桜の舞い散る園で・・・~Sorrow and a feather of courage~

桜の舞い散る園で・・・~Sorrow and a feather of courage~

車輪の国、悠久の少年少女



ストーリーは、法月将臣が主人公である法月編と賢一が主人公のヒロイン編があります。ヒロイン編はぶっちゃけおまけです。ここでは、法月編のレビューを行ってまいります。

(向日葵での将臣をとっつぁん、悠久での将臣を将臣とします)

一回表示量が少なく軽快なテンポで進むテキスト、持ち上げて落とす展開の妙は健在。
今回は伏線で驚かされることはないが、圧巻の描写で読み手を引き込むことは間違いない。

常にこちらの上を行く思考、発想力には脱帽。
そして同じく健在の言葉の暴力の破壊力にも脱帽。ぐうの音も出ないとはまさにこのこと。
悪役であるアリィ法月の思考、言動は理不尽だと思いつつも逆らえない、不思議な力がある。

「弱さという種に、暴力という水を撒いて、慎重に、花を愛でるように、時間をかけてゆっくりと、貴様らを更正させてやる」

「男と女など、しょせんは棒と穴の関係にすぎん。そんなものを愛だと語るから人間は腐ってゆくのだ」

恐るべしテキストの力。


プレイした人は分かるだろうが、向日葵とリンクしている部分が多々見られる。
デジャヴ?と思った人も多いだろう。

主人公もヒロインも悪役も向日葵と悠久では違うが、様々な部分でリンクしている。
露骨なやり口ではなく自然な流れなので率直に上手いとしか言えない・・・

このリンクは人によっては「向日葵と同じ流れじゃない?」と思ってしまうかもしれない。
僕は見せ方が上手いなと思ったが、これに対する感じ方はその人次第だろうと思う。
向日葵でのとっつぁんの「私も同じ経験をした」というセリフを忠実に再現したということで。

中盤以降は将臣の心情描写が多くなり、自分の中にある得体の知れない感情と自分の野望との間で揺れる様子が良く描かれている。
何度も迫られる重たい選択と、そのたびに生じる葛藤は見もの。

向日葵でのとっつぁんの現状から悠久のエンドはあらかた想像できると思う。
想像はある程度出来ていても、エンド周辺の流れはやはり秀逸。

クライマックスでセリフと心情描写を交互に描く手法は見事。
日常シーンでは一回表示量は少ないのだがクライマックスでは表示量が増え、描写がより克明になる。
加えて上記の手法を取ることで、理不尽さや絶望感などがリアルに表現されている。


そんな終盤は見せ場の連続で読み手に息つく暇を与えない。グイグイ引き込まれる。
スタッフロール後のエピローグでのとっつぁんは最高にカッコいい・・・

「そこをどけ、豚ども・・・私はこれから最愛の人に逢いに行かねばならんのだ!」

キャラがカッコ良く見えるのは何度も言うように心情描写がしっかり出来ているからに他ならない。

正直、大満足。


主要キャラクター

阿久津将臣

後の法月将臣。そして、賢一のもう一人の父親。

彼も賢一と同じで社会に不満を持っていた。変えようと思っていた。
しかし、彼は負けてしまった。
将臣と賢一、2人の選択のどちらが正しくてどちらが間違っているかなんて分からない。
2人とも同じような流れの中で同じような出来事を経験した。
「勝ち目のない戦いはしない」主義である将臣と決して諦めない賢一。
その姿勢が僅かな差として結果に現れたのだろう。

また、2人が今まで歩んできた道の違いが差として出たとも思う。
すなわち「人の強さ」をどれだけ信じることが出来るか、という強さ。
将臣は幼少時よりずっと一人だった。人の想いに触れたことが無かった。それが差として出たのかな、と。
エピローグの後彼がどうなったのかは想像するに難くないが、彼は今度こそ後悔せずに済んだに違いない。
長年の月日を経て悠久の罪より解き放たれた、と願いたい。


雑賀みぃな

法月編のヒロインで、賢一の真の母親(義理ですが)でもある少女。

通称『私生活を許されない義務』を負っている。常に笑顔を絶やさず、愛想を振りまかなければならない。
発言には常に公然性が求められ、趣味等を持つことが出来ない。
プライベートが認められず、日常を将臣に監視される。「私はすでに、私(ワタクシ)ではありません」と言い、友達には自分の悪い部分を見せないために一歩距離を置いて生活している。しかし、自分に深く干渉する将臣に恋心を抱くようになる。育ちが良く、将来は聖女と呼ばれる役職につくはずだったが、決められた未来に嫌気が差し、家出を繰り返したり、スラム街で異民音楽の詩を公表したりする内に親によって義務を負わされた。

みぃなも、なっちゃんと同じくらい強い。特別収容所にはいることを恐れなかった。そして、最後のあのシーン。正直、ほろほろ来てしまった。

「わたしがわたしであることが、そんなにいけないことなんでしょうかっ!!」


樋口三郎

将臣の友人で、賢一の父親。賢一はこの時に彼に拾われた。(そのため、戸籍上では三郎が父だが、将臣も父であり、みぃなが母である)
天性の勘の鋭さとはったりだけで生きているような男。特別高等人の最終試験まで残れたのは、奇跡だと言われている。趣味はSF小説。アリィとは面識が有り、射撃訓練中に遭遇したらしい。


アリィ・ルルリアント・法月

特別高等人。異民とのハーフ。最終試験の指導教官職を務めている。阿久津将臣を後継者に仕立て上げようとしている。拳銃の扱いに優れる。
彼女もやはり車輪から逃れることの出来なかった一人である。
とっつぁんのセリフは彼女から来ているものが多い。


グラフィック

悠久追加キャラの絵も相変わらず上手。似たような表情で細かい感情の差を表現する上手さがある。
また、陰が射した表情の描き方は秀逸。鳥肌もの・・・
向日葵同様キャラの動きも多い。
カットインも向日葵同様用いられている。


音楽

静かな曲と仰々しい曲が混在している。
日常シーンでのBGMに特記すべきことはないが、大事な場面でのBGMは非常に良い。
向日葵で秀逸だった「Watch out!」「Reason to be I」はリメイクされている。前のほうが良かったかも。
ボーカルはOPが片霧烈火さん、EDが川村ゆみさん。
歌の上手さよりも歌詞とシナリオのリンク具合が良い感じだった。

ボイスは主人公以外フルボイス。


システム

ウインドウの周囲には一見何もなく、またテキストが白く縁取られており読みやすさが追求されている。

カーソルを下へ持っていくとメニュー出現。
バックログ、スキップ、その他コンフィングと必要なものは全て揃っている。
選択肢が少なくほぼ読むだけなので充分なシステムといえる。


総評

向日葵をプレイして大満足した人には勧められるが、人によっては面白みがないと感じてしまうかもしれない。
それは上記の通り向日葵とリンクしている部分が多いから。
しかしそれを差し引いても作品としてのクオリティは相当なもの。未プレイの人は是非向日葵と合わせてやって欲しい。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: