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クリスマスは楽しい楽しい恋人達の行事。


“クリスマスの夜は”


そう、恋人達の行事だ。

恋人のいない俺達にはそんなこと全く知ったこっちゃない。

今まで、彼女がいなかったというわけではないが、悲しいかな物心ついた頃からクリスマスを共に過ごすメンバーはほぼ決まっていた。


ピンポーン・・・


今まさに自分の世界に飛び込もうとしていた俺の邪魔をするやつは、クリスマス仲間達。

・・・・・・

あれ?上がってこないな?

母さん達はどうしたんだろう?

あぁ、そうだ。

母さん父さんは2人でクリスマスデート。

姉さんは友達と飲みに。

裏切り者のバカ兄貴とバカ弟は彼女とクリスマスデート。


ピンポンピンポンピンポーン・・・


ハイハイハイハイ、今出ますよ。

そう思いながら、自分の部屋のノブをひねり、部屋を出て、階段をダラダラと降り、玄関へと向かう。

用心のため閉めておいた鍵を開け、のろのろとチェーンを外し、クリスマス仲間を招き入れる。


「遅ぇよ。お前俺らを家に上げる気があんのか。ってか、ここ来るまで5回はめんどくさいって思っただろ。」
「なめるな、13回だ。」
「多っ!あーあ、せっかくケーキ買ってきてやったのに。」
「あと、カーネルおじさんとこでお前の大好きなチキンもな。」
「マジでかっ!よっしゃ、カーネル愛してる!!」
「うぉ!!カーネルおじさんかよ。俺らに対する言葉はなしか。」
「ペコちゃんも愛してる!!」
「そうだよ、ケーキは不●家だよ。他に言う事ねぇのかよ。」
「・・・ふむ、よく来たな愚民共。さっさと入るがいい、亮介、新平。」
「おーい、最ちゃーん。」


俺のクリスマス仲間こと、幼馴染こと、悪友の竹沢 亮介(たけざわ りょうすけ)と佐川 新平(さがわ しんぺい)。

亮介は、身長が180cmほどのでか男で全体的にちゃらちゃらしてて、肩につくぐらいの髪を後ろでしばっている。

新平も、亮介と負けず劣らずのでか男で伊達めがねをかけている。ピアスの穴は、右に3つ、左に1つ。

どっちも腹立つほどカッコイイ。顔が。

あぁ、申し遅れました。

俺の名前は、梶原 最(かじはら さい)。

父さん曰く最高の最からとったらしいが、それで言うと最低の最でも同じだと激しく思った。

俺の背はまだ160cm前後。

顔も童顔で中性的で皆カワイイカワイイとほざくが、俺はカワイイじゃなくてハンサムだとか2枚目だとか流し目がステキーだとか言われてみたい。

カワイコちゃんな俺はでか男のハンサムヤロー2人に囲まれている限りそんなことを言われる日は来ないだろう。


「オイ、最。お前は俺らに対する気遣いは全くなしか?」
「あ?」
「机の上とか床の上とかってか部屋全体を片付けとけよ!!」


リビングを見て、2人が言った。

知ったこっちゃない。


「これが本来うちのあるべき姿だ!!お前らが来るからといって片付ける理由なんぞ俺には無い!!」
「あるに決まってるだろ!」
「俺らは客だー!!」


俺が仁王立ちのまま立っていると渋々荷物を置いて、2人が片付け始めた。

フフフ、計算通りだ。

だから、わざわざ片付けずにおいておいたのだ。

見る見るうちに、キレイになっていくリビング。

まぁ、ステキ。さっすが片付け上手さん。

俺には反省するとかそういう考えがない。


「フ、終わった。」
「これがすぐ汚くなると思うと・・・」
「じゃぁ、ケーキ冷蔵庫に入れてきて、亮介vvその後、2人で隣のコタツを運んできてvv」
「「オイ。」」


とまぁ、彼らは俺の下僕ということで。

そして、2人を使いに使いまくって、19:30ぐらいにはコタツでぬくぬくテレビを見ながらカーネルおじさんのチキンをむさぼれる状態になった。

カーネルおじさんのチキン、言わずもがな、ケン●ッキー。

余談だが、俺は鶏肉が大好物だ。あと、甘いものも。


「クリスマスの特番は面白いね。そしてやっぱりカーネルおじさんとこのチキンは最高だね。」
「あー、そういや、空さんに昇は?毎年いるのに。」
「ばーか、亮介。空さんも昇もおデートだ。」
「あぁ、そうか。」


ちなみに空(ひろし)に昇(のぼる)は兄貴と弟だ。

そう、裏切り者の。


「これまでクリスマスっつったら、5人でやってたからなー。」
「昇もついに色気づいたか。」
「ん?どうした、最?」
「畜生め。昇のクソガキが!!空のクソジジイが!!昇なんか最近まで俺と一緒にカワイイって言われまくってたくせに!!背ぇのびやがって!!空なんかこの間、姉さんにエロ本見つけられて、脅されてたくせに!!」
「うおー、荒れてらっしゃる?」
「2人共彼女は美人さん、その上高らかにクリスマスデート発言されちゃぁね。」
「新平、物知り~。」
「要するにひがみか?」


あぁ、何かがキレた。


「アハハー、新平愛してるぞ☆」
「うおー!!ニッコリラヴリー笑顔でチキンの骨投げんなっ!!」
「ギャハハ、オシャレメガネがとんでもないことになってんぞ、新平!」
「うお!?汚ねぇー鶏臭ぇよ!!」
「だって鶏ガラだもんvv」
「だもんじゃねぇよ!!」
「うっわ、鶏臭ぇ~。新平さっさと顔洗ってこいよ。あと、ケーキもねvv」
「最ちゃん、自分の道を突っ走り続けるのいい加減やめなさい。」


そんなこと言いつつも、ちゃーんとケーキを持ってきてくれる新平。

そして、皿とフォークとナイフを持ってきてくれる亮介。

ちまたでの俺のあだ名は小悪魔ちゃん。男も女も騙して、笑顔でこき使うから。騙すなんて、そんな。ちょっと自己チューにふるまってみたり、ありありと他人にやってもらおうオーラを出してるだけじゃぁないか。

俺が自分の世界に入りかけた頃に2人が戻ってきて、箱の中からケーキを出して。

それは、イチゴが5つとサンタの砂糖菓子とチョコレートの家がのった生チョコクリームのデコレーションケーキだった。


「よし、よくやった!3等分に切れ。」
「はぁ!?3等分!?」
「いくらお前が甘党の胃袋無尽蔵だからってそれはちょっと多いだろ。兄弟に残しておこうと言う優しさはねぇのか。」
「はぁ?俺にそんなもんあると思ってんの?うわー、現実見ろよ。」
「直径18cmを3等分・・・」
「嫌だと思うならそんなでけぇの買ってこなきゃ良かったのに~。」
「買ってこいっつったのはお前だろ、最ちゃん。お前それで小さいの買ってきたら絶対キレてるだろ。」
「うんvvマジギレするvv」


自分で言うのもなんだが、極上の笑顔でサラリと言うと2人の顔に影がさした。

何を隠そうこの俺、こんな華奢な体をしてケンカは強い。

精神的にも少し(?)えげつないらしい。


「そ、それより、宙さんは?彼氏とデートか?」
「ん?姉さんは仕事の友達と飲みに行ってる。」
「アレ?彼氏いたんじゃなかったっけ?別れたのか?」
「仕事だよ、仕事。」
「はぁ~、クリスマスに仕事?浮気してんじゃねぇの?」
「するか!!生憎さま、誠司さんはケーキ屋勤務なもんでクリスマスは大忙しなんだよ。あー、誠司さんのケーキ食いたいー・・・」


宙(そら)は、俺の姉さん。梶原4兄弟の1番上で社会人やってる。

誠司(せいじ)さんは、パティシエやってる姉さんの彼氏。姉さんとは長い付き合いで、さっさと結婚すればいいのにと常日頃から思っている。


「しっかし、まぁ、3人は寂しいな。」
「コタツが広すぎる。毎年、ギュウギュウ詰めで入って、ケーキ食ってたのに。」
「彼女連れてくればいいじゃぁないか、チャラ男共。」
「いたら、こんなとこで男3人でケーキなんて食ってねぇよ。」
「俺は、1週間前に別れた。付き合ってみたら、ストーカーのような女だったんでな。そーゆー最ちゃんは、どうなのよ?千春(ちはる)ちゃんだったっけか?」
「ハッ、あんな女もう別れたよ。」
「あれま。上手くいってたんじゃなかったのかよ。」
「『アタシぃ、自分よりカワイイ男の子と並んで歩きたくなーい。』だとよ。テメェで告っといて、んだそれはぁ!!って感じだよ、ホント。」
「で、フラレたのか?お前がそんなこと言われて黙ってるとは思えねぇが。」
「黙ってるわけねぇじゃん。ステキに笑って、『コッチこそ、アンタなんか願い下げだ!!このどブスがぁ!!』って言ってから、走って逃げて千春の親友の子に泣きついて、一芝居うってきた。」
「お前何してんだよ。」
「相手が女の子だって分かってるかー?」
「だってぇ、あの女影で俺の写真売ってたみたいだしぃ。俺にも金よこせっての。」
「ソコか?他にも言うべきことはあるだろよ。」
「ねぇよ。とゆーわけで、俺と千春の縁はそうして切れたのでしたー。」
「へー。なんか話ズレてねぇか?」
「ズレてねぇよ、女がいなくて寂しいって話だろ。知ってるよ、亮介。クラスのマドンナ篠崎に果敢にアタックしてるんだろ?」
「何故、ソレを・・・」
「無駄だぜ、亮介。篠崎はチャラ男には興味ねぇんだ。篠崎、実はあんな顔してショタコンなんだってよ。」
「は?じゃぁ、そんな篠崎に言い寄られてる俺様は何か?ショタか、ショタなのか?オイオイ冗談じゃねぇよ。俺ぁ列記とした16歳ですよー。」
「最ちゃん、もってもてー。」
「ってか、今なんと!?言い寄られてる!?そんなん初めて知ったわ!!何でクリスマスの日にそんな悲しい真実知らされてんだ、俺・・・」
「それはね、天から授かった運命だよ、チャラ男。」
「いるか、そんな運命!!」
「遠慮すんなよ、チャラ男~。」
「してねぇよ!!それからチャラ男もヤメロ。」
「ヤだね、見たまんまチャラ男でいいじゃん。」
「ほぉー、じゃぁ最ちゃん。お前のことは、マイハニーってハート飛ばしながら呼んでやるよ。」
「うっわ、冗談じゃねぇよマイダーリン。」
「ま、結論として俺らはクリスマスに女に縁が無いんだよ。」
「結論として言われなくとも解ってるわ、エロメガネ。」
「エロはつけんな。それによって俺の印象が大分悪くなる。」
「大丈夫だ、これ以上悪くはなれねぇよ。しっかし、俺らはあと何回こうやってクリスマスパーティーもどきをするんだろうな。」
「あ゛?それは俺の印象が最低ってことか、ショタ男。さぁな、いつまでもしつこくやってそうだがな。」
「誰がショタ男だ、スーパーエロメガネ。チャラ男を見習え、さっきからケーキ食うだけで余計なこと何も言わねぇぞ。プレゼント交換するわけでもクラッカー鳴らしたりするわけでもなく、毎年チキンとケーキを食ってるだけだからな。クリスマスの特番見ながら。」
「だから、チャラ男をヤメロっつったろ、ロリ男。エロメガネもコッチに唾飛ばしてんじゃねぇよ。毎年、地味だよな。派手にできねぇのかよ。」
「ショタかロリかどっちかにしやがれ!!ウルトラスーパーエロメガネにエロチャラ男!!」
「「どっちもだ!!ロリショタ男!!」」
「んだと!!テメェら覚悟しやがれ。」


すでに臨戦態勢に入っていた俺達には、人が1人入ってきたことになど全く気付いていなかった。

俺が立ち上がって、隣で座っていた新平の頭にかかとおとしをくらわせようとしたその時、横からニュッと伸びてきた手が俺の足を掴んでそのまま俺を床に押し倒した。

あぁ、酒臭い。煙草臭い。

これはきっと・・・


「たっだいま~、サイちゃん。姉ちゃんもうベロベロさ~。アハハハハ~。」
「姉さん、お帰り、そしてどいて。それから足も下ろさせて、」
「おっと、失礼。いや~、サイちゃんがシンちゃんの頭をかち割ろうとしてたからね~。」
「今晩わ、宙さん。」
「今晩わ、完璧に酔っ払いですね。」
「今日は、随分早いんだね。もうちょっと飲んだくれてくるかと思ってたけど。」
「いや~、そのつもりだったんだけど、サイちゃん達が家でThe☆男だらけのクリスマス会してると思うと、姉ちゃん悲しくて~。ハイ、これお土産。アレ?ヒロちゃんとショウちゃんは~?」


ヒロちゃんは、梶原長男空のこと。

ショウちゃんは、梶原三男昇のこと。昇の音読みは『しょう』だから。

ハイと言って、姉さんが差し出したのは箱。

その箱には、よく見る店名が書かれていた。

シールを剥がして、中を見ると予想通りプリンが入っていた。その数8つ。右に傾いているのは、酔っ払いが持って帰ってきたせいだろう。


「プリンだー!姉さんアリガト!!大好きだ!!」
「よし!!サイちゃん今日もウルトラスーパーラヴリーだぞ☆」
「うっわぁ、スンゴイムカツクけど、今はいいや。」
「ねぇねぇ、それよりヒロちゃんとショウちゃんは~?」
「・・・・」
「ん~?」
「あぁ、宙さん。空さんも昇もおデートです。」
「おぉ、そうかそうか~。へ~。」
「ただいまー。」


玄関から声がした。

リビングに入ってくる足音が聞こえる。

あの声、あのパタパタという足音は


「昇だ。」
「ただいま、サイ兄。今晩わ、リョウ兄、シン兄。あれ?帰ってたんだ、ソラ姉。」
「お、昇だ。」
「おじゃましてまーす。」
「お帰り、ショウちゃん~。」


昇は、顔は俺と似ている。ラヴリーvvな部類だそうだ。言い方が腹立つが・・・

最近、めっきり成長期で背が伸びている。

俺より高くなりやがった。ちぢめ、昇。


「ハイ、サイ兄これ。」


そう言って、昇が俺に白い箱を渡した。

甘い匂いがする。


「エクレアだよ。サイ兄甘いもの好きだもんね。」
「好き好き大好き!有難う、昇!!裏切りものだとか言ってゴメン!!ちぢめなんて思ってゴメン!!兄ちゃん悪かったよ。ショウちゃん大好き!!」
「喜んでくれてよかったよ。で、裏切りものとかちぢめって何?」
「気にすんなv」
「あー、なんか昇背伸びたね。」
「今いくつよ?」
「ん~、166cmぐらいかな。まだまだ伸びるよ。」
「だってさ、兄ちゃん?どうするよ?」
「最ちゃん、これ以上伸びる予定ある?」
「しっ、失礼な!!俺だってこれからぐんぐん伸びて2mまで伸びてやるよ!!」
「いや、やめて。それはやめて。」
「うん、それはちょっと・・・その面で2mはキモイ。」
「サイ兄はそのままでいいよー。」
「そうそう、ちっちゃい方がサイちゃんカワイイよ?」
「うがー!!ぶっ飛ばすぞ!!」
「たっだいまー!!」


俺が暴れだそうかと思ったその時、明るいバカ声が聞こえてきた。

いつの間にかリビングのドアのところまで来ていた、空の声だ。

楽しそうな笑顔を張り付かせたまま、俺の後ろまで歩いてきて頭を掴んでクッと上を向かす。

バッチリ目が合ったよ、コンチキショー。


「ただいま、サイちゃん?」
「お帰り、アホ兄。手を離せ。」
「口の利き方に気をつけたまえよ。」
「あ゛?」
「優しい優しいお兄様から愛のプレゼント♪」


頭を掴んだ手を離さないまま、顔の上に箱をのせようとした。

甘い匂いはいいが、普通に渡せ。

頭をひねって、空の手から逃れて、箱をきちんと手で受け取る。


「ドーナッツだ!!」
「そ。ちゃーんとチョコも買ったから。」
「よし!!亮介、新平!!紅茶入れてきてvv」
「「オイ。」」
「お、来てたのか2人共。俺はコーヒーね☆」
「アンタもか。」
「ハイハイ、分かりましたよ。宙さんと昇は?」
「僕は紅茶で。」
「ビールがいい~。」
「まだ、飲む気か姉さん。」
「バンバン飲むよ~。」
「あぁ、梶原家に慣れてきた俺が怖い。」
「俺は、成長するたびに女王様化していく最が怖い。」


キッチンへと消えていく2人の背中を見ながら思った。

何故、俺達は毎年一緒にクリスマスを送るのか?

そんなことを考えるのはくだらないと。

一緒にいるのに理由なんかいらない。

10年以上も一緒にいるのに今更理由なんか欲しいとも思わない。

そう思うと何故だか本当に心の底から今が楽しくなった。

俺も2人の後を追って、キッチンへと向かった。

今日は、久々に俺が2人にお茶を淹れよう。

これからも3人一緒でいられるように願いながら。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


なんとか、ギリギリ完成です・・・
クリスマス終了まであと1時間と数分。

最後の方がグダグダなのは気にしないで☆(ぇ

結構、最ちゃん気に入ってしまいました。

多分、梶原家シリーズとして続く気がします。
色々と出てきてます、ネタが。

姉ちゃんの彼氏誠司さんとか、最ちゃん中学生時代とか、昇のお友達とか・・・etc

このまま行くと正月にも書きそうな勢いです。
梶原 最調子に乗って描いたもの







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