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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)
デーンとの再会を約束した別れ
午前9時5分、昨日の夜別なホテルで泊まった。
PKとは違ったホテルらしいホテルである。
”GINZA”と書かれていた。
9時過ぎ、チェックアウトを済ませて、PKに戻ると、俺とは
逆コースで旅してきた日本人の若者に出会った。
その若者に、”チェンマイ~バンコック間のバスは、チケットを持っ
ていても再度申し込まないと、乗れないケースがあるよ!”と言われて、取
る物も取り合えず、サイアム事務所へ走った。
サイアム事務所で、リコーフォームする。
午後からでもと、のんびり構えていたら、一日遅れていたところだっ
た。
彼には感謝しなくては。
サイアム事務所で、バスシートを確保して、来る時同様輪タクに乗っ
てPKハウスに戻ってきた。
戻るとすぐ、部屋に入り荷物の整理を済ませて、外にいるデーンに話
し掛けた。
俺 「デーン!世話になったけど、今日バンコックに戻
るよ!」
デーン「今日発つの!これから日本に帰るのか!」
俺 「いや、これからネパールへ行って、インド・中近
東を経由してヨーロッパに入るつもりなんだ。」
デーン「ヨーロッパ?良いなー!羨ましい・・・・私も行
きたいけど・・・。」
俺 「手紙書くよ!それにヨーロッパからの帰りに、必ず
ここへ戻ってくるから・・・。」
デーン「ほんと?・・・・・・・無理しないでね。」
俺 「有り難う!デーンも元気で!」
チェックアウトを済ませて、部屋代を支払う時デーンは、父親
に内緒でいくらかまけてくれたのには驚いた。
デーン「荷物はここへ置いとくと良いわ!どうせ出発は夕方
でしょ。」
俺 「有り難う!」
今日も一段と暑さの厳しいチェンマイの街である。
*
チェンマイ最後の一日を、中庭のイスに腰掛け、デーンの働き
振りを眺めながら、のんびり過ごすことにした。
ジッと時が過ぎるのを待つ。
デーンのお陰で楽しかったPKでの生活。
ここでの生活の余韻を残すように、ジッと太陽の陽射しを浴びる。
午後からは、PKりん子(リン)が俺の遊び相手。
夕暮れになるとデーンが食事の支度を始めた。
チェンマイの子供達、とりわけデーンは働き者だ。
それも楽しそうである。
台所に立っているデーンの所に行く。
俺 「Dang!Can I have a dinner?」
デーン「NO!」
笑いながら応えた。
ガッカリしてると、デーンが続けた。
デーン「これは私達家族の食事を作ってるの。何もご馳走
がないから・・・・・それでも良いなら、分けて
あげるわよ!」
俺 「良い!良い!それで良いから。最高だよ!」
今夜のメニューは、大盛りライスに目玉焼き、カリフラワーと
肉の炒め物にスープである。
カリフラワーは見た目に、食欲が湧かなかったけど、はじめて口にす
る。
俺 「うん!美味しい!」
デーン「そう!気に入った?」
俺 「気に入った!」
デーンと彼女の家族とこうして、夕食を共に出来るとは、チェ
ンマイ最後の夜に相応しい晩餐会である。
*
あたりが暗くなって、ドイツ人カップルと話をしながら、バス
の迎えを待つ。
デーン「八時くらいだよ。」
俺 「いつもそうなの?」
デーン「たぶんね!」
デーンと一緒に夕涼み。
8時20分、デーンが叫んだ。
迎えのマイクロバスがきた。
荷物を肩に掛けると、デーンも一緒について来る。
デーンは黙ったままだ。
握手をするため、デーンの手を握ると、デーンが何か言った
ようだったけど、 俺にははっきりとは聞き取れなかった。
マイクロバスに乗り込み、窓からデーンと向き合った。
無言でデーンは俺を見つめている。
言葉にならない別れになってしまった。
バスが動く。
手を一生懸命にふるデーンの姿が闇に中に小さくなって消えた。
俺 「デーン!また来るからね!」
小さく呟いた。
*
マイクロバスは、”Siam Northan Tour”のオフィスへ向かっ
た。
チェンマイの街がきた時より、美しく輝いて見える。
この街に初めてきた朝、チェンマイの街は、朝靄がかかり不気味さの
漂う街に見えた。
それが今、忘れられない街の一つになろうとしている。
悲しさと素朴さと明るさ・・・・いろんな要素が、この小さなには凝
縮されているようだ。
この街にデーンがいると言うだけで、俺はこんなにも遠い所に故郷を
持ったような思いがする。
オフィスに着いて荷物のチェックを済ませると、四十分ほど時
間があり、オフィスの前の通りにある、バザールを覗いて歩く事にした。
服から、食物から、飾り物と、いろんな物が並べられている。
メオ族とすぐわかる衣装を身につけた女達も多く見られた。
俺は土産物にしようと、服を二、三着買った。
暗い夜、別れの夜から一転現実に呼び戻す、賑やかさがここにはあ
る。
俺 ”俺の目的は何だ!最終目的は何だ!俺の旅は今、始
まったばかりではないか!”
そう思うと、やっと自分を取り戻せそうで、なるべく明るいバザール
に溶け込んでいった。
*
シートNo、9-D。
午後九時十五分、オフィス前を、バス
は静かに離れて行く。
車中に明々とライトが付いているせいでか、外の様子はほとんど見え
ない。
あっという間の短い間だったけど、いろんな思い出を乗せてバスは走
った。
”もっともっと、いろんな思い出が、これからもずっと俺を待ち受け
ているではないか!”そう思うと、幾分元気がでた。
そんな暗闇の中、フッ!と、初めてここを訪れ、輪タクに乗った自分
が窓ガラスを通して見えたような気がした。
それは、幽霊のように、闇の中に突然現れ、すぐに消えていった。
車内では、美しいバスガイドが二人、ケーキとコーラを運んで
いる。
疲れのせいだろうか、食事の為一度バスを降りただけで、後は深い夢
の中に入って行く。
くる時の珍しさも、ガイドさんの話も、闇の中を走る景色も、全て俺
の中から消えていこうとしている。
旅になれ、旅の困難さを知り、旅の優しさも俺は知った。
これからの俺の旅は、想像もつかないほど、多くの経験をし、旅に慣
れていくことだろう。
本当の旅の中に今俺は、どっぷりと浸かっている様な気がする。
チェンマイでの出来事が、遠い昔のことであったように。
しかし、現実にこのチェンマイの街には、もう一度訪れる事に
なる。
そう、デーンに逢うために!
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