・・あたしはズルズルと教会に拉致されていった・・・・・
蒼き石の物語 6『ハノブまでお使い』
「1000万ですの」
「1000万ですか・・・」
「1000万ですの」
「・・・・・・・」
なんていうか、正直逃げ出した気持ちがいっぱいですよ?
今あたしはカム姉に拉致されて、なぜか教会の懺悔室でこんな会話をしている。
何故に懺悔室かというと・・・いや、まぁ・・・あたしが悪いからなんにも言えないのだけどさ・・・
「正直、あそこまで壊れちゃいますと、元の部分から付け替えになりますのよ?」
「はぁ・・・それで、1000万ですか・・・」
「こちらとしても非常に心苦しいのですが・・・でも、信者様たちの寄付で作られた教会ですので、無理に寄付をつのるわけにはいきませんの」
そりゃそーだ。しかも犯人が目の前にいるわけだしね。
「わたくしの蓄えから、なんとか明日にでも工事をしていただくつもりです。でも・・・わたくし、干上がっちゃいますのよ?」
そこでじわりとカム姉から涙が・・・ああああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
「ああああ・・・・そ、それなら、ちょっとの間何か別のものを・・・ほらほら、何かカーテンとかでごまかすとか!!!」
「そんな・・・イスティス様は日々ここにこられてお祈りをされていく信者様たちに、そんなひどい光景を見せろと?」
うわぁぁぁぁぁ!! そんな涙ためないでぇぇぇえぇ!!!!
「うううう・・・わ、わかった。分かりました!!! 今お金全然ないけど、しばらくカム姉が干上がらないお金置いていきますからぁ!!」
今度はあたしが泣きそうだ・・・
あたしはちっちゃなお財布から、なけなしの100万Gをカム姉に差し出す。
一般の人が一ヶ月を生き抜くのにだいたい20万ほどでなんとかなる。世の中バカみたいに高い物もあるけれど、それでもこれだけあれば日々質素を心がけるカム姉なら半年は持つだろう。
「ありがとうございます♪」
くぅ・・・これであたしの残金は10万・・・つまりほぼ干上がり状態ですか。
あの時鴨からもう100万奪っとけばよかった・・・
「後、これも書いてくださればここは万事解決です♪」
「ふぇ・・・?」
借用書、と可愛い字で書かれた悪夢のような紙が、あたしの前に置かれた。
・・・逃げていいですか?
「いってらっしゃいませ~♪」
と、そんな風に元気に手を振ってくれるカム姉。
なにやら腕のいい職人をアーデルという神父から紹介してもらうらしい。
不可抗力とはいえ、なんだかどんどこ借金まみれになってる気がしてならない。
気がつけばあんなに高かったお日様も沈みかけている。
あたしはもう出かける元気もなく、自宅に戻るのだった・・・
さて、翌日。
あたしは改めて旅支度を済ませ、アウグスタの入り口に立っていた。
これから向かう先であるハノブへの道を地図で確認する。
何故古都ではなく、ハノブかというと、実はカム姉にとある依頼をもらっていた。
「この紅茶の葉をハノブにいる邪羅夢様に届けて欲しいのです♪」
邪羅夢・・・『暗黒神の使徒』の二つ名を持つ高位神官。
様々な神を信奉する神官の中でも指折りの強さとエロさを持つ攻撃系高位神官だ。
実はちょっとした事情があり、過去に何度か冒険をしたことがある。
何気にちぇるままたちよりも長い付き合いのある神官だ。
古都で「夢幻屋」という店を構えていたが、子供が出来るとかで、今は奥さんの実家のあるハノブで生活をしているらしい。
カム姉を紹介してもらったのも、このエロ親父経由だったりする。
何かとエロいことを言ってくるので一度マジ殴りして喧嘩したら、ご近所が全て崩壊したりなどして、正直会いにくい人物でもあるのだが・・・
「でも、行くしかないわね・・・断れないし・・・」
最近ため息ばかり出てくる気がする・・・
あたしは荷物を背負いなおし、アウグスタの街を背中に、走り出す。
体力には自信あるし、のんびりしてたら何か不幸になりそうで怖い。
そんなある意味病んでるかもな思考をしながら、あたしは一歩をしっかり踏み込み先に進んでいく。さぁ、目指すはハノブだ。
続く
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