鍋・フライパンあれこれ美味
100万ポイント山分け!1日5回検索で1ポイントもらえる
>>
人気記事ランキング
ブログを作成
楽天市場
153394
HOME
|
DIARY
|
PROFILE
【フォローする】
【ログイン】
イスティスの隠れ家
-蒼き氷の女神- 二章
『蒼き石の物語外伝』-蒼き氷の女神-
二章
蒼き氷の女神 7『アウグスタの夜』
あたしは今、公社の一室に通されている。
あたしはやわらかい椅子に座って。一緒に来たヘディンさんは入り口近くで珍しく不機嫌そうな顔をして寄りかかっている。
今回ここに来たのは、ハノブでの襲撃事件について公社に連絡をいれておくためだ。
時折、冒険者の中にはこうした荒事のトラブルや冒険者間のトラブルが起こる。
それを仲介する役目を公社は請け負っている。
公社に登録している公認冒険者の特権のひとつとも言えるが、時折そうした中で解決できそうにないもの、また冒険者で重大な犯罪を起こした場合、それを裁く権利も同時に有しているのだ。
だが、今回に関してはこちらに過失はないはず。
しかも、公社側であるヘディンさんも巻き込まれているわけだし。
とはいえ・・・
「分かりました。それではこの件に関しましては、こちらで対処いたします」
まるっきり事務的な言葉だな。
今目の前に座っているのは一目で高価だと分かるスーツを着た影の薄そうな中年紳士。
最初に名刺をもらった時に書いていた名前は確か・・・ヴェド・サウルスミス。
「対処って・・・どうやって対処するんですか?」
「それはお答えできかねます。と、いうよりも正直こちらでも苦慮しそうな件ですので」
彼ははっきりとそう答えた。
苦慮・・・当然と言えば当然か。なんせ相手は個人ではなく、組織なのだから。
「今回ちぇるしー様が何故狙われたのか、またどうして貴女の存在を知られたかという事も問題点として挙げられます」
そうして彼・・・ヴェドさんは胸の内ポケットからシガーケースとシガーカッターを取り出し、あたしに見せる。
「よろしいですか?」
「どうぞ」
「ありがたい。公社の中でも禁煙の空気がありましてね。重度の喫煙者としては苦しい限りでして」
そう苦笑いしつつ、彼は葉巻を一本取り出し喫い口をシガーカッターで切り落とす。
それらをまた胸の内ポケットにしまい、トントン、とその存在を確かめるように胸を叩く。
変な癖だ。
「さて」
そこでヴェドさんはこちらへ話を切り出す。
「おそらくすでにご存知でしょうが、貴女を襲った者たちはブリッチヘッドのシティシーフたちです」
やっぱり。
「ハノブでの騒ぎ、実はこちらへも連絡が来ております」
その上すでに彼らの身元も調べたのか。こうした情報に耳が早いのも、さすが公社、と言うべきなんだろうな。
「貴女が私どもから請け負った仕事に関しましても、すでに中止という形で私から対処して完了しております」
と、彼は紫煙をゆっくりと吐き出し私に言う。
影が薄そうな顔して、この人意外とやり手だ。
・・・あれ?
『紫煙をゆっくりと吐き出し』って・・・・?
「そこで申し訳ないのですが、こちらから一件依頼をしたいと思います」
疑問を感じた顔そのままに、私は疑問の視線を彼に向ける。
「シティシーフ殲滅戦の依頼です」
「殲滅!?」
あたしはごく自然と声を荒げてしまった。
事態は、そこまで激化してしまったのか・・・
あたしは苦い思いを噛み締める。
殲滅。それはつまり・・・全滅させるまで戦うということだ。
一兵も残さない、その悲惨なまでに残忍な戦い。
「その通りでございます。既に、アウグスタを中心に各ギルドには連絡させていただいています」
「ギルドに所属していない冒険者に関しても、強制ですか?」
「はい」
嫌な顔を隠しもせず、あたしはヴェドさんを睨みつける。
「事はすでに、公社や教会のみならずこの国の危機と上層部は判断したようです。この決定は覆りません」
ある意味、勅命と同じようなものだ。
この依頼を断るなら、あたしは公社から脱退し、冒険者を引退しなければいけない。
だが、あたしはこの生き方しか知らない。冒険者としか、生きていけないのだ。
「・・・分かりました」
吐き捨てるようにして出た言葉は、行き場所がないようにあたしの中で今だ残留しているような気分になった。
「ありがとうございます」
ヴェドさんはそのまま依頼の詳細へと話を進めていった。
「ヘディンさんとは、ここでお別れね」
「ええ。非常に腹立たしい限りですが」
そう言いつつも普段の無表情を貫き通すこの人は、なんとなくだが好感が持てる。
氷のような無表情だけど、中身は実直で頑固な人なんだろう。
初めてあった時からの印象はあまりよくなかったが、今はまったく逆だ。
クスクスと笑うあたしに、ヘディンさんは微妙に心外、という視線をこちらに向けていた。
『真名の冒険者』なんて、頭でっかちばっかりだと思っていたけど彼を見ていて随分印象が変わったものだ。
だけど、彼が真名の試練を切り上げつつも公社に戻るのは仕方ない事だろう。
今回の依頼では、珍しく公社側も殲滅戦に加わる。
おそらく公社の中でも彼はかなりの腕の魔術師なのだろう。
実力で言えば、あたしよりも数段上であることはそれなりに一緒に冒険してきた中ですでに分かっている。
「あ、そうだヘディンさん」
あたしは、ふと思い出した疑問を彼に聞いてみる。
「さっき、ヴェドさんが一本だけ煙草を吸ってたよね?」
「ええ」
やっぱりそうだよね。
「じゃあさ、『いつ火をつけたのか』教えてもらえる?」
そう。あたしは彼の姿をじっと見ていた。
それこそ、彼がどんな動きをしていたか、今でもしっかり思い出せる。
だけど、ただ一点だけすごく気になる点が今の『いつ火をつけたのか』、だ。
その疑問に、ヘディンさんは一瞬だけ目をほそめた。
「よく気付きましたね」
あたしはそれにウィンクで答える。
「・・・実は、私にも分かりませんでした」
「え~」
非難の声を上げてみるが、なんとなくあたしもそうじゃないかとは思っていた。
おそらくヘディンさんも気になっていたんじゃないか、とそう思えたからだ。
あたしはある程度長い期間冒険者として動いている。だからこそ、どんな細かな点にも気をつけてひとつひとつの動きに注意している。
時にそれは命を左右するような事に繋がる可能性があるからだ。
そしてヘディンさんは真名の探索者として、常に人々を見ている。
それが仕事であり、同時にそれこそが真名という不明確な物に名を冠するための道として必要になるからだ。
だが、そんな二人の目をかいくぐり、あのヴェド・サウルスミスは火をつけるという何気ない仕草を見せなかった。
喉にひっかかるような、そんなに大きく取り挙げるような行動ではないのが余計に気になるのだ。
「そっか。それじゃ仕方ないか」
なんとなく残念な気がしたが、仕方ない。
あまり気にするのはよそうと、あたしが別れの挨拶をしようとしたときだった。
「ヴェドには、ある二つ名があります」
え?
ヘディンさんがふと呟いた言葉に、あたしはまた疑問の顔になってしまった。
「『手品師』・・・ジャグラーという意味での手品師です」
ジャグラー・・・手品師・・・ね。
その名があの紳士に合うものかどうかは別として、さっきの気になる点にだけ関して言えば、それはピッタリな物だと思った。
ヘディンさんはそれだけ呟いて満足したのか、あたしに向かって別れを切り出す。
「それでは、幸運を」
「貴方もね」
そう言って、あたし達はパーティを解散したのだった。
あたしは酒場に向かっていた。久々に弟たちに会うために。
そして何より、今この状況について話し合うために。
だが、彼らはすでにそこにいなかった。
「おや、ちぇるさんじゃないか」
「あ、マスターこんばんは」
「てっきりブリッチヘッドに向かったと思ってたよ」
「まぁ、あたしもいくんだけどね」
そう言って、あたしは久しぶりにお酒を注文する。
酒場のマスターに訪ねると、彼らはすでにブリッチヘッドに向かったらしい。
どうやら殲滅戦についてはあたしが真名の試練を受けた直後から随分話題になっていたようだ。
あたしが色々動きすぎて、なによりハノブへ出向いた事もその話を耳にしなかった原因だといえる。
ライネル達を始め、顔見知りの冒険者は全員、ここにはいなかった。
ライネル、ゴーディ、ハイネと一緒に呑んで以来か・・・
そういえばこうして一人で呑むなんてこと事態、二年ぶりか。
そう思うとなんとなくお酒も味わい深く感じる。
でも・・・
「なんか寂しいなぁ・・・」
「だろう?」
マスターもそう言って笑う。
多分あたしとは別の「寂しい」なんだろうけど、周りを見回すとそこにいるのは騒がしい冒険者ではなく、一般人のみだ。
そんな彼らもどことなく、寂しそうな様子だ。
多分・・・今は、ほんとに異常な状況なんだろうな。
道すがら街を見ていたが、2ヶ月留まっていないだけで見かける修道剣士たちの姿が随分少なくなったように思う。
マスターの話から、最低限の人間だけ残して教会もブリッチヘッドに集結しているそうだ。
「だけど、そんなにたくさん人集めてシティシーフも逃げ出さないのかね?」
マスターはそんな風に言うけど、おそらく彼らは逃げない。
何故なら、この戦いは彼らにとっても必要なことだから。
組織とは・・・いや、人とは譲ってはいけない一線がある。
おそらく彼らはこの戦いで自分たちの位置づけを上に上げることを考えているのだろう。
もともとシーフとはどの国にも必ず存在する機関のひとつなのだ。
国が表を支配するならば、裏にも支配をする存在が必要となる。
犯罪を一定数に押さえ、公的に国の暗闇を管理するもの。
それを担うのがシーフギルドと呼ばれる存在。
だが、この国には公社がある。冒険者たちがいる。
彼らがシーフギルドの存在を必要としない理由になっているのだ。
表の支配を国が行い、暗闇には公社や冒険者たちが対処する。
シティシーフたちにすれば、これほど腹立たしいものはないだろう。
それが頭領の代替わりをしたことで一気に爆発してしまったのだ。
あたしは杯を一気に空にして、小銭をカウンターに置き席を立つ。
「また来るね、マスター」
「毎度」
それだけ言ってあたしは酒場を出る。
あたしは夜の空を見る。
暗いね・・・嫌になるくらいに・・・
不吉と不安とやるせなさが、あたしの体を打つ。
蒼き氷の女神 8『死闘』
翌日、あたしは今ブリッチヘッドへ向かうべく、テントヘンド平原フンド川の街道を歩いていた。
今、そこには多くの商人や町の人たち。そしてあたしと同じような身なりの冒険者たちが行きかっている。
これだけ見てると、とても今からブリッチヘッドでドンパチがあるなんて信じられない。
平穏な日常そのものだと思える。
しかし、あたしはこれから戦場となるブリッチヘッドへ行く。
あまりのギャップに、考えることだけで正直憂鬱だ。
公社からの直接の依頼でなければ、こんなことさっさと放り出してしまうのにな。
だけど、それは出来ない相談なのだ。
・・・いやだな・・・
あたしは、生命を傷つける事を忌避している。
それは人間だけではなく、動植物に関しても同様だ。
確かに、あたしは普段の生活の中で肉も魚も、植物も食べる。
だけど・・・自分から欲望のために何かを傷つけることはしない。
命を狙われれば当然抵抗する。その際に相手の命を奪ってしまうこともある。極力避けてはいるが。
それでも、命を奪う事を、それをしてしまった時の感触は吐き気がするほど嫌いだ。
奪ってきた命は数知れず、それでもあたしが冒険者を続けるのはなんでだろう。
過去に、甘いと言われた事がある。
いつか死ぬぞ、とも言われた事がある。
だけどそんな時もあたしは笑って答えてきた。
「なんとかなるよ」、と。
だけど、だけどだ。野にいる動物たちはよほどの事や、気まぐれでもない限り何かを傷つけることはしないと聞く。
魔獣や魔人たちはその範疇にないが、逆に考えれば人間自体がそれらと同一とも考えられる。
あたしはどうしたいんだろう。
悪循環。
答えなんて、ないのだろうけどさ。
ぐじぐじ考えるのは、多分これから戦争が起こるせいだろう。
駄目だな・・・今そんな事を考える時じゃない。
今考えたような事を戦場で思い出せば、即座に死へと繋がる。
考え事に埋もれてしまった人間ほど弱く脆く、壊れやすいものはない。
気をとりなおそう。
そう思った瞬間だった。
そこに、殺気が来た。
「!?」
あたしは出来る限り素早く右へ、飛ぶ!!
次の瞬間には爆音が鳴り響く。
魔術か!?
だけどそれは、あたしを狙ったものではなかった。
爆発音は立て続けに起こる。これは・・・
無差別攻撃。
あたしだけではなく、街道を通っている商人を、町の人たちを、冒険者たちも巻き添えにして、次々と。
「・・・っく」
焼け付くような痛みを感じ、左腕を見ると案の定そこには火傷が出来ていた。
どうやら先ほどの爆発を完全に避け切れてはいなかったようだ。
傷は・・・浅くはないね。
神経が見えるほどに深くはないが、左腕がひどく焼かれてしまっている。
両足が多少火であぶられたが、ほぼ無傷なのは不幸中の幸いだけど、この状況はまずい。
つまりそれは弓を持てないということだ。
普通の矢ではなく、魔術で矢を作り出すとはいえそれを媒介する弓がないと魔術の精度はかなり落ちる。
だけど、逃げることはできない。
今の爆音はおそらくアウグスタの門兵たちにも聞こえたはずだ。
援軍が来るまで、なんとか生き残った人を助けないと。
あたしは残った右腕に魔力を込める。
ウォーターフォールの氷の魔力。
それをまず左腕に押し付ける。
これが正しい治療法だとは思わないけど、少なくとも熱くなっている左腕を冷やすことはできて楽にはなった。
だけど弓をもてるほどには至らない。
さらに右手の魔力を強める。
そこに、氷の矢を作り出す。
要はウォーターフォールの応用。
弓はあくまでイメージを作りやすく、ウォーターフォールの精度を高めるための物。
ウォーターフォールに必要な矢自体はこうして作り出すことが出来る。
あたしはそれを空に向かって全力で投げる。
お願い・・・弾けて!!
その願いは無数の矢に分裂することによって叶った。
氷の雨が降り注ぐ。
今だ燃える大地に向けて。そう、狙いは大地に倒れ付している人たち。
未だに炎に包まれている人たちだ。
生き残ってて!!
それだけを願い、あたしはそのまま走り出す。
爆発を起こした主がいるだろう場所は爆発の位置から考えて大体分かっている。
茂みの中だ。
あたしは第二の氷の矢を生み出す。
いや、それはすでに矢という代物ではなく、2mを越す槍。
弓がなくなって、精度が落ちたからこそ作り出せたもの。
そこまで槍の扱いに長けているわけではないけれど、使えないことはない。
何より魔力で出来た軽いこの氷槍ならば、左腕が使えなくても振るえる。
あたしはその槍をそこにいるであろうと予測した茂みの中へ突き込む。
手応え有り。だけど、浅い。
その茂みから一人の黒衣の男が慌てた様子で飛び出してきた。
わき腹から少なくない血が流れているが、それでもまだ動けそうだ。
まずい・・・さっきのウォーターフォールで気をとらせていたはずなのに・・・仕留め切れなかった。
自分を傷つけた相手を見て、黒衣の男は憤怒の形相を浮かべる。
男から魔力が渦巻くのが分かる。凄まじい勢いでそれは男の腕に顕現する炎。
あたしも男も手負いだけど、怒りのためか、彼は痛みをあまり感じてないようだ。
なんとかあれが完成する前に・・・!!
そこへ、新たな殺気が後ろから、来た。
あたしは再び右へ避けることによって、後ろから来た殺気・・・炎の塊を避けることが出来た。
だが。
「あ、ああぁぁ・・・・!?」
炎はそのまま飛んでいき地面に着弾したが、その爆発は割合近い場所だった。
そのため、炎の余波で背中を焼かれた。これは、深い。
敵が二人いたことに歯噛みする。
確かにあれだけの爆発を起こしたのだ。目の前の男だけが単独で行ったわけがない。
くそ・・・何故勘違いした!?
痛みによって冷静な判断が鈍っていたこともあるかもしれないが、これは致命的だった。
どうする・・・どうする!?
左腕は焼かれ、背中もひどい火傷を負っている。
もう、魔術を構成する集中力はない。
だけど・・・
一瞬脳裏によぎったライネル達の姿に、あたしは失いそうになる意思を叩き起こす。
まだ、倒れていない。
死にたくない・・・死ねない・・・まだ・・・あたしは・・・・まだ、死ねないんだ!!!
目に力が蘇るのが分かる。
正面をまず見た。
敵はすぐそばにいた。
おそらく目の前にいる男もあたしと同じように余波で焼かれたはずなのに、黒衣の男は今まさに魔術によって出来た炎をこちらへ投げつけようとしている。
だけど遅い、まだ間に合う。あたしは素早く氷槍を炎に叩きつける!!
氷の精霊と炎の精霊がその瞬間交じり、相容れぬと反発しあった。
その結果は爆発。
断末魔を叫び、男は炎に包まれるが、あたしの槍はまだ溶けていない。
溶けてたまるか。
今はそれだけじゃ終われないんだ!!
自爆した男の炎に身を焼かれつつも、槍を突きこんだ勢いをそのまま無理矢理逆にして、後ろの男に投げつける。
すでに意識が飛びかけて倒れこみつつも、最後の力を振り絞る。
「ウォーター・・・フォール!!」
言葉によって魔術を強制的に発動させた。
新たな魔術を作ることは出来ないけど、今ある魔術を強制発動することなら出来ると踏んだのだ。
魔術によって作られた槍はそれに従い、無数の矢に身を変え後ろから攻撃してきた男を穿つ。
それは見事、もう一人の魔術師を完全に貫いた。
その身が崩れ落ちるのを確認し、あたしも倒れる。
最初の男が爆発した際に起こった爆発は、あたしの全身もひどく焼いていたのだ。
しかも無理した衝動か、もう魔力も体力も尽き、動くこともできない。
駄目・・・このままじゃ・・・だ・・・め・・・・・
あたしの意思は意識を保とうと必死だったが、大火傷をしている体はそれを否定し、あたしを闇へ引きずりこんでいくのであった。
蒼き氷の女神 9『呼ぶ声』
あたしは、闇の中を歩いていた。
真っ暗な闇の中。
一筋だけ見える光に向かって、ゆっくりと歩いていた。
ここは・・・どこ?
声は出ない、いや出せない。
だけど足取りはしっかりと、その光に向かって歩き続けている。
自分の意思とは反した動きにとまどう。
だけど、なんとなく分かる。
ああ、死んじゃったか・・・・
なんとなく、悟る。
あの時、無理に魔術を使ったせいかな?
そんな他愛もない事を考えながら、あたしは少しずつ、光の方へ近づいていく。
自分が死んだことに、特になんの感慨も浮かばなかった。
甘いあたし、弱いあたし。
思えばここへ来るのは必然だったのかもしれない。
いつか死ぬぞ、それが現実になっただけだ。
だけど、そんなあたしでも二つ、無念だと思うことがあった。
・・・ライネル、ゴーディ、ハイネ・・・ごめんね・・・あたし、駄目だったみたい。
そして・・・
ヘディンさん、ごめん。名前、もらう事出来なくなっちゃった・・・
深い深い、後悔。
だけど、それでも、最後に、炎の被害が拡大する前にあの黒衣の二人を倒せてよかったと思う。
何人生き残っているか分からないけど、この死が無駄じゃなかった事だけを思う。
・・・もういいかな?
そう思った瞬間だった。
「ちぇる姉さん」
「ちぇる殿」
「ちぇる姉様」
声が聞こえた。
・・・え?
「そっち行くんじゃねぇよ」
「その通りだ、ちぇる殿。そちらに行くの愚考だ」
「こっちへ、私達の手を」
だけど見えない。いや、それよりも。
あんたたち。なんで・・・?
その答えは得られない。どこからも。
だけど、ふわっとした何かに、腕をとられる感触がした。
そして、三人の気配が。
前にライネルが、右腕にゴーディが、左腕をハイネが。
『こっちだよ』
あたしは、そのまま彼らに引っ張られる。
どうして?
そう思う思考は次第に薄れていった。
何かに引き上げられるようにあたしの意識は浮上していくのを感じる。
それが何を意味しているのか分からない。
だけど、あたしはこのとき、ひとつの事だけしか考えていなかった。
・・・どうして・・・?
「ど・・・う・・・して・・・」
「気付きましたか」
「うう・・・?」
あたしは朦朧とした意識を振り払いつつ、体を起こす。
どうやらベットに寝かされていたようだ。
そして、その傍らにあるイスに座っているのは・・・
「ヘ・・・ディン、さん?」
「記憶はあるようですね」
彼はいつもの無表情でこちらを見下ろしていた。
その目には、なんとなく嬉しそうに輝いているのは気のせいだろうか?
「・・・ここは?」
「アウグスタ教会です」
とても静かなこの部屋は、アウグスタ教会のひとつにある医療室らしい。
どうやらあたしは一命を取り留めたようだ。
ヘディンさんに聞くと、あの時、最初の爆発が起こった数時間後にアウグスタに残っていた修道騎士が修道剣士たちを率いて駆けつけたらしい。
「そこで全身に大火傷を負っていた貴方と、絶命していた黒衣の男たちを見つけました」
あの黒衣の男たちは、シティシーフの一味であることが、氷の矢に貫かれた男が持っていた遺品から判明したらしい。
「公社、教会共に貴女に感謝しています。貴女のおかげで、被害が最小限に抑えられました」
そういってヘディンさんは立ち上がる。
「ま、待って!!」
「なにか?」
あたしは、一つ、気になることがあった。
「今、ブリッチヘッドは・・・どうなってるの?」
「・・・・」
嫌な、とても嫌な沈黙が流れた。それはあたしが予想していた、最悪の状況を肯定する沈黙だと、分かった。
「現在、ブリッチヘッドに集まっている公社、教会連盟は・・・壊滅状態です」
あたしが生死の境をさまよっている間に、戦いは起こっていたのだ。
だが・・・
「か、いめつ?」
ブリッチヘッド近くに集結していた公社、教会連盟がシティシーフの軍勢と、結託した少数のビーストテイマーによって操られた魔物たちの強襲をうけたのだ。
普通そんな状況でも・・・いや、そんな状況だからこそ瞬時に立ち回れるはずの冒険者たちだが・・・
「どうやら相手は麻薬の力を使って痛みを消し、文字通り死ぬまで戦っていたらしいです」
そう、あの切水草が原因の一端を担っていたのだった。
傷を受けても麻薬の力で痛みを感じず、もし本当に危険になったら回復薬を使う。
集結したばかりの公社、教会連盟と違い、彼らはずっとずっと前から準備していたのだ。
公社、教会連盟は突如現れた黒衣の神官の活躍もあって、辛くもこれを撃退したらしいが、多くの死傷者を出してしまったらしい。
そのため、街に残っていた教会の神官たちがすぐに救援に向かった。
もしこのとき、あたしがあの黒衣の男たちを止めていなかったら街道は封鎖され、救援を送る事さえ困難となりさらに被害は拡大していただろう。
だけど、このせいであたしの治療が遅れた。この教会の主がたった一人であたしを治療してくれていたのだが、二日の間生死の境を彷徨っていたらしい。
「・・・公社関係者も併せ、教会の修道戦士、騎士。冒険者たちにも・・・」
珍しく、ヘディンさんは顔を伏せて悔しげな表情をしている。
彼は丁度、あたしの真名関係の仕事をしていてあたしより少し遅れて街を出たという。
実はあの黒衣の男たち以外にもまだ数十ものシーフたちが潜んでいたらしいが、それを悉く全滅させたのが彼だと知ったのは、しばらく後のことだった。
「そんな・・・・」
「私はこれからすぐにブリッチヘッドへ向かいます。貴女は事が終わるまで休んでいてください」
「あ、あたしも行く!!」
「無理です。貴女の傷は、貴女が思っているほど浅くはない」
「嫌だ!! あたしには、行かないといけない理由があるんだ!!」
沈黙が場を支配する。
どちらも引かない、引けない。
確かにあたしの傷は深いかもしれない。だけど、だけど!!
「まぁまぁ・・・どうしましたか?」
そんな緊迫感溢れる場に現れたのは、赤を基調とした聖衣を着た女神官だった。
「申し訳ありません、神官殿。少々・・・意見が食い違いまして」
「ええ、聞いていましたよ」
どうした、って聞いておいて・・・なんとなく喰えない人だ。
彼女はニコニコと笑顔で、あたしの元へ歩いてくる。
「何故、そこまで?」
「あそこには、あたしの弟妹たちが・・・いるんです」
「・・・っ」
「まぁ・・・」
ヘディンさんと神官さんが息を呑む。
彼女はあたしをじっと見つめる。そして不意に、何かに気付いたように表情を変える。
それは、哀。
「ハイネの・・・お姉様なのですね?」
「知ってるの!?」
「ええ・・・・よく、話を聞いていましたから・・・」
彼女はそこで顔を一度伏せ、再び顔を上げる。
「連れていってあげましょう、ヘディンさん」
「神官殿!?」
これまた珍しく、ヘディンさんは顔をしかめて女神官を睨む。
「すぐに戦いの準備を。彼の地はまだ・・・激戦区です」
それだけ言って、彼女は部屋から出て行く。
ヘディンさんはしかめた表情を戻すことなく、一度あたしを見てそのまま部屋を出て行く。
・・・準備を、しなきゃ・・・
あたしは痛む体を、無理矢理引きずり起こし、立ち上がる。
立ち上がったとき、背中にひどい痛みが走ったが、そんな事はどうでもいい。
・・・行かないと・・・
今にも失いそうになる意識を拾い上げ、あたしは胸鎧に手をつけるのであった。
蒼き氷の女神 10『死の女神・降臨』
外へ出て、まずあたしの目に飛びこんできたのは。
首から聖印つきのお守りをかけミスリルの鎧、スキュトゥム、棍棒を腰につけた女性。
先ほどの女神官はすでに外へ出ていた。
この人・・・高位神官だ。
雰囲気や見た目から、とてもそうとは思えないけど、彼女はあたしよりも遥かに高レベルの神官なんだ。
そこへ、ヘディンさんもあたしの後ろから現れた。
その顔にはいつもの無表情ではあるけど、不機嫌な雰囲気が少し出ていた。
もしかして心配されてる?
そんな彼に苦笑しつつ、あたしはそのまま女神官さんの元へ向かう。
「いらっしゃいましたね」
ニコ、っと笑う女神官さん。
さっきの事があるから、なんだか気まずいな・・・
そんなあたしの思考を見抜いたのか、彼女はさっきの事を何も言わない。
「では、行きますよ?」
「あ、はい」
その次の瞬間、あたしの目に飛び込んできたのは、背中に翼を持った天女の姿だった。
あっという間だった。目の前に広がるのは、ひどく荒れた公社、教会連盟の陣営だった。
あたしたちはすぐに負傷者たちのいる野戦病院に向かった。
そこかしこから、人のうめき声が聞こえる。
地に倒れふしている人、大量の包帯をまいた人々。
一目に、致命傷と分かる傷を受けて亡くなっている人。
悪夢のような惨状が、今目の前に広がっている。
頭が痛い、目が痛い、背中が・・・全身が痛い。
吐き出してしまいそうな匂いがそこらへんから漂ってくる。
ひどい・・・ひどすぎる・・・
あたしは、甘くみていたのかもしれない。
人の戦いは、大規模になればなるほど、これほどまでにひどい事になるとは思いもしていなかった。
戦場。ここはまさに激戦区だったのだ。
しかし、今目の前を歩いている女神官さんは、毅然と歩いている。
この状況で何も感じない人間がいるわけがない。
こんなひどい場所で何の感情も沸かないはずはないのに・・・この人は・・・
その大きいとはいえない背中が、とても大きく見えたのは、どうしてだろうか。
この人は、きっと多くの死を看取ってきたのだろうな。
でも・・・だけど・・・静かに、泣いてるんだろうな・・・
彼女が何かを我慢しているのが分かる。
雰囲気とか、そんなんじゃなくて。なんていうのだろうか、分かる気がする。
「ここです」
野戦病院に着いた。着いてしまった。
あたしの悪い予感が、予感ではなくなる瞬間だった。
まるで、眠っているようだった。
いや、実際に眠っているのだ。
だけどそれは、二度と目覚めない眠り。
永遠に目が覚めることが出来ない眠り。
二度と笑うことも、悲しむことも、怒ることも、出来ない眠り。
ライネル、ゴーディ、ハイネ・・・・
彼らは、野戦病院にいなかった。
とある陣営その一幕に、彼らは寝かされていた。
霊安室。
静かな時間が、過ぎていく。静かに、静かに。
頭が痛くなるほど、この場所は静かだった。
静かすぎて、目が覚めてしまいそうな場所だ。
涙は、出ない。
今、この場にはあたし一人だった。
それが涙が出ない理由かもしれない。
今、他の人が泣いていたら、あたしも一緒に泣いていたかもしれない。
妙な偶然だ。彼らは並んで、ここに寝かされていた。
誰かの配慮かもね・・・この子たち。いっつも一緒だったから。
それを考えた後、目頭が熱くなるのを感じた。
足から力が抜け、激しい失意があたしを襲った。
「ライネル・・・聞いたよ。あんた、負傷者を逃がすために前線に残って戦ってたんだってね?」
野戦病院にいた一人の老兵からライネルの奮闘を、そして感謝の言葉を聞いた。
「ゴーディ・・・いつの間にか、あたしより魔術も頭も上になってたんだね・・・きっと、いい先生になれたよ」
三人を探している途中。道を聞いた一人の軍師からゴーディが最後までシーフたちとの話し合いを提案されていたことを、ライネルと共に最後まで戦ったことを聞いた。
「ハイネ・・・すごく慕われていたんだね。皆・・・あんたにありがとう、って言ってたよ」
何人も・・・何人もの人から、彼女に救われた事を、彼女に救われ、諦めず、最後まで生きる希望を得た事を聞いた。
ライネルを、ゴーディを、ハイネを一人一人頭を撫で、抱きしめ、ささやいていく。
「あたしね、初めてだったんだよ?」
ポツリ、ポツリと。
「誰かを家族みたいに思うなんて。あたし、家族を知らないけどさ」
家族。
幼い頃から家族を知らず、この世界で生きていたあたしが、心からそう思ったのは初めてだった。
心地よい、一人の時では考えられなかった日々。
騒がしくて、でも楽しくて・・・いつまでもこの時間が続いて欲しいと思っていた。
そういえば、師匠が言ってたっけ。みんなに看取られるのが、幸せだって。
家族のいなかった、あたしの魔術の師匠。だけど、亡くなる時にポツリと言っていた。
幸せだって。
三人はどうだろう・・・今、あたしがここにいることを、喜んでくれているだろうか・・・
「あたしも・・・死に掛けたんだ、あの時助けてくれたのは、あんた達だったんだね」
それは確信。あれは夢でもなんでもなく、実際にあったことなんだ。
きっと三人は死んでしまいそうなあたしを見かねて助けてくれたんだ。
だ け ど
「あたし、こんなあんた達を見るくらいなら、一緒に逝きたかったよ?」
涙は出ない。
でも、悲しい。
でも、つらい。
でも、悔しい。
そして・・・
あたしから弟と妹たちを奪った奴らが憎い。
身を焦がすほど、理性を失ってしまいそうになるほどに。
あたしは、あたしはね・・・
「悲しいんだよ?」
そう、あたしは、決して戦いが好きなわけじゃない。
生きていく手段。生活するための手段に、戦いがあるのだ。
きっと、彼らも・・・シティシーフたちもそうなのだ。自分たちの居場所を守るために戦っているのだろう。
だけど・・・だけど・・・
「あたしは、あたしから家族を奪った奴らを許せない・・・許さない」
静かに立ち上がるあたしは、精霊を呼ぶ。
詠唱魔術。
『全ては死への道なり』
『我が声は悲しみ呼ぶ声』
『我が腕は希望を砕く吹雪』
『我が足は終わりを運ぶ氷雪』
『我が至るは夢幻の白雪』
静かに、だが、あたしの身体にゆっくりと冷気と風の精霊が身を包み始めた。
最後の一文を唱えれば、もうあたしは元に戻れないだろう。
それでも、あたしは後悔しないと思った。
「ごめんね。あたしは、あんた達に教えた事と逆の事をするよ」
あたしが師匠から継いだ中で、最も危険な高位魔術。
『禁忌・纏ウ零ノ鎧』
歩く。外へ。
クールに・・・なれ。
煮えたぎる熱いモノはもう十分だ。
クールになれ。
操れ、氷霊を。
嘆こうが、悲しもうが、今はただただ冷酷に、残忍に。
仇を討つために。
あたしは進む。
その瞬間に起きた異変は恐ろしく早いものだった。
歩く度に、死者を除いた周囲の全てが氷で覆われていく。
全て凍れ。
全て停まれ。
怒りも、悲しみも、哀しみも、喜びも、優しさも、凍ってしまえ。
これから行うことを、ためらいなく行うために。
あたしは天幕から出る時、三人に振り向き、言葉を紡ぐ。
「出来るなら、これからすることに・・・目を閉じていてね?」
ごめんね・・・やっぱりあたしは、優しくないよ。
あたしは、何かが消えていく瞳を閉じ、外へ出る。
続く
ジャンル別一覧
出産・子育て
ファッション
美容・コスメ
健康・ダイエット
生活・インテリア
料理・食べ物
ドリンク・お酒
ペット
趣味・ゲーム
映画・TV
音楽
読書・コミック
旅行・海外情報
園芸
スポーツ
アウトドア・釣り
車・バイク
パソコン・家電
そのほか
すべてのジャンル
人気のクチコミテーマ
寺社仏閣巡りましょ♪
清水寺ライトアップ
(2024-12-02 00:04:54)
どんな写真を撮ってるの??(*^-^*)
晴れの日こそ動物園!4(コアラ~チ…
(2024-12-02 05:30:10)
何か手作りしてますか?
ペンギンの革人形を作る その218
(2024-12-01 19:11:22)
© Rakuten Group, Inc.
X
共有
Facebook
Twitter
Google +
LinkedIn
Email
Design
a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧
|
PC版を閲覧
人気ブログランキングへ
無料自動相互リンク
にほんブログ村 女磨き
LOHAS風なアイテム・グッズ
みんなが注目のトレンド情報とは・・・?
So-netトレンドブログ
Livedoor Blog a
Livedoor Blog b
Livedoor Blog c
楽天ブログ
JUGEMブログ
Excitブログ
Seesaaブログ
Seesaaブログ
Googleブログ
なにこれオシャレ?トレンドアイテム情報
みんなの通販市場
無料のオファーでコツコツ稼ぐ方法
無料オファーのアフィリエイトで稼げるASP
ホーム
Hsc
人気ブログランキングへ
その他
Share by: