行き止まりは、どこにもなかった

行き止まりは、どこにもなかった

新!コテ派な日々~第十二話~(番外?Dead Data@第二話)



私だ。

…そうなるのも当然だ。

どうしようもない現状。それに大きな絶望。

…その2つを合わせたものが、この眼前の廃墟の街、中央広場。

この状況でやる気が起きる方がどうかしているというものだ。

と、言いつつも何もせずここに居続けるわけにも行かない。だから一応探索と称して彷徨っては居た…のだが。

この世界にだって夜は当然来る。だから急がないといけないのだ。

荒れ果ててしまった街の中…。身を守る防壁は無いに等しい。そもそも衣食住何も無いのだ。

更に、先程見掛けた火を噴出した何か。コテなのかもしれないが……よくわからない奴。

ああいった危険な相手が他にも居るのだとしたら…そしてそれがもしも肉食ならば。

身を守る術を何も持たない私はまず間違いなく無力に食われる事になってしまう事だろう。

だからこそ、今私は非常に危険な状況な訳だ。急いで安全な寝床を確保せねば。

その上、食料やその他ライフライン全て確保しなければならない。

あー、それと…少し肌寒いしな。火を起こす道具や、燃やすモノ、薪が必要か。

先程まで悩んでいたのがサクッと切り替わる。元々の私は意外とポジティブなのかもな。

って事でだ。うじうじ悩んでいられない。なら、行動に移さねばならない。

先程と行動は変わらないのだが、気分をガラッと変えて再び歩き出す。と、その時だ。


「…ん?」


目の前に、カツンカツン、と小さく音を立てて小石が転がった。

まずい、もしやビルが倒壊するのか?

小石が落ちてきた方を見上げる。と、その天辺に何かが居る様だ。

「なんだ…?コテ?」

周りが暗く、見辛いが…よくよく見れば形が判った。

相手は恐らく私とは対象的な体色、全身黒の猫モチーフのコテ。だからこそ最初認識しづらかった。

…黒っていうのは何だか不吉に思える。カマの様な物も携えているし、まるで死神の様だ…。

っと、失礼か。初対面の相手にこんな印象は。

余り余計な事は言うべきじゃぁない。相手は折角初めて見た自分と同型のコテ。

この街の状況を考えると、相手はこの世界の生き残り。この街の状況を知っている可能性は高い。

どうにか、悪い印象を持たれず接触したいのだが…。

などと考えていると、動いたのは相手の方だった。

トンッ!と地面を蹴ってビルから飛び降りてきたのだ。

こ、この高さから!?と慌てたのも束の間。黒いコテはスタッと軽く着地。その姿は華麗ですらあった。

改めてお互い近くで見つめ合う。

まぁ、相手が思うことは分かる。まず、私はかなり異形だろうしな。

さて、相手を近くで見た感想だが…恐らく、相手は女性だ。身体のラインが男性ではない。

…いや別に変な意味はないぞ。変な意味は。

って、長く見過ぎてるのは十分変か!これは何とか釈明せねばなるまい。

緊張しながらも何とか私は言葉を絞り出そうと必死で頭をひねる。


「あ、あの…その、私は…」

とりあえず、挨拶程度でもいいんだ、何とか声を……そう思っていると、相手から声を掛けてきた。


「…君、見ない顔だね。新参?それとも…」


見ない顔、と言うか顔が見えない、無いんだがな。いやまぁそれはいいか。

それより尋ねられたんだ、ちゃんと返答をしなければ。


「いや…自分でもよく分からないんだ…気付いたらココに居て…何の記憶もない。今の状況もわからないんだ…」


何とか無難に説明が出来ただろうか。相手の表情はキョトンとしたままで何とも手応えを感じないが…。


「ふーん…。そっか。」


ニコッ、と彼女は微笑んだ。あ、つ、伝わった?


「まぁ、知らなくてもいいんじゃない?」


「え?」

信じられない言葉が帰って来て私は呆気に取られる。

いや、知らなくてもいいって事は流石にないだろう…?どういう事か尋ねようと口を開く。無いけど。

が、そこから言葉が出る前に、私は恐怖で固まる事となった。

チャキリ、と彼女が持っていた大きな鎌を私の方へ向けて構えた。

その顔は先程と変わらず微笑みを…いや、もっと意地の悪い笑みに思える。


「全員、片付けたーって思ってたのになぁ。今更湧いてくるなんて…」

「馬鹿げてると思ってたけど、意外と馬鹿に出来ないもんだ。確認って、やっぱ大事だね?」


瞬間、彼女は地面を蹴って一気に加速、私の首めがけて鎌を振るってきた。

うぉお!!第一印象そのまんまだ!やはり死神かこの女!!

何とか紙一重、ギリギリ避けられたものの首を掠めた!激しい動揺で心音が五月蝿い。


「急に何をするんだ!?」


問答無用で攻撃して来た位だ、聞くだけ無駄だろう。だが、一応尋ねた。


「んん?あっれー。よく避けたねぇ。凄いや。」


が、無駄所の話じゃなかった。相手は私の話を聞いていない。

馬鹿にする様にケラケラ笑いながらこっちを見ている。

…いや、そもそも楽しんでるのか?私を殺す事を。


「気に入った。僕“死忘”って言うんだけどさ、君の名前って何て言うの?覚えて置いてあげるよ、教えて?」

「…。」


何も言えず、私は沈黙する。

そもそも気に入られた所で嬉しくない。


「あぁ、そっか。“憶えてない”んだっけ。」


無駄な質問だった、と言わんばかりに吐き捨て、死忘は再び攻撃を開始する。

無駄な時間を取り戻すべく、自分の目的をさっさと果たそうと言った所か、舐めやがって!

…しかし、意外なのは私の身体能力だ。

あんな大鎌を振るわれて、一般人なら躱すなんて事は難しいだろう。

が、私はかなり格好悪いなりにもその殆どを避ける事が出来ている。尻もちをついたりしてるから本当に格好悪いんだが。

…本来の私は割と戦闘が出来た方なのだろうか。一体本来の私はどんなコテなのだろうか。

…ザクッ!!


「うぉお!?」


目の前に鎌が突き立てられ我に返る。いや、こんな事考えてる場合じゃあないだろう!!

鎌が刺さった事で、死忘には少々隙が出来ている。が、それは攻撃のチャンスではない、逃げるチャンスだろう。

こちらは武器を持たないのだ。例え相手が動きを止めていようとも今優先するべきは逃げる事。

どんな能力を持っているかも分からない。この世界ではよくある事なのだから。

大急ぎで路地が多そうな更なるビル群に向かって走る。

と言ってもこの街の殆どは廃墟で瓦礫の山。ビル群となると尚動き辛いかも知れない。

…もうそこは賭けだな。

どうせこのままでは私はやられる。ならば、思いついた事は試していくしか無い!

クソ、ココに来てから私はずっと逃げてばかりだな!この街は今本当どうなってるんだ!?凶悪な奴ばかりだ!!


「クソォオオ!!」


そう吐き捨てて私は出来る限り走って逃げ出した。脇目も振らず、後ろを見る事無く。

だが、それでもその背後から楽しげな声で、死忘が言った言葉を聞き逃す事はなかった。


「うんうん、足掻く、足掻くねー。ま、その方が狩り甲斐はあるよ。ひっさしぶりだからさ、楽しませてよねー!」


あいつめ…!本当にゲームの様に私の命を狙う事を楽しんでいたのか!

しかもあの口ぶり、どうせいずれは私を殺せると舐めて掛かっているのが見て取れる!

…流石にコレには私のプライドが傷つけられ、激しく苛立つ。

……よーし、それならばひとつ、奴に一矢報いるとするかな…。

止せばいいのに、私は作戦を立てる事にした。相手を倒す手段を、この街を利用して考えよう。

幸い、この街の地理自体は頭に入ってる。やれる筈だ。









「あれー…隠れちゃった?うーん…そういうのは面倒臭いなぁ…。もっと分かり易い逃げ方してくれた方が楽しいんだけど…。」


ブツブツと独り言で文句を言っているのが聞こえてくる。

助かった。どうも私はそれなりに足は早い方らしい。お陰で大体相手を振り切る事が出来て、今、隠れるに至った。

更には隠れる前に多少のトラップを仕掛ける程の余裕まであった。

…振り切れたのだからそのまま逃げても良かっただろうが、もう決めた事。反撃するんだ。


「この辺、隠れる場所そんなあったっけー…。いやー、上手く隠れたもんだねー。ほんっと、めんどくせっ…」


相変わらずブツブツと文句を言っている死神女、死忘。

いいぞ、その調子でうろうろしてくれ。そのまま、トラップの方まで来てくれれば…よしっ!


「いないなー…。え、マジで何処行った?」


今だ…!!

ぐい、と私は紐を引っ張る。

運良く見つかった電線。それを今、死忘が居る看板へとくくりつけただけの非常に簡素な罠。

が、思惑通り、映画館でもあっただろうそこの看板は、死忘の方へゆっくりと落ちていった。


「ん…?あっ、やべ。」


看板が地面に叩きつけられ、低く地鳴りが響く。

手応えあった…か?

遠巻きに相手が居た場所を確認する。が、粉塵で全く状況が見えない。


「やったか…?」


思わず、身を乗り出して辺りを見渡す。

看板が落ちた時に、同時に瓦礫や電飾も飛び散っていた。

これだけ降り注げば死んでなくとも大きなダメージは与えられていそうなものだが…。


「君の足掻きはまぁ、中々面白い方だねー。」

「まぁ、無意味…だったけどさ?」

「!?」


明らかに余裕綽々な声が、未だ晴れない砂埃の中から聞こえてきた。

間違いない、相手は死んでも、ダメージを負っても居ない。…馬鹿な。

ついに、粉塵が完全に晴れた。そこには…。


やはり、無傷で鎌を構えた死忘が立っていた。



「これまでは大体ね?真正面から攻撃する人ばっかだったよ。後は逃げるか隠れるか…。
        隠れながら罠で攻撃、って人は居なかったなぁー。新鮮味はあったけどね。」

「あぁ、そうそう。何もする間も無く死んだ人も居た居た。ま、それはともかくねー?」


死忘が先程のニコニコした表情のまま、じっとこちらを見ている。

が、その雰囲気は先程とは全く違う。激しい怒りと殺気をはらんでいた。


「君、合格点到達!ただの死刑から死ぬまで拷問に変更でーす。」

「精々覚悟してろ」


先程までの笑みが消え、ギロリと睨みつけて来る死忘。

その周囲は、バラバラに切り裂かれた看板や瓦礫が転がっている。

全て切り刻み、直撃を免れた、と言うのか…?

先程私を攻撃した時よりもずっと攻撃速度が早いじゃないか!

って事はまさか…


「く、クソ!!」


私は再び走り出す。

要するにアイツはずっと、手を抜いて居たって事だ!!

奴には小手先の攻撃は効かない、ちょっとやそっとじゃ勝ち目なんて無い!!


「あら?あー…また逃げんのー?君、足速いからなぁ…。いい加減、きっついよ?体力勝負は」


そう言いながら死忘は私を追い掛けてくる。

その表情は、どう都合よく解釈しようとも辛そうな風には見えない。全く余裕だ。

そもそも、私とほぼ同じ速度で走って来ている。あれは…

“わざと同じ速度で走ってる”…!! 

そうやってわざと私を泳がせ、遊んでいるんだ…拷問をする為に!

その証拠に、奴の走り方はどう見ても全力じゃない。軽く幼児でも追い掛ける様な走りだ。

体力や脚力すら、恐らく軽く私を超えるのだろう…。

クソ!!!!クソ!!!!!クソ!!!!!畜生!!!!!

足元の悪い瓦礫だらけのビル群の路地。体力はどんどん消耗していく。

それなりの距離を走ったが相手はやはり全く疲れを見せないしこのままでは私は…!

くそ、ここまで、か…!


「!?」


突如、がくん、と身体が傾き、下へ落ちる。


「うわああああ!?」

そして、そのまま水に叩き付けられ、状況を把握する。

マンホールの蓋が開いていたんだな…足元を見る余裕がなかったから仕方ない。

…案外これで、死忘が私を見失ってくれればいいんだが…。


「いやー、足元は気をつけないとダメだよー?新人くん?」


やはり見逃してはくれないよな…!!

しかし、今、下水に叩き付けられてもう身体が痛い…起き上がれない…今度こそこれまで、か…?


「そろそろ、終わりかなぁ。」


相手も察したのか、つまらなそうに呟く声が聞こえた。

薄く目を開くと、何かが降ってくるのが見えた。光で輝いたあれは…鎌!?


「くっ!うぉお…!!」


何とか身をよじり、鎌を躱す。

間一髪…なんせ、自分のすぐ真横に鎌が深々と刺されたのだから。

少しでも動かなければ間違いなく私は串刺しになっていただろう。


「…本当君、反射神経いいよねえ…。クッ、ん?また抜けない…」


……もう少しだけなら何とか逃げれるだろうか…。

鎌をまた深く刺しすぎたのか、引き抜こうと悪戦苦闘する死忘を尻目に、

私はあちこち痛む身体を無理矢理起こし、引きずる様にしてその場から離れる。

出来るだけ遠くに…なんとか、逃げねば…!

その時、背後から溜息が聞こえた。


「あー…もう、面倒だなぁ。仕方ない、アレでいくか。まー、これも回収面倒なんだけども。撒くか。」


そう言うと、背後で何かを取り出す音がポンッと聞こえてきた。

…あの音は瓶か何かの蓋でも開けたのか?しかし一体何を…


「!!?」


ぶわっ、と一瞬で撒かれた何かが広がり、下水道を埋め、私を取り囲む。

小さな虫の様な紅い発光体…一体こいつは何だというのか…


「な、なんだコレは!!くっ!」


紅い虫はどんどん私の身体にまとわりついて行き、身体の自由を奪っていく。

こいつら…!小さいくせに私の力で全く離れない。瞬く間に自由に動く箇所が減っていく。


「ま、まずい…!」


それでも、このままやられる訳には…

まだ、何も分からない状況のままなのに…

そんな状態のまま死んでいくなんて死んでも死にきれない…!

どうにかしようと足を動かす。が、既に足も上手く動かない…。


「っ…」


足がもつれ、下水へと倒れ込む。最早身動きは取れない。

…とは言え、今ので半分近く虫は離れた。それでもまだ半分は張り付いているが…少し体の感覚は戻った。


「うん、多分死んだ…かなぁ。」


死忘の声に少々ビビる。どうもトコトコとのんびり歩いて近づいて来てるのが視界の端に見えている。

恐らくは私が倒れ込んで殆ど動かない物だから生死の確認に動き出した様子だ。

このまま死んだふりでやり過ごしたい所なんだが…あの死神の様な相手がそう甘くないだろう。

トドメと言って首を斬られでもしたら終わりだ。

咄嗟に近づいてくる前に私は水の中に潜り込む。


「ゲッ!きったねー…。うわぁ、近寄りたくない。」


…臭い水が身体にまとわり付く感覚は虫にくっつかれるのと負けず劣らずきついものがある。

その上あんな風に言われると私が言われたみたいで気持ちが落ち込むがそんな場合じゃない。

とにかく逃げるのが今は大事だ。



「あー…ダメかぁ。逃げられたよねコレ。ま、仕方ないよねー…。
            下水の中はあんま追いたくないものね、うん」

まるで言い訳でもするかのように独り言を呟きながら、死忘は踵を返し、その場から去っていく。

さらにもう一言、吐き捨てて死忘は完全に姿を消した。


「まぁ、どーせ長生きはしないっしょ。あんだけ虫にやられてたしねー」




つづく

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