†World of Azure†

†World of Azure†

序章


紙袋を両手で抱えて、店に入ってきた少女は入口の脇に置いてある古い時計に視線を遣りながら首を傾げた。
「あ?あぁ…客が持ってきた」
問い掛けに、カウンターの中で煙草を吸いながら男は頬杖をついて答える。
「…良い細工なのに勿体ない…」
紙袋を抱えたまま時計をまじまじと見て少女は呟く。
「分かってるじゃないか」
ニヤリと笑い、腕組みをして『先生』と呼ばれた男は少女を見る。
「…毎日これだけの骨董品に囲まれていれば、段々分かってきますよ」
男の言葉に肩を落とし、溜息を吐きながら少女は言った。
「まぁな。その時計、面白いんだぞ?」
男はそう言って、煙草を銜えたまま立ち上がると、カウンターを出て時計の前へと移動する。
文字盤を開き、何かを取り出した男はそれを時計の脇に挿して回した。針はゆっくりと戻っていき、十二時を指す。
すると、文字盤の下にある扉が開き、中から機械仕掛けの人形が出てきた。
「うわぁ…からくり時計」
音楽と共に軽やかに踊る、西洋風の人形に少女は感嘆の声を上げた。
オルゴールが曲を奏で終わると人形は扉の中へと戻っていく。それを見届けてから男は時計の針を元に戻し、文字盤の中にぜんまいを入れた。
「大陸の技術を真似て作ったそうだ。俺様はこっちの方が好きだけどな」
「なるほど…」
腕組みをし、時計を見ながらの男の言葉に少女は人形の入っている扉に視線を注ぎながら頷く。
「それにこの時計はいわく付きだ」
カウンターに行き、灰皿に灰を落としながら男は口の端を上げる。
「いわく?」
「夜中の十二時にも鳴るんだけどな、人形の顔が変わるらしい」
首を傾げた少女に男は椅子に腰掛けながら答えた。
「先生ってホントにそういうの好きですよね…」
「この国の“怪談”ってモノは奥が深いからな」
紙袋をカウンターに運びながら少女が苦笑すると、男は灰皿に煙草を押し付けながらフッと笑った。
「私は大陸の文化の方が面白いと思うんですけど…」
カウンターに寄りかかり、窓から見える傾きかけた赤い太陽に目を細め、少女は呟く。
「じゃあ、俺様と一緒に行くか?退屈はさせないぜ?」
その言葉に男は冗談とも本気ともつかないトーンで言いながら立ち上がり、少女に歩み寄った。男の黄金色の髪と紫水晶のような瞳が夕陽で赤く染まっている。
「え…あのっ」
徐々に近付いてくる美貌に少女は後退った。
背中にカウンターが当たり、動きが止まった少女の手首を掴み、男は顔を近付ける。
唇が触れそうなくらい近付いた顔に少女が両目を固く瞑ると、男は肩を震わせた。
「クックックッ…はっ、あははっ。相変わらずからかい甲斐があるな、お前は」
手首を放し、男は笑い始める。
「もう!知りません!!」
目を開けた少女の頭に手を置きながら男は尚も笑い、少女は頬をふくらませてそっぽを向いてから店内のランプに火を灯す。
一気に明るくなった店内に二人の影が伸びると、少女は紙袋を持って店の奥へと入っていく。そんな彼女の背中を見送った男はフッと笑ってから呟いた。
「ホント…可愛いヤツ」


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